色褪せたキャンバス
【詳細】
比率:男1:女1
現代・青春
時間:約8分~10分
【あらすじ】
放課後の屋上。
空を見つめる千都。
彼の目に映るものは……
*こちらは『君の世界の色』シリーズの1話目です。
【登場人物】
千都:白石 千都(しらいし かずと)
高校二年生。
昔は絵を描いていた。コンクールで賞を取ったことがある。
今はあることが原因で絵は描いていない。
先輩の絵美からは「せんと」と呼ばれている。
絵美:廣瀬 絵美(ひろせ えみ)
高校3年生。美術部部長。
昔、千都の絵を見て感動したことがある。
もう一度千都に絵を描いてほしいと願っている。
千都のことを「せんと」と呼んでいる。
千都:(M)空はどこまでも広がっている。それこそ無限ではないかと思えるほどに
そして、その空を縦横無尽に飛び交う鳥はまさに自由の象徴だ
では、空が自由の象徴であるとするならば、この大地はなんだろうか
大地に縛られ生きる者は全て奴隷なのだろうか
●学校の屋上・放課後
一人寝転がり、空を見つめる千都(かずと)。
勢いよく扉が開かれる。
絵美:見つけたぞ、白石千都(せんと)!
千都:……また、あなたですか、廣瀬先輩……
絵美:さぁ、今日こそは我が美術部へ……
千都:(遮って)お断りします
絵美:最後まで言わせろ!
千都:聞かなくてもわかりますので。というか、いい加減聞き飽きました
絵美:じゃあ……
千都:(食い気味に)お断りします
絵美:なんで!
千都:なんでもなにも、はじめましてのときからずっとお断りしていますから
絵美:だから、なんで断るのよ!
千都:ですから、何回も言ってますが、俺はもう絵は描かないので
絵美:だから、何で描かない!
千都:……別に、それは俺の勝手でしょう?
絵美:くぅっ!
千都:なので諦めてください
絵美:嫌だ!
千都:……廣瀬先輩……
絵美:私は千都(せんと)の絵が好きなんだ! だから、私は君の絵が見たい!
千都:……
絵美:これは私の勝手だ! だから、曲げるつもりはない!
千都:(ため息をつく)どうぞ、お好きにしてください
絵美:おう! それで?
千都:はい?
絵美:今日はここで何してたんだ?
千都:別に、何もしていませんよ。ただ、空を見ていました
絵美:空? (空を見上げて)あぁ、今日は雲一つない快晴だからな!
千都:そうですね
絵美:こういう空を見ていると泳ぎたくなるな!
千都:はい?
絵美:え? 千都(せんと)はならないの?
千都:……なりませんね。大多数の人間はならないと思います
絵美:そうかなぁ? 絶対泳ぎたくなると思うんだよなぁ。だって、こんなに綺麗なスカイブルーなんだし!
千都:「スカイブルー」なのに泳ぎたいんですね
絵美:え?
千都:いえ、何でもありません。廣瀬先輩はどうして屋上に?
絵美:それはもちろん、白石千都(せんと)、君を捜しに!
千都:……俺の行動情報は一体どこから洩れているんだ……
絵美:(自慢げに)ふふふ、私の情報網をなめるなよ!
千都:……その労力を他に使ってください……
絵美:ふふふ、君のためならどんな労力も惜しまないさ
千都:語弊がありますよ。先輩は俺の「絵」のためならでしょ?
絵美:ふふふ
千都:……では、そろそろ帰ります
絵美:えぇ! 今来たばっかりなのに?
千都:はい。ここでゆっくりしようかなって思って来たんですが、騒がしくなりそうだったので
絵美:そうなのか?
千都:(ため息をついて)……はい……
絵美:ならば、我が城、美術室へ……
千都:(遮って)行きませんよ
絵美:えぇ!
千都:美術室に行ったら最後、「入部届にサインするまでここから出さない!」とか言われそうなので
絵美:そうか! その手があったか!
千都:……
絵美:ん? どうした、千都(せんと)?
千都:……いえ、我ながら余計なことを言ったなと思いまして。忘れてください
絵美:いや、忘れん
千都:(ため息をついて)そうですか
絵美:だが、そんな卑怯はことはしないから安心してほしい
千都:え?
絵美:私は君の絵が好きだ。それは、君が、君の意思で描いた絵だから好きなんだ。だから、無理矢理描かせたいとか、入部させたいとかは断じて思っていない
千都:……
絵美:なんだ、その顔は?
千都:いえ……
絵美:意外だった?
千都:……はい。いつもしつこいくらいに誘われていたので……そろそろ実力行使でもされそうだなと……
絵美:失礼な! 確かに、しつこいくらいに誘っていたかもしれないが、私にだって矜持がある!
千都:そうなんですね。失礼しました
絵美:そう思うなら……
千都:(遮って)お断りします
絵美:えぇ!
千都:先輩の矜持はどうしたんですか……
絵美:う~ん、残念……
千都:(ため息)それから
絵美:ん?
千都:俺の名前……
絵美:え?
千都:いい加減、覚えてくれませんか。俺の名前はせんとじゃなくて……
絵美:かずと、だろ?
千都:(少し驚いて)覚えてたんですか
絵美:もちろんだ。私が君の名前を忘れるはずがないだろう。私は君の一番のファンなのだから!
千都:なら……
絵美(遮って)でも、こっちのほうがかっこいいだろ!
千都:……え
絵美:なんか、海外の画家みたいでさ!
千都:……
絵美:ん? 千都(せんと)?
千都:……いえ、失礼します
絵美:おう! あ、また明日も勧誘にくからな~
千都、絵美を振り返らずに屋上を去る。
パタンと閉まるドア。
絵美:私は絶対に諦めないぞ。君の絵は私の世界に色をくれたんだ。だから、絶対に諦めない。君の世界に色が戻るまで
―幕―
2021.04.15 ボイコネにて投稿
2023.03.16 修正・HP投稿