春の本特集♪
こんにちは。
4月2週目、桜も満開の時期を過ぎ、ぼんやりしている間に春は終わってしまいます。
一年間、季節の特集をしてきましたが、去年の春、ポラン堂古書店オープンに合わせて始まったブログでしたので、あれやこれや最初の紹介を書いているうちに春を過ぎてしまい、昨年には春特集がありませんでした。今年こそはと意気込んでいたはずが、何故かまたあれやこれやで春がもう折り返し地点を過ぎており、タイトルに♪を付けながらも内心、遅ればせながら、今からでも参加大丈夫でしょうか、とへこへこする気持ちでこの記事を書いております。
勿論ポラン堂古書店の店頭には、先月から春特集が設置されてあり、春の賑わいをお届けしております。
ということで、春の本、皆さまは何が浮かびますでしょうか。
いつものように、春コーナーにある本やない本ございますが、3冊紹介してまいります。
長嶋有『新装版 春のお辞儀』
私の愛する作家、長嶋有さんの句集になります。
1995年~2014年までにミニ句集や雑誌などで発表された句の中から厳選し、2014年に刊行された『春のお辞儀』、そこから5年後新作44句を加え発刊されたのが『新装版 春のお辞儀』です。
長嶋有さんと言えば芥川賞作家、小説やエッセイでお馴染み、もしくはラジオ、漫画評論家「ブルボン小林」等、多彩なイメージがありますが、俳人としての経歴も長く、『NHK俳句』にて選者を担当した年もあります。
という感じで説明だけしていても伝わらないと思うので春の句を3句&一言感想という感じでさせていただけたらと思います。
くすぐるのなしね寝るから春の花
「春の花」からして相手は女性のように思えるが、「相手」と思ってしまうところが素敵で、読み手は「くすぐるのなしね」と言った側ではなく、聞いた側で、「くすぐる側」なのだというところが可愛い。あと、寝るから、が良い。
押せば出るフロッピーディスク出さぬ春
時代によっての伝わらなさは愛おしさ、ともすればエモさである。入れっぱなしにしていた記憶を引き出される気持ちよさと、春という季節の緩慢さが言い様のない抒情を生む、不思議な句。
目はいい口はとじて死にたし春驟雨
驟雨はにわか雨のこと。急に景色が変わり、不意に去来する思いの唐突さが、どこか幼い字並びとリズムの小さな破綻を起こしている。深刻ではなく、けど確かにと思う。秘密めいているようで身近な共感も伴っている。
ということでたった三句だけ選びました。まだまだあります。
一冊の本には春夏秋冬の句が順番に、繰り返されて並んでいます。一年通して楽しめる一冊と言えば、春特集なのに、と思われるかもしれませんが、タイトルに「春」があることを重視しなければいけません。春ののんびりとした、緩やかな、気怠さがこの一冊に合うように思うのです。
不思議で素敵な七音「春のお辞儀」が、どんな春の句に使われているかもぜひ味わっていただければ。親しみやすいおすすめの句集です。
アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』
春の本の定番のように見かけますけれど、単純なことを言ってしまえば、春なんてどこにあるの、という作品です。
タイトルは本編にも登場するシェイクスピアのソネットから抜粋で、主人公ジョーンの頭の中にそっと訪れる記憶の扉なのです。
春にして君を離れ……でも今は春じゃないわ、11月じゃありませんか……
過去に、ジョーンが夫ロドニーに言った台詞です。
ジョーンからすればただの引用に違いなく、景色にも季節にもそぐわない。春なんてどこにあるの、という感想はこの作品には必然として起こり得るようにできていて、そして本当に、春がどこにあったのか、を知る作品でもあるのです。
と、アガサさんだけあってミステリめいたことを言ってしまいましたが、この作品は彼女の有名なミステリたちとは毛色が異なっています。というのも、メアリー・ウェストマコットというアガサ・クリスティーとは別の名義で発表した6作品のうちの一つで、ミステリではなくロマンス小説として分類されているのです。
弁護士の優しい夫と三人の子どもに恵まれ、その子どもたちも成長し家を出、理想の家庭を築いたことに満ち足りている主人公・ジョーンはバグダッドに住む娘の見舞いを終えて、イギリスに帰る途中、荒天により列車が来ず、帰れなくなってしまいます。トルコの国境のレストハウスに何日も滞在しなくてはならなくなり、広漠とした砂地に強い日差し、膨大な時間の中で、ジョーンは自身と家族のことを考え始めます。それは幸せに満ち足りた日々への疑念へとなっていくのです。
殺人事件こそ起きませんが、自分本位な彼女が選ばなかった選択、見て見ぬふりをし続けた夫ロドニーや子どもたちの本心、紐解かれていく真実に読むのが止まりませんでした。ミステリではないものの、上記にあるようにミステリの要素もあり、またジョーンという主人公の矛盾を孕んだ面白さもあり、とにかく楽しかったです。
有名な作品ですが、読んでいない方、ぜひこの春に。
山崎ナオコ―ラ『カツラ美容室別室』
実は去年から、春といえば、で真っ先に思い浮かんでいた作品です。
何せ花見で始まり花見で終わるわけなので、一年通してるやんけ、という声はその通りなのですが、すごく春を感じる作品なのです。
山崎ナオコ―ラさんというと『長い終わりが始まる』『昼田とハッコウ』などこのブログでも頻繁に取り上げている作家さんですが、私が最初に読んだのがこの『カツラ美容室別室』で、彼女の描く日常のとめどなさ、終わらなさが他にないような新鮮な表現に思えたのでした。
舞台は高円寺。3月30日の日曜日、まさに春に引っ越してきた27歳の会社員の主人公は、引っ越し当日に「髪、切りに来いよ。オレ、今、髪切ってるところだから」と友人に呼び出され、そのまま友人行きつけの美容室にいき、その美容室の慰労の会の花見に呼ばれ、美容室の従業員の恋人の浮気が発生し、その恋人宅に乗り込むため従業員の彼女と店長と夜中車を走らせる。これがあらすじというわけではなく、引っ越し当日のこと、冒頭3,40頁のことです。
展開が早いという意味で取り上げたいのではありません。夜中車を走らせた後、主人公は新居に帰ってきて、少し荷解きをして、布団とパジャマを引っ張り出して眠り、起きてスーツを着てネクタイを締めて出勤をする──こうしたふうに場面場面、展開につぐ展開のような見せ方ではない、日常が繋がっていくシームレスな感じがとても心地よいのです。
主人公は美容室の従業員の一人・エリと親しくなります。引っ越しした当日に出会う同い年いの気が合う女性、恋の始まりに高揚する主人公ですが、どこか違っているような感覚も覚えます。彼女を魅力的に思えるときと、つまらなく思えるときが描かれるのもナオコ―ラさんらしいリアリティがあって、味わい深いのです。
突飛なところがない、というと人によってはつまらなく感じるかもしれませんが、日常から鋭く切り取るところ、自然体として描き切る巧さはなかなか味わえるものではありません。
春らしい始まりを描いた作品でもあります。ぜひ、読んでみてほしいです。
以上です。
春、間に合いましたでしょうか。
冒頭あんなことを言っておりますが、実は正確にいうとこのブログ、昨年は「秋特集」も「冬特集」もしてはいないのです(ハロウィン特集、雪特集、クリスマス特集はありました)。
私の準備不足ゆえのところもありましたので、今後はうまいこと季節に乗っかっていきたい次第でございます。
さて、昨年4/14に初更新となったこのブログももうすぐ一年、何より、ポラン堂古書店が4/17でオープン一周年を迎えます。来週更新分には特別企画を準備中です。お楽しみに。
ではでは。