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紺碧の採掘師2

第7章 01

2023.03.05 12:00

その頃、ブルーとカルセドニーは死然雲海の中の荒れ地に着陸し、カルセドニーからブルーへ燃料補給を行っていた。護がカルセドニーの貨物室から鉱石コンテナを運び出し、マリンがそれを台車に積んでブルーの鉱石貯蔵室へ運ぶ。

そこへ駿河が来て「ウチは3箱あればいいんで、あとは全部ブルーに。」

護「うん。足りなくなったらイェソドで採れるしな。」

駿河「作業が終わったら、お昼ご飯どうぞ。カルさんはもう食ってた。俺はこれから。」と言いカルセドニーの船体を見て溜息をつき「…チェックしたら所々、擦り傷みたいなのが…。場所によっては少し凹んでるし!管理に修理代を請求したいけど、面倒だな…。正直、大した怪我じゃないし。」

護、思わず「怪我?」と言ってコンテナを持ったまま駿河の方を見る。

駿河は船体側面に手をついて、はぁ…と項垂れると「カルさんが傷ついたのが悲しい…。いつかピカピカに直してあげよう…。」

護「…そうだねぇ。」と言ってコンテナ運搬を再開する。


ブルーのブリッジでは武藤が船長席でおにぎりを食べつつ「…ブリッジで飲食は宜しくねぇが、非常事態だ。何が来るかワカランし、しゃあない。」と言ってペットボトルのお茶を飲むと「水物さえ零さなければ。」

操縦席では二等の明日香が「ねぇ船長、満さんとか無事かな?」

武藤「無事だと思うけど昼飯食えなくてハラ減ってると思う。しゃあない。」



黒船は死然雲海へ向かって飛ぶ。それを追うようにレッドとシトリン、そして管理の船が後方に続く。

シトリンのブリッジでは楓が疲れた顔で「一体何がどうなってるのか、…ねぇ説明が欲しいんですけど…。」と言い右手でイライラしたように前髪をいじりつつ「管理に聞いても『黙って黒船に付いて行け』の一点張り…、少しは何か教えてよ、銃撃とかさ!ブルーどこ行ったとか!」

ジュニパー「船長落ち着いて。」

楓「上で何があったのよ!ウチの船、ずーっと黒船の下だから何もわかんない。」

陸「ともかく上から黒船メンバーが来なくて良かった…。」

そんな会話を聞きつつ、綱紀(…なんか情けねぇなー。そんなだから管理に舐められんだよウチの船…。)と呆れる。


黒船のブリッジ前の通路では、総司がウィンザー達と話をしている。

ウィンザーは両手で拒否表明をしつつ、総司に「いや俺は入りません。ここでいいですから。」

総司「いいからブリッジに入ってくれませんか。」

ウィンザー「でも…ブルーの方が入れば」と隣に立つ満を見て「俺は通路で…だって俺は別に採掘監督でもないし、普通の採掘メンバーなんで…。」

総司は若干イラつきながら「レッドから連絡が来た時にいちいち貴方を呼ぶのが面倒なんで入って下さい!」

ウィンザー「じゃ、春日さんが」と後ろに立つ春日を見る。

春日「まぁ入ってしまえ」と言ってウィンザーを押し退けブリッジ内に入りつつ、ウィンザーの腕を掴んで中に連れて行く。

ウィンザー焦って「ちょっと…春日さん!」と言いつつ仕方なく春日と共に船長席の右側に立つ。

総司は溜息ついて船長席に座ると、その左側にジェッソ、そして満が立つ。

総司「…さてと。管理はともかく、レッドとシトリンはどうするつもりなんだろう。管理が途中で引き揚げたら一緒に戻るのかな。」

ウィンザー、不安げな顔で「すると俺達は…。」

春日「君は、どうしたい?」とウィンザーを指差す。

ウィンザー「…何が?」

春日「イェソドに行きたいかと。だって多分ウチの船長から連絡来るから。メンバー返せ、黒船止まれって。」

総司「なるほど。」

春日、ウィンザーに「もし船に戻りたいなら、俺がさっきの続きをして黒船止めるよ!」

総司「いやそれは無しで。」

ウィンザー「…正直どちらでも…。」と言って溜息をつくと「成り行き任せで…。」

そこへ話を聞いていた満が呆れたように口を挟む。「…貴方はそんな軟弱な精神で黒船に突撃したのか。」

ウィンザー「だって俺は…。」そこで少し黙ると溜息交じりに「…レッドは色々と大変なんですよ…。」

満「採掘量だけは我が船より上だが。」

ウィンザー「だって採らないと…。」

春日「ちなみに実は輪太君がさ、凄くイェソドに行きたいって頑張ってるんだ。」

ウィンザー「え。あの子が…なぜ?」と春日を見る。

春日「イェソドには妖精ってのが居て、輪太はブログでその写真を見てイェソドに行って妖精と遊びたい!と。…でも!」と言って言葉を切ると「さっき輪太が俺に言ったんだ。自分の努力でイェソド行くなら行きたいけど、管理や船長に言われて無理に行くなら、黒船に迷惑がかかるから、行かなくてもいいって。」

ウィンザー「…。」驚いたように目を見開いて春日を見る。

そこへ上総が「あの…輪太って、SSCシリーズのですよね?」

春日「周防輪太君だな。」

上総「…黒船に来れば良かったのに…。」

ウィンザー「…彼が、そんな事を…。」

春日「だから代わりに俺が黒船に降りたんだよ。」

ウィンザー「えっ?」

春日「…あのままじゃ、輪太君だけでなく探知のクォーツ君も大変だからな。」と言うと「で、どうしようか? このままイェソドか、レッドに戻るか。」

ウィンザー、春日に「貴方はどうしたい」と言いかけた所で

春日「俺が先に聞いた。そもそも俺は勝手にここに来たし。君も勝手にしていいんじゃないかなーと。」と言いニヤリと笑う。

ウィンザー、深い溜息をついて額に手を当てると「そんな事言われても…俺には無理です。あの船長と、採掘監督が…。」

春日、面白そうにニヤニヤ笑いながら「2人分背負ってるからな!でも逆に言うと、2人分背負えるって事なんよ。」

ウィンザー「え」と春日を見る。

春日「だって君が居ないとあの船、崩壊しますぜ?」

ウィンザー「…崩壊?」キョトンとした顔。

春日「君が船長と採掘監督の間のデカイ溝を繋いでるからレッドは何とか保ってるんであって。とりあえず船長は重症だから、採掘監督だけでも復活させられたら何とかなる。」

そこへトゥルルルと電話が鳴る。

春日「おっ。」

総司「来たな。」と言い受話器を取り「はい黒船です。」と言い暫し黙って相手の話を聞いていたが、ウィンザーの方を見ると「ウィンザーさん。レッドはイェソドには行けないので、もし貴方がイェソドに行きたいならレッドは貴方達を置いて引き返すと」

それを聞いた瞬間、ウィンザーは「ええ?」と驚き

春日は思わず両手を壁に付けてガックリうな垂れると(…そんな重症だとは思わんかった…!)

ウィンザー「ち、ちなみにレッドに帰りたい場合は」

総司ニヤリと笑って「黒船は止まる気はありませんよ?」

ウィンザー「ええ…。」と困惑の顔で焦り悩むと「あの、すみません、ちょっと電話を貸して下さい。」と言って総司から受話器を受け取ると「代わりましたウィンザーです、船長、あの…、レッドもイェソドに行きませんか…。」

南部『それはダメだ。管理の許可が無ければ。』

ウィンザー「…でも…。」と言って、はぁ…と溜息をつき「でも、船長。…輪太君が、凄くイェソドに行きたがっていると…。」

南部『しかしダメなものはダメだ。勝手な行動をすれば管理に処罰される。』

ウィンザー「…船長。あの…。」と言い暫し悩んで「…船長…」と苦渋の声を出し、それから意を決したように息を吸って「停船して下さい。俺達はレッドに帰ります。」

南部『ん?』と驚いた声を上げて『…帰る?どうやって?』

ウィンザー「船を黒船の下に停めて下さい!俺達はレッドに帰ります!…それとも、帰って来るなと言うんですか!」

その言葉に春日、脱力してその場にしゃがみ込み、頭を抱えて苦笑する。

南部『とんでもない!…分かった、停船しよう。…では。』そこで通信が切れる。

ウィンザーは総司に受話器を返しつつ「…切られました。」

総司、受話器を置いて「帰るのか。」

ウィンザー「はい。…申し訳ありませんがレッドの上に船を停めて頂けますか。」

総司「…副長。」

ネイビー「了解でーす。」

ウィンザーは自分の隣でしゃがんだまま笑っている春日に「…何を笑ってるんですか!」

春日、苦笑しながら立ち上がって「だって、…俺、とんでもねぇ船に入っちまったなぁと思ってたけどマジで凄いなって。あの船長…。」と言うと「…だって普通は、自分の船のメンバー返せって…。それが何でこっちから『帰らせろ』と…」と言って苦笑の溜息をついて「想像以上に重症な船だった…。」

ウィンザー「その船に帰りますよ!」

春日「嫌だなぁ…。…わかりました帰ります。あの船長、何とかしないと…。」

そこへ総司が春日に「ところで、貴方をスカウトした人って誰なんですか?」

春日「え。…飲み屋でよく会うオッサンと意気投合して話してて、俺、人工種の船って興味あるんですよねー採掘船乗ってみたいなーって何となく言ったら、オッサンが喜々として本部に知り合い居るから良かったら紹介するよ!って言うんで連絡先交換して、名刺見たら『周防紫剣人工種製造所』、アンタ製造師だったのか!…っていう。んで数日後に本部から三等空いたんですが採掘船入りませんか!と。」

上総、驚いて「まさか紫剣先生!? 周防先生お酒飲まないし」

春日「うん。あのオッサンもなかなかの曲者だった。人生奇想天外だわな。…行きますか。」

総司「もう一つ聞かせて下さい。貴方は航空管理の時にどんなお仕事されてたんですか?」

春日「ん?…んー、…航空船舶免許の試験場で、更新ですかーはいこちらが新しい免許証でーすみたいな事務職を…」と言って周囲の冷たい空気に気づく。

総司「…。」腕組みして冷めた目で春日を見つつ「貴方も相当な曲者ですね。」

ウィンザー「…さっき『昔取った杵柄』とか聞きましたけど…?」

春日「…真面目に言うと、航空法規をガン無視する違反船に、そこの船止まりなさーい!っていう。」

総司「納得しました。」

満「止めるプロでしたか…。」

ウィンザー「威嚇射撃とか、してたんですね…。」

春日「いやさっきのアレはちょっと違うんだな。だって何も違反してないし。」

総司「ですよねぇ。」

春日「そもそもホントの違反船って航空管理の船に向かって攻撃して来るんで」

総司「えっ!」

一同「!!」

春日「だから威嚇が必要な訳よ。マジなのか威嚇なのか相手に悩ませる為に。」

総司「もしかしてそれは俗に『空賊』と呼ばれる…」

春日「うん、俺の仕事、暴れん坊の空賊対策だった。…そろそろ行きます。」とブリッジ入り口へ移動する。

ウィンザーは春日についてブリッジ入り口へ行くと、戸口で「それでは…大変ご迷惑をお掛けしました。」

ジェッソ「下まで一緒に行こう。事情を知らないメンバーが驚くから。」

ウィンザー達はジェッソと共に通路へ去る。

総司、それを見送って(…凄い人がレッドに入ったもんだ…。スカウトした紫剣先生に感謝だな…。)


黒船が速度を落とすと背後にいた管理の船やシトリンもそれに合わせて減速する。

レッドだけが黒船に接近し、船体を黒船の下に滑り込ませる。レッドの停船と同時に黒船の船底の採掘口からウィンザー達がレッドの甲板に飛び降りて、黒船の採掘口のジェッソ達にちょっと手を振ると甲板ハッチへと向かう。

ウィンザーがハッチを開けている間に、クラリセージが春日に「…人間なのによく飛び降りますね。」

春日「ポケットに浮き石を入れてるから。人工種並には浮かないけど緩衝材代わりにはなる。まぁ昔、散々訓練したしな。」

クラリセージ「なるほ。…ハッチ開いた。」

ウィンザー達は甲板からハッチ内へ入る。

上空の黒船は採掘口を閉じて上昇しつつ再び前進を始める。