第8章 01
雲海の中の遺跡らしき場所に着陸している5隻の採掘船。
既に着陸していた2隻の前に広場のような場所があり、そこを挟んでレッド、黒船、シトリンが船首を揃えて横に並ぶ。各船のタラップから船長やメンバー達が出てくると、広場に集い始める。
楓や陸たちの後からシトリンのタラップを降りて来たコーラルは、周囲の船を見て(うぉ。なーんか面白そうな事が起きそうな予感!)とワクワクした表情になる。
続いて降りて来た聖司も広場に集う他船のメンバーを見て、ちょっと嬉しそうに「凄い、…他船の制服、色々見れるよ。」と言って後ろのジュニパーと綱紀を見る。
ジュニパーに腕を掴まれ引っ張られつつ嫌々タラップを降りた綱紀はそれを無視して(…嫌だ…。上総とかクォーツとか絶対会いたくねぇ。…またあいつらにカワイソウって憐れまれるのは勘弁してくれ…。)
思わず目を閉じ、過去にSSFで上総達と探知の練習をしていた時の事を思い出す。
探知出来ずに悩む綱紀に対して申し訳無さそうな表情をする上総とクォーツ。
綱紀(…あいつら俺より年下の癖に…)と思った時。
ジュニパーが綱紀に「あっ、あの人が居るわよ!」とカルセドニーの船体の傍を歩くカルロスを指差す。
釣られてカルロスを見た綱紀の目に憎しみの炎が宿る。
綱紀(あの超絶エリート野郎…、ブッ殺したい…。)
カルセドニーから出て来た護は広場の地面に屈んで表面に積もった土をちょっと払うと「これケテル石だ。…この遺跡ってやっぱ殆どケテルなんだな。」
駿河は武藤と一緒に皆が集っている所へ歩きつつ、周囲の採掘船を見回して「この状況を見たら剣菱さんが泣くな…。何でアンバーだけ仲間外れ!って。」
そこへ満が「船長!ご無事でしたか!」と叫びつつ、進一やアッシュと共に武藤の所に駆け寄って来る。
武藤「監督も無事で何よりだー。皆、空腹で死んでるかと思った。」
満「黒船の方にお結びを頂きましてな。」
武藤「あらまぁ。」
駿河は総司やジェッソ達の所に来ると「さてこの大所帯、誰が…」と言いかけて、ふと総司の制服を指差し「あれ。なんか新しく人工種用の船長制服作るとか言ってなかった?」
総司「ありますよ。その日の気分でどっちか選んで着てます。…この制服は貴方から貰った奴です。」
駿河「まだ着てたんか…。ところで誰が仕切ろうか。」
総司とジェッソ、黙って駿河を指差す。
駿河「何で俺…。黒船の船長の方が。」
総司「どう考えても貴方しかいない。」
そこへ突然、背後で「カルちゃんお久しぶりー!会いたかったわ!」という声が。
見るとシトリンの制服を着た男がカルロスに駆け寄って…拒まれている。
カルロス「そこまで!」と右手をジュニパーの前に突き出すと「距離感は大事!」
ジュニパー「ええ…。久しぶりなんだからハグしましょうよ!」
カルロス「嫌です!断じて断る!」と言うとハッと周囲の注目に気づいて駿河を見ると「早く話を始めよう!」
駿河「…あっ。」と気づいて「もしかしてシトリンのジュニパーさんというのは。」
ジュニパー「はーい!ワ・タ・シ!」と駿河にウィンクする。
カルロス「…だからシトリンには断じて関わりたくないと!」
ジュニパー「そんな事言わないで。」
カルロス「とにかく話を始めるぞ!どーするんだこれから!」
駿河「えーと。何から言えば」
護「大死然採掘の選考!全部の船がエントリーするっていう!」
駿河「ああ。つまり本気でイェソドで採掘したいなら選考で選ばれてね、という…。」と言って周囲の全員を見回して「アレ?…なんか船長が足りない気が?」
するとウィンザーが「ウチの…レッドの船長は諸事情により出られないので俺が代わりに。」
ウィンザーの隣に立つ春日、ニヤリと笑いつつ「事情を聞いてはいけない。」
駿河「はぁ。」と言うと「まぁ黒船は参加決定なので他の3隻がエントリーしたいかどうかなんですが。」
総司「そもそも管理の連中が言ってたのはそういう事な訳で。まぁでも管理と関係なく5隻でバトルするのも楽しいかなーと。」
護「いや6隻ですけど!カルセドニーも!」
総司、護を見て「え。でも別枠ならば」
護「選考は全体のバランスで決まるんで、例えば大型船のレベルがバカ高くて小型船のレベルが低いと大型船から沢山採って小型船からあまり採らんという事態になる。例えるならアンバーと黒船がどっちも選ばれてカルセドニーが落ちるとか…。」
駿河「でも小型船ってエントリー多くてレベル高くて激戦区という話だから、合格枠が狭まる事は無いと思うけどな。よほど凄い大型船が多数参戦するんでもなければ。」
護は黒船の船体を指差して「黒船っつー凄い大型船が!」
駿河「んでも黒船、源泉石採った事無いし!こっちにはカルさん居るし!まぁ大型と小型で審査基準が違うんだからカルセドニー受かって他船全部ダメという事も有り得るし。」
護「何にせよ俺はガチで頑張らんとダメって事なんだよな!ちくしょー!」
総司「そういやターさんは?」
護「ターさんはカルナギさんの船に入るんで。あの船は大死然採掘の常連だから選考無しで参加確定です。」
ジェッソ「さすが。」
駿河、他船の一同の方に向き直ると「話を戻して、ともかく管理が言うにはこの選考で選ばれた船は自由にイェソド行かせるぞって事らしいんで、どうですか皆さん。…ただ個人的には選考とか関係なくイェソド行きたかったらご自身で自由にどうぞって思いますけども。」
総司「その代わり管理に凄いウザイ事をネチネチ言われますが。」
駿河、総司を見て「…よっぽど言われたな?」
総司「まぁな!」
そこへ満が「ひとつ宜しいか。…その選考は具体的にどのような?」
すると護が挙手して「はいっ!」と前に進み出ると「源泉石採掘です。源泉石には有翼種の世界では10段階の等級があって等級3以上、等級8までのものを採る。ちなみにジャスパー側で採れるのは等級2とか1のやつです。人間側ではそんな等級無いけど。」
満「ジャスパーでも採れる?」
護「はい、その粉末が鉱石コンテナの内側に塗ってあります。イェソドエネルギーの毒性を弱める効果があるので。」
満「ほぅ。」
護「何で源泉石が毒性を弱めるかと言うと、源泉石がイェソドエネルギーを活性化させる鉱物だからで、例えるなら性質そのままに不純物的なものを取り除くフィルタみたいな役割を果たすからです。だから中和石とはちょっと違う。源泉石そのものもエネルギーを持っていて、レベルの高い源泉石は人間でも安全に使える電池のようなもんです。」
満「ほぅ!」
護「で、なぜ有翼種が源泉石を採るのかと言えば、イェソド山以外の山に住む有翼種達の為で。」
途端に総司が「え。あの山以外にも有翼種って居るのか。」
護「はい。他の場所に住む有翼種達はイェソド鉱石に源泉石を混ぜて使う。エネルギーが活性化するから。」
総司「なら我々も同じように源泉石を」
護「と思いますよね、でもダメなんです。源泉石は環境に配慮して採らねばならないので、選考期間の一週間しか採っちゃダメなんです。」
総司「ほぉ。」
護「必ず死然雲海の中で採る、鉱脈は全部取らずエネルギーの流れを少し残す、周囲の岩等をあまり削らない、採掘現場の写真を撮る!これは不正防止の為もあるけど。あとエネルギーが収束した場所に石柱が出来ている場合は柱のまま採る、そして何よりも妖精がダメという所は採っちゃダメ!」
総司「そんな事が。」
護「ありますよ。妖精様は大事です。特に主が来た時は。」
総司「ヌシ?」
護「でかい妖精が居るんです。妖精様に逆らって無理に採掘とか伐採すると自然災害が起こるという。」
総司「へぇ!」
そこへ駿河が「そういや雲海なのに今日は妖精いないな。」と言いつつ周囲を見回す。
カルロス「そこらへんにいるけど隠れてる。まぁ見知らぬ奴がこんなに来たから…。」
護「ちなみに選考でもちゃんとお金を頂けますんで。勿論イェソド側のお金ですけど。…等級8の石柱とか採ったら凄い莫大に稼げる…。あ、等級9とか10の源泉石はイェソド山の頂上にあるけど採掘禁止です。」と言うと満の方を向いて「…そんな感じです。」
満「なるほど。」と言い武藤を見て「船長、どうしたものか。」
武藤「俺は監督がやりたいならやるし嫌ならやらんし、どっちでも。」
満は「うーむ…。」と悩み、隣にいるレッドのメンバーの方を見て「そちらは。」
ウィンザー、サイタンの方を見て「監督…」と言った途端。
サイタン「やるぞ。」
ウィンザー「え!」と驚き「マジですか?」
サイタン「クソ管理に言われて採掘するよりよっぽど面白れぇ。」
ウィンザー、唖然としてサイタンを見たまま「はぁ。やるんですね。ビックリです。」
サイタン「だって他に何するんだよ。…船長は監禁しちまったしよ!」
その言葉に他船の一同「!」ビックリ仰天
武藤「えっ、あの人、監禁したんか!」
楓「マジでホントにー?!」
総司、拍手して「素晴らしい…。」
駿河「な、何で監禁したん…。」
ウィンザー、一同に「手荒な事はしてませんから!」
春日「俺が黒船の船長を拘束した時の方がよっぽど手荒だった。」
駿河「へ…?」と驚いた顔で総司を見る。
ウィンザー「とりあえずウチの船長の事は気にせず!源泉石の採掘は、やりますので!」
満、それを聞いて「うーむ…。やるのか…」と悩む。
そんな満にアッシュが後ろから「面白そうな気はしますが。」
満「だが…。」と悩んでアッシュ達の方を向くと小声で「お前達、相手はあの黒船だぞ、勝てるのか?」
アッシュ「勝てる気はしませんが面白そうだと」と言った瞬間
満が凄んで「勝てる気はしない、だと…。」
アッシュ「いえ!やるからには叩きのめそうと思います!」
慌てて隣の進一がアッシュに「またれい!黒船の御前だぞ!」
すると満が「礼一、進一!黒船の船長は誰だ!」
進一「ハッ、我が江藤一族の!」
礼一「総司であります!」
満「つまり…どういう事か分かるな?」
礼一「…。」暫し黙って満の背後の何かを凝視しつつ「監督、黒船の船長がこっち見てますけど…。」
満はそれを無視し「さらにだ。…アンバーの採掘監督の穣は、我が弟…。」と言うと「茨の道を歩かねばならぬ。」
武藤「いつも歩いてるやん…。」
満「それでもやると言うのかお前達!」
アッシュ達「ハッ!」
進一(…監督の覇気が…)
クリム(戻ってきたかも…!)
そんなブルーのメンバー達を見ながらサイタンがボソッと「…変な船だな。」
武藤、総司に「ウチの船もやるらしい。」
総司「なるほど。…あとはシトリンかな。」
一同、シトリンの楓を見る。
楓は困ったように陸を見て「…どうする?」
陸「…この状況だとやるしかない、かなぁ…。」
陸の背後に居るコーラルは密かに(やるやるやーる!いつもの鉱石採掘より楽しそう、やるー!)
サードニクスも(…面白そう…。)
綱紀はつまらなそうに(…それよりジャスパーに戻るのいつなんだよ…ってか戻れんのか…?)
ジュニパー「ねぇやりましょ?旅は道連れって言うじゃない。」
コーラル達は密かに(やったー!)
綱紀は(…えぇ…。)と辟易
陸「…なんかもうウチの船は成り行き任せで…やります。」
総司「という事で5隻の意志は決まりましたが。」と駿河を見る。
駿河「次は有翼種と相談か。事情を話しに…ウチの船が行くしかないのか。」と言いクッタリして「俺なんか今日、色んな事しまくってるような気がする。チト疲れた…。」
総司慌てて「あ!じゃあ黒船が…行きますけど先方に詳しい護さん、一緒に来てくれますか?」
護「行きます!」
駿河「いってらっしゃい、宜しくです。…では残った皆さんは、黒船が戻るまで自由にどうぞー!」