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拝啓、ハムレット。「オフィーリアシンドローム」からも醒める頃

2018.05.11 12:51

実は今週、一週間、

水曜以降の新聞が読めていない。

この状態はじわじわと意識下で私を苦しめるストレスになる。

そうなると大抵において、週末に一気読みするのだけど

それはもう、苦行のようで楽しくもないし

本来、新聞を繰る紙ずれの音や時間すらも愛おしいと思う、

私の数少ないささやかな愉悦のときが台無しになってしまう。


小さい頃から活字が大好きで、しかし読書に耽るようになった理由は

「名作にいつでも触れてほしいから、世界名作全集をそろえた」という母を

悲しませたくないという幼心で、手に余る大きな大きな本の扉を

開いたのが最初だったと思う。

それからは、実年齢とフィットしないものばかり求めるようになって

小学校4年生で「ハムレット」に打ちのめされた胸ふるえる感動は

いまなお忘れじの思い出だ。

その日、私は歯科医で歯を抜いて、出血が長いこと止まらないものだから

母にベッドで安静にしているよう命じられた、手持無沙汰の午後。


母の岩波文庫の「ハムレット」を昨夜の続きから読み直し、

「…なんだこれは…」とまばたきを忘れるほどの衝撃に夢中となった。

読み終えたとき、いてもたってもいられない内なる感情の爆発に

2階の階段のてっぺんから母を呼び、叫んだ(笑)。


「ママーーーーーーーーーー!!」


血が止まらないと言って静かにしていたはずの娘が、

突如尋常でない叫び声をあげて、どんなに当時の母は驚いたことだろうな。

階下から

「なに!?どうしたの!?」と血相を変えた母の顔を見下ろし

茫然自失していた私は、突然気恥ずかしさにおそわれてもじもじしながら

「あ、、いや、、、ごめん、、、、。あの、、、、」

言い淀んでいると母が言う。

「なに!?なにがあったの!?」

「いやあー、、、その、、、」

「なによ!?!?!?!?」

意を決する。

「ハムレットが!ハムレットがああああああああ!!!!ハムレット、すごい感動したああああああ!!!!!!」

口火を切ったら止まらなくなって、何がどこが、

ことほどさように私の胸を打ったのかをまくしたてた。


私の鮮烈な活字体験だ。今もあのときの胸のふるえを思い出すことができる。


大人になってから母が、こっそりと言った。


「ママは英文科でそれこそシェイクスピアを勉強していたけれど、

何がいいんだかさっぱりわからなかったのよ。それが、小学校4年生の娘が

泣き叫ばんばかりに『ハムレット』に感激しているのを見て……」

しばし言いよどんで、続ける。


「嫉妬したわ」母よ。。。笑。


けれどこの話には後日談がある。

どうやらシェイクスピア作品のすべてがフィットする、ということはなく

私には「ハムレット」だけが光り輝く金字塔だったこと。

そして、20代の終わりに母にまたしてもこの思い出話をされたときに

「原文で読まないで、岩波で読んで。翻訳者の訳注が素晴らしいから

英語なんかで読まない方がよっぽど奥深い味がわかるから!」と言って一冊を贈った。


結論。


母も「ハムレット」にやられたのだ。