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紺碧の採掘師2

第15章 01

2023.04.16 12:00

翌朝7時。

レッドコーラルのタラップを上がったティーツリーは、そこにクォーツの姿を見つけてちょっと驚く。

ティーツリー「随分早いね!おはよう。」

クォーツ「たまたま春日さんと一緒に来たんです。俺が船内に入れるように先にタラップ降ろしてくれて、それから春日さんは事務所へ。」

ティーツリー「何だ、それなら俺もっと早く来るんだった。」

クォーツ笑って「まぁちょっと、時間早すぎですよね。」


それから20分後

満が休憩スペースのベンチに座って誰かを待っている。

そこへ武藤がスーツケースを引っ張りつつ走って来ると「監督!おはようさん!」

満は傍らの大きなバッグを持ってサッと立ち上がると「おはようございます、船長。」

武藤「んだば…では行こうか。いざ事務所へ。」と言って事務所方面に歩き始める。

満も歩きつつ「今、若干訛りましたな。まぁいいでしょう。」

武藤「監督も随分緩くなったなー。どっかの誰かさんも緩くならんかなー。」

満「誰かといいますと。」

武藤「そりゃー勿論。これから行く所によく出没する奴だ。」

2人でテクテク歩いて事務所に近づくと…。

武藤「今日は何だか嫌な予感がするなぁ。」

満「予感どころか的中です。」

事務所の前に数人の管理がたむろしている。

武藤「覚悟はええか、監督。」

満「勿論だ。」

武藤「では…。」と言うと、事務所前の管理達の正面に歩きつつ「おはようございます!」

管理、ニッコリ笑って「おはよう。」


7時半。

楓と陸が一緒に本部内に入って来ると、緊張の面持ちで事務所に向かって黙々と通路を歩く。

事務所が見えて来ると、楓がふぅっと溜息をついて「行くわよ。…奴らが居ませんように…!」

陸も硬い表情で「うん。」

楓が事務所のドアを開けて中を見ると、受付のすぐ傍に何人かの管理が居るのが見える。

楓、心中クッタリして(ええ…。何で居るのよ、しかも集団で…。)と思いつつ受付に向かって歩みを進めてふと気づく。管理集団の中に、武藤と満の姿が見える。

楓、思わず立ち止まって(うっ…そ!)と目を見開く。

そこへすかさず管理が楓に「おはよう楓船長。」

楓「…おはようございます。」

管理「どうぞ。」と受付の方に楓を促す。

楓、ちょっと面食らって「え…。」

管理「いいんですよ、通って下さい。今日も8時出航ですから、手続きしないと間に合いませんよ。」

楓「あの」と言いつつ、管理集団に囲まれている武藤の方を指差して「何か、あったんですか…?」

管理「貴方には関係の無い事です。」

楓「…そうですか…。でも…。」

管理「彼らに何か用でも?」

楓「…。」言葉に詰まる。

管理「余計な詮索をすると、貴方も拘束する事になりますよ?…我々は、貴方は自由にしたいんです。」

楓「…。」(…ど、どういう、事、なの…。)

そこへ陸が強張った顔で「船長、早く行かないと、8時に間に合いません。」

楓は陸を見ると、「そ、そうね。」と言い、ぎこちない動きで受付へと向かう。

楓(…何がどうなってるの。なぜ、どうして、…どうすれば…!)



その頃、駐機場のアンバーでは。

ブリッジの扉の所にメンバー達が集っている。

剣菱「こりゃちょいとマズイ事になりそうだな…。」

穣「やっぱ源泉石バトルの前に、管理とバトルしないとダメかな?」

マリアが探知を掛けつつ「…あれ。でも…楓船長は動いたよ。」

剣菱「え。…武藤船長は?」

マリア「まだ事務所。満さんも一緒に。」

穣「つまり、ブルーは拘束してシトリンは解放したんか。」

マゼンタ「シトリン、ナメられたな!」

穣「んー…。」

そこへトゥルルルと船長席の電話が鳴る。剣菱、受話器を取って「はいアンバーです。」と言いつつスピーカーのボタンを押して音声を出す。

総司『黒船の総司です。3隻の状況が芳しくないので、どうしたもんかと。』

剣菱「この電話、管理に盗み聞きされてたらどーする?」

総司『別に。…とりあえずシトリンは出られる感じだから出しましょう。アンバーはもう先に出て、先導役をして下さい。黒船は一番最後に出ます。』

剣菱「出て待機してろって事か。まぁ道標が無いとな。了解した。じゃあもう出るから、後は頼んだぞオブシディアン!」

総司『お任せ下さいアンバー。』と言って通信が切れる。

剣菱、受話器を置くと「って事で、もう出航する。…副長!」

剣宮「オッケーです!」

そこへ穣が「ちょっと待ったぁ!」

剣菱「なんだ。」

穣「個人的に、どうしてもやりたい事があるんです。」



その頃、ブルーのブリッジでは。

アッシュが拳を固く握りしめて「くっそ…どうしたらいいんだ…。」と絞り出すような声で言うと「船長と監督を人質に取られるとは!」

クリム「えぇ…あの監督が一緒なのに管理に捕まっちゃうの?」

進一「いくら監督でも管理に説教は出来ない…。あれっ?エンジン音!」

明日香「どこかの船が!」

八剣が操縦席のレーダーを見つつ「アンバーが出た!」

一同「ええー!」と驚く

アッシュ「そんなー!」

クリム「置いて行く気?」

八剣「でも黒船は残ってるから、別々に出る作戦かと。多分…。」

明日香「そっか、2隻一緒に出るより片方が出た方が安心だもんね。」

そこへ探知を掛けていた礼一が「動いた!船長が動いた!」

一同「!」

八剣「来るんですか!」

礼一「え、でも、これ…は…。」と言って不安げな顔になる。

明日香「なになにどーいうこと?」

アッシュ「どーしたんだよ!」

礼一、必死に探知して「これは…。」



武藤と満は、管理集団に囲まれたまま事務所を出ると、そのまま管理と共に通路を歩く。

武藤(…船に行くんじゃないのか…。一体どこへ?)

階段を上がり、とある会議室の前に到着する。

管理はドアを開けて武藤と満に「中へどうぞ。」

武藤(あー…ここで説教するのね…。)と思いつつ中に入ってふと見ると、誰かが簡易椅子に座っている。

武藤と満、目を丸くして驚く(…ええっ…!)

そこに座っていたのは、春日だった。春日も目を丸くして武藤と満を見る。

春日(ありゃー…。…マジですか…。)と内心クッタリする。

管理、武藤に「お二人とも、彼の横の椅子に掛けて。」

武藤「はぁ…。」



一方、シトリンのブリッジでは

陸、必死に「船長、もう出ましょう、俺は出航した方がいいと思います!」

楓「本当に?あの管理の対応、絶対おかしいわよ、ウチの船が出航してブルーの船長に何かあったら!」

陸「でもウチはもう全員揃ってるし、飛べる状態なんですし!」

コルド「…早くアンバーに付いて飛ばないと。これはチャンスだと思う!」

楓「…でも。恐いのよ、この選択が間違ってたら大変な事になるんじゃないかって!」

そこへジュニパーが「…まずいわ、レッドの春日さんの居る部屋にブルーの船長と監督も入れられた…。」

楓「ええっ?」

ジュニパー「あの3人はどうやっても出さない気なの…えっ。待って、駐機場のブルーの船体の周りに、管理が集まって来た…。ブルーはタラップ上げられないから管理に侵入されちゃう…」

楓「やっぱりウチは出航しちゃダメよ!だってブルーが」

コルド「レッドはどうなってる?」

ジュニパー「レッドは…レッドの船体の所には管理は来てないわ、今の所は。」

そこへトゥルルルと電話のコールが鳴る。

思わず楓はビクッとして、それから震える手で受話器を取ると「はい。」

総司『黒船の総司です。シトリンは早く出航して下さい。』

楓「でも」

総司『アンバーに付いて飛ぶんです!』

楓「本当に飛んでいいの?もしそれでブルーの」

総司『いいから黙って飛べ!大丈夫だから、あとは黒船に任せて出航しなさい!』怒鳴る。

楓「は、はい!」と言って受話器を置くと「出航します!」

コルド「了解!発進します!」

ジュニパー「…って、どんな電話だったの…。」

陸「一発で説得されてしまった…。」



ブルーのブリッジでは。

八剣「シトリンが発進した!」

一同「ええー!」

明日香「ちょっと待ってうっそ!」

礼一「それより管理がウチの船の周りにぃ…!タラップ周辺ウロウロしてる…。」

八剣「ちなみにメンバー全員、船に乗ってる?」

アッシュ「アッ。…点呼でもするか」

礼一「いや、探知する…メンバー全員いるよ、船長と監督以外は!」

八剣「良かった。」

明日香「ねぇ、もうブルーとレッドはダメなのかなー。」

クリム「置いてけぼり…?」

アッシュ「まだ黒船がいる、諦めんな!…レッドの奴らはどーなってる?」



レッドのブリッジでは。

操縦席のティーツリーが憔悴した顔で「シトリンが出て行ってしまった…。ウチは一体どうしたらいいんだ…。」

サイタン「くっそ…。春日はまだ動かねぇのか!」

探知を掛けつつ、クォーツ「うん…。」

サイタン「こうなったらその監禁部屋に殴り込みに行くか?」

ウィンザー「そんな事をしたらむしろ不利になる!」

サイタン「だったらもう飛んじまうとか!」

輪太「春日さんを見殺しにするの?」

サイタン「奴は自分で何とかすんだろ!」

ティーツリー「飛ぶと言っても、ウチは操縦士が2人しか…。ブルーはまだ3人居るから副長が代理でもいいけど、ウチは春日さんが居ないと!」

相原「でも、副長の貴方がいる。副長は船長の代理が出来る!」

ティーツリー、青ざめた顔で「2人で出航なんて不安すぎて…、そもそもレッドが飛んだらブルーは!」

ウィンザー「ブルーは仕方がない…。」

ティーツリー「見殺しに?」

ウィンザー「でもレッドとブルーが共倒れになるよりは、片方が生き残った方が!」

サイタン「ウィンザーの言う通りだ、出ちまえ!」

ティーツリー、必死に「でも!」

サイタン「まだ黒船が居るんだ、奴が何とかしてくれる!」

ティーツリー「でも無理です、俺には!」

そこへクォーツが「まずい、管理がレッドの方にも来る!」

サイタン「とりあえずタラップ上げろ!」

ティーツリー「でも春日さんが!」

相原は船長席に駆け寄るとタラップを上げる操作をしつつ「こっちでタラップ上げた!」

ティーツリー「春日さんを見殺しにするのか!」

サイタン「もう飛んじまえ、タラップ上げても管理が船体のすぐ傍に来たら飛べなくなるー!」

相原、船長席に座って「エンジンかける!」

ティーツリー、殆ど悲鳴のような声で「俺は嫌だ、無理だ、だって俺は人工種の副長なんですよ!船長も三等も居ない状態で飛んだら人間でも罰せられるのに、人工種の俺は、一体どんな罰を…!」

その言葉に、クォーツが「ならば!」と言うと、一同を「どいてくれ!」と押し退けてブリッジから出ると通路を全力疾走して行く。

サイタン、若干唖然としてそれを見送り「な、何だ?」

ウィンザーも「…何する気だ?」

そこへ船長席の相原が「エンジン始動した!いつでも飛べる!」

ティーツリー「無理だ!俺を殺す気か!」

その時、通路の奥から「これで飛べる!」というクォーツの叫び声が。

輪太は声の方を向いて「あっ!」と目を丸くして驚きの声を上げる。

ウィンザー達も通路を見て「な、…南部船長!」

サイタンも目を見開き唖然として言葉を失う「…。」

ティーツリーは皆の声を聞いて「えっ?」と入り口の方を向く。

南部の腕を掴んでブリッジへ向かって走りながら、クォーツ「南部船長がいる、だから早く飛ぶんだ副長!」

ティーツリー「マジで…?」

サイタン「早く飛べ!」

ティーツリー「わ、わかった!」と言い操縦桿を握り、発進操作をすると同時にレッドは船体を浮上させる。

船体の傍に近づこうとしていた管理達は慌てて離れる。そのまま駐機場から飛び立って行くレッド。


ブリッジではクォーツが「よし、無事に飛べた!良かった…。」と胸を撫で下ろす。

相原「あとはアンバーかシトリンに向かって飛ぶだけだ!」と言いつつ船長席を立って脇に移動すると、ブリッジの入り口に立っている南部に「貴方はここ!」と船長席を指差す。

南部「…いいのか?」

相原「ってかここに座ってくれないと副長が困る!」

南部「ああ。」と言い、船長席に座る。

ティーツリー、放心したように「はぁ…。」と言うと「…何で、南部船長が突然…。」

クォーツ「俺と春日さんで協力して密航させました。」

ティーツリー「ああ、それで君、今朝あんな早く来てたのか…。」

クォーツ「そうです。ずっと探知妨害かけてました。ちょっと疲れた…。ちなみに、この先で船を停めてブルーの様子を見ませんか。」

ティーツリー「オッケー…。」

相原「アンバー、停まって待ってるもんな。シトリンがアンバーの近くまで行くから、ウチの船はもっと手前で停まろう。」

南部「…事情がよく分からないんだが…。」

サイタン「黙ってそこに座ってりゃいいんだよ!」

クォーツ、南部に「でも貴方が連絡くれて、レッドに乗りたいと言ってくれて、本当に良かったです。そうでなければ今、飛べなかった…。」と言うと探知しつつ「ブルーは船内に管理が…。黒船はまだ特に動きが無い…あれ?」と言って怪訝そうに「おや?…あいつが、居ない?」

相原「あいつって?」

クォーツ「上総。…それとも探知妨害、なの、かなぁ…?」と首を傾げる。