羊飼いビセンテの引退
ここ数年、うちの村で羊の群れを率いていた羊飼いのおじさん、ビセンテ。
顔を見れば遠くからでもお互い手を上げて挨拶し、たまに立ち話をすることもありました。
群れは我が家の裏の原っぱをよく通るので、フェンスの網目ごしに羊たちの写真を撮ったこともしばしば。
散歩の途中で群れに出くわせば、カメラを持っている私に
「好きなように撮っていいよ」
といつも声をかけてくれました。
その彼が、
「もうすぐ、3月24日で引退なんだ。65になるんでね」
と我々に教えてくれたのは3月中旬のこと。
羊飼いは羊のオーナーではなく雇われているので、羊飼いが交代しても羊たちはまたやってきますが、ビセンテに会うことはもうなくなるかもしれません。
「あ、最後に写真を撮らせてもらおう」
と思い立ち、23日に少しの時間だけ、群れに同行させていただきました。
(村で行われている小規模移牧については、昨年の投稿で紹介しました)
ビセンテはスマートフォンを持っておらず、なつかしいボタン式の小さな小さな携帯電話を使っていて、写真をどうやって送信しよう?と聞いたら、
「カミさんはスマホでメッセージアプリ使ってるから、そっちに送って」
これまで彼の身の上話的なことを聞いたことがなかったので、少し尋ねてみました。
セゴビアではなくサラマンカ(セゴビアと同じカスティージャ・イ・レオン州内の北西部にある県)の生まれだそうで、かれこれ50年、この仕事をしてきたとのこと。
でも10歳くらいからすでに、やはり羊飼いの仕事をしていた自分の父親にくっついて群れに同行していたので、それを入れたらもっとかな、と。
現在はここから車で20分ほどの村に住んでいるそうです。
この群れに羊は何頭いるの?と聞いたら、何と600頭!だそう。
600頭と一口に言ってもピンときませんが、ニンゲン600人をまず想像してみて...
今この原っぱで、「ニンゲン600人」を完全に統率するには何人ニンゲンが必要だろう??
...と考えると、羊が"従順"だというのは納得がいきます。
群れに帯同している牧羊犬は、大型のマスティフが3頭、中〜小型の黒っぽい犬が3匹。
マスティフは群れをガードし、小さい犬たちは走りながら群れを追いつめてまとめる役割。
ビセンテ自身の犬は小さい方の3匹のみで、マスティフは羊のオーナーの犬なのだそうです。
上の写真の左がマスティフ、右がビセンテの犬たち。
一番小さいわんこは一番甘えん坊で、私にも何度も飛びかかって甘えてきました。
牧羊犬と羊たち、も絵になります。
羊飼いは本当に過酷な仕事で、雨の日も風の日も雪の日も、一日中羊たちを率いて野を歩かねばなりません。
起伏のある土地、斜面、足場のよくない場所もたくさんあるでしょう。
卓越した体力はもちろん、たった一人で数百頭の羊を監視する注意力、判断力、そして何より忍耐力が求められると思います。
スペインの若者は、今やこの仕事に就く人がほとんどおらず、多くは南米、東欧、アフリカなどからの移民が担っているそうで、ビセンテの後任もブルガリア人とのこと。
小規模移牧そのものをやめてしまったところも多いと聞きます。
こうして羊たちの姿を今も見られるのは貴重なのかもしれません。
これまで羊の写真はたくさん撮ったけれど、ビセンテにカメラを向けたことはなかったので最初恥ずかしそうでしたが、後半カメラではなくスマホで撮るよと言ったら、自分から牧羊犬とポーズをとってくれました。
ビセンテの引退後の人生に幸多かれと願いながら、最後は握手して別れました。
良く撮れたものを選んで奥様のスマホにお送りし、ブログに載せることもご快諾いただきました。
誰しもが人生の主役。
大地と動物たちとニンゲンと、ゆっくりした時間。
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