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紅く色づく季節

恒例行事とプレゼント

2023.04.10 23:04

【詳細】

比率:男1:女1

現代・ラブストーリー・青春

時間:約20分


【あらすじ】

二月。

ゼミの課題発表会のために研究室で作業をする洋一と朱美。

二人ともこの時期に思うことがあるようで……



【登場人物】

朱美:(あけみ)

   大学三年生。

   しっかり者の苦労性。

   洋一とは一年生の時からゼミが一緒。


洋一:(よういち)

   大学三年生。

   自分の仕事はしっかりとこなすタイプ。

   朱美とは一年生の時からゼミが一緒。




●大学の研究室・昼

   研究室でパソコンと資料に向かう朱美と洋一。

   テーブルの上にはゼミ生からの沢山のお菓子が積まれている。


朱美:(お菓子を手でいじりながら)ねぇ

洋一:(パソコンを打ちながら)なんだよ?

朱美:めんどくさいよね~

洋一:(顔を上げ)は? 今更?

朱美:そう、今更だけど、めんどくさい

洋一:仕方ないだろう。恒例行事だ

朱美:恒例行事にしなきゃいいのよ

洋一:それは無理だろ?

朱美:なんで?

洋一:なんでって……ずっと続いてることだから、みんな甘んじて受け入れてるし。自分のためにもなるからいいだろ

朱美:自分のためになんてならないよ!

洋一:は?

朱美:だって、こっちは時間と労力をいっぱい使っても、得られるものなんてそんなにないじゃんか!

洋一:それは自分次第だろ?

朱美:洋一もそっちのタイプの人間だったんだ……

洋一:そっちのタイプって……俺はやらなきゃいけないことをただやってるだけだ。お前もいい加減諦めて手を動かせ、手を

朱美:(ため息)洋一は製菓会社の陰謀に飲まれないような人だと思ってたのに……

洋一:は?

朱美:なによ?

洋一:なんの話だ?

朱美:なんのって、バレンタインの話

洋一:バレンタイン?

朱美:そう、バレンタイン

洋一:……

朱美:なによ?

洋一:いや、いつからそんな話になったんだ?

朱美:いつからって、最初からその話しかしてないけど?

洋一:最初から?

朱美:最初から

洋一:めんどくさいって言うのは?

朱美:バレンタインに女子が男子にお菓子をあげなきゃいけないって文化

洋一:あぁ……じゃあ、労力と時間を使ってもっていうのは……

朱美:バレンタインに手作りでなにか作ったとしても、『わぁ、手作り、ありがとう』って言葉だけで一瞬で終わるじゃん

洋一:……なるほどな

朱美:そうだよ? え? 逆に洋一は何のことだと思ったの?

洋一:ゼミの課題発表会

朱美:……あぁ。いや、なんで、そっちだと思ったの?

洋一:思うだろ、普通。この流れだぞ?

朱美:この流れって?

洋一:休みの日を返上して教授の研究室に来て、課題発表会のレジュメを作っている。この状況でバレンタインの話が来るなんて思わないだろ

朱美:もうすぐバレンタインなのに?

洋一:もうすぐバレンタインだったとしても、俺たちはこの発表会が終わらない限り浮かれてらんないだろ。単位がかかってるんだから

朱美:……あぁ、ここにも思い出したくない現実が……

洋一:現実逃避してないで戻ってこい。お前の班の分、終わってないんだろ?

朱美:……ねぇ、洋一はバレンタインに何をもらいたい?

洋一:おい、現実に戻ってこい

朱美:いいじゃん! ちょっとした休憩時間だって思って相手してよ。さっきから私一人で二時間は資料とにらめっこしてるんだから

洋一:お前の現実逃避に俺を巻き込むな。お前の班の分が終わってないって文句なら同じ班の奴に言え。他の奴はどうしたんだよ?

朱美:一人はインフル、もう一人は他の授業が単位やばいって泣きながら勉強してるところ、もう一人は彼女との別れ話がこじれて今はそれどころじゃないんだって

洋一:インフルと単位については同情するが、最後の一人はまたくだらん理由だな……

朱美:いや、私もそう思ったんだけどね。聞いたら、結構えぐいのよ

洋一:えぐい?

朱美:そう。なんでも、今付き合ってる彼女さんが相当なメンヘラちゃんらしくてさ

洋一:……あぁ、なんとなく察したわ……それはきちんと後腐れなく平和に別れてもらわないとな

朱美:ね? ないとは思うけど、こっちに被害が出たらシャレになんない。ただ女子ってだけで、「あの子と仲良くしてる! 浮気だ!」って騒がれてもねぇ

洋一:確かにな。それで、お前は一人で作業をしていると

朱美:そう。偉いじゃろ?

洋一:普通だ

朱美:ちょっとは褒めてくれてもいいじゃんか! この逆境で頑張ってるんだから!

洋一:お前の班が残念なだけだろ

朱美:……

洋一:な、なんだよ?

朱美:私たちの班のレジュメが出来ないと困るのは洋一たちの班なんだからね

洋一:は?

朱美:私たちの班の発表って洋一の班の前なんだよね。で、私たちの発表の内容を受けての洋一たちの班の発表でしょ? だから、私たちの班が大ゴケしたら困るでしょ?

洋一:……

朱美:ねぇ? 洋一君?

洋一:(ため息)わかったよ。お前の休憩に付き合ってやるよ

朱美:流石、洋一は話がわかるね!

洋一:……半ば脅しだっただろが……

朱美:(無視して)それでね、さっきの話の続きなんだけど、洋一はバレンタインに何もらいたい?

洋一:何って、なんでも

朱美:なんでも?

洋一:流石に消えもの以外はどうしていいかわからないけど、こういうのって大体お菓子とかだろ? だったらなんでもいいよ

朱美:本当に?

洋一:本当に。もらえるならそれだけで嬉しいからな

朱美:ふ~ん

洋一:なんだよ?

朱美:洋一ってさ、今までバレンタインにチョコ以外で何かもらったものってある?

洋一:チョコ以外で?

朱美:そう。あ、親とか身内からのプレゼントは抜かしてね

洋一:……ないな

朱美:え? 本当に?

洋一:記憶にない。というか、そもそもそんなにもらったこともないしな

朱美:な~んだ、つまんない!

洋一:は?

朱美:(ため息)洋一にバレンタインの話は早かったか……

洋一:……おい。なんで俺はこんな扱いされてるんだ?

朱美:え?

洋一:「え?」じゃないだろ! 親切心でお前の息抜きに付き合ってやったのに、なんで俺はお前に呆れられなくちゃならないんだよ!

朱美:だって、バレンタインの女の子の苦労もわからん奴にこの質問しても無意味なんだもん

洋一:はぁ? どういうことだよ?

朱美:(ため息)洋一は知らないようだから教えてあげるけどね、バレンタインに送るお菓子ってそれぞれに意味があるんだよ?

洋一:意味?

朱美:そう。例えば……クッキー。クッキーって、大体贈り物として無難なお菓子じゃん?

洋一:そうだな。溶けたりもしないし、賞味期限長いし、よく差し入れでももらうな

朱美:そう。いいイメージだし、無難って感じがあるけ、バレンタインに送るときは注意がいるの

洋一:注意?

朱美:言ったでしょ? バレンタインにはバレンタイン特有の贈り物の意味ってのが存在してるって。その中でクッキーは『友だちでいましょう』って意味なのよ

洋一:……なるほど。つまり、クッキーを送るのは本命以外にしないといけないってことか……

朱美:そう! あとは、グミとかマシュマロとか綺麗だし、いかにもって女子ウケが良い感じがするけど、『嫌い』って意味が含まれてたり

洋一:へぇ

朱美:逆に、同じく綺麗な感じの飴とかは『あなたのことが好き』って意味もあったりするのよ

洋一:色々あるんだな

朱美:そう! だから、贈る相手との関係性とかちゃんと考えないといけないし、めんどくさいのよ

洋一:それはそれは、ご苦労様です

朱美:でしょ? だから、バレンタインってめんどくさいのよ

洋一:まぁ、お前がぼやきたくなる気持ちもわかった。けどさ……

朱美:けど?

洋一:それって、本命一人に贈れば解決する問題なんじゃないの?

朱美:(盛大なため息)

洋一:なんだよ?

朱美:だから、洋一は女子の苦労をわかってないのよ

洋一:は?

朱美:確かに、本命一人に贈れば解決する問題よ

洋一:だろう? 俺はなにも間違って……

朱美:(遮って)でも、それは男視点からの話でしょ?

洋一:はい?

朱美:いい? 女の社会っていうのは洋一が考えているよりも複雑なの

洋一:はぁ?

朱美:女同士のけん制もあり、友情もあり、そこにいろいろな人間関係もプラスされてくるのよ

洋一:つまり?

朱美:めんどくさいのよ!

洋一:……やっぱり、結局はそこに落ち着くんだな

朱美:当然!

洋一:それはもう頑張ってくれとしか男の俺からは言えないな

朱美:ですよね~。うん、わかってた

洋一:悪かったな、愚痴しか聞いてやれなくて

朱美:ううん、聞いてもらっただけでもすっきりした

洋一:そうか

朱美:うん。ありがとう!

洋一:おう

朱美:さて、じゃあ、課題に戻りますか!

洋一:……なぁ、朱美

朱美:ん? なに?

洋一:その「女の社会」ってのは彼氏が出来たら解決する問題なのか?

朱美:え? どうしたのいきなり?

洋一:解決するのか?

朱美:う~ん、そうだね。大半は解決するんじゃないかな?

洋一:……だったら……

朱美:ん?

洋一:(鞄から飴を取り出し)ほれ、これやるよ

朱美:ん? のど飴? 私、のどなんて痛くないよ?

洋一:即席で悪いけど、それ、バレンタインってことで

朱美:え? えぇ!

洋一:バレンタイン、彼氏がいればいろいろ問題は片付くんだろ?

朱美:片付くけど……え? なに? なんで?

洋一:(ため息)お前って前々から鈍いなって思ってたけど、本当に鈍いのな

朱美:はぁ?

洋一:今、この時点で一緒に二人で課題やってる時点でちょっとは察しろよ

朱美:なにを?

洋一:……俺、たかだか課題発表のレジュメ作成のために研究室まで来ねえっての

朱美:だって、それは、洋一の前の班である私たちの班が出来ないと困るから仕方なく……

洋一:仕方なくだったら家から出てこないわ。通話で済ませる

朱美:あぁ

洋一:察したか?

朱美:……はい

洋一:そうか

朱美:えっと……

洋一:ん?

朱美:その、この飴は、その、バレンタインのお菓子の意味で取っていいってことよね?

洋一:……おう

朱美:……

洋一:これで、バレンタインの悩みは解消するだろ?

朱美:……やだ

洋一:は?

朱美:なんか、バレンタインの悩み解消するためだけに渡された気がして嫌だ

洋一:お前は馬鹿か?

朱美:馬鹿だもん! ちゃんと洋一の口から聞きたいの!

洋一:え?

朱美:……ちゃんと気持ち聞かせてよ

洋一:……

朱美:私だって、なんとも思ってない人の前でバレンタインのお菓子の話なんてしないんだから……

洋一:……朱美

朱美:ね?

洋一:……お前のことが好きだよ。俺と付き合ってほしい

朱美:……

洋一:……おい

朱美:……ダメだ……

洋一:は?

朱美:面と向かって言われるとどうしていいのかわかなくなる!

洋一:おい、言えって言ったのはそっちだろ?

朱美:……うぅ

洋一:(ため息)ったく……ほれ、さっさと課題やるぞ

朱美:え? え?

洋一:とりあえず、俺の気持ちは伝えたし、お前の気持ちももらったし、待っててやるよ

朱美:え?

洋一:お前が落ち着いて俺の告白に返事できるのをな

朱美:……洋一……

用一:だから、さっさと課題やるぞ

朱美:うん! ……ありがとう

洋一:おう。あ……

朱美:え?

洋一:ただし、待つのは今日一日だけだから

朱美:えぇ!



―幕―




2021.02.02 ボイコネにて投稿 りいち様主催企画【りいちバレンタイン企画】参加シナリオ

2023.04.11 加筆修正・HP投稿

2024.02.13 修正

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

Special Thanks:りいち様