過去未来、すべての「ヴァリ・ノイツェル」に鎮魂を祈る。
先日、有料放送で『エゴン・シーレ 死と乙女』を観ました。
エゴンはたくさんの自画像を遺していますが、
映画の主演俳優の美しさは、それと比較すると物語に説得力を与えていました。
これを観終わって思い出したのは、私の好きなエミーリエ・フレーゲの人生、美学でした。
エミーリエはエゴンの師の1人でもあった、画家のグスタフ・クリムトの
いわば『不滅の恋人』の名前。
クリムトには非常に大勢の愛人がいましたが、エミーリエはその一人であり、
自身、独立心の旺盛な、ブティックを経営する自立した女性でした。
どんなにたくさんの女性に囲まれようと、夏になるとクリムトは
エミーリエとアッター湖畔の別荘で過ごしたと言います。
そしてこと切れる最後の瞬間、クリムトが遺した言葉は
「エミーリエを呼んでくれ」だったと言います。
おっと、エゴン・シーレの話でした。
なぜエミーリエを思い出したのかと言えば、
エゴンはヴァリという年若い女性を、4年間もモデルとして恋人として
そばに置きますが、、、
しかもヴァリは師でもあるクリムトから譲り受けたモデル。
当時まだ10代だったはず。その過程では幼児性愛者などの疑念で
エゴンは逮捕されたり、映画のなかでヴァリは献身的に彼を支え
非常に情熱に満ちた蜜月を過ごしていきます。
が、「そうだ、結婚しよう!」とばかりに突如結婚熱に支配されたエゴンは
「結婚するにはきみはふさわしくない」と鬼のごとく冷酷な言を浴びせ
泣きすがるヴァリを捨て、まったく別の女性と結婚したのでした。
その後のヴァリは悲しい末路。たった23歳で人生の幕を下ろしますが
同様にエゴンも28歳の若さで夭折。
映画を観終わったときすでに朝も白みかけている刻、私はこのうえなく深く
ぐっすりと眠ったのですが、目覚めてなんて霧の晴れるような爽快な
気分なのだろう!としみじみ不思議でいました。
描きたくて描きたくて仕方のなかった画家は、死によってそれを
強制終了され、その後長い世代に渡って評価を受ける自己の行く末を知りません。
ヴァリの以前・以降に渡るすべての芸術家に尽くし、顧みることのなかった女性の不遇を
エゴンの死という結末はひとつの応報だったように思ったのでした。
そうしてまた、エミーリエという女性の在り方について
果たしてこれまでと同じように見てもよいのかどうか、悩むのでした。
エミーリエはクリムトの死後、交わした恋文のすべてを焼いたと言います。
ああ、そこまでに画家の理想を体現したエミーリエという生き方!