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人生で初めて体験する家以外の生活空間

2015.11.10 00:36

有限会社 アーバン・ファクトリー

代表 藤江 創


女性の社会進出に伴い、0歳児から保育園にこどもを預けることが一般的になったと思います。

かく言う、私の家庭でも0歳児から横浜のNPO団体が主宰していた横浜市認可保育所に娘を預けていました。

ここで娘は、初めて家族以外の大人や同年代のこどもと共同生活を体験することができたわけで、それはその後の彼女の人間形成によい影響を与えていると思います。まだ5歳ですが、兄弟姉妹のいない彼女が他のこども達と普通にコミュニケーションをとれるこどもに育っているのは、こうした環境があったからこそと感謝しています。

横浜では、積極的に待機児童数を減らす政策をとっており、平成27年4月1日時点では、8人になったと報告しています。しかし、一方で希望通りの保育所等を利用できていない方は2534人いるとも報告しています。

http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/kinkyu/…

この数が多いか少ないかは別として、自分が当事者であったなら、残念に思うことでしょう。一昔前まではあずかってもらえるだけで有難いという感覚だったものですが、それが当たり前になりつつある今、よりよい所に預けたいと思うのが人間の性ですよね。今後はソフトやハードが自分の思想や感覚に合う保育所を選択する時代になるに違いありません。

と、ここで気になるのは、ソフトやハードが園によってそんなに異なるのかということ。子育て世代のご家族はご存知と思いますが、これがすっごく異なるのです。行政による認定や認可があるものの、運営母体は社会福祉法人、学校法人、宗教法人と様々。横浜の場合は、企業の参入にも積極的なので、それも加わります。

厚生労働省が出している保育所保育指針にあるように、保育所は、安全にこどもを預かり、発達や成長を見守ること以外については、運営者の裁量にまかされています。運営者の理念により、園庭での運動を大事にするところがあったり、本の読み聴かせを大事にするところがあったり、様々です。先ほど書いたように、預ける側が選択できる時代はすぐ先にあるので、そこに気がついている保育所運営者は危機感を持って、ハード(建築)やソフト(保育理念、教育理念)の見直しをしている状況です。実際ここ最近の建築雑誌では、建築作品として発表される保育園やこども園が増えていますし、保育所特集が組まれたりもしています。今後もますます魅力的なハードが増えていくでしょう。とはいうものの、当然ハードがよければすべてよしというものではありません。その裏付けとなるソフトが最も重要です。と、ここで思い出していただきたいのは、保育所における運営者の裁量の大きさです。保育所のハードについても基準はありますが、面積や衛生に関することを守ればかなり自由な空間をつくることができます。つまり新築の保育所や改修されたばかりの保育所は、運営者が利用者に提供したい保育理念や教育理念を具現化したものであるはずです。

保育所はこどもにとって人生で初めて体験する家以外の生活空間です。こどもたちだけでなく、保護者や保育者のためにも、魅力的な保育所が多く誕生してほしいと思います。

ここで少し当事務所の仕事を紹介します。今年度、埼玉県久喜市で開園した「こどもむら駅前保育園さくらのはな」を設計監理をさせていただきました。この園は今年度施行された、子ども・子育て支援新制度にある小規模保育事業の一環で、新築の園としては久喜市で初めてのものになります。小規模保育事業を簡単にいうと、受け入れ先が少ない0~2歳児を対象とした保育所を小さい規模で沢山運用していこうというものです。この園は定員が19人、こどもたちがおうちで過ごしているような雰囲気で保育することをめざしています。

駅前の立地、大きな園庭と恵まれた環境に、片流れの屋根が互い違いに折り重なるような外観とし、おうちの用なイメージをもちながら認知されやすいデザインを心がけました。内部の保育スペースはひと続きのコの字空間として、南側のデッキ・園庭とつなげています。大きな子小さな子それぞれの居場所が、南面する開けた空間でつながったひとつの空間になっていますが、大きなが建具で開閉可能な和室や傾斜天井が見え隠れをつくり、個々のこどもたちが思い思いに過ごせる場を演出しました。また保育者にとっては角に立てば室内をL字に見つつ屋外も眺められるので、少ない人数でもこどもたちの行動を安全に見守り続けることができるように配慮しています。

「こどもむら駅前保育園さくらのはな」内観
「こどもむら駅前保育園さくらのはな」外観