パタゴニアスタッフ フィールドデイ
天空のキャンプ場。
タープの下から聞こえる歓声。
酔った足取りでつかの間、皆から離れて夜空の写真を撮る。
何となくこのシチュエーションに合ってるような気がして、軽く口ずさんだ。
” Fly me to the moon
Let me sing among those stars
Let me see what spring is like
On jupiter and mars"
「私を月へ連れてって
星たちに囲まれ歌ってみたい
木星や火星では
どんな春が咲いているんだろう」
月光に照らされたハイランド。4月の宮崎にしては肌寒いこの日、この場所にいられる不思議なご縁と幸せを感じていました。
4月6日~9日にかけて北海道、仙台、東京、福岡の各地から7名、パタゴニアフィッシングチームの方々が宮崎にいらっしゃいました。
宮崎のトラウトフィールドを体験していただき、私たちとの情報交換や交流を深めていただくためのこのイベント。私たちからもちょうど7名の会員がこの日を心待ちに色んな準備を進めてきました。
年齢層も多彩で、下は23歳から上は還暦間際のオジさんまで。「釣り」と「自然」というキーワードの元、年の差関係なくフラットに繋がることが出来た素敵な数日間。
今回はその様子を簡単にレポートします。
(4月7日 釣行1日目)
4月6日。宮崎市内のホテルに宿泊する皆さんと夜、居酒屋で簡単なウェルカムパーティー。あいさつそこそこに魚の話しで盛り上がる中、私は天気のことが気になってしょうがありませんでした。
菜種梅雨(なたねづゆ)というには少し降りすぎているここ数日。ネットで積算雨量を見ては、「う~ん・・・。」とうなるような感じ。
そして当日。果たして降り続く雨は予想外に強く、朝は雷雨予報。ただ、時間の経過とともに回復するみたいで、予定の時間を1時間半遅らせて集合。
大きく2班に分かれての釣行でしたが、私たちが行った川はギリギリ釣りになるか、ならないか、位の水量でした。
嫌な予感は的中。普段水量が少なく、のどかに釣り上がれるホームリバーは、川を渡るのがためらわれるほど流れの押しが強く、フライではとても厳しい状況。
もし、最初から水がカフェオレ色だったら、即座に違う川に行ったのですが、ささ濁りと言えなくもない水の色。正直判断が難しかったのですが、結果、皆さん大苦戦。
「こんなはずじゃ、、、ヤバい。」
胃がキリキリするような心持ちでガイドしながら足速に進みます。
釣り人5人、釣行約3時間で出会えたのは、かわいらしいチビちゃんがほんの数匹。
「あのえん堤の上なら、少しは状況が良いはず。」
少しでも水量の少ないところを目指して移動。ジワッとにじむ変な汗とあせる気持ちとはうらはらに、予報どおり天気はどんどん良くなり、気持ちの良い風が顔の横を吹き抜けていきます。
ポイントを変え、やっとフライでストレスなくやれる位の水量になり、「火星でフライフィッシングをするつもり?」の著者、山田さんが出会ったのは、
側線のオレンジ色と、尻ビレのグラデーションが華やかな一尾。
尾ビレの紅さも艶(あで)やかでパタゴニアの皆さんを喜ばせてくれました。
この日、ただ単に釣りをするだけでなく、行き帰りの道中では北海道のダムのスリット化や、パタゴニア日本支社が日本製紙株式会社に対して送った森林保全についての手紙の話し、また米良鹿釣倶楽部のこれまでの活動などの情報交換なども行い、とても濃い時間を過ごすことが出来ました。
しかし、、、
下界に降り、待ち合わせの温泉でもう1班と合流し、様子を聞くと。
「・・・全然ダメですよ。まっ茶色のカフェオレの濁流。移動したとこも同じ。やっと入れた沢には先行者がいて、やっと何匹か会えましたけど。。。」
「え!?隣の山でそんな状態?こっちはそこまでひどくなかったよ。」
「・・・。」
よく、「お天道様には逆らえない」なんて言いますが、まさしくその通り。これも自然相手の遊びならではのこと。
(4月8日 釣行2日目)
貸し切りのキャンプ場ということもあり、遅くまで盛り上がった前日の宴会。
「じゃあ、明日は10時起床で!」
と冗談めかして言ったのですが、朝5時にはあちこちのテントからガサゴソガサゴソ音がします。皆さん、元気。
明るくなったキャンプ場をキレイに掃除し、今回は料理担当に徹してくれたBORAYANの豚汁とご飯をお腹いっぱい食べて、それぞれのフィールドに出発。
この日、私のチーム以外は、KIDの上小丸川エリアで支流の在来ヤマメ調査。
私は、東京の二子玉川ストアで働いている柳瀬さんと、
北海道、札幌南ストアの鈴木さんという20代前半の若い2人を、とっておきの美渓にガイド。
道路からエントリーポイントまで1時間以上歩かねばならない場所ですが、その価値は十分にある川。
道すがら、自然林と植林の違いを話し合ったり、北海道のトラウトの話しを聞いて感心したりしながら川を目指しました。
昨日とうって変わって、朝から美しい青空が広がる中、俳句の季語、「山笑う」というフレーズそのままの新緑が私たちを迎えてくれました。
源流域の透明な水、
時折吹く神さびた風、
春の陽光を透かして輝く新緑、
人の跡が全くない河原、全てが夢のように美しいこの空間。
私たちの後を担う世代であろう彼らをここに連れてきたのは、この貴重な南九州の自然を体感して欲しかったから。
そして、こういうところを守る大事さを一緒に考えて欲しかったから。
決して大きい訳でもないヤマメにとびっきりの歓声を挙げてくれ、佐藤成史さん仕込みの写真の撮り方を伝えると夢中でシャッターを切り続ける彼女。
源流には少し大きいカーディナル44を振りながら、クロス気味にキャストし、トゥイッチングを繰り返し、自分が釣りをしながら何を感じているかを無心に私に伝えてくる彼。
まるでカラーボールのように跳びはねながら、源流を駆けまわる彼らを見つつ、
自分たちが掲げたミッション、「次世代に繋ぐ」ということに対して、1つの答えが見つかったような気がしました。
行って、話して、見て、会って、
むずかしい話しはその後で。
それはシンプルで、1つ1つはほのかなことかもしれないけど、とても大事で幸せなこと。
遊んでくれてありがとう。
そしてどうぞ、またいつかここにいらっしゃい。
冒頭の頭に浮かんだ曲は、”Fly me to the moon”という名前。
随分昔のスタンダードです。
その歌詞、最後の2節
”In other words, please be true
In other words, I love you”
「どうか誠実でいて。
愛してるから。」
ふと思った。
これってもしかしたら、ヒトの仕業(しわざ)で傷ついてる山の神さまからのメッセージかもしれない、って。
だって、よく、山の神さまは女性だって言うし、
母なる大地、とも言うじゃないですか。
”In other words, please be true
In other words, I love you”
大いなる自然に抱かれ、遊び、感じたハイランドの2泊3日。
実は、山の女神さまがいつも私たちのそばにいてくれたのかもしれません。
楽しく遊びながら、大事な自然を守る。そんなミッションにこれからも私たちは取り組みます。
そしてまた近い内に、きっとどこかで、このパーティーを。
(文:KUMOJI 写真:KUMOJI , OGUOGU)