「カリフォルニア州ヨコハマ町」トシオ・モリ
1935年から41年にかけて書かれ、1942年に
発表される予定だったものの、太平洋戦争
勃発のためにその7年後の1949年に刊行され
た本。アメリカはカリフォルニア州の
ヨコハマ町(架空の場所)を舞台に戦前の
日系社会の日常が描かれている22編から
なる短編集。作者のモリさんは日系アメ
リカ文学の先駆者。
写真のこの日本語訳版は英語版刊行から
さらに29年経った1978年に出版されました。
トシオ・モリが亡くなる2年前のこと。
(調べてみたら4月12日が命日(1980年))
まず最初にモリさん宛てに向けられて書かれた
序文があるんやけど、それが素晴らしい。
そして後書きでなぜタイトルが「カリフォル
ニア州ヨコハマ町」なのかにも触れられて
いて、本の中身だけじゃないところに触れる
ことができたのが個人的にとてもよかった。
ヨコハマ町は架空の町ではあるけど、
作者が住んでいた町が舞台になっている
ようです。この当時の実際の日系社会に
暮らしていた多くの人たちはきっとこん
なかんじだったんだろうなぁというのが
すごく伝わってくる貴重な短編の集まり
に感じました。主人公が各短編集によって
異なるので、その数だけ日系社会の
様子が知れた気がしてよかった。
英語版は読んでないけど、日本語訳では
モリさんのご出身の広島弁で会話が
進んでいくところがまた味があって
よかった。
同時にこの短編集が書かれたころのアメ
リカでの日系アメリカ人の人たちが置か
れていた状況とその後実際に起こる
強制収容のことなどを考えると何とも
言えない気持ちに襲われずにはいられ
なかった。
この本も大学院でのアジア系アメリカ
文学に焦点を充てたアメリカ文学の
授業履修の際に見つけて手に入れた
本。書評の一つがたしか「鬱々と悲し
いだけ」みたいに書かれてあったので
購入後しばらく本を開けることは
なかった(自分の状況的には読むのに
すごく労力が必要になるから)。でも
今回思い切って読んでみてよかった
です。