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浪漫峰~romancesyndrome~

沈丁月

2023.03.27 04:32

(男3人:5千字)


【あらすじ】

十和野美月が死んだ。

彼女の葬式に集まった三人の男は悲しみに暮れ、十和野美月をめぐるいさかいを始める。


【沈丁花の花言葉】

栄光、不死、不滅、永遠


【登場人物】

美月:十和野 美月(とわの みつき)

美月:美しい女

美月:作中では死亡しているため台詞は無い

美月:身寄りはない


大地:安倍 大地(あべ だいち)男性

大地:十和野美月の恋人

大地:誠実で真面目、一途

大地:友情に熱く直情的

大地:好きな映画は「ホ―ムドラマ」


天空:大伴 天空(おおとも てんくう)

天空:安倍大地の友人

天空:十和野美月とも知人

天空:内向的で自己肯定感が低い

天空:涙もろいが、いうべきことはちゃんと言う。

天空:好きな映画は「悲恋ロマンス」


海人:石上 海人(いしがみ かいと)

海人:安倍大地の友人

海人:十和野美月とも知人

海人:軽薄で軟派だが友人思いでもある人情派

海人:頭の回転は早い

海人:好きな映画は「任侠映画」


ニュ―ス:最後の一言のみ。

ニュ―ス:最後に台詞を言わない役、或いは相談して兼役してください。


【注意】

このシナリオのラストに、三人全員で読むか、一役抜いて二人で掛け合いをする場面があります。

前読み段階でどうするかを決めてください。




―本編―

大地:(M)十和野美月は美しい女性だった。

大地:外見ではなく、内面から滲み出る優しさや誠実さのようなものが、彼女の表情や仕草に現れており、初めて彼女と出会った時にはこう思ったのを覚えている。

大地:ああ、なんて美しいのだろう、と

(間)

海人:いい、葬式だったな。

海人:大変だったろう、お疲れさま

大地:みんなのおかげさ、一人じゃ何もできなかった。

大地:ありがとうな、海人。それに天空も

海人:別に大したことはしてね―よ。

海人:俺らよりも恋人の大地の方が……

海人:って天空!いつまでべそべそしてんだよ。お前は俺らの分まで泣いてるつもりか?

天空:ご、ごめん、海人くん!

天空:十和野さんのこと思い出してたら、止まらなく、なっちゃって……(泣きながら)

大地:天空……

海人:……

天空:本当に、もういないんだね。

天空:十和野さん

海人:っ!……

大地:……ああ、そうだな

海人:バカ、野郎……!

天空:海人くん……

海人:こんなことになる前に、何かできたんじゃねえのかよ!

海人:なあ大地!

海人:なんで十和野は自殺なんてしやがった!

海人:お前がそばにいながら、なんであいつは死んだりなんかしたんだ!

天空:や、やめてよ海人くん!

天空:十和野さんのことで一番辛いのは大地くんなんだよ!

大地:天空、いいんだ。

大地:美月の近くにいながら、あいつのことを何も分かってなかったのは確かなんだから

天空:大地くん……!

海人:大地テメェ……!!

大地:浮気してたんだよ。

大地:美月は他の男と寝てたんだ

海人:っ!……

天空:……

大地:出てくるんだよ。遺品整理してたらさ、ブランド物のバッグや香水と一緒に手紙が。

大地:一通や二通じゃない、大量にだ!

大地:分かるか!?自分の恋人との思い出の横に、自分じゃない男のラブレタ―を並べてるんだぞ!?

大地:それだけじゃない、俺の知らない遊園地や旅行先、挙げ句の果てにはラブホテルのレシ―トをご丁寧に取ってあるんだ!

大地:俺は気でも狂ったのかと思ったよ!

大地:今まで俺が愛してたはずの女が、裏では別の男とよろしくやってたわけだ!

大地:笑えるよなぁ!浮気されてることにも気づかず、葬式まで開いてるんだから!

大地:間抜けな奴だって笑ってたんだろう!

大地:どうなんだよ!何か言えよ!

海人:やめろよ大地、葬式も終わったばかりなのにする話じゃ無い

大地:じゃあどんな話をしろっていうんだ。

大地:……もう美月のことを思い出そうとすると、どんな気持ちで俺を騙してたのかってことしか考えられないんだ。

大地:こんな最低な裏切りってあるかよ……!

海人:大地……

天空:十和野さんばっかり悪く言うのはずるいんじゃない?

大地:は?

海人:天空やめろ

天空:大地くんは十和野さんが裏切ったっていうけど、十和野さんにそうさせたのは大地くんにも原因があるんじゃないの?

海人:天空!やめてくれ。俺が変なこと言い出したのが悪かったんだ。大地だって本気でそんなこと言ってるわけじゃ無い。

海人:ただいろんなことが重なって混乱してるだけなんだ

大地:俺が正気を失ってるって言いたいのかよ

天空:海人君は関係ないだろ、僕は大地君が身勝手なのが許せないんだ。

天空:それで今までどれだけ十和野さんを傷つけてきたのか、全然気づいてないんだから

大地:傷つけた?俺が?誰を!?

大地:お前に俺と美月の何が分かるっていうんだ。

大地:俺は美月のことを愛してたし、美月だって俺のことを愛してくれていると思っていた。完璧な恋人同士だった!

大地:それを傷つけただ?勝手なことを言ってるのはお前の方だろ!!

天空:完璧な恋人だって?よくもそんな事言えるもんだね。君は十和野さんの気持ちに甘えて、十和野さんの優しさに甘えて、自分の都合ばかりを十和野さんに押し付けたりしたんじゃないの?

天空:自分の思い通りに十和野さんを管理して、十和野さんの気持ちなんか考えなかったんだ。

天空:だから十和野さんはその悩みを一人で抱え込むことしかできなかったんだ!

海人:待て天空……おまえ、まさか……!

大地:(被せて)さっきからお前は一体なんなんだ!

大地:俺と美月のことを、知ったような口で、適当なことばっか言いやがって!

大地:俺は美月をちゃんと愛していたし、幸せにしてやってた!

大地:なんの関係もないお前が、首突っ込んでくんじゃねぇ!!

海人:言うな!

天空:(被せて)大地君が!大地君がそんなだから!美月ちゃんは、僕にしか本心を打ち明けられなかったんじゃないか!!

海人:(小さく)最悪だ……

大地:(海人のセリフに被せて)お、まえ……!!

大地:お前が!あのラブレタ―の!相手か!!

天空:そうさ、僕は大地君が付き合う前からずっと、美月ちゃんと文通をしていたんだ。

(間)

天空:(M)十和野美月は美しい女性だった。

天空:それは月夜に蛹(さなぎ)が羽化するような、そんな儚い美しさだ。

天空:彼女が微笑む時、僕はその笑顔の裏に隠れる孤独を感じてこう思った。

天空:ああ、なんて美しいのだろう、と

(間)

大地:殺してやる!

海人:させるかバカ!

大地:ぐっ……!

大地:はなせ海人!このクソ野郎、ぶっ殺す!

海人:やらせねえ、つってんだろうが!

海人:……おいこら!バカ!言いたいこと言ってスッキリしたか!?

海人:友達を人殺しにするつもりかよ!

天空:っ!

天空:そんな、つもりは……

天空:僕はただ、十和野さんを悪く言われて、腹が立って、それで……

海人:だよな!お前もこいつもカッとなっただけだ。

海人:別に本気で嫌い合ってるわけでも、殺したがってるわけでもねえ。

海人:単に腹の虫の居所がおんなじタイミングで悪かっただけなんだよ。

海人:いいか、落ち着いて考えろ。

海人:今は十和野の葬式が終わったばっかで、俺たちは長い付き合いの友達だ。

海人:喧嘩することなんかどこにもねえだろ。

海人:いいな。落ち着いたか?

海人:離すぞ

大地:っはぁ!

大地:(荒い呼吸)

大地:(間)

大地:このや……!ぶべっ!

海人:させるかバ―カ。

海人:お前がそうすることなんか分かりきってるっつ―の。この直情バカ

大地:わ、わかった!わかったから!

海人:落ち着いたか?

大地:落ち着いたから!

大地:あだだだ!

大地:本当!本当に落ち着くから!

海人:……大丈夫そうだな。

海人:ほれ

大地:ったたたぁ。

大地:海人、お前本気でキメにかかったろ。

大地:まじで痛え

海人:俺が本気で止めなかったら、お前はあいつをこの程度で済ませられたか?

大地:……

天空:ヒッ……

海人:な?だからこれで手打ちだ。

海人:男三人集まって、バカやりました。

海人:めでたしめでたし。

海人:これ以上死んだやつのこと蒸し返してなんになる

大地:う……

大地:まあ、海人がそこまで言うのなら……

天空:ま、待ってよ!

大地:あぁ!?

海人:……はぁ

天空:せめて十和野さんの誤解だけは解いておきたいんだ!

天空:十和野さんは本当に大地君のことを愛していたし、浮気なんかしてないよ!

大地:それをおまえが言うのかよ!

大地:確かに美月は俺のことを愛してたし、俺も美月のことを愛してるけど。

大地:おまえが!美月と浮気してたんだろうが!

天空:浮気じゃない!確かに文通はしてたし僕の手紙を大事にしてくれてたなんて、嬉しかったけど……

天空:でも、十和野さんとはずっと会ってないし顔を見るのだって今日、が……とわの、さん……(泣く)

大地:お、おい待てよ……

大地:それが本当だとして、ラブレタ―は天空のものだったら、ブランドもののバッグやラブホのレシ―トは別の相手のものってことかよ?

天空:十和野さんがそんなことするはずないだろ!

天空:彼女は大地君と真剣に交際していたんだよ!?

天空:それなのに大地君が美月ちゃんのことを蔑(ないがし)ろにして、彼女に寂しい思いをさせるから……

大地:ち、違う!

大地:俺は美月を蔑(ないがし)ろになんかしてない!

大地:でも美月の部屋には浮気の証拠があって……!

大地:天空のラブレタ―も大事にしまってあって……!

天空:僕は美月ちゃんは大地君と幸せになると思ってた!だから、この想いは秘めて応援しようと思って……

天空:でも美月ちゃんから、「辛い」って手紙が来たから力になろうって思って……

大地:それで俺と美月の間に口出しすんのかよ!

大地:部外者だろうが!

天空:友達の相談に乗るのは普通だろ!

天空:そんなふうに自分の所有物みたいに美月ちゃんを扱って……!

海人:馬鹿馬鹿しい

大地:おい!何が馬鹿馬鹿しいんだよ!

天空:そうだよ!十和野さんの名誉に関わる……

海人:(被せて)死んだ女の名誉がそんなに大事かよ。

海人:大の男が三人揃って、いない女を巡って争うことが馬鹿馬鹿しくなくてなんだって言うんだ。

海人:お前らがさっきからほざいてんのはなぁ、「自分だけが十和野美月って女を理解してる」っていう自慢話なんだよ

大地:おい、海人……?

天空:海人、くん……?

海人:いい歳した大人がガキみてえに嫉妬に狂って、「ぶっ殺す」?「名誉」?

海人:笑わせんな。

海人:お前らは縄張り争いしてる猿だ。十和野って名前のエサを奪い合ってるエテ公なんだよ!

大地:エテ公……?

天空:猿のことだよ……

海人:そんなにあいつの浮気相手が知りたいなら教えてやるよ。

海人:俺があいつと寝てたんだ。

海人:セフレだったんだよ。

海人:所詮俺も猿だったんだ

(間)

海人:(M)十和野美月は美しい女性だった。

海人:美しすぎて怖いくらいだった。

海人:美人ではない、匂い立つような色気も無い、男を誘惑する性質(たち)でも無い。

海人:そこにいるだけで、美しいと思ってしまう。

海人:そんな魔性を持っていた。

海人:だから俺は怖い怖いと分かっていながら、こう思わずにいられなかった。

海人:ああ、なんて美しいのだろう、と

(間)

大地:……嘘、だよな?

海人:本当だ

天空:……冗談、だよね?

海人:俺は十和野と定期的に会ってセックスするような関係だった。

海人:これで、いいか?

大地:!?……

大地:ま、待てよ。

大地:海人、待ってくれ!

大地:確かにお前はチャラいし、女癖も良くない。

大地:でも、友達の彼女を寝とるような奴じゃないだろ!

天空:そうだよ!

天空:何かの間違いだよね?

天空:何か理由があったんでしょ!?

海人:お前は自分の女がどんな対位で、どうやってイかされたのか説明されなきゃ分かんねえか?

大地:テメェ!!グハッ……!

海人:お前の行動なんか分かりきってるっつったろ―がよ

天空:……なんで、なんでこんなこと

海人:十和野美月がクソ女だからだ

天空:!!

海人:あいつはな、貞淑(ていしゅく)な恋人でも、儚(はかな)げな文通相手でもなんでもねえんだ。

海人:気が向けば夜の街でコナかけるし、気が乗れば初対面でもベッドに誘う。

海人:性格は最悪なくせに、体は極上だから始末におけねえ。

海人:お前らはな、騙されてたんだよ

天空:……よくも、そんな、ひどいこと……!

海人:酷いのはお前らの方だよ、馬鹿野郎。

海人:あんなくだらねえ女に騙されて、死んだ後まで振り回されて。

海人:見てらんねえよ。

海人:長年の友情踏みにじって、女のケツ追っかけ回してさ。

海人:無様にも程があらぁ

天空:なんでそんなこと言うんだよ!

天空:海人君だって二人を祝福してたじゃないか!

天空:頑張れって応援してたじゃないか!

天空:踏みにじってるのはどっちだよ!!

海人:それは……

海人:お前の目が節穴だったんだよ……

天空:……この、バ(カヤロウ)

大地:(被せて)なあ、俺は美月に、騙されてたのか?

天空:そんなこと(ないよ)

海人:(被せて)そうだよ。

海人:あいつはお前のことなんか愛しちゃいなかった

天空:君って、やつは……!

大地:俺は、俺は……

大地:あ、ああ、あああ……

天空:大地君?大地君!

海人:ああ、だから最悪なんだ

大地:ああああああ、うああああああ!!!

天空:だめ――――!!!

(たっぷりの間)

―エピロ―グ―

(ここから先は三人全員で読むか、一人だけ参加せずに二人だけで掛け合って進めて下さい)

大地:俺は美月を愛している

天空:わかってる。

天空:僕は間違っていたんだ

海人:十和野美月は酷い女だった。

海人:それでも、大地が幸せになれるなら目を瞑ろうと思って……

大地:間違いは誰にでもある。

大地:俺のことを考えてくれていたんだろ

天空:そんなのは独りよがりだ。

天空:僕は、そんなの許せない

海人:悪いのは全部俺なんだ

大地:責めても仕方のないことさ。

大地:結局はこうなったんだろう

天空:どうしてそんなことが言えるんだ!

天空:そんなの、救われないじゃないか!

海人:そうか、そうだな

大地:なあ、今日は葬式だろ?

天空:そうだね

海人:そろそろ行こうか

(間)

ニュ―ス:(エピロ―グに不参加だった役、或いは事前に決めた人が読む)

ニュ―ス:本日未明、身元不明の白骨死体が発見されました

―了―