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臍帯とカフェイン

HANAHANA(0:2:0)

2023.04.10 06:57

大魔女ユーフォリア:おおまじょ ゆーふぉりあ 家事が苦手。絵を描くのがすき。

ブーケ:ぶーけ 家事が得意 心配性 彼氏います

 : 

 : 

 : 

 : 「HANAHANA(はなはな)」

 : 

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 : 

 : 

 : 

 : 

 : 

 : 

0:ここは、大魔女と一人の少女が暮らした「魔女のアトリエ」


0:部屋の真ん中で、一人の女性がキャンバスに向かい


0:一人の女性が、身体を強張らせながら、椅子に腰かけている。


 : 

大魔女ユーフォリア:動かないで。


ブーケ:ごめんなさい。


大魔女ユーフォリア:ううん、大丈夫。そのままね。


ブーケ:はい。


大魔女ユーフォリア:・・・(真剣に絵を描くことに熱中している様子)


ブーケ:・・・あの


大魔女ユーフォリア:動かないで。


ブーケ:ご、ごめんなさい。


大魔女ユーフォリア:今一番大事なところだから。


ブーケ:は、はい(息すらも止め始める)


大魔女ユーフォリア:・・・(真剣に絵を描いている)


ブーケ:・・・(息が苦しそうになってきている)


大魔女ユーフォリア:息はしていい。


ブーケ:あっ!そ、そうなんですね!よかった!流石に苦しいなって!


大魔女ユーフォリア:動かないで


ブーケ:うう、ごめんなさい。


大魔女ユーフォリア:大丈夫。


ブーケ:・・・


大魔女ユーフォリア:・・・よし、いいよ、少し休憩にしよう


ブーケ:ふー!よかった!


大魔女ユーフォリア:お疲れ様。


ブーケ:い、いえ!こちらこそ


大魔女ユーフォリア:ハーブティーでも飲む?


ブーケ:あ、はい!いただきます!


大魔女ユーフォリア:お砂糖は?


ブーケ:無しで大丈夫です!


大魔女ユーフォリア:よかった、ちょうど切らしてた


ブーケ:あはは、なーんだ!欲しいって言ってたらどうしてたんですか?


大魔女ユーフォリア:魔法で出してた


ブーケ:魔法の使い方もったいないですよ!


大魔女ユーフォリア:問題ないよ


ブーケ:むしろ、魔法で砂糖なんて出せるんですか?


大魔女ユーフォリア:できるよ


ブーケ:えーすごい!


大魔女ユーフォリア:まず木の魔法で、サトウキビを生やす。


大魔女ユーフォリア:そのあとそのサトウキビを生命の魔法で成長させ


大魔女ユーフォリア:風の魔法でサトウキビをしぼり・・・


ブーケ:ちょちょちょ、ちょっと、まって、ちょっと待ってください


大魔女ユーフォリア:なんで?


ブーケ:なんかこう、もっと、パーっと!砂糖をザザザザーっと出せたりしないんですか?


大魔女ユーフォリア:そんな便利なものあったら世の中は砂糖であふれかえってるよ


ブーケ:わりと魔法って、現実的なんですね・・・


大魔女ユーフォリア:そうだね、結局は「何かの補助をする」というのが魔法かな

大魔女ユーフォリア:数式の配列や、魔法陣の組み方で、大気中にあふれている魔素を集めて

大魔女ユーフォリア:それを「目的のもの」に添えてあげる、というのが「魔法」だからね


ブーケ:なるほど・・・科学みたいなものなんですね


大魔女ユーフォリア:そうだね。錬金術、なんて言い方もできるだろうしね。大きく変わらないと思うよ。


ブーケ:ほえー・・・


大魔女ユーフォリア:そのもの本来の力を促進させたり、ものとものを組み合わせるのが科学なら

大魔女ユーフォリア:魔法とは、その組み合わせるものが「自分」だったり

大魔女ユーフォリア:はたまた大地の「魔素」だったり。

大魔女ユーフォリア:そんな違いだよ。


ブーケ:勉強になります。


大魔女ユーフォリア:はい、ハーブティ


ブーケ:わ、ありがとうございます


大魔女ユーフォリア:いい香りだろう?


ブーケ:はい、すごくさわやかな香り。(ごくりとひとのみ)あたたかくて、おいしい。


大魔女ユーフォリア:よかった


ブーケ:・・・絵、完成しそうですか?


大魔女ユーフォリア:うん、多分。このまま行けばもうすぐで。


ブーケ:よかった。間に合いそう。


大魔女ユーフォリア:そうだね


ブーケ:絵のモデルなんて初めてやるけど、大変なんですね、案外。


大魔女ユーフォリア:動かない、というのは大変だよね。申し訳ない。


ブーケ:い、いえ!ちょっと疲れるけど、でも、貴重な体験です。


大魔女ユーフォリア:そう言ってもらえるなら、うん、よかった


ブーケ:へへへ


大魔女ユーフォリア:ヌードのほうがよかったかな?


ブーケ:だ、だめです!ヌードはだめ!


大魔女ユーフォリア:どうして?きっと喜ぶだろう?


ブーケ:だ、だめですよ!そんなの恥ずかしくて!


大魔女ユーフォリア:へるもんじゃなし


ブーケ:減ります!


大魔女ユーフォリア:なにが?


ブーケ:こころが!!!


大魔女ユーフォリア:えー、そうかなあ?


ブーケ:そうですよ!見られたら見られるたびに、なにかこう、大切なものが

ブーケ:ごりごりごりって


大魔女ユーフォリア:そういうもの?


ブーケ:そういうものです!


大魔女ユーフォリア:メンタルを回復する魔法、あるよ?


ブーケ:それでもだめ!


大魔女ユーフォリア:けち


ブーケ:けちってなんですか!さてはやりたかっただけですね!?


大魔女ユーフォリア:ばれた


ブーケ:ばらしにきたようなものじゃないですか!


大魔女ユーフォリア:たしかに


ブーケ:・・・ふふ


大魔女ユーフォリア:・・・・ふ


ブーケ:ははは!もう、大魔女「ユーフォリア」様でも、そんな風に冗談言ったりするんですね


大魔女ユーフォリア:君は魔女をなんだと思ってるんだい、「ブーケ」


ブーケ:なんかこう、もっと「ひーっひっひっひ」って怪しく大きな釜をこう、こう、


大魔女ユーフォリア:何か煮込むみたいに?


ブーケ:そうです!


大魔女ユーフォリア:やったほうがいい?やっぱりそれ


ブーケ:え?


大魔女ユーフォリア:よく言われる。魔女らしくそういった情緒を守れ、みたいなの。


ブーケ:・・・黒い服で?


大魔女ユーフォリア:そう、あとすごく長い鷲鼻(わしばな)で


ブーケ:焼きヤモリとか入れたり?


大魔女ユーフォリア:蝙蝠(こうもり)の目玉とか?


ブーケ:・・・似合わないです!なんか!


大魔女ユーフォリア:ははは、そうだよね


ブーケ:そうですよ、どう見ても普通のかわいらしい絵描きさんじゃないですか


大魔女ユーフォリア:うん、そうだよね


ブーケ:はい。ユーフォリア様はそれでいいと思います。


大魔女ユーフォリア:ありがとう、ブーケ


ブーケ:ここも、「魔女の家」っていうよりは


大魔女ユーフォリア:アトリエみたいだろう?


ブーケ:はい、こういうのってなんて言うんでしたっけ?


大魔女ユーフォリア:ツリーハウス。


ブーケ:あ、そうそう!それです!自然をそのまま壊さない感じがして、すごく素敵。大好きだったー。


大魔女ユーフォリア:気に入ってもらえてて、よかった。この小さい窓から陽の光が入るのが最高でね。


ブーケ:私も、すき。ほんとに。


大魔女ユーフォリア:ああ、気持ちがいいよね


ブーケ:・・・ふぁ、眠くなっちゃいます


大魔女ユーフォリア:はは、気持ちはわかる


ブーケ:ふふ、でもダメですよね。間に合わなくなっちゃう。


大魔女ユーフォリア:・・・そうだね


ブーケ:・・・ねえ、ユーフォリア様?


大魔女ユーフォリア:・・・なんだい


ブーケ:さっき、魔法は「何かの補助をする」って言ってましたよね


大魔女ユーフォリア:・・・ああ


ブーケ:いま、私にかかってるのは、なんの魔法なんですか?


大魔女ユーフォリア:・・・魔法じゃないよ


ブーケ:魔法じゃないんですか?


大魔女ユーフォリア:ああ、魔法では、死んだ人間を蘇らせることなんて、できないからね


ブーケ:そっか。私が生きてたら、それを補助することはできるけど


大魔女ユーフォリア:・・・ああ、死んでしまっていたら補助できるのは、「腐食」だけだ。


ブーケ:腐食かあ。


大魔女ユーフォリア:・・・ああ


ブーケ:じゃあ、今私にかかってるのはなんなんですか?


大魔女ユーフォリア:・・・「魔導」、だね。


ブーケ:「魔導」・・・。


大魔女ユーフォリア:ああ、すべてを「魔素」の力にゆだねて、魂や肉体すらも顕現させる「禁忌」だ。


ブーケ:禁忌・・・


大魔女ユーフォリア:・・・


ブーケ:ごめんなさい、私なんかの為に


大魔女ユーフォリア:何を言ってる、ブーケ相手だから、使ったんだ


ブーケ:うれしい


大魔女ユーフォリア:・・・ごめん、ブーケ


ブーケ:なにがですか?


大魔女ユーフォリア:恋人と、会わせてやることもできない。私の使える力では、今日一日しか魔素がもたない


ブーケ:いいんです、それは、ユーフォリア様が謝ることなんかじゃないです


大魔女ユーフォリア:・・・


ブーケ:彼も、今生きてるかどうかわからないもの


大魔女ユーフォリア:・・・クリスタだったか?


ブーケ:はい、クリスタ共和国の最前線。多分、使い捨ての歩兵ですよ。


大魔女ユーフォリア:・・・きっと、生きて戻るさ


ブーケ:ふふ、そうですね、うん、そうなってほしい


大魔女ユーフォリア:なるさ


ブーケ:魔女のカン、ですか?


大魔女ユーフォリア:・・・いや、違う、けれども


ブーケ:ふふ、ウソがつけないところ、大好きです


大魔女ユーフォリア:・・・続きを描こう。顔はもう描けたから、あとは身体だけ。


ブーケ:よかった、じゃあ、お話はしても平気ですか?


大魔女ユーフォリア:ああ、大丈夫


ブーケ:消えちゃうギリギリまで、お話できますね


大魔女ユーフォリア:そうだね


ブーケ:ふふ、よかった


大魔女ユーフォリア:うれしそうだな、なんだか


ブーケ:うん、うれしいですよ


大魔女ユーフォリア:消えちゃうのにか?


ブーケ:ええ、消えちゃうのに


大魔女ユーフォリア:なんでうれしいんだよ・・・


ブーケ:だって、一度は消えてしまったいのちですもの


大魔女ユーフォリア:それは、そうだけど


ブーケ:今は、そう、いわゆる「お菓子についてくるおまけ」みたいな


大魔女ユーフォリア:おまけ。


ブーケ:そう、そういう「ちょっとうれしい」が詰まった、そんな時間だから


大魔女ユーフォリア:うん


ブーケ:だから、消えちゃうっていう事実よりも


大魔女ユーフォリア:よりも?


ブーケ:いまこうして、「存在できている」ということのほうが


ブーケ:なんだかうれしくって


大魔女ユーフォリア:・・・ブーケ


ブーケ:だから、ね。ユーフォリア様。そんな悲しい顔しないで。


大魔女ユーフォリア:・・・ごめん


ブーケ:描いてください、ユーフォリア様


大魔女ユーフォリア:・・・わかった(キャンバスに向かい、絵を描き始める)


ブーケ:・・・うれしい


大魔女ユーフォリア:うんと、かわいく描いてやる


ブーケ:服をですか?


大魔女ユーフォリア:そうだ


ブーケ:普通でいいですよ!


大魔女ユーフォリア:そうか?


ブーケ:そうです、普通の、ありのままの私で大丈夫です


大魔女ユーフォリア:わかった。


ブーケ:・・・ユーフォリア様は、明日から、どうしますか?


大魔女ユーフォリア:・・・どうもしないさ。


ブーケ:ほんとですか?


大魔女ユーフォリア:ああ、いつも通りの毎日を過ごすだけ。


ブーケ:ほんとうに?


大魔女ユーフォリア:・・・朝食のトーストは、焦がすかもしれない。


ブーケ:魔法に頼っちゃだめですよ?


大魔女ユーフォリア:トーストを上手く焼く魔法なんてあったら、世の中トーストで溢れかえってる


ブーケ:はは。たしかに


大魔女ユーフォリア:洗濯も、なんとかなる


ブーケ:ほんとうに?


大魔女ユーフォリア:・・・なるさ


ブーケ:あ、洗濯をなんとかする魔法、あるんでしょ?


大魔女ユーフォリア:う・・・


ブーケ:だーめ、だめですよ。ちゃんとタライに水を汲んで、しっかり「しゃぼん」で汚れを落として


ブーケ:それから洗濯板でごしごし洗わなきゃ


大魔女ユーフォリア:加減がわからないんだよ


ブーケ:そんなに難しくないですって!簡単ですよ!魔法陣覚えるより簡単!


大魔女ユーフォリア:魔法陣には答えがあるだろ?私は数学脳なんだよ


ブーケ:お洗濯だって、言ってしまえば科学ですよ!最終的に「きれいになるか」「ならないか」の2極です


大魔女ユーフォリア:とは言ってもなあ


ブーケ:・・・踏み洗い、とかでもいいんですよ


大魔女ユーフォリア:そんな方法があるのか。踏むだけ?


ブーケ:はい、踏むだけです。


大魔女ユーフォリア:それならできそうだ


ブーケ:へへ・・・よかった。


大魔女ユーフォリア:ありがとう、ブーケ


ブーケ:・・・井戸の水、ちゃんと汲んでくださいね


大魔女ユーフォリア:・・・ああ


ブーケ:郵便ポストは、毎朝、鶏が鳴くころには覗いてくださいね


大魔女ユーフォリア:わかってる


ブーケ:裏の畑のキイチゴの収穫時期は、メモに書いてありますから


大魔女ユーフォリア:わかってるよ


ブーケ:・・・ユーフォリア様?


大魔女ユーフォリア:大丈夫だから


ブーケ:・・・ユーフォリア


大魔女ユーフォリア:私は、大丈夫だから、もっと、もっと恋人のこと考えてやってくれ


ブーケ:・・・


大魔女ユーフォリア:私は、大丈夫だから・・・私は・・・


ブーケ:ねえ、ユーフォリア、はじめて会った時のこと、覚えてる?


大魔女ユーフォリア:・・・


ブーケ:あの時はまだ私は、言葉の読み書きもできなくて


大魔女ユーフォリア:ブーケ


ブーケ:いっぱいいっぱい、家事も、勉強も、教えてもらって


大魔女ユーフォリア:・・・気づいたら家事は、ブーケのほうがうまくなってた


ブーケ:教え方がよかったんですよ


大魔女ユーフォリア:ブーケには才能があったんだ


ブーケ:そうかな、そうだといいな


大魔女ユーフォリア:・・・


ブーケ:はじめて喧嘩したのはさ、私が森の奥に勝手に行って、夕方まで帰らなかった時


大魔女ユーフォリア:ああ、すごく心配したんだ


ブーケ:そうだよね、覚えてる。ユーフォリア、いっぱい泣いてた。


大魔女ユーフォリア:当たり前だ。クマにでも食われてたらどうしようかと


ブーケ:私も不安だった、このまま帰れないんじゃないかって


大魔女ユーフォリア:どうして、森の奥までいったんだ?


ブーケ:あの日、なんの日だったか覚えてない?


大魔女ユーフォリア:覚えてない


ブーケ:もう


大魔女ユーフォリア:ごめん


ブーケ:ユーフォリアの誕生日だったじゃない


大魔女ユーフォリア:・・・そうだったか?


ブーケ:そうだよ!もう、いつまでたっても自分の誕生日、覚えないんだから


大魔女ユーフォリア:だってもう、500年は生きてるし、なんかもうさ


ブーケ:実感ないのはわかるけど、こういうのが大事なんだから


大魔女ユーフォリア:・・・肝に銘じておく


ブーケ:・・・絶対だよ


大魔女ユーフォリア:ああ、約束する


ブーケ:・・・花をさ、取りに行きたかったの


大魔女ユーフォリア:花?


ブーケ:うん、花。


大魔女ユーフォリア:そんな事考えてたのか


ブーケ:そうだよ、知らなかったでしょ


大魔女ユーフォリア:ああ、知らなかった


ブーケ:私の名前の意味ってさ、「花束」って意味なんでしょ


大魔女ユーフォリア:・・・そうだよ


ブーケ:だからね、花を渡したかったの


大魔女ユーフォリア:そう、か


ブーケ:・・・きれいに描いてね、ユーフォリア様


大魔女ユーフォリア:・・・まかせておけ、お前の恋人が、一生忘れられないくらいの

大魔女ユーフォリア:絶世の美人に描いてやるから。

大魔女ユーフォリア:それこそ、王都の教会や、画廊なんかに、大々的に掲げられるくらいの

大魔女ユーフォリア:超大作を描いてやる。

大魔女ユーフォリア:だから、安心しろ、ブーケ


ブーケ:違うよ


大魔女ユーフォリア:え?


ブーケ:ふふ、そんなすごい感じに描かなくても、いいんだよ


大魔女ユーフォリア:なんでだ?喜ばせたいだろう?恋人を


ブーケ:ちがうの


大魔女ユーフォリア:ええ?


ブーケ:もう、ほんとに。鈍いんだから。


大魔女ユーフォリア:んん?


ブーケ:明日、誕生日なんだよ。ユーフォリア様の。


大魔女ユーフォリア:・・・そうだったか?


ブーケ:そうだよ


大魔女ユーフォリア:・・・覚えてなかった


ブーケ:やっぱり


大魔女ユーフォリア:ごめん


ブーケ:ふふ、そうだろうと思ってた


大魔女ユーフォリア:ごめん


ブーケ:・・・私の絵、をね


大魔女ユーフォリア:うん


ブーケ:このアトリエに、飾ってね


大魔女ユーフォリア:え・・・


ブーケ:きっと、絶対、さみしくなる夜が来るから


大魔女ユーフォリア:・・・


ブーケ:絶対、絶対、さみしくて、トーストも上手く焼けなくて

ブーケ:洗濯の、「しゃぼん」の量もわからなくて

ブーケ:ポストも、一週間近く覗くのを忘れて

ブーケ:さみしくて、さみしくなる夜が、くる、から


大魔女ユーフォリア:・・・ブーケ


ブーケ:そうなったとき、私が、傍にいるって、ちゃんと、思えるように


大魔女ユーフォリア:・・・


ブーケ:ごめん、ごめんね、ごめん


大魔女ユーフォリア:・・・


ブーケ:ほんとうは、花を、摘みにいきたかったけど

ブーケ:花は、枯れちゃうから、無くなっちゃうから

ブーケ:私の名前は、「ブーケ」だから

ブーケ:私そのものが、貴女への、「花束」になれたらいいなって


大魔女ユーフォリア:・・・ブーケ


ブーケ:ちゃんと、ちゃんとご飯食べてね

ブーケ:研究にばっかり集中しちゃだめだよ

ブーケ:ちゃんと、たまには、王都までいって

ブーケ:人と、お話しないと、脳みそ、腐っちゃうから


大魔女ユーフォリア:うん


ブーケ:それから、砂糖は、ミモザさんのところのが、一番おいしいんだからね


大魔女ユーフォリア:うん


ブーケ:大麦ばっかり食べちゃ、だめ、だよ


大魔女ユーフォリア:うん


ブーケ:お肉とか、お野菜とか、好き嫌いも


大魔女ユーフォリア:しない


ブーケ:魔法ばっかりに、頼ったら、だめだから


大魔女ユーフォリア:大丈夫だよ


ブーケ:うう、こんなこと話したいわけじゃないのに


大魔女ユーフォリア:大丈夫、大丈夫だよ、ブーケ


ブーケ:うん


大魔女ユーフォリア:うん


ブーケ:長生きしてね、ユーフォリア


大魔女ユーフォリア:もう充分長いよ


ブーケ:そっか、それもそうだ、はは


大魔女ユーフォリア:ふふ


ブーケ:・・・ねえ、ユーフォリア


大魔女ユーフォリア:・・・なんだ?


ブーケ:ずっと呼べなかった名前で、呼んでみてもいい?


大魔女ユーフォリア:なんだ、いきなり


ブーケ:だって、ずっと呼びづらくて


大魔女ユーフォリア:・・・いいよ


ブーケ:へへ、ありがとう


ブーケ:ユーフォリアにとっては、ほんの数十年だから、一瞬のことかもしれないけど

ブーケ:私はね、この命を、全身全霊かけてもいいくらい

ブーケ:大事な、大事な、数十年だったよ


ブーケ:ありがとう、大好きだよ、「お母さん」


大魔女ユーフォリア:・・・


ブーケ:へへ、やっと言えた


大魔女ユーフォリア:ばか


ブーケ:へへへ、なんか変なかんじ。

ブーケ:でも、すっごく、達成感みたいな(プツリとブーケの言葉が聞こえなくなる)




大魔女ユーフォリア:・・・ブーケ?

大魔女ユーフォリア:ブーケ?


0:ブーケの姿は見えない。時計の針は、昨日少女を蘇らせた時間と同じ時間を指している。


大魔女ユーフォリア:・・・私のほうこそ、ありがとう、ブーケ・・・


0:ここは、大魔女と一人の少女が暮らした「魔女のアトリエ」

0:そこにはこの世で一番大切な、魔女の「花」が飾ってあるらしい。