「かべ 鉄のカーテンのむこうに育って」ピーター・シス
ピーター・シスの自伝的絵本「かべ 鉄のカーテンのむこうにそだって」は、自由であることの素晴らしさを教えてくれる絵本です。
東西冷戦下のチェコスロバキアで生まれたピーター・シスは、共産党の思想教育に染まって育ちました。
絵を描くことが大好きだった少年は、はじめは何の疑問もなく戦争や戦車を描いていましたが、思春期に入るに連れ、細々と入ってくる西側諸国の音楽や芸術に触れて、段々と新たな価値観を自分の中に作っていきます。
強制されてやることと、ただ、自分がやりたいだけのこと。やりたいことは、検閲、取り締まりから逃れて、こっそりと。
1968年、プラハの春。
検閲制度が廃止されたかと思いきや、しかしすぐにソ連が軍事介入しチェコスロバキアを占領下に置いたこの事件は、20歳前後だったピーター・シスの胸の中の自由への希求を更に強いものにします。
それからはひどいことばかりが次々に起こる。
でも暗やみの中から、かすかに希望の光がさしてきた。
アメリカからビーチ・ボーイズがやってきた!
夢をかいた…
悪夢もかいた。
夢はないしょにしておけばいい。
でも絵がみつかると、こまったことになる。
絵をかくのはやめにしたが、夢だけはもちつづけた。
やっぱり絵をかかなくてはならない。みんなで夢をもつことが希望につながる。
みんな絵がかきたいんだ。かべいっぱいに自分たちの夢をかいた…
消されても、消されても、またかいた。
冷戦、プラハの春から、ベルリンの壁の崩壊まで。
社会情勢、世界の動向といった歴史的な事実も差し込みながら、ピーター・シスは制限された社会の中から、自由を叫び続けるのです。
自由を描きつづけた、シス自身と思われる男性が自転車に乗り、自ら描いた夢の紙の束が翼になり「かべ」を越えていく場面は感動的です。
戦後のチェコの歴史を学びつつ、自由の尊さも改めて確認することが出来る絵本です。
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