Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

とある冒険者の手記

V.あなたの好みに

2023.03.28 09:36

「ブラック小闘士!」


叫ばれたと同時に、悪寒が走り、咄嗟に身を翻す。

背後で風を切るような音。

体制を一瞬で立て直し、音の原因である魔物を仕留めた。


「お見事です!」

「危険を知らせてくれて感謝する」


そう言って違和感を覚えた。

手を後頭部に回すと、あるはずの三つ編みがなかった。

地面に視線をやれば、髪の束が落ちている。


「髪一重ってやつか」

「危なかったですね」


被害か髪だけで済んだと思うようにし、ヴァルはGCの任務を終えて帰宅した。


「ただいま」

「おかえり!……それ、どうしたんだい?」


ヴァルの髪を見て驚くガウラに、ヴァルは答える。


「攻撃を避けた時に切れてしまってな」

「怪我は?」

「髪だけだ、それ以外は無い」

「そうか」


怪我は無いと聞き、ホッとした表情を見せる。


「だが、さすがにこのままという訳にも行かないからな。美容師を呼んでもいいか?」

「あぁ、構わないさ。その間に夕飯用意しとくよ」

「いつもすまない」

「普段はヴァルがやってくれてるんだから、こういう時ぐらいはね」


ガウラが休憩を取り始めてから、食事の用意はガウラがする事が多くなった。

それが、ヴァルにとって楽しみの一つになっていた。

2階に上がり、軽くシャワーを浴びて美容師を呼び出す。

髪型をどうしようか悩んだ末、最近出たヘアカタログを出し、その通りにカットしてもらう。

カットが終わり、リビングへ戻ってくると、ガウラは目を見開いていた。


「随分思い切ったね」


ヴァルが選んだのはバズカットだった。


「今までは切りたくても切れなかったからな。試してみたかったんだ」

「切りたくても切れなかった?」

「裏稼業をしてるとな、髪が長い方が都合が良かったんだ」

「なるほどね」

「似合わないか?」

「いや、驚いたけど、よく似合ってるよ」

「そうか、なら良かった」

「でも…」

「でも?」


ガウラは少し考える素振りをして言った。


「三つ編みの方がヴァルらしくて私は好きかな」


そう言われて、ヴァルは驚いた表情を見せる。

それを見たガウラはハッとして、顔を赤くしながら慌て始めた。


「あ、いや!なんというか、見慣れないってのもあるって言うか!」

「ふふっ」


その慌てっぷりが可愛くて、思わず笑いがこぼれた。


「じゃあ、ガウラの為に髪を伸ばそうか」

「…いや、ヴァルの好きな髪型にすればいいじゃないか…」

「ガウラが好きだと言うなら、それに合わせたいんだ」

「…そ、そうかい。まぁ、好きにしな」

「あぁ、好きにする」


笑顔で返すと、ガウラは顔を赤くしたまま「ご飯にしよう!」と恥ずかしさを誤魔化すように言ったのだった。