Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

XN85 1982

2018.05.23 10:26

XN85 1982y

(リード)

ある日突然盛り上がったのも束の間、あれよあれよという間に下火になってしまったターボバイク開発競争。このXN85も、スズキ唯一のターボモデルになってしまった。しかし、このバイクに投入された最新メカニズムの数々は、続くモデルたちにしっかり活かされ、走りのスズキという評価を決定づける原動力として活躍した。いまになって思えば、もしターボという飛び道具が装着されていなかったとしても、スズキスポーツバイクのターニングポイントになったバイクとして、高い評価が与えられたのではないかと思われる。


(本文)

 当時各社から発売されたターボバイクは、既成のモデルを改造した、いわば実験機に近いものだった。XN85もその例に漏れず、カタナシリーズの尖兵、GS650Gをベースに作られたものだが、デザインにしてもメカにしても、流用モデル的な安直さが微塵も見られない仕上りで、スズキの真面目さをよく現わしているといえよう。

 さて問題のエンジンだが、GS650Gに搭載される673ccエンジンを、排気量はそのままに圧縮比を9.4→7.4へと大幅に低圧縮化、ターボバイクの泣き所であるノッキング対策を施している。ただし、ただ単純に低圧縮化しただけではない。まず、吸気システムをキャブレターから電子制御燃料噴射に変更。エンジン回転とアクセル開度に合わせ、1回のクランク回転に対する噴射回数を2段階に切り換える、独特の方式を採用していた。

 さらに、ピストン裏側にオイルを噴射してピストンヘッドを積極的に冷却する、オイルジェットシステムを導入。このシステムは、後に登場したGSX-R750をはじめとする、油冷エンジンラインナップの重要技術として、スズキの顔にまで発展することになった。また、オイルポンプの容量アップとピストン・ピストンピンの強化、適宜配されたメッキコーティング、強化クランクの採用などが採用されており、ベースエンジンの面影を残すのはエンジン外観だけと考えていいだろう。

 採用されたタービンはIHI製のコンパクトタイプで、550mmHgの過給により85psの最高出力と7.8kg-mの最大トルクを得ている。車名のXN85とは、この85psから来たものだ。ここで注目なのは、タービンがクランクケース後方のかなり奥まった場所に置かれ、エキパイの取り回しを見る限り、ターボマシンのようには見えないこと。通常、タービンはできるだけ排気バルブの近くに設置したほうがターボラグが少ないとされているが、XN85の場合はデザインの美しさも重要な要素として考慮されたのだと思われる。

 ターボ化によって増大したパワー&トルクに対応するため、フレーム剛性は大きく強化されるとともに、足まわりも従来のスズキ車とはまったく異なる方向性を投入。アンチノーズダイブ機構付きのしっかりしたフロントサスとフルフローターリアサスペンション、フロント16インチ/リア17インチの小径ホイールが与えられ、続くレプリカブームへの橋渡しを果たしている。実際、重心が低く左右へのバンキングがスムーズで、なおかつコーナリング中の旋回性が高く、スポーツライディングが存分に楽しめたバイクであった。

 たしかにターボラグは気になったが、ライダーの意志に反するほど急激なトルク変動は見られず、底力のある加速と思いがけないほどの扱いやすさを兼ね備えた乗り味は、ツーリングスポーツとしてもなかなかの評価を得ていたのだ。デザイン面を見ても、カタナのイメージをうまく消化して、スマートかつエキサイティングなイメージを作り出している。その後この基本デザインは、GSX750E4やGSX400FWなどの、GSX-Rシリーズと明確に並びたつスーパースポーツラインナップに進化し、長い間親しまれていくことになる。時代や人気には恵まれないバイク、およびカテゴリーではあったが、それでもなおかつ、まぎれもない力作と呼んでいいバイクであった。