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歴史的建造物のリフォーム

2015.05.10 00:07

(有)カサイ アーキテクチュラル デザイン

代表取締役 笠井 三義


冒頭から新しい建築とのかかわり方との、コメントに相反する表題について話しをしたいと思います。

通常の建物の利用勝手は、日本の実情は甚だ短いと思います。ヨーロッパでは100年~200年の建物はざらにあり、アメリカでも70年~80年を超える建物が平気で中古市場にでて来ると聞いています。

日本で、リフォームと言うとせいぜい20年~30年の建物のリフォームの話しになって来るのが通例かと思います。ましては戦前の建物又は、明治以前の建物は古民家又は、文化財指定として保存活用事例もありますが数は限られています。

今日は、たまたま私が携わった建物の話しを致します。

まずは歴史的建造物とはどのような建物をさすのか考えると、文化庁が一つの目安として50年を経過した歴史的建造物の内一定の評価を得たものを文化財として登録、届出制とした制度を作っております。

今回の話しは、平成17年にこの時点で築77年たった建物のリフォームに関わる機会を得た話しです。

昭和3年竣工のこの建物は、横浜市中区にある都南ビルです。地上6階建て・鉄筋コンクリート造のビルで、戦後横浜銀行に吸収合併された都南貯蓄銀行の本店でした。戦後は、連合軍の印刷局として接収されて居た時期が7年~8年続いた後、先代から現在の所有者に引き継がれて今に至ります。

図面も建築図・構造図が残って居る数少ない物件でした。

この建物が、1.2階テナントの銀行が退去した居り、店舗(飲食店)の需要により利活用を計画したことに始まりました。

店舗(飲食店)は100m2を超えると建築基準法上、特殊建築物に該当します。

銀行は、事務所扱いなので特殊建築物には該当しない為、より厳しい法律によって、現在の確認申請(用途変更)が必要になってきます。昭和26年制定の現在の基準法に昭和3年の建物を合わす必要が出て来ます。

当時の構造計算書は残って居ませんでしたが、構造図一式残っておりました。

構造的には、現在の耐震診断の手法により3ヶ所のコンクリートコア抜きにより実質のコンクリート強度・中性化の試験をして耐力を推定しました。

都南ビル外部


一次診断 IS値0.8以上確保された為、構造的には現在の新築には及ばないものの避難上は問題が少ないとの結論で用途変更上問題が無いと言うことになりました。

それ以外の建築基準法の項目は、すべて現在の条件に適合しないと用途変更は出来ません。外部の防火戸・各階の防火区画・避難経路・シックハウス等までチェックして適合判定しました。

荷重については、当時の構造計算が土木から来ている動荷重と言う言葉で表されて居る荷重条件以上に荷重が増加しないこと・新設階段も既存梁に負担を掛けない様に自立柱にて受けるなどの工夫・また全体バランスの判断により階段部分の吹抜けを作るなど、あらゆるところで工夫しながら解決策を見つけました。

この様に、歴史的建造物は現在の法律以前の建物の為、あらゆる安全チェックが必要であり、時間と費用がかかるものです。日本では50年を超える建物の場合、古い建物であると言う認識が強く、法律的に容積率(土地の何倍建物が建つかと言う基準)をすべて使い切っておらず、取り壊して建替た方が経済効果が高いというバランスの悪い状況が一般的です。

イギリスでは歴史的建造物のリストアップは日本の何十倍もあり、古い建物の保存利活用には市民レベルでの活動が盛んです。むしろ築80年・100年とかの建物の方が価値が高いと言う事もある様です。これは歴史的建造物は古い技術・材料等が一度取り壊してしまうと二度と戻らない事が解って居り、文化的に価値が認識されて居ることに起因しているものと思われます。

文化の蓄積を考えると、日本の建築業界を含めた建物寿命の短さについてもう一度考え方を見直す時期に来ていると思われます。

リニューアルを考えるとき今一度建物を見直し無駄な材料・使い勝手等を考え既存建物をより利活用させるアイデアを是非考えてください。

これが建物の価値に繋がる一つの方法と思います。