HANAHANA(0:2:0)
大魔女ユーフォリア:おおまじょ ゆーふぉりあ 家事が苦手。絵を描くのがすき。
ブーケ:ぶーけ 家事が得意 心配性 彼氏います
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: 「HANAHANA(はなはな)」
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0:ここは、大魔女と一人の少女が暮らした「魔女のアトリエ」
0:部屋の真ん中で、一人の女性がキャンバスに向かい
0:一人の女性が、身体を強張らせながら、椅子に腰かけている。
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大魔女ユーフォリア:動かないで。
ブーケ:ごめんなさい。
大魔女ユーフォリア:ううん、大丈夫。そのままね。
ブーケ:はい。
大魔女ユーフォリア:・・・(真剣に絵を描くことに熱中している様子)
ブーケ:・・・あの
大魔女ユーフォリア:動かないで。
ブーケ:ご、ごめんなさい。
大魔女ユーフォリア:今一番大事なところだから。
ブーケ:は、はい(息すらも止め始める)
大魔女ユーフォリア:・・・(真剣に絵を描いている)
ブーケ:・・・(息が苦しそうになってきている)
大魔女ユーフォリア:息はしていい。
ブーケ:あっ!そ、そうなんですね!よかった!流石に苦しいなって!
大魔女ユーフォリア:動かないで
ブーケ:うう、ごめんなさい。
大魔女ユーフォリア:大丈夫。
ブーケ:・・・
大魔女ユーフォリア:・・・よし、いいよ、少し休憩にしよう
ブーケ:ふー!よかった!
大魔女ユーフォリア:お疲れ様。
ブーケ:い、いえ!こちらこそ
大魔女ユーフォリア:ハーブティーでも飲む?
ブーケ:あ、はい!いただきます!
大魔女ユーフォリア:お砂糖は?
ブーケ:無しで大丈夫です!
大魔女ユーフォリア:よかった、ちょうど切らしてた
ブーケ:あはは、なーんだ!欲しいって言ってたらどうしてたんですか?
大魔女ユーフォリア:魔法で出してた
ブーケ:魔法の使い方もったいないですよ!
大魔女ユーフォリア:問題ないよ
ブーケ:むしろ、魔法で砂糖なんて出せるんですか?
大魔女ユーフォリア:できるよ
ブーケ:えーすごい!
大魔女ユーフォリア:まず木の魔法で、サトウキビを生やす。
大魔女ユーフォリア:そのあとそのサトウキビを生命の魔法で成長させ
大魔女ユーフォリア:風の魔法でサトウキビをしぼり・・・
ブーケ:ちょちょちょ、ちょっと、まって、ちょっと待ってください
大魔女ユーフォリア:なんで?
ブーケ:なんかこう、もっと、パーっと!砂糖をザザザザーっと出せたりしないんですか?
大魔女ユーフォリア:そんな便利なものあったら世の中は砂糖であふれかえってるよ
ブーケ:わりと魔法って、現実的なんですね・・・
大魔女ユーフォリア:そうだね、結局は「何かの補助をする」というのが魔法かな
大魔女ユーフォリア:数式の配列や、魔法陣の組み方で、大気中にあふれている魔素を集めて
大魔女ユーフォリア:それを「目的のもの」に添えてあげる、というのが「魔法」だからね
ブーケ:なるほど・・・科学みたいなものなんですね
大魔女ユーフォリア:そうだね。錬金術、なんて言い方もできるだろうしね。大きく変わらないと思うよ。
ブーケ:ほえー・・・
大魔女ユーフォリア:そのもの本来の力を促進させたり、ものとものを組み合わせるのが科学なら
大魔女ユーフォリア:魔法とは、その組み合わせるものが「自分」だったり
大魔女ユーフォリア:はたまた大地の「魔素」だったり。
大魔女ユーフォリア:そんな違いだよ。
ブーケ:勉強になります。
大魔女ユーフォリア:はい、ハーブティ
ブーケ:わ、ありがとうございます
大魔女ユーフォリア:いい香りだろう?
ブーケ:はい、すごくさわやかな香り。(ごくりとひとのみ)あたたかくて、おいしい。
大魔女ユーフォリア:よかった
ブーケ:・・・絵、完成しそうですか?
大魔女ユーフォリア:うん、多分。このまま行けばもうすぐで。
ブーケ:よかった。間に合いそう。
大魔女ユーフォリア:そうだね
ブーケ:絵のモデルなんて初めてやるけど、大変なんですね、案外。
大魔女ユーフォリア:動かない、というのは大変だよね。申し訳ない。
ブーケ:い、いえ!ちょっと疲れるけど、でも、貴重な体験です。
大魔女ユーフォリア:そう言ってもらえるなら、うん、よかった
ブーケ:へへへ
大魔女ユーフォリア:ヌードのほうがよかったかな?
ブーケ:だ、だめです!ヌードはだめ!
大魔女ユーフォリア:どうして?きっと喜ぶだろう?
ブーケ:だ、だめですよ!そんなの恥ずかしくて!
大魔女ユーフォリア:へるもんじゃなし
ブーケ:減ります!
大魔女ユーフォリア:なにが?
ブーケ:こころが!!!
大魔女ユーフォリア:えー、そうかなあ?
ブーケ:そうですよ!見られたら見られるたびに、なにかこう、大切なものが
ブーケ:ごりごりごりって
大魔女ユーフォリア:そういうもの?
ブーケ:そういうものです!
大魔女ユーフォリア:メンタルを回復する魔法、あるよ?
ブーケ:それでもだめ!
大魔女ユーフォリア:けち
ブーケ:けちってなんですか!さてはやりたかっただけですね!?
大魔女ユーフォリア:ばれた
ブーケ:ばらしにきたようなものじゃないですか!
大魔女ユーフォリア:たしかに
ブーケ:・・・ふふ
大魔女ユーフォリア:・・・・ふ
ブーケ:ははは!もう、大魔女「ユーフォリア」様でも、そんな風に冗談言ったりするんですね
大魔女ユーフォリア:君は魔女をなんだと思ってるんだい、「ブーケ」
ブーケ:なんかこう、もっと「ひーっひっひっひ」って怪しく大きな釜をこう、こう、
大魔女ユーフォリア:何か煮込むみたいに?
ブーケ:そうです!
大魔女ユーフォリア:やったほうがいい?やっぱりそれ
ブーケ:え?
大魔女ユーフォリア:よく言われる。魔女らしくそういった情緒を守れ、みたいなの。
ブーケ:・・・黒い服で?
大魔女ユーフォリア:そう、あとすごく長い鷲鼻(わしばな)で
ブーケ:焼きヤモリとか入れたり?
大魔女ユーフォリア:蝙蝠(こうもり)の目玉とか?
ブーケ:・・・似合わないです!なんか!
大魔女ユーフォリア:ははは、そうだよね
ブーケ:そうですよ、どう見ても普通のかわいらしい絵描きさんじゃないですか
大魔女ユーフォリア:うん、そうだよね
ブーケ:はい。ユーフォリア様はそれでいいと思います。
大魔女ユーフォリア:ありがとう、ブーケ
ブーケ:ここも、「魔女の家」っていうよりは
大魔女ユーフォリア:アトリエみたいだろう?
ブーケ:はい、こういうのってなんて言うんでしたっけ?
大魔女ユーフォリア:ツリーハウス。
ブーケ:あ、そうそう!それです!自然をそのまま壊さない感じがして、すごく素敵。大好きだったー。
大魔女ユーフォリア:気に入ってもらえてて、よかった。この小さい窓から陽の光が入るのが最高でね。
ブーケ:私も、すき。ほんとに。
大魔女ユーフォリア:ああ、気持ちがいいよね
ブーケ:・・・ふぁ、眠くなっちゃいます
大魔女ユーフォリア:はは、気持ちはわかる
ブーケ:ふふ、でもダメですよね。間に合わなくなっちゃう。
大魔女ユーフォリア:・・・そうだね
ブーケ:・・・ねえ、ユーフォリア様?
大魔女ユーフォリア:・・・なんだい
ブーケ:さっき、魔法は「何かの補助をする」って言ってましたよね
大魔女ユーフォリア:・・・ああ
ブーケ:いま、私にかかってるのは、なんの魔法なんですか?
大魔女ユーフォリア:・・・魔法じゃないよ
ブーケ:魔法じゃないんですか?
大魔女ユーフォリア:ああ、魔法では、死んだ人間を蘇らせることなんて、できないからね
ブーケ:そっか。私が生きてたら、それを補助することはできるけど
大魔女ユーフォリア:・・・ああ、死んでしまっていたら補助できるのは、「腐食」だけだ。
ブーケ:腐食かあ。
大魔女ユーフォリア:・・・ああ
ブーケ:じゃあ、今私にかかってるのはなんなんですか?
大魔女ユーフォリア:・・・「魔導」、だね。
ブーケ:「魔導」・・・。
大魔女ユーフォリア:ああ、すべてを「魔素」の力にゆだねて、魂や肉体すらも顕現させる「禁忌」だ。
ブーケ:禁忌・・・
大魔女ユーフォリア:・・・
ブーケ:ごめんなさい、私なんかの為に
大魔女ユーフォリア:何を言ってる、ブーケ相手だから、使ったんだ
ブーケ:うれしい
大魔女ユーフォリア:・・・ごめん、ブーケ
ブーケ:なにがですか?
大魔女ユーフォリア:恋人と、会わせてやることもできない。私の使える力では、今日一日しか魔素がもたない
ブーケ:いいんです、それは、ユーフォリア様が謝ることなんかじゃないです
大魔女ユーフォリア:・・・
ブーケ:彼も、今生きてるかどうかわからないもの
大魔女ユーフォリア:・・・クリスタだったか?
ブーケ:はい、クリスタ共和国の最前線。多分、使い捨ての歩兵ですよ。
大魔女ユーフォリア:・・・きっと、生きて戻るさ
ブーケ:ふふ、そうですね、うん、そうなってほしい
大魔女ユーフォリア:なるさ
ブーケ:魔女のカン、ですか?
大魔女ユーフォリア:・・・いや、違う、けれども
ブーケ:ふふ、ウソがつけないところ、大好きです
大魔女ユーフォリア:・・・続きを描こう。顔はもう描けたから、あとは身体だけ。
ブーケ:よかった、じゃあ、お話はしても平気ですか?
大魔女ユーフォリア:ああ、大丈夫
ブーケ:消えちゃうギリギリまで、お話できますね
大魔女ユーフォリア:そうだね
ブーケ:ふふ、よかった
大魔女ユーフォリア:うれしそうだな、なんだか
ブーケ:うん、うれしいですよ
大魔女ユーフォリア:消えちゃうのにか?
ブーケ:ええ、消えちゃうのに
大魔女ユーフォリア:なんでうれしいんだよ・・・
ブーケ:だって、一度は消えてしまったいのちですもの
大魔女ユーフォリア:それは、そうだけど
ブーケ:今は、そう、いわゆる「お菓子についてくるおまけ」みたいな
大魔女ユーフォリア:おまけ。
ブーケ:そう、そういう「ちょっとうれしい」が詰まった、そんな時間だから
大魔女ユーフォリア:うん
ブーケ:だから、消えちゃうっていう事実よりも
大魔女ユーフォリア:よりも?
ブーケ:いまこうして、「存在できている」ということのほうが
ブーケ:なんだかうれしくって
大魔女ユーフォリア:・・・ブーケ
ブーケ:だから、ね。ユーフォリア様。そんな悲しい顔しないで。
大魔女ユーフォリア:・・・ごめん
ブーケ:描いてください、ユーフォリア様
大魔女ユーフォリア:・・・わかった(キャンバスに向かい、絵を描き始める)
ブーケ:・・・うれしい
大魔女ユーフォリア:うんと、かわいく描いてやる
ブーケ:服をですか?
大魔女ユーフォリア:そうだ
ブーケ:普通でいいですよ!
大魔女ユーフォリア:そうか?
ブーケ:そうです、普通の、ありのままの私で大丈夫です
大魔女ユーフォリア:わかった。
ブーケ:・・・ユーフォリア様は、明日から、どうしますか?
大魔女ユーフォリア:・・・どうもしないさ。
ブーケ:ほんとですか?
大魔女ユーフォリア:ああ、いつも通りの毎日を過ごすだけ。
ブーケ:ほんとうに?
大魔女ユーフォリア:・・・朝食のトーストは、焦がすかもしれない。
ブーケ:魔法に頼っちゃだめですよ?
大魔女ユーフォリア:トーストを上手く焼く魔法なんてあったら、世の中トーストで溢れかえってる
ブーケ:はは。たしかに
大魔女ユーフォリア:洗濯も、なんとかなる
ブーケ:ほんとうに?
大魔女ユーフォリア:・・・なるさ
ブーケ:あ、洗濯をなんとかする魔法、あるんでしょ?
大魔女ユーフォリア:う・・・
ブーケ:だーめ、だめですよ。ちゃんとタライに水を汲んで、しっかり「しゃぼん」で汚れを落として
ブーケ:それから洗濯板でごしごし洗わなきゃ
大魔女ユーフォリア:加減がわからないんだよ
ブーケ:そんなに難しくないですって!簡単ですよ!魔法陣覚えるより簡単!
大魔女ユーフォリア:魔法陣には答えがあるだろ?私は数学脳なんだよ
ブーケ:お洗濯だって、言ってしまえば科学ですよ!最終的に「きれいになるか」「ならないか」の2極です
大魔女ユーフォリア:とは言ってもなあ
ブーケ:・・・踏み洗い、とかでもいいんですよ
大魔女ユーフォリア:そんな方法があるのか。踏むだけ?
ブーケ:はい、踏むだけです。
大魔女ユーフォリア:それならできそうだ
ブーケ:へへ・・・よかった。
大魔女ユーフォリア:ありがとう、ブーケ
ブーケ:・・・井戸の水、ちゃんと汲んでくださいね
大魔女ユーフォリア:・・・ああ
ブーケ:郵便ポストは、毎朝、鶏が鳴くころには覗いてくださいね
大魔女ユーフォリア:わかってる
ブーケ:裏の畑のキイチゴの収穫時期は、メモに書いてありますから
大魔女ユーフォリア:わかってるよ
ブーケ:・・・ユーフォリア様?
大魔女ユーフォリア:大丈夫だから
ブーケ:・・・ユーフォリア
大魔女ユーフォリア:私は、大丈夫だから、もっと、もっと恋人のこと考えてやってくれ
ブーケ:・・・
大魔女ユーフォリア:私は、大丈夫だから・・・私は・・・
ブーケ:ねえ、ユーフォリア、はじめて会った時のこと、覚えてる?
大魔女ユーフォリア:・・・
ブーケ:あの時はまだ私は、言葉の読み書きもできなくて
大魔女ユーフォリア:ブーケ
ブーケ:いっぱいいっぱい、家事も、勉強も、教えてもらって
大魔女ユーフォリア:・・・気づいたら家事は、ブーケのほうがうまくなってた
ブーケ:教え方がよかったんですよ
大魔女ユーフォリア:ブーケには才能があったんだ
ブーケ:そうかな、そうだといいな
大魔女ユーフォリア:・・・
ブーケ:はじめて喧嘩したのはさ、私が森の奥に勝手に行って、夕方まで帰らなかった時
大魔女ユーフォリア:ああ、すごく心配したんだ
ブーケ:そうだよね、覚えてる。ユーフォリア、いっぱい泣いてた。
大魔女ユーフォリア:当たり前だ。クマにでも食われてたらどうしようかと
ブーケ:私も不安だった、このまま帰れないんじゃないかって
大魔女ユーフォリア:どうして、森の奥までいったんだ?
ブーケ:あの日、なんの日だったか覚えてない?
大魔女ユーフォリア:覚えてない
ブーケ:もう
大魔女ユーフォリア:ごめん
ブーケ:ユーフォリアの誕生日だったじゃない
大魔女ユーフォリア:・・・そうだったか?
ブーケ:そうだよ!もう、いつまでたっても自分の誕生日、覚えないんだから
大魔女ユーフォリア:だってもう、500年は生きてるし、なんかもうさ
ブーケ:実感ないのはわかるけど、こういうのが大事なんだから
大魔女ユーフォリア:・・・肝に銘じておく
ブーケ:・・・絶対だよ
大魔女ユーフォリア:ああ、約束する
ブーケ:・・・花をさ、取りに行きたかったの
大魔女ユーフォリア:花?
ブーケ:うん、花。
大魔女ユーフォリア:そんな事考えてたのか
ブーケ:そうだよ、知らなかったでしょ
大魔女ユーフォリア:ああ、知らなかった
ブーケ:私の名前の意味ってさ、「花束」って意味なんでしょ
大魔女ユーフォリア:・・・そうだよ
ブーケ:だからね、花を渡したかったの
大魔女ユーフォリア:そう、か
ブーケ:・・・きれいに描いてね、ユーフォリア様
大魔女ユーフォリア:・・・まかせておけ、お前の恋人が、一生忘れられないくらいの
大魔女ユーフォリア:絶世の美人に描いてやるから。
大魔女ユーフォリア:それこそ、王都の教会や、画廊なんかに、大々的に掲げられるくらいの
大魔女ユーフォリア:超大作を描いてやる。
大魔女ユーフォリア:だから、安心しろ、ブーケ
ブーケ:違うよ
大魔女ユーフォリア:え?
ブーケ:ふふ、そんなすごい感じに描かなくても、いいんだよ
大魔女ユーフォリア:なんでだ?喜ばせたいだろう?恋人を
ブーケ:ちがうの
大魔女ユーフォリア:ええ?
ブーケ:もう、ほんとに。鈍いんだから。
大魔女ユーフォリア:んん?
ブーケ:明日、誕生日なんだよ。ユーフォリア様の。
大魔女ユーフォリア:・・・そうだったか?
ブーケ:そうだよ
大魔女ユーフォリア:・・・覚えてなかった
ブーケ:やっぱり
大魔女ユーフォリア:ごめん
ブーケ:ふふ、そうだろうと思ってた
大魔女ユーフォリア:ごめん
ブーケ:・・・私の絵、をね
大魔女ユーフォリア:うん
ブーケ:このアトリエに、飾ってね
大魔女ユーフォリア:え・・・
ブーケ:きっと、絶対、さみしくなる夜が来るから
大魔女ユーフォリア:・・・
ブーケ:絶対、絶対、さみしくて、トーストも上手く焼けなくて
ブーケ:洗濯の、「しゃぼん」の量もわからなくて
ブーケ:ポストも、一週間近く覗くのを忘れて
ブーケ:さみしくて、さみしくなる夜が、くる、から
大魔女ユーフォリア:・・・ブーケ
ブーケ:そうなったとき、私が、傍にいるって、ちゃんと、思えるように
大魔女ユーフォリア:・・・
ブーケ:ごめん、ごめんね、ごめん
大魔女ユーフォリア:・・・
ブーケ:ほんとうは、花を、摘みにいきたかったけど
ブーケ:花は、枯れちゃうから、無くなっちゃうから
ブーケ:私の名前は、「ブーケ」だから
ブーケ:私そのものが、貴女への、「花束」になれたらいいなって
大魔女ユーフォリア:・・・ブーケ
ブーケ:ちゃんと、ちゃんとご飯食べてね
ブーケ:研究にばっかり集中しちゃだめだよ
ブーケ:ちゃんと、たまには、王都までいって
ブーケ:人と、お話しないと、脳みそ、腐っちゃうから
大魔女ユーフォリア:うん
ブーケ:それから、砂糖は、ミモザさんのところのが、一番おいしいんだからね
大魔女ユーフォリア:うん
ブーケ:大麦ばっかり食べちゃ、だめ、だよ
大魔女ユーフォリア:うん
ブーケ:お肉とか、お野菜とか、好き嫌いも
大魔女ユーフォリア:しない
ブーケ:魔法ばっかりに、頼ったら、だめだから
大魔女ユーフォリア:大丈夫だよ
ブーケ:うう、こんなこと話したいわけじゃないのに
大魔女ユーフォリア:大丈夫、大丈夫だよ、ブーケ
ブーケ:うん
大魔女ユーフォリア:うん
ブーケ:長生きしてね、ユーフォリア
大魔女ユーフォリア:もう充分長いよ
ブーケ:そっか、それもそうだ、はは
大魔女ユーフォリア:ふふ
ブーケ:・・・ねえ、ユーフォリア
大魔女ユーフォリア:・・・なんだ?
ブーケ:ずっと呼べなかった名前で、呼んでみてもいい?
大魔女ユーフォリア:なんだ、いきなり
ブーケ:だって、ずっと呼びづらくて
大魔女ユーフォリア:・・・いいよ
ブーケ:へへ、ありがとう
ブーケ:ユーフォリアにとっては、ほんの数十年だから、一瞬のことかもしれないけど
ブーケ:私はね、この命を、全身全霊かけてもいいくらい
ブーケ:大事な、大事な、数十年だったよ
ブーケ:ありがとう、大好きだよ、「お母さん」
大魔女ユーフォリア:・・・
ブーケ:へへ、やっと言えた
大魔女ユーフォリア:ばか
ブーケ:へへへ、なんか変なかんじ。
ブーケ:でも、すっごく、達成感みたいな(プツリとブーケの言葉が聞こえなくなる)
大魔女ユーフォリア:・・・ブーケ?
大魔女ユーフォリア:ブーケ?
0:ブーケの姿は見えない。時計の針は、昨日少女を蘇らせた時間と同じ時間を指している。
大魔女ユーフォリア:・・・私のほうこそ、ありがとう、ブーケ・・・
0:ここは、大魔女と一人の少女が暮らした「魔女のアトリエ」
0:そこにはこの世で一番大切な、魔女の「花」が飾ってあるらしい。