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とある冒険者の手記

V.プリンセスデー2023

2023.03.01 09:52

プリンセスデー。

それは女の子の為の祭り。

ウルダハで始まったシーズナルイベントに、ヴァルはガウラを連れてきていた。

今回は扇子と舞を習得できるとあって、桃の花びらが舞う街を歩く。

イベントとなると、いつも以上に人が多く集まり、移動するのも困難だ。

はぐれるのを防止する為、自然と互いに手を繋いだ。

街に設置された舞台では、アイドル3人組が舞を披露して注目を浴びている。


「あのアイドル、可愛いよなぁ」


ポツリとガウラが零す。


「何を言ってる。ガウラの方が何倍も可愛いよ」

「それはお前の贔屓目だろ?私に可愛いは無いよ」

「それこそ、お前自身のイメージだろ?まぁ、ガウラの可愛さはあたいだけが知ってれば良いけど」

「な、なんだいそれ…」

「そうだな。一種の独占欲とでも言うのか」

「……」


呆れ顔でヴァルを見つめるガウラ。

すると、少しイタズラな笑みを浮かべてヴァルは口を開いた。


「なんなら、ガウラを別人みたいに変身させようか?」

「……いや、いい……」

「それは残念だ」

「お前、私を着せ替え人形か何かと勘違いしてないかい?」

「あたいは人形に恋心を抱いたりしない」

「いや、そういう意味ではなくてだな」

「ほら、あそこで舞を教えて貰えるみたいだぞ」

「………」


話をはぐらかされ、ガウラは溜め息を吐く。

それを横目で見てヴァルは小さく笑った。

その後、扇子を貰い、舞を教わった2人は街をぶらついていた。


「さて、どうしようか」

「せっかく舞を教えてもらったし、少し踊ってみたい気もするけど…」


煮え切らないガウラの言葉。

肩書きを気にしているのは間違いなかった。


「ガウラ。クイックサンドへ行こう」

「へ?なんで?」

「いいから」

「えっ、ちょっ?!」


ヴァルに手を引かれ、クイックサンドへと連れていかれるガウラ。

宿の一室でヴァルはお得意の化粧&ヘアメイク道具を広げ始めた。


「…嫌な予感がするんだが…」

「そのまさかだろうな」


ヴァルの顔は嬉々としている。

ミラージュドレッサーから服を選びガウラに着るように促す。

それは、ソングバードシリーズだった。


「……おい?」

「なんだ?早く着ろ」

「いや!待て待て待て!」

「ミラプリで帽子ぐらいしか使ってないだろ?ドレッサーの肥やしにしとくのは勿体ないだろ」

「そうじゃなくて!似合わないって!」

「そう思ってるのはお前だけだ」

「~~~っ」


バッサリと意見を切り捨てられ、抗議程度に睨みつけるが、ヴァルはそんなことはお構い無しに、自分もソングバードシリーズを引っ張り出して着替え始める。

そして、自分でヘアセットをし、メイクをしていく。

すると、まるで別人なヴァルの姿になった。

「なんだ、まだ着替えてないのか?着替えさせて欲しいなら最初からそう言え」

「違うっ!自分で着替える!」

着替える前提で話を進めるヴァルに観念したガウラは、ヤケクソで着替え始めた。

着替えが終わると、ヘアセット、メイクをされた。

鏡を見ると、髪は縦巻きロール。メイクで顔の傷は無くなっており、お嬢様の様な清楚な顔が目の前にあった。


「……なんか、自分じゃないみたいで変な感じだ…」

「よく似合ってる」

「…ヴァル、お前人の話聞いてるか?」

「自分の中のイメージを壊さないと、着たいものも着れなくなるぞ?フロンティアドレスとかな」

「う“……」

「好きな物は遠慮なく着ればいい。イメージとか関係なくな。誰がなんと言おうと好きな物なんだから、堂々としてれば良いんだ」

「ヴァルはどうなんだい?」

「あたいは好き嫌いがわかりやすいタイプだと思うが?」

「……言われてみれば」


人と接する時の態度はとてもわかりやすい。

ガウラ以外は興味が無いのが丸わかりである。

料理は好きなようで、作ってる姿を見ていると、表情は柔らかかった気がする。

ヘアセットやメイクの時も、楽しそうであった。

普段はポーカーフェイスだが、接点がある人物に対しては表情が豊かではある。

だが、接点があっても興味のない相手の名前はどうでもいいのか、覚えておらず、特徴だけで相手の事を伝えたりすることもある。


「お前は興味が無い時の差がありすぎるよな」

「覚える必要性を感じないからな」

「それもどうなんだい……」


若干呆れ気味なガウラ。

それを気にもとめず、ヴァルは外に出るように促した。

どこに連れていかれるのかと嫌な予感を覚えつつ、ヴァルの後をついて行く。

辿り着いた先は、一般解放しているステージだった。

そこには司会風の格好をしたザナの姿があった。

いつの間に連絡をしたのか、用意周到にも程がある。

ステージに上がると、ザナが声を上げた。


「さあさあ皆様お立ち会い!本日結成したアイドルユニットの紹介だよ!」


アイドルの言葉に「はぁ?!」っと声を上げ、ヴァルを見るガウラ。

だが、ヴァルはいつもと違う表情でマイクを手にしていた。


「みなさーん!初めまして!私は黒猫ちゃんでーす!隣に居るのは私の相方の白猫ちゃん!2人合わせて、モノクローズでーす!」


行き交う人々は足を止め、ステージの前に集まってきていた。

なんとも言えない恥ずかしさで、ガウラは顔を真っ赤にしながら俯いた。


「あれれ?白猫ちゃん?どうしたのかな?緊張しちゃってる?」


ヴァルがガウラの顔を覗き込む。

恥ずかしさいっぱいでモジモジするしか出来なかった。


「白猫ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだから!可愛いなぁ!」


その言葉に、立ち見客から「白猫ちゃん頑張れー!」と声援が飛ぶ。


「みんな、白猫ちゃんに声援ありがとう!今日はプリンセスデー!姫の舞を披露する為に私達は来たの!だから、みんなも一緒に踊ってくれると嬉しいな!まだ舞を覚えてない人も、ここで覚えていってね!」


よくまぁ次から次にそんな言葉が出てくるもんだと感心する。

ヴァルを見るとウィンクされ、仕方なく扇子を構えた。

踊り始めると、見物客も一緒に踊り始める。

覚えてない者も、覚えようと見よう見まねで踊り始めていた。

何度か繰り返し踊り、終了を知らせてお辞儀をした。

拍手喝采の中、ヴァルがマイクを持つ。


「みんな、今日は新人アイドルの私達と一緒に踊ってくれてありがとう!もし、また私たちに会いたいって皆が思ってくれたら、来年のプリンセスデーに会いに来るね!」


またねー!と手を振りながらステージを降りるヴァルに習って、小さく手を振り、ガウラもステージから降りた。

足早に宿へと戻ると、ガウラは大きな溜め息を吐いた。


「疲れた……」

「大丈夫か?」

「誰のせいだと思ってるんだ」

「新鮮だったろ?誰もお前がガウラ·リガンだと気づかなかった」

「確かに気づいてなかったけど、別の肩書きが出来たじゃないか」


ガウラの言葉に小さく笑う。


「アイドルを見て可愛いと言っていたから、羨ましいのかと思ったんだが?」

「そういう意味で言ったんじゃない」

「そうなのか?でもまぁ、あたいの言うことは実証されたろ?ガウラは可愛いって」

「……」


確かにステージで踊ってる最中も、立ち見客からは「白猫ちゃん可愛い」と言う声は聞こえていた。


「それはヴァルのメイクとヘアセットのせいだろ」

「違和感なく似合ってたからだろ。いい加減、自分の魅力を認めろ」


即答され、ぐぅの音も出なかった。



それから数日後、自宅でのんびりしていると、突然玄関のノック音がし、ナキが家を訪れた。

彼女の訪問はいつも突然だ。

友人の訪問に、ガウラは笑顔で出迎え、ヴァルはお茶と茶菓子を出した。


「ナキ、今日はどうしたんだい?」


ガウラの質問に、ナキは「あのね!」と身を乗り出さんばかりに話し出した。


「この前、プリンセスデーで新しいアイドルがお披露目になったの知ってる?」

「?!」

「モノクローズって2人組なんだけど、ナキはその日、別の用事でウルダハにいなかったんだ~。ガウラはヴァルちゃんとプリンセスデーに行ったんでしょ?見なかった?」

「さぁ?見てないな。なぁ?ガウラ」

「え?!あ、あぁ…」


ガウラがボロを出す前に、ヴァルが助け舟を出したが、ガウラはしどろもどろだ。

だが、ナキはそんな事を気にする様子もなく「そっかー、残念」と肩を落とした。


「その日しかいなかったみたいで、今じゃエオルゼア中で噂になってるんだよ!またモノクローズに会いたいって人が多いみたい!」

「そ、そうなのか」


ガウラは横目でヴァルを睨んだが、ヴァルは何処吹く風と言う表情だ。


「でねでね!そのアイドルの白猫ちゃんって子が人気が高いみたい!ナキも会ってみたいんだ!」

「………」


それは自分だとも言えず、心の中で頭を抱えるガウラ。

ヴァルはなんだか誇らしげに見える。


「会えるといいな?」

「うん!もし2人もモノクローズを見つけたら教えてね!」


ヴァルの言葉に、ナキはそう返して話題を切り替えた。

だが、ガウラだけは心が落ち着くことはなかったのだった。