新しい可変性
今回選択した中国鄭州を敷地とした都市設計スタジオは、まるでマラソンのようなスタジオだった。スタジオの初めから膨大な量のリサーチが求められ毎週そのチェックがあった上、中間講評、中国での発表と敷地調査、そして最終講評が1ヶ月ごとにあり、常に一定の速度で走り続けなければ到底こなせる量ではなかった。
最終的に設計を行ったのは、黒川紀章の設計した車中心の交通インフラを軸としたメタボリズムの都市計画が行われた地域だ。この地域は鄭東新区と呼ばれる場所で、交通、ランドスケープ、建物が全て上手に設計されている。しかし、綺麗に整理されすぎていて建物の形も全て同じようになってしまい、不気味な都市空間となっている。
そもそもメタボリズムというのは、西洋のモダニズムの思想に日本なりのフレキシビリティ・サステイナビリティを取り入れた建築・都市デザイン思想だ。建物や都市を担うコアを起点にして、そこにユニットや街区をプラグインすることによって、時代のニーズに合わせてユニットを交換さえすれば、新陳代謝し続ける建築・都市が成立するというものだ。
メタボリズムの問題点は、このフレキシビリティが硬かったということだ。特別にデザインされたコアと特別なデザインされたユニットでしか、更新が可能ではないとても硬いフレキシビリティだった。この残滓が、前述の統一されすぎた不気味な都市空間を形づくっているのだと思う。
自分たちの提案では、歩行者空間とオープンスペースを軸にした開発言語と歩行者ネットワークを複層させることによって、人々の交流や産業のイノベーションが起こることを狙った新街区の設計を行った。硬化したフレキシビリティのメタボリズム思想に対し、柔らかいフレキシビリティを指向したものである。今回軸となるインフラは緑道、オープンスペース、そして土地だ。都市を形づくる上での究極にフレキシブルなインフラである。
そのオープンスペースのインフラをデザインするために、既存の都市から良い公共空間を持つ街区の形式を分析し、新街区のマスタープランと組み合わせた街区の言語を開発することによって多様な都市空間を生み出すことを試みた。求められた設計のスケールが大きすぎて死ぬかと思ったが、都市模型を全部3Dプリントするなど力技を遂行しながらなんとか提出することができた。
都市デザインではレイヤーというのが大きなキーワードに感じていて、1つのレイヤーだけで描けてしまうような都市はフレキシビリティのない、何かが欠落した都市になってしまうと考えている。例えば中世ヨーロッパの都市は美しく観光客をひきつけるが、車も入れないし経済活動も制限があるとも言える。一方で、中国のような巨大インフラが支配する都市は歩くのも楽しくないし、人々の交流も建物の中でしか生まれない。
現時点では、多様なレイヤーを都市に重ねていき、それぞれのレイヤーが結びつき機能する仕組みを考えること、それらが交わる所に特異な空間や場所を創出することが、これからの都市デザインに求められることだ。今回の提案でも、地下鉄の駅のまわりにあらゆるレイヤーが複層し、人々が交流する場所をデザインした。
今学期は世界中の都市の歴史やタイポロジーに精通したジョアン・バスケッツのもとで学ぶことで、本当に多くのことと都市に対する深いまなざしを学ぶことができた。これからも、柔らかくて快適な都市空間をデザインできる人間になりたい。