機内で診療要請があった時に医師は何を考えているのか
2015.09.06 07:04
「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」
かれこれ10年ほど前に、休暇で海外に向かう国際線の機内でアナウンスがありました。食事の後で適度のアルコールも入っており、うたた寝状態でしたが、このアナウンスで飛び起きました。 私の数席後方で、小学生低学年の女の子がひきつけ、いわゆる痙攣発作を起こしていました。その子のご両親に伺うと、もともと軽度の精神運動発達遅滞があり、時々痙攣発作を生じていたとのことでしたが、この1年間は発作がなかったとのことでした。てんかんのようでしたが、抗てんかん剤の内服はしていなかった、とのことです。痙攣発作は続いていましたが、視診・触診での脈拍や呼吸状態は落ち着いており、口唇チアノーゼも出現していませんでした。 アナウンスを聞きつけて数名の医療者が集まってきました。聞くと、麻酔科医、一般外科医、整形外科医、その他ICU勤務している看護師を含め、総勢10名ぐらいだったでしょうか。リゾート行きの機内だったので、みんな結構チャラい格好をしていて、「あんた、本当に医者?」と思うような先生もいましたが、私も人のことは言えません。そんなチャラい軍団が、1人の有病者を前に真剣に医療を開始しました。 CAが持ってきた機内備え付けの医療バッグをチラ見しましたが、ラクトリンゲル500mlや気管内チューブは準備してありました。麻酔科の医師が、「ルート取りましょうか?」と言ってくれたんですが、発作は落ち着きつつあり、必ずしも点滴が必要な状況ではなさそうです。なんとラッキーなことに、妻が娘の薬の中になぜか痙攣予防の座薬を機内に持ち込んでくれていたため、その後機内で再発しないようにその子に使うこととしました(ナイス、妻!)。その後、痙攣発作は止まり、何とか落ちついたため、即席の医療チームは解散となりました。その時、看護師さん達が「何か人手が必要だったら、何でもおっしゃってください」と言ってくれたのが、非常にありがたく嬉しかったことを覚えています。その後CAから、その病気についていろいろと一般的な質問を受けました。その後その航空会社からは記念品が送られてきました。本当はグレードアップか、マイル加算がよかったのですが… まあ、いいでしょう。飛行機内で急病者が発生した時に医師は…
飛行機内で急病者が発生した時に、今回のようにうまくいくこともありますが、最近のニュースで不幸な事態に至った例も報道されています。 航空機内で邦人男性死亡 日本発ホノルル行き - 47NEWS(よんななニュース) この時の機内の状態は一体どうだったのでしょうか? ただし「医師はいませんか?」との診療の要請があっても、全ての医療関係者が手を挙げるわけではありません。ただし医師法第19条では以下のように定められています。診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。また「休診日であっても、急患に対する応召義務を解除されるものではない」と記してあります。しかしこれは「診療に従事する医師」のことであり、休暇中の医師の診療を必ずしも義務付けたものではない、と解釈することも出来ます。タビトラさんのブログでは公共交通機関で要請に応じない理由について述べてあり、医療者側の考えも十分に理解できます。 「お客様の中にお医者さまはいらっしゃいませんか」で手を上げない医者の理由 - tabitoraのブログ