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【book】もうひとつの場所〜もの言わぬ者からのメッセージ

2018.05.25 04:45



おそらく一生手放さないだろう、という本がある。

この本もそのひとつ。

2011年にリトルモアから発行された「もうひとつの場所」。




清川あさみ氏の手によって描き出された動物たちに

同じく彼女の手で色とりどりの刺繍が施された

世にも美しい動物図鑑である。



ただ、他の図鑑とはまったく違うのは

それが、「絶滅図鑑」という点だ。






この本は、清川氏がおそらく

一筆一筆、一針一針に祈りを込めながら製作した

美しい鎮魂歌なのである。



これまで、自然界の中でも特異のスピードでヒトが進化するのは

知的好奇心(夢見る力)のせいだと思っていた。

だがもしかしたら、

強すぎる競争心や自分と誰かを比較する行為に伴う感情、

そういうものの方が昨今の進化のスピードを更に高めている

より大きな原因なのかもしれない、とふと思い直した。



この世界には常に2つの相対するエネルギーが同時に存在していて

たとえば女性性と男性性などはその代表である。

(ちなみに、女性の中にも男性性はあるし、男性の中にも当然女性性がある)

競争心や攻撃力、上昇志向などは男性性の特徴だと思うが、

それは現状が行き詰まった時にそこを突破するための

大きな原動力となるし、成長には欠かせないエネルギーだ。

しかし、往々にしてその力が弱いものに向けられることがある。



そのときに抑制力として働くのが

女性性の中の、母性や平等を好む力だと思う。

その相反するものがあるためにわたしたちは、

生きるための環境を壊さぬよう守ることができるはずなのだが。






『美しきりょこうばと


リョコウバトは、その名のとおり渡りをするハトの仲間で、

雄はとても美しい羽を持っています。全盛期にはアメリカに

およそ50億羽もいて、世界でもっとも数の多い陸の野鳥と

いわれていました。

鳥類研究家のオーデュボンは1838年の日記に、リョコウバト

の群れが3日間途切れることなく飛びつづけ、太陽の光も

さえぎられ、空一面が暗くなったと記しています。

しかし、それから100年もたたないうちに、リョコウバトは

絶滅しました』

  ※「もうひとつの場所」より一部抜粋させていただきました




なぜそんなにたくさんいたハトたちが

わずか100年で絶滅したのか、理由は記されていないが

このページにほんとうは描かれるべきものが、

実は描かれていない。

それは、銃を持った人間である。



ハトたちに人間がどんな仕打ちをしたのか

調べればすぐに出てくると思うが、

ある頃は銃口を空に向けて打っただけで

数羽のハトたちが落ちてきたと言われている。



わたしは、不思議なのである。

両手に抱えきれないほどの鳥を自慢する男たちを、

優しく制する女は側にいなかったのだろうか、と。




これはアメリカの話だが、

日本にも残念ながら同じ歴史がある。

「ニッポニア・ニッポン」

まさに日本の中の日本、という学名を冠したトキである。







物言わず、力もなく、

言葉でさえも抵抗する術を持たずに

静かに消えていったものたちを、

永遠に残る結晶になってほしいと願うかのように

この本ではその生きていた頃の想像の姿を

ただただ美しく描き出している。

全72ページで構成されたそのファンタジックな世界のどこにも

ヒトの姿はない。









もうひとつの場所


2011年7月15日発行

著者 清川あさみ

監修 今泉忠明

文  網倉俊旨

デザイン 菊地敦己 

     北原美菜子

発行所 株式会社リトルモア