第12章 02
カルセドニーはアンバーを引き連れて雲海の中を飛ぶ。徐々に雲海が薄くなって、下にぼんやりと川が見えて来る。
蛇行した川の外周の、水で削られて崩れた岩が散在する場所の上空に到着すると、カルセドニーは岩塊の上すれすれまで降下してそこで船を停める。搭乗口が開いて護とカルロスが出て来る。
カルロスは崩れた岩々の先の崖を指差し「あそこ。」
護「こりゃコンテナ置けないから袋詰めだな。開幕から難所か…。」と言って船内に戻る。
カルロス、護に続いて船内に入りつつ「足場を何かで安定させればコンテナでも。」
護は貨物室を見渡し「何かと言ってもなー…。コンテナしかない。」
カルロス「アンバーなら資材あるから足場作れるな。」
護「ウチの船、どうせ運搬できる人いないし、カルさんが持てる分だけ袋に詰めるからカルさん運んで。」と言いつつ物置の中に入って麻袋の束とツルハシを取る。
カルロス、立てかけてあるシャベルを手に取り「わかった。」
道具を持った護とカルロスが再び外に出ると、カルセドニーから若干離れた所に停止しているアンバーの下で、既に岩場に降下した悠斗や健たちが鉄板で足場を作っている所だった。
悠斗「こっち出来たらそっちにも足場作ってあげるよー!」
カルロス、崖側を指差して「もう崖に行ってる奴らが。」
見れば穣やマリア、オリオン達が、岩場の先の崖の前にいる
護「はっや!」と言いつつ自分も崖に向かって岩場を歩き始めつつ「探知したのカルさんなのに、アンバーの作業早すぎ!」
穣「だって場所見たら見当付くし何すりゃいいか分かる。とりあえず写真は撮った。」
護「カルさん写真」
カルロス、ポケットからカメラを出しつつ「…穣たちが一緒に写るが…まぁいいか。」パチリと写真を撮る。
穣「ここちょっと発破していい?」と崖の中腹辺りを指差す。
護「いいよ。」
穣「じゃあオリオン君、透、行くぞ」と言い、バリアを張る。
オリオン「行きます!」
ドンッ!という爆発音と共に若干粉塵が上がって、穣たちの背丈から下の辺りの岩盤がボロボロと崩れる。そして白っぽい光沢を持った鉱石の層が姿を現す。
マリア「源泉石登場!」
穣「護、最初にお前が採れ!…探知したのカル船だからな。」
護はツルハシを持って崖の前に立つと、源泉石の層に向かってツルハシを振り下ろすが、「…うぉ?」と怪訝そうな顔をして手を止める。
穣「どした?」
護はツルハシを構え直すとカンカンと何度か石の層を削って手を止め「なんだこりゃ。コイツはなかなか面白い石だ!」
穣「どこらへんが?」
護は後ろを振り向くと、カルセドニーの近くに足場を設置している悠斗に「悠斗、ちょっと来てやってみて。」と叫ぶ。
呼ばれた悠斗は崖の所に来ると、護からツルハシを受け取り、源泉石に向かってガンと一発ツルハシを振り下ろす。
悠斗「あっれぇ?」と驚き、それから何度かカンカンと石の壁を叩いて「軟いのか硬いのか全くわかんねぇ!」
護「やっぱり?」
悠斗は再びツルハシを構えて思い切ってガンと石壁に向かって振り下ろす。壁の一部が剥がれ、20センチ四方の薄く平べったい源泉石の塊がゴロンと足元に転がる。
悠斗「筋力だけで力任せにやった方がまだ行ける。」
護「むしろ怪力じゃない人とか、人間の方がいいよな、これ。」
穣「つまり人工種の怪力エネルギーを使うとダメって事?」
そこへカルロスが「いや、エネルギーの使い方だな。源泉石に合わせてエネルギー出さないと、打ち消される。」
穣「合わせる?」
同時に悠斗も「合わせる?」
カルロス「それが出来ないなら、怪力以外の奴か、人間が採った方がまだマシだと思う。」
護は「なるほ」と言うと、悠斗からツルハシを受け取って構え、ガキンと石壁に向かって振り下ろす。その途端、源泉石の壁の一部に大きくヒビが入る。
一同「!」
カルロス「おお。」
護「どう崩れるかワカランから穣さんバリアして!」
するとオリオンが「そのまま細かく下に崩れます。バリア要らないけど護さん若干下がって。」
護、オリオンに「分かるの?」
オリオン「うん、見える。」
カルロス「これ、大きな塊を採るのは無理だな。」
オリオン「そうですね。」
護「とりあえず、崩すぞ。」と言うとツルハシを構えてガンと壁に振り下ろす。途端に壁に細かい亀裂が入って源泉石の壁の一部がガラガラと崩れ落ち、護の足元に山を作る。護は欠片の1つを手に取ると「薄い板みたいな源泉石だ…。」
悠斗「どうやって…護さん、どんな風に力を?」
護「んー…なんか繊細な感じがしたから、穴を穿つみたいな感じでエネルギーを一点集中してみた。」
悠斗、怪訝そうな顔で「えぇ?」
護「説明が難しい!ケテル石を採る時の応用で…、まず石の性質を感じる!ザックリ言うなら、荒い物にはより荒く、繊細なものにはより繊細に、かなぁ…。」
悠斗「難しいー!」
カルロス「護は石茶には鈍感な癖に、鉱物に関しては私より感覚が鋭い…。」
護「ワカランならエネルギー込めずに筋力だけでやれば?…色々試してるうちに分かって来るはず!」
悠斗「むぅー!」と唸ってツルハシ片手に源泉石の壁に向かう。
カルロス、崩した源泉石の欠片を拾って「これって等級4かなぁ…。前にサンプルを見たんだけど、エネルギーだけで見れば4なんだが。」
護「石の形状とか他の要素も絡むしな、等級判定は。ちなみにアンバーの皆さん、大型船が等級4採っても評価されないよ。」
すると穣が「まぁなぁ。4だと小型船でもキツイよな?」
護「うん、普通は皆、5を採るから。6採れたら高評価。」
穣「大型船は6か7が普通で、8採れたら高評価なんだよな。まぁ今はゲームで言うチュートリアルって奴で。」
護「この後から本番スタートか。…とにかく詰めよう。カルさんシャベルくれー」
カルロス、護にシャベルを渡しつつ「足場作ってもらったから、コンテナも運べるぞ。」
護「まずカルさんが運ぶ分の袋詰めするわい!どんどん詰めるから船に運んで!」
カルロス「ハイ。」
その頃、黒船は死然雲海の霧深い森の上に停止し、その下の森の中では巨木の根元に一本だけ生えている源泉石の石柱を採ろうとメンバー達が奮闘していた。
ジェッソは自分の背丈ほどの石柱を眺めながら溜息をついて「硬い…これはどうやって採るんだ…。」
昴「爆破でも割れないとは…。」
レンブラント「護の白石斧じゃないと採れないとか…?」
オーカー「どう考えても硬すぎでは。」
悩むメンバーの周囲では、風使いのメリッサと夏樹が楽し気に死然雲海の霧を払っている。
ジェッソ、その様子を見て「なんか楽しそうだな。」
メリッサ笑って「楽しいわよー!最初は悩んだけどコツ掴んだの!」
夏樹「風を動かすより面白い!」
ジェッソ「こっちはアレがなかなか…。」と源泉石石柱を指差す。
レンブラント、石柱の横に生える大木を指差し「この木の根が問題だとか?」
オーカー「いくらなんでもそんなギミックは無い気が…。」
レンブラント「んじゃ妖精に採らせてくれとお願いするとか」
昴「困った時の妖精頼み。」
レンブラント「石に話しかけるとか。ご機嫌いかがですかって。」
オーカー「どんな石…。」
レンブラント「鉱石弾ブッ放すとか。」
昴「撃てないし。」
レンブラント「じゃあ一体どーすれば。」
そこへ上総が「何となく思ったんだけど、エネルギー使わないとか!」
レンブラント「?」上総を見る。
ジェッソ「というと?」
上総「怪力の人って筋力じゃなく自分のエネルギーを対象に干渉させて、重い物持ち上げたりするよね。だから」
そこでジェッソがハッとして「つまり筋力だけでやる、と!」
レンブラントも「むしろエネルギー要らんのか!」
上総「って、何となく思った。」
ジェッソ、大股で立ちグッと両拳を握って上を向くと「よぉーし!怪力人工種はエネルギーのパワーだけではないという事を証明してやろう!この鍛え上げられた肉体で!」
レンブラント「我らの筋肉を魅せる時が来た!」
昴「見せなくていいー!」
ジェッソは斧を手に取ると「私の筋肉パワーを受け取れ源泉石!いくぞ!」と叫んでガンと石柱に斧を食い込ませる。
一同「!」
ジェッソ「食い込んだ!このまま行くぞ!」そしてガンガンと何度も斧で石柱の根元を削る。
レンブラント「…そういう事だったのか…。源泉石は筋肉パワーだったのか!」
昴「えー!そしたら爆破の俺、役立たず?」
オーカー「昴さんも筋肉増強しないと。」
昴「えー!」
上総、微妙な顔で(…そうなのかなぁ…。筋肉なのかなぁ。うーん)
その間に源泉石の柱は根元を削られグラリと傾く。ジェッソ、それを抑えつつ「重い!…倒すぞ」
ドスン!と音を立てて、ついに源泉石柱が地面に横たわる。
レンブラントたち「おー!」と拍手する。
メリッサ「これ等級どの位なのかな。」
上総「それはわからないです。」
ジェッソ「まぁ等級は後のお楽しみって事で、よし、これをワイヤーで船に上げよう!」
上総「しかしホントに筋肉なのかなぁ。筋肉なのかなぁ!」と首を傾げて「うーん!」と悩む。
所変わってジャスパー側。
とある山の中腹でブルーのメンバー達がイェソド鉱石採掘作業をしている。
アッシュがツルハシでカンカンと適当に岩を削りながら、ボソッと呟く「この山、もう限界じゃね?」
隣で作業していたクリムも「いつもこの山だもん。もうイェソド鉱石、出て来ない気が。」と言って背後を振り向き、ボケッと立っている礼一を見て「違うとこ、たーんち…」
礼一「…んー…、頑張って掘ればまだ出て来るけどね、この山。」
クリム「そうなの?」
礼一「ってかさー。」と言って上空のブルーの船体の、更に上に停船している管理の船を見て「あれが邪魔でさ。」
アッシュ「あれ、か。」
クリム「あれ、ね…。」
礼一「朝、あれに急かされたから、仕方なくここに来た訳よ。ぶっちゃけここ、あんま採れないから。」
アッシュ「採れない…。」
礼一「爆破スキルが頑張ってドッカーンって大発破すりゃ、まだ鉱石出て来るけど。」
クリム、アッシュに「…俺、発破する?」
アッシュ「…コレの意味…。」と手に持ったツルハシを指差す。
礼一「ブルーは最下位確定の船だから。ウチがここに来ればレッドとシトリン、楽だろ。」と言って「どーせ採っても採らなくても、あれには関係無いし。こっちがあれの言う事聞くかどうかだけが重要なんだし!」
アッシュ達「…。」暫し黙りこくる。
やがてクリムが溜息をついて「…他の2隻も大変だよね…。特にレッドとか。」
アッシュ「船長どうなったのかなぁ。」
そこへ進一が「あのさ、作業しないとウチの船長が、あれから苦情言われる。」と上空の管理の船を指差す。
アッシュ「…だな。」と言って作業を再開しつつ「採ってるフリするかー。」
クリム「うん。」
そんな一同から少し離れた所で、満が黙々とツルハシを振るっている。生気の無い顔で、何かに憑かれたように、ただただ同じ動きを繰り返す。
満(…どうしたらいい…)
重苦しい感情に耐えつつツルハシを振るい続ける。
満(…この苦しみ…。救いは、どこに…。)
穣の言葉が脳裏に響く。
『俺はアンタに自由に生きて欲しいと思ってるよ。』
思わず目頭が熱くなり、慌てて目をパチパチと瞬かせる。
満(…あいつ…。)
行き場の無い感情を振り払うが如く、ツルハシを振るう。
満(しかし船長が…。…どうすれば…いい…。)
アッシュはチラリと満の方を見て(…せっかく元気になったと思ったのに…。まぁ船長を人質に取られたらなぁ…。)そこで小さく溜息をついて作業の手を止めると(…行きたかったな、源泉石採掘…。)