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俳句レッスン

2023.04.07 05:43

https://www.sakigake.jp/special/2020/haiku/ 【岸本尚毅の俳句レッスン】より

 俳句は室町時代に始まり、芭蕉や子規を経て五百年以上続いています。これほど長く命脈を保ってきたのはなぜか。面白いからです。

 俳句は座の文学です。A君の句をB君がほめる。C君はけなす。D君はここを直したらよくなると言う。彼らの議論をE君が面白がって聞いている。テレビの「プレバト」も一つの「座」です。誰かの句に対し、別の出演者がコメントし、夏井いつきさんが添削する。その様子を視聴者が面白がって見ている。

 俳句はたった十七音。サッと読んで、皆でいじって楽しむのに適しています。短歌や小説ではそうはいきません。

 この企画では、子どもから大人までの句を岸本が添削します。添削するともっと良くなると思う句を取り上げます。採用された方は胸を張ってください。

 記事を読んで下さる方は、この句をどう読むか、どう直すかを、岸本と一緒に、是非(ぜひ)ご自分の頭で考えてください。ときには家族や友人と記事を囲んで、岸本のこの句の読みや直しは間違っているんじゃないの、と雑談のネタにして面白がっていただけると嬉(うれ)しいです。

さあ、あなたも投稿してみよう!


https://www.sakigake.jp/special/2020/haiku/article_29.jsp 【擬人法で表情豊かに】より

 国語の時間に「擬人法」を習ったことをご記憶のかたも多いと思います。「風がささやく」「母なる大地」のような言い回しは俳句にも登場します。

 落花のむ鯉はしやれもの髭長し 高浜虚子

 池に浮く桜の花びらを呑(の)みこむ鯉。髭(ひげ)が長い。その様子はいかにも洒落者。

 しぐれつつ留守守る神の銀杏かな 虚子

 時雨のなか、神社の銀杏(いちょう)が、神様の留守を守っている。

 雪解くるささやき滋し小笹原 虚子

 笹原の雪がとける。そのかすかな雫(しずく)の音が、人のささやきのようだと言ったのです。以上の三句は下線部が擬人法です。では次の句はどうでしょうか。 

 東山静に羽子の舞ひ落ちぬ 虚子

 京都の東山。正月の羽根突きで突き上げた羽子が静かに舞い落ちて来る。この句の「舞ひ」もまた擬人法です。「舞」という漢字は、人が両手に飾りを持って舞うさまを表します。「舞う」は本来、人が舞うときに使う言葉です。それを転用して、木の葉や蝶(ちょう)が舞い、ときには砂埃(すなぼこり)が舞う。これらも一種の擬人法なのです。

 今回は「舞う」も含めた擬人法の用例に着目し、投稿作を見ていきます。

語感に配慮する

黄砂舞う七色の風潮騒と

 太田穣(ゆたか)さん(男鹿市、55歳)の作。春先に飛んで来る黄砂によって空が七色に輝き、海のひびきが聞こえて来る。スケールの大きな佳句です。「舞う」は、さきほど申した通り一種の擬人法ですが、この句にとっては語感が優美に過ぎるように感じます。添削では「舞う」を消します。「潮騒」も良い言葉ですが、もう少し単純な言葉を使ってみます。「七色」は「虹色」に言い換えてみましょう。

虹色の風は黄砂や海の音

めりはりをつける

初蝶の舞いぬ発車ベルの鳴りぬ

 米屋結衣さん(秋田県立大2年)の作。発車が作者と蝶の別れであると鑑賞してもよいと思います。初蝶はひらひらと舞っている。そのときに発車ベルが鳴った。時間の表現に関しては、蝶には継続の、発車ベルには完了の助動詞を使うと、時間の表現にめりはりがつくと思います。

初蝶の舞いをり発車ベル鳴りぬ

別の表現も試みる

山蟻の散歩の道は墓の上

 平野智子さん(秋田市、45歳)の作。蟻(あり)が墓石の上を歩いていた。「散歩」という擬人法によって蟻に親しみが感じられます。蟻の巣から餌に向かって行列を作った状態を「蟻の道」といいますが、この句の山蟻は一匹だけでうろうろしている状態を想像します。添削では突き放した(非情な?)表現を試みます。非情な表現にすると墓石の無機的な感じが出ると思います。

山蟻の歩いてゆくは墓の上

存在感を際立たせる

半分の西瓜静かに出番待つ

 柳原夕子さん(美郷町、38歳)の作。大きな西瓜(すいか)の存在感を詠んだ句です。「出番待つ」が擬人法で、この西瓜はこのあと美味(おい)しく食べられる運命にあることがわかります。

 添削では、西瓜の存在感だけに絞った表現を試みます。

半分の西瓜静かにありにけり

 擬人法を使うと、メルヘン風になったり、滑稽味が出たり、句の表情が豊かになります。そのいっぽうで、擬人法を使わない素っ気ない表現にも別の魅力があります。

 擬人法を使った句を作った場合、擬人法を使わない代案も作って、両案を見比べることをおすすめします。

(1)「切字」を上手に使おう 2020年4月6日

(2)響きと余韻を楽しむ 2020年4月20日

(3)言葉を実体に近づける 2020年5月4日

(4)文語を使ってみよう 2020年5月18日

(5)詩情を突き詰めれば 2020年6月1日

(6)一字の違いで大違い 2020年6月22日

(7)使う「かな」、削る「かな」 2020年7月6日

(8)後ろの五音でキメる 2020年7月20日

(9)語順を変えてみれば 2020年8月3日

(10)「引き算」でスッキリ 2020年8月24日

(11)比喩で情景を伝える 2020年9月7日

(12)季語の情感を楽しむ 2020年9月21日

(13)「季重なり」を考える 2020年10月5日

(14)人称が印象を変える 2020年10月26日

(15)関係を物語る二人称 2020年11月2日

(16)一人称を使い分ける 2020年11月16日

(17)主人公は誰でしょう 2020年12月7日

(18)ゆく年くる年を詠む 2020年12月21日

(19)新春特別編 新年の表情さまざま 2021年1月11日

(20)人物描写のいろいろ 2021年1月18日

(21)「全集中」で情景描写 2021年2月1日

(22)二つの事柄でつくる 2021年2月22日

(23)「時刻」で詩情を誘う 2021年3月1日

(24)めりはりを生む「は」 2021年3月22日

(25)春の特別編 人生の悲喜を味わう 2021年4月5日

(26)月ごとの気分を詠む 2021年4月19日

(27)四季折々の「雨」を詠む 2021年5月3日

(28)「母」の表情さまざま 2021年5月17日

(29)擬人法で表情豊かに 2021年6月7日

(30)回想も格好の題材に 2021年6月21日

(31)奥深きオノマトペ 2021年7月5日

(32)口語の効果を考える 2021年7月19日

(33)夏の特別編 時代の風俗映す季語 2021年8月2日

(34)続・夏の特別編 生と死の交錯する月 2021年8月23日

(35)「対話」して作品を磨く 2021年9月6日

(36)「前書」の効果を考える 2021年9月20日

(37)「あか」の表情いろいろ 2021年10月4日

(38)色で変わる句の気分 2021年10月18日

(39)特別編 天下の大事に秀句あり 2021年11月1日

(40)詩を生む「取り合わせ」 2021年11月22日

(41)意外な出合いを楽しむ 2021年12月6日

(42)あれもこれもの「も」 2021年12月20日

(43)冬の特別編 「雪」はドラマチック 2022年1月10日

(44)強調したいときの「も」 2022年1月24日

(45)追悼・安井浩司 謎めいた孤高の俳人 2022年2月7日

(46)数字で印象を鮮明に 2022年2月21日

(47)地名の効果を考える 2022年3月7日

(48)地名が想像を広げる 2022年3月21日

(49)選句のポイントは? 2022年4月4日

(50)同じ題材で多く作る 2022年4月18日

(51)目立ち過ぎにご注意 2022年5月2日

(52)自動詞か、他動詞か 2022年5月23日

(53)植物の季語あれこれ 2022年6月6日

(54)便利な「や」の使い方 2022年6月20日

(55)「や」の使い方あれこれ 2022年7月4日

(56)印象は「や」の位置次第 2022年7月18日

(57)詠嘆の「や」を生かそう 2022年8月1日

(58)想像広げる省略の「や」 2022年8月22日

(59)臨場感を生む「たり」 2022年9月5日

(60)思わず心で呟く「か」 2022年9月19日

(61)「と」は並列と引用と 2022年10月3日

(62)過去をあらわす「し」 2022年10月17日

(63)室生犀星の句を読む 俳句が開いた文士の道 2022年11月7日

(64)想像をかき立てる極意 2022年11月21日

(65)直喩と暗喩の使い分け 2022年12月5日

(66)物の名前をリズム良く 2022年12月19日

(67)並べて広がる句の世界 2023年1月16日

(68)連作が生み出す臨場感 2023年1月30日

(69)境涯句を連作で詠む 2023年2月6日

(70)「には」には要注意! 2023年2月20日

(71)音を詠んで場を描く 2023年3月6日

(72)音を聞き、情景を見る 2023年3月20日

(73)音ならぬ音を詠む