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紅く色づく季節

恋の駆け引き

2023.04.13 01:33

【詳細】

比率:男1:女1

現代・学園もの・青春・ラブストーリー

時間:約10~12分


【あらすじ】

早朝の学校。

誰もいない教室。

大人しい二人の間で交わされる恋の駆け引きとは。


*『知らないのは……』シリーズのお話です。

 一話完結しておりますのでこちらだけでもお使いいただけます。



【登場人物】

吉岡:吉岡 英二(よしおか えいじ)

   高校生。

   人見知りでよく席で本を読んでいる。

   立花さんのことが好きで彼女と付き合いたいと思っている。


立花:立花 カレン(たちばな かれん)

   高校生。

   おっとりしていて優しい女の子だが……

   吉岡君に恋をしていて、彼に告白してほしいと思っている。




吉岡:(M)俺、吉岡英二は好きな人がいる。同じクラスの女子、立花カレンさんだ

   はじめはおっとりしすぎていてマイペースで、この人は本当に大丈夫なのかと心配になったこともあった

   でも、そんな彼女の優しさや気遣いを感じる度に、俺の中で彼女という存在が日に日にどんどん大きくなっていって……気が付けばいつも目の端で彼女を追うようになっていた

   その度に交わる視線

   目が合えばすぐに気が付いて微笑んでくれるし、逆に視線を感じて顔を上げれば彼女が俺を見つめていた

   これは……もう、確実と言ってもいいだろう

   生まれてこの方、一度だって告白をしたこともされてこともない俺。当然のごとく、彼女だっていたことはない

   これは、一世一代の大チャンス。俺から告白をすべきか……でも……

   出来ることならば、告白してもらいたい……

   彼女の言葉で、声で聞きたい。そう思ってしまうのはいけないことだろうか?



立花:(M)私、立花カレンは好きな人がいます。同じクラスの吉岡英二君です

   いつも休み時間は本を読んでいて物静かな彼。最初は話しかけても素っ気なくて、口もきいてくれなくて、正直嫌われているのかと思いました。これは、自分から関わってはいけない。きっと彼と私の人生は交わることはないと思っていました。あの日の彼のあの声を聞くまでは……

   同じクラスになって初めてちゃんと彼の声を聞いたのは国語の朗読の時間

   出席番号順に当てられ、決められた部分を読む。そんなどこにでもある授業内容

   その日は、ちょうど彼が当てられる日でした。どんな声なんだろう。純粋に興味がありました

   名前を呼ばれ椅子から立つ。小さく息を吐いた後、彼の朗読が始まり、彼の声が聞こえた瞬間、私の心臓はドキリと大きな音を立てた

   静かな空間に凛と響く彼の声はとても心地よくて……もっとずっと聞いていたいと思った

   この時です、私が彼に恋をしたのは

   ……自慢じゃありませんが、私は何故かよく告白されます。だから、小中と女子のグループから仲間外れにされました。それが煩わしくて、高校生活では誰の害にもならないように立ち回っています

   そんな私が告白? そんなのは無理です

   やっと手に入れた平穏な日々と仲良しな女友だち。それを失うくらいなら……

   それに、誰かが言っていました。女の子は追いかけられている方が楽しいって

   だから自分からは……でも、彼の隣にいたいと思うのは……




●教室・朝

   教室には誰もおらず、静かに机に向かい勉強をしている吉岡。

   そこに登校してくる立花。


立花:あ、吉岡君、おはようございます

吉岡:(顔を上げ)あぁ、おはようございます。立花さん

立花:いつも早いですね

吉岡:そうですか? この時間は大体教室に人がいないので、勉強するのにちょうどいいんです

立花:そうなんですね。あ、お勉強の邪魔をしてしまってすみません……

吉岡:いえ、かまいません。ただの予習ですから

立花:(吉岡の手元を覗き込み)数学ですか?

吉岡:はい。今日の授業、ちょうど当てられそうなので。立花さんは?

立花:え? 私ですか?

吉岡:はい。いつも早いですよね

立花:えぇ、緑化委員の仕事があるので

吉岡:そうなんですね

立花:はい。今日は花壇にお水をあげるだけだったので、早く終わっちゃいました

吉岡:お疲れ様です

立花:いえ。あ、そうだ! 吉岡君って今日の数学の宿題って全部解けました?

吉岡:はい。一応、正解しているかはわからないですが……

立花:私、一か所分からないところがあって……教えてくれませんか?

吉岡:え?

立花:……ダメですか?

吉岡:いや! あの、俺でよければ……

立花:ありがとうございます! (隣の席を見て)えっと、吉岡君の隣の席ってせつなちゃんでしたよね?

吉岡:はい

立花:じゃあ、ちょっと席をお借りして、よいしょっと(椅子を引き寄せて座る)

吉岡:(急に立花が近くなったことにびっくりする)!

立花:ん? どうしたんですか?

吉岡:な、なんでもないです。それで、どの問題ですか?

立花:えっと……あった、この問題です

吉岡:あぁ、これはですね……これがこうで……

立花:なるほど! じゃあ、ここは……

吉岡:そうです。その式を応用して、こう……

立花:(ぼそりと)あ、綺麗な字……

吉岡:え?

立花:え?

吉岡:いや……あ、あの、ありがとうございます

立花:え?

吉岡:字のこと褒めてくれて……

立花:やだ! 私、声に出てましたか?

吉岡:……はい

立花:す、すみません

吉岡:……

立花:……

吉岡:そ、それで、先ほどの続きですが……

立花:は、はい!

吉岡:ここをこうして……

立花:あ、なるほど! じゃあ、あとはここをこうしたらいいんですね!

吉岡:そうです。流石、立花さんですね

立花:いえ、吉岡君の教え方が上手いからです

吉岡:そんな。俺は何も……


   急に廊下が騒がしくなる。


吉岡:あ……

立花:廊下が騒がしくなってきましたね。(時計を見て)あ、そっか、そろそろ皆さんが登校されてくる時間ですもんね

吉岡:……そうですね

立花:また、分からないところがあったら教えてもらってもいいですか?

吉岡:あ、俺でよければ……

立花:ありがとうございます。じゃあ、今度何かお礼をさせてくださいね

吉岡:え?

立花:きっと、いっぱい教えて持っちゃうと思うので

吉岡:そんな、俺に教えられることなんて……

立花:頼りにしてますね、英二さん

吉岡:え?

立花:あ……

吉岡:今、名前……

立花:す、すみません! つい……今度から気を付けます

吉岡:いえ!

立花:え?

吉岡:よかったら、これらからも名前で読んでください……

立花:で、でも……

吉岡:同じクラスになって結構経つし、せっかく仲良くなれたので

立花:……わかりました

吉岡:本当ですか!

立花:はい。でも、慣れるまでは、二人だけの時だけでもいいですか? なんだか、恥ずかしくて……

吉岡:もちろんです!

立花:じゃ、じゃあ、ありがとうございました! (教室に入って来たクラスメイトに)あ、せつなちゃん!


   立花、クラスメイトの元へと走っていく。

   次々とクラスメイトが入って来て騒がしくなる教室。

   勉強に戻る吉岡と友人としゃべる立花。



吉岡:(M)……名前で呼んでもらえた。これで一歩前進だ

   まさか、名前で呼んでもらえるなんて……

   夜ふかしせずに早く寝て、用事もないのに早く学校に来て正解だった

   これから、どうやって彼女との距離を縮めていくか考えなければ

   ……それにしても、いい匂いだったな。あれはシャンプーの香り? それともコロンの香り?

   はっ! 俺としたことが何を考えているんだ! 


立花:(M)やっちゃった……思わず下の名前で呼んじゃった……気を付けないと!

   それにしても、危なかったぁ。まさか本音が口からこぼれていたなんて……

   でも、あんな綺麗な字を書くんだもん! 男子のなのに! あんなの見たら更に……

   ダメダメ! 私は平穏な日々を守るの! 告白なんてしないんだから!

   でも……やっぱり……

   あぁ、もう、考えちゃダメよカレン!

   

   一瞬だけ目が合う二人。

   微笑む立花、スッと視線を逸らす吉岡。


吉岡:(M)なにはともあれ

立花:(M)とりあえず

吉岡:(M)彼女から言葉をもらえるように

立花:(M)この生活を守るために

二人:(M)頑張りますか!



―幕―




2020.10.27 ボイコネにて投稿

2023.04.13 加筆修正・HP投稿