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波打つファサード

2018.05.04 18:32

今学期はファサード・オプティマイゼーションというタイトルの環境エンジニアリング系の授業を選択した。最終課題は、既存のビルを自由に選択して省エネルギー改修提案をするものである。個人でもグループワークでも良かったので、夏の英語の授業で一緒だったBohanとチームを組んだ。

テーマにしたのはル・コルビュジェやオスカー・ニーマイヤーが設計に関わった、ニューヨークの国連本部ビルである。このビルは東西に長辺を向けた扁平の形状をしたガラス張りのビルで、1951年に入居が開始した直後から、東からと西からの直射光の強さに仕事どころではないことがわかったという。

ガラスに鏡面のフィルムを貼ることで日射対策を行ったが、フィルムのせいでガラスが熱割れを起こすなど、とても理想と言える状態ではなかった。そのため、2012年の改修の際にはLow-Eガラスにファサードを交換し、空調システムも改善することで40%のエネルギーの削減を行った。

今回のリノベーション提案ではダブルスキンのファサードにすることによってさらなるエネルギーの削減を目指した。気象の分析をしたところ、夏に夜間換気をして室内を冷やすことが効果的だということがわかったので、既存の構造体の熱容量を利用しながら放射空調を行うことにした。

日射制御に対する回答として、ダブルスキン内に機械制御のルーバーを入れた。現実にはコストがかかりすぎて不可能かもしれないが、ルーバーが日中に太陽の方位を追尾することで最大限効率よく日射を遮蔽するというシステムだ。

ただ、ルーバーというのは日と影のコントラストが強くなりグレアとして仕事の邪魔になるのが問題である。しかし、ルーバーの大きさを小さくすればするほど、グレアが軽減されることがわかった。最終的には5cm角ぐらいのルーバーが太陽を追尾しながら日射を遮蔽し、日が当たって無い時はモーターがOFFとなり、ダブルスキン内の風でゆらめくというストーリーを描いた。

ダブルスキンというファサードは環境性能がとても高いのだが、ガラス2枚で外界と隔てられる分、人と自然との距離が遠くなり、まるで透明な冷蔵庫の中にいるような錯覚にとらわれるのが問題である。今回の提案では、ダブルスキンの内部に外部環境を可視化するデバイスを入れることによって、人と自然との新しい関係性を提案することができた。

個人的にはもっとコンピューテーション的な面をガリガリ行いたかったのだが、しかりと史実に基づいたアイディアの提案として、かなりフレッシュなものが見せられたのではないかと思う。また、英語圏のロジックの中で、説得力のある環境シミュレーションと、デザインの意志のある魅力的な提案ができたことが、何よりの収穫かもしれない。

プロとしてはまだ足りない面があるのは自覚している。しかし、英語圏のロジカルさと日本語圏の自然に対するまなざしを両立した提案という路線は、これからも続けていきたい。