毎日ボーナスタイム vol.4<みうらかな>
「とりとめもない話」
四月、窓をあけると気持ちのいい風が入るようになった。新生活が始まってからずっと大切に育ててきたブラジリアンエーデルワイスにふわふわの新芽がふたつも出た。生まれてはじめてふきのとうの天ぷらを食べた。とても美味しかった。
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私は普段、日記をつけない。頭にうかんだ素晴らしいことを言葉になおすのがものすごく苦手だからである。
社会人として働きはじめた当初、ビシネスメールが苦手すぎてひどい文を打ち、先輩にキレられたことがある。翌日、すぐに古本屋さんでメールの書き方と敬語の使い方の本を三冊買った。それをバカの一つ覚えのように、マーカーをひいては何度も読み返した。丁寧に教えてくれる先輩を二度とあんな顔で怒らせたくなかった。そうしたら、次の日からは漢字だらけのアンドロイドのような堅苦しい文面になってしまった。
数日後、尊敬するある人から「抜け感」について教わる。ひらがなが読み手の気持ちを柔らかくしてくれるらしい。
何卒、は なにとぞ、と書く。お世話になっております、の前には、こんにちは、こんばんは、をつけてみる。そうしたら、ただビシネスでやりとりするだけの” 〇〇って店の人” から、” 三浦さん”、” みうらちゃん”、” みうら”になっていくからと。入社から三年経った今、あぁなるほど、私は文字で私の性格も少しは表現できるようになったんだなぁって、ちょっと感動した。
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最寄り駅で降りない生活をもう長いこと続けている。二駅手前から一五分ほど歩いて帰ると、今の時期はちょうど桜並木になっていて、見上げながら歩くとあっという間に自宅の前。
今日久しぶりに用事があって、本来の最寄り駅を目指して歩いてみた。すると、あらまぁ、こっちにも桜の木があったことにずっと気がつかなかった。もう散ってしまって、爽やかな葉っぱをたんとたずさえている。わたしの住む街はまだまだ見どころがありそうだと、季節に教えてもらうことが多い。
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夏を想像して涼しい顔になることがある。
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職場にはじめて後輩ができた。
企画とは何か、どうやって作るのか、何をしたらいいのか、私も初めた当初は分からなかったことをやはり聞いてくる。あの時はどういう答えがほしかったか思い出しながら、下手くそだけど丁寧に考えて教える。そうすると、あれなんでこれってこうなんだっけって、私も忘れていたような大事なことを思い出す。基本に忠実にやってきたつもりがいつの間にかゆがんできてしまったことを再確認する。
先輩というのは、自分も同時に成長していかなきゃいけないんだなと、それはそれはしみじみと思った。
人に何かを教えるというのは、最近感じた責任の中で一番重たいな。
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とりとめもないどうでもいい話で、人は穏やかになれると思う。
文:みうらかな