菅原靖之(ecke) のビート研究所 test.2<菅原靖之>
少しづつ春の気配が漂う今日このごろ、みなさんビート刻んでますか? 前回は「ヘイトすぎでしょ」と注意勧告をいただいたので、今回はしっかりビートを研究していきたいと思います。
今回取り上げるテーマは「シーケンス(sequence)」です。意味としては連続して並ぶ順序、みたいなことですが音楽(特にDTM)ではよく使われる単語ですね。説明は面倒なのでインターネットの海に入って検索してみてください。で、まぁ音楽やリズムは小節という単位があってそれが連なって一つの楽曲になるわけですが、何分の何音符とかっていうのがありますよね。まぁ要はそのいくつも区切りのある箱の中のどこに音符を置いていくか、ということでリズム・パターンが変わっていくわけですよね。8 ビートとか16 ビートとか言ったりすると思いますが、それのことです。
世界中のほとんどの音楽はある程度かっちり決まった区切りの中に収まって作られているかと思いますが、ビートメイカーの中にはそういう常識を飛び越えちゃっている人もいます。前回のJay Dee の話しにも繋がりますが、彼からの影響下にありつつも、独自のアプローチをしていると勝手に僕が思っているのがAru‒2(アルツー)という日本人ビートメイカーです。
SoundCloud とかで検索して彼の楽曲を聴いてみてほしいのですが、とにかくドラムのリズムがずれまくってます。普通の人からしたら「何だこりゃ?」と思うかもしれないんですが、これが不思議と気持ち良いんですよね。あと前号の別コーナーでも紹介したlee(asano+ryuhei)もクレイジーなビートメイカーです。そんな二人は最近共作アルバム「2PAC」をリリースしましたので、そちらもぜひチェックです。
で、彼らのビートに共通しているのが独特のハメ方。キックの次に一体どこにスネアが落ちてくるのか、ハットがどういう間隔でループしているのか、全く予想できないし、テンポがいくつなのか、正しいのかもほんと分かんないっす。でもそれが見事なバランス感で成り立っている。なぜなのか? それは実はシーケンスでしっかりと組まれているからだ、と思います。
例えばBPM80 の1小節があったとしたら、その中では4分か8分か16分、行っても32分ぐらいの音符のどれかをカッチリ打ち込んでいくのが普通の人の感覚です。でも彼らはもう何分音符を打ち込んでいるのか全然分からない。それが1小節の中に無限の宇宙を見出してくれているわけです。でもシーケンスのおかげでBPM80の1小節に収まっていて、それがループする。そのおかげで音楽として気持ち良いギリギリの所を行ったり来たりしているんだと思います。
六畳の部屋の中でめちゃくちゃな家具の配置をしても、まぁ収まってればオールOK !みたいな感じです。そんな彼らの楽曲を聴いて、音楽やリズムに対する固定概念はけっこう吹っ飛びました。そういう感覚をまた生ドラムにも落とし込んでいきたいと思ってますが、まだまだ先は長いですね、これが全然できません。
というわけで、Aru‒2、lee(asano+ryuhei)、ぜひチェックしてみてください。リズムだけじゃなくメロディとかもほんと良いので、ほんとまぁ普通に聴いてください。ただ、ビートを聴いて「実はこれは6 連符の裏と32 分の2 と4 で〜云々」みたいな研究の仕方はまじで野暮すぎるのでやめたほうがいいと思います。「Don’t think,Just Feel!!!」です(本人たちが計算しているのかどうかは知りませんが…)。よく分かんない音楽理論に基づいた説教がましいビートよりも、感覚でフィールしてるビートの方が数億倍気持ち良いでしょ、と思うので詳しい説明を求められても分からないのでご了承ください。
もちろん他にも日本にはBudamunk、Mitsu the Beats などを始め、素晴らしいビートメイカーがたくさんいますので、知らなかったら今すぐチェックしといてください。あと海外ですけど、最近Foisey って人のアルバム聴いたらすごい良かったです。