持って成す
(上:カンヌの港 下:サントノラ島「修道院」)
【ショート・エッセイ】
80年代、ある年の6月。南仏カンヌでの「カンヌ広告映画祭」へ業務出張で行った。
今では「カンヌライオンズ国際クリエイティブフェスティバル」という長ったらしい名前になっちゃっているギョーカイのお祭り。イギリスにSAWA(映画館主協会)という組織があり、そのフェスティバルをカンヌでやる。それを丸ごとある会社が請け負っているという仕組みだった。
その社長からインビテーション・カードがホテルの部屋に来ていて、関係者と一緒に行くことにした。カンヌの港の沖合にサントノラ島という小さな島がある。そこは別名「修道士の島」とも呼ばれ、よくあることだが修道士たちが育てているワイナリーがあり、ワインも醸造している。その島にある一軒だけのレストランに行く。
サントノラ島への連絡ボートを港で待っている。
あたりを見渡すと、大きなクルーザー2艘ほどが舫ってある。そのマストに「ユニオンジャック」が翻っている。カンヌをよく知る傍の関係者に、
「なぜ、こんなところに英国の旗が?」
「だから、英国から来ているんですよ」
「このカンヌ・フェスティバルへ?」
「そうです。多分英国の広告代理店だと思いますよ。得意先の広告主へ“どうですかカンヌへ行きませんか?”って誘うのですよ。でも相手は、“こんな直前じゃホテル取れないだろう?”とかいうのですよ。(期間中はすごく混んでいて予約でいっぱい)そこで、“船をチャーターしてますから、ホテルは必要ないですよ”って答える」
「ほほう」
「イギリスのどこの港からか知りませんが、このカンヌまでたっぷり時間は掛かりますので、十分なコミュニケーションなり、悪巧みができますね?」
「ふんふん」
「カンヌに着いてから、ま、昼間はマジに各国のコマーシャルを見ていただく、セミナーにも出ていただいて結構。夜です、夜。パリから呼んである綺麗どころを船に乗せ沖合に出してアブナいパーティというのが通り相場です」
「それが、デファクトですか。うむうむ。」
港と島の間をピストン輸送している大きなボートが来た。こちらは招待状を握りしめていたのだが、それを見ようともせずそこに来たものは皆ハイヨ!と乗せてしまうおおらかさ。
20分ほどで島に着き、レストランの野外の席。無量50人ばかりの招待客。
社長夫妻もいる。社長はアルジェリア人らしいのだが、夫人はカトリーヌ・ドヌーブのような美人。日本だと主催者から何か一言、ひどい時には業務のビデオを見せられたりするのだが、ここの席は社長が各テーブルをまわり愛想を言っているだけ。
何もなしに、ウエイターがワインをサーブし始める。サラダも出てくる。“そうか、サラダの後か”って思っていると、メインのオマールエビがどどん!お出ましだ。終わってコーヒーとデザートになる。“このタイミングでやるのか!”と思ったが、そのまま流れ解散だ。なんとなく腑に落ちない気持ちで、帰路の船の待つ港に向かいながら、そのわだかまりを先ほどの傍の関係者に訊いてみた。
「ああ、そういう日本式のヤツね。それこちらでやったら下の下。顰蹙ものです。完全にこちらのプロトコルに外れますね」
滝川クリステルの「お・も・て・な・し」もあって、日本の「おもてなし」は世界一流って信仰が日本人のなかにあるようだが、そんなことないからね。ある程度以上の文化のあるところには、こういう「エンターティメント(接待)」ってちゃんとあるもんだから。
だいたいね、「持って為す」って「持って遊ぶ(弄ぶ)」のすぐ近くにあって、それほど鼻高々なものでもないでしょうね。
「精密機器」と「潤滑油」があって、「潤滑油」だけが品質高いってどーなのよ?