近代思想19-善悪は快不快である
2023.04.12 11:15
1887年、哲学者ニーチェは「道徳の系譜学」を出版した。ここで彼は、善悪などはそもそも快不快の感情だ、と言い出した。そして人間の根本的欲望は「力への意志」だと言う。カントなら善悪は人間の良心に「定言命法」として備わっていると言っただろう、しかし神が死んだと共にキリスト教的道徳も死んだのだ。
「定言命法」というのはカントのような、キリスト教的価値を子供の頃から叩きこまれてきた人間が、それに従うのを快感に感じるからにすぎない。19世紀のロンドンでは貧民が流入してそういう価値観になじまず、食うためにせいいっぱいの孤児などが犯罪を激増させた。
ニーチェの言う力への意志とはマズローの欲求段階説のようなもので、常に高い欲求をめざすことを意味しており、単なる力ではないが、危うい言い方もしている。しかし善悪を快不快に還元したのは、重大なことであり、実はニーチェは生理学にも影響されている。
現代科学では、人間行動は快楽を司るドーパミンによってコントロールされていることがわかっている。何とドーパミンは快楽を司る線条体だけでなく前頭葉にも作用しており、現在の快楽と未来の快楽を比べることで「ガマン」することができるというのである。ニーチェの説の根拠が明らかにされたといえる。