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紅く色づく季節

この想いは

2023.04.13 06:35

【詳細】

比率:男1:女1

現代・学園もの・青春・ラブストーリー

時間:約10分


【あらすじ】

放課後。

信彦が教室に荷物を取りに帰ると、そこには深いため息をつく瞳がいた。

普段明るい彼女からは想像できない姿に驚く信彦。

瞳が落ち込んでいる理由とは……


*『知らないのは……』シリーズのお話です。

 一話完結しておりますのでこちらだけでもお使いいただけます。



【登場人物】

 瞳:佐竹 瞳(さたけ ひとみ)

   高校生。

   ちょっとおバカな元気っこ。

   吉岡君とカレンちゃんをくっつけようと必死。

   信彦の好意に気が付いていない。


信彦:木田 信彦(きだ のぶひこ)

   高校生。

   瞳のクラスメイト。

   一人で空回りしている瞳を生暖かく見守る。

   実は、瞳に想いを寄せている。




●教室・放課後

   机に瞳が突っ伏している。

 

 瞳:……

信彦:(教室の外の人間に)おぉ、お疲れ~。また明日な!

 瞳:(深いため息)


   教室に入ってくる信彦。


信彦:あれ? お前、まだ残ってたのか?

 瞳:(ため息)

信彦:瞳?

 瞳:(深いため息)

信彦:おい

 瞳:……

信彦:おい、瞳!

 瞳:え? あ、ごめん、呼んでた?

信彦:呼んではないけど話しかけてた

 瞳:そっか、ごめん。で、何?

信彦:お前、さっきからずっとため息ついてぼーっとしてるけどいるけど、大丈夫か?

 瞳:え?

信彦:(ため息をついて)無自覚かよ

 瞳:え、あ、うん、ごめん

信彦:そういえば、朝から元気なかったけど、どうした?

 瞳:え? 朝から?

信彦:おう。ここ最近のお前の定番は、『今日もあの二人のこと見守らなきゃ!』って無駄に意気込んでるか、『今日もやっぱりだめだった……』って落ち込んでるかのどっちかなのに、今日はそれがなかった

 瞳:……私ってそんなんだったんだ……

信彦:はぁ? 今まで気が付かなかったのか?

 瞳:……はい……

信彦:まぁ、すっかり日課になってるからな

 瞳:そんなに?

信彦:あぁ、毎日毎日、昼休みになる度に、『今日の作戦を~!』って騒いでるだろうが

 瞳:……私、うるさかったんだ……

信彦:瞳? 

 瞳:……私って、ただの迷惑な子だったのかな……

信彦:本当にどうした? いつものお前らしくないぞ?

 瞳:いつもの私ってなに!

信彦:瞳?

 瞳:吉岡君やカレンちゃんのことで騒いでるのが鬱陶しいんでしょ? バカみたいなんでしょ?

信彦:そんなこと、俺は……

 瞳:(遮って)どうせ私は迷惑で、お節介で、空気が読めなくて、自己満足したいだけの偽善者よ!

信彦:……

 瞳:私なんて……私なんて……


   瞳、急に立ち上がる。


信彦:瞳?

 瞳:もう嫌……

信彦:おい

 瞳:帰る!


   瞳、乱暴に鞄を持って教室を出ていこうとする。

   信彦、瞳の腕を掴む。


信彦:待てよ!

 瞳:なによ! 離してよ!

信彦:嫌だ

 瞳:離してってば! どうせ、信彦も私のことめんどくさいって思ってるんでしょ!

信彦:思ってねぇよ

 瞳:嘘! いつもいつもめんどくさそうにしてるじゃない!

信彦:あれは……

 瞳:(遮って)ほら!

信彦:思ってねぇから、とりあえず落ち着けよ!

 瞳:嫌だ!

信彦:(ため息)


   信彦、瞳の腕をぐっと引っ張って距離を縮める。


 瞳:え?

信彦:だから、落ち着けって言ってんの

 瞳:え? ちょっと、何してるの?

信彦:何って……近づいて、ちゃんと話すようにしただけだ

 瞳:それは分かった! でも、近いから……

信彦:こうでもしないとお前、思考停止しないだろ?

 瞳:え?

信彦:ぐるぐるしてたマイナスな思考はストップしたか?

 瞳:え? あ、うん……

信彦:じゃあ、これで落ち着いて話せるな

 瞳:……あの……

信彦:ん?

 瞳:えっと……離れていただけたりしませんでしょうか?

信彦:逃げない?

 瞳:え?

信彦:逃げずに俺と話す?

 瞳:えっと……

信彦:逃げるなら、このまま俺の質問に答えてもらうけど?

 瞳:私に選択権ないじゃん!

信彦:よくわかってんじゃん

 瞳:……わかりました! 話します! だから、離れて……

信彦:約束な?


   信彦、瞳から少し離れる。


信彦:で? 何があった?

 瞳:……

信彦:(ため息)いや、質問変えるわ。誰に何言われた?

 瞳:え?

信彦:昨日の放課後、吉岡と立花のことで誰かに何か言われたんだろ?

 瞳:どうして?

信彦:そりゃ、朝から話しかけてもずっと上の空、おまけにため息ばっかりついてるし。極めつけはさっきのお前の言葉

 瞳:私の?

信彦:あぁ、お前の口から自発的に、「自己満」とか「偽善者」なんて言葉、出てくるはずがない

 瞳:……は?

信彦:そんな難しい言葉、お前が使えわけがない

 瞳:はぁ? 何? 馬鹿にしてるの?

信彦:(微笑んで)やっといつものお前が出てきたな

 瞳:え……

信彦:お前のことを馬鹿になんてしてない。偽善なんて言葉はお前とは無縁の言葉だからな

 瞳:どういうこと?

信彦:偽善ってさ、いかにも良い人っぽく見せかけたり、良い行いをしてますよって見せかけることだろ? つまり、その行動の裏には違う考えがあって、それを他人に隠すために行動するってことだろ

 瞳:う、うん?

信彦:(少し呆れて)本当にわかってるか?

 瞳:う、うん?

信彦:(ため息)で? お前はなんのためにあの二人をくっつけようとしてるんだ?

 瞳:なんのためって……それは、あの二人に幸せになってほしくて……

信彦:それは本心で?

 瞳:当たり前じゃん!

信彦:だったら、偽善者なんかじゃないだろ

 瞳:え……

信彦:だから、誰に何を言われたか知らねぇけど、お前はそんなくだらないことで悩まなくてもいいってことだ

 瞳:信彦……

信彦:な?

 瞳:……わかった

信彦:まぁ、迷惑で、お節介で、空気が読めないってのは、当たってるかもだけどな

 瞳:はぁ?

信彦:違うか?

 瞳:……

信彦:反論をどうぞ?

 瞳:ぐぬぬぬ……

信彦:(笑って)まぁ、そこがお前らしくていいところなんだけどな

 瞳:なによ! 信彦のくせに!

信彦:お? 自覚あんだな?

 瞳:なんなのよ!

信彦:じゃあ、あとそこに「鈍感」ってのもついでに付け足しとけ

 瞳:はい? 私のどこが鈍感なのよ!

信彦:(苦笑して)それについては自覚無しなんだな

 瞳:なによ!

信彦:じゃあ、問題

 瞳:え?

信彦:俺はなんでお前を引き留めてまでこんな話をしたでしょうか?

 瞳:え? は?

信彦:お前のことあのまま帰すことだって出来たのに、引き留めなかったのは何故でしょうか?

 瞳:え?

信彦:(ため息)本当にお前ってやつは……

 瞳:え? え?

信彦:まぁ、すぐに答えが出てくるとは思ってない。ここまで待ったんだから、もうとことん待ってやる

 瞳:どうゆうこと?

信彦:そういうことだよ

 瞳:(顔をしかめて)ん?

信彦:(苦笑して)じゃあ、俺、帰るわ

 瞳:え?

信彦:答えは、いつでもいい。あぁ、でも出来るだけ早めにしてくれ

 瞳:え? ちょっと!

信彦:じゃあな


   信彦、教室を出ていく。


 瞳:なによ……あんなことされたら、好きになっちゃうじゃん……



―幕―




2020.11.03 ボイコネにて投稿

2023.04.13 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)