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WUNDERKAMMER

小森のおばちゃま

2018.05.25 13:07

かなり昔だが古いマンションの一階と二階がスーパーになってるとこで夜間警備のバイトをしてたことがある。

マンションとスーパーと小さな商店街は階段で繋がっていて、スーパーの開店中は行き来できるんだが閉店後はシャッターで遮られて行き止まりになる。

一階にスーパーと小さな商店街、二階はスーパー、三階から上はマンションという作り。


スーパー閉店後にすべてのシャッターを降ろしたあと、巡回中にスーパー2階で小さな人影が走るのを見た。

あちゃー中に人がいる状態で閉めちゃったかーと人影が動いた方向へ歩くと、その先は二階の階段の踊り場。

見ると、呪怨の男の子みたいのが立っていた。

うまれて初めてやばいもんが目の前に・・・と身動きとれないでいると、男の子が

「来る?」

いやいやいくわけないから!と思っていたのに俺の口からは

「行くよ」

えっ?

男の子はシャッターで行き止まりの階段を降りていく

俺の中で恐怖と好奇心が戦っていたのだがなぜか好奇心が勝ったようで

階段を降りはじめてしまっていた。


話はおもいっきり飛ぶが俺は若い頃、欲を抑えるために「小森のおばちゃま」をひたすら思い浮かべるという精神鍛錬を会得していた。

大事な場面、例えばはじめてのデートとか、この精神鍛錬により鎮められ平常心を取り戻す。

いつしか欲を抑えるのみならず、集中したいときや冷静になりたいときも小森のおばちゃまを思い浮かべ、念じるようになっていた。

話もどすと、

階段を降り始めた俺は階段の感触が異様なのにまず気がついた。ぬかるんでいたんだ。

更に懐中電灯で照らす先にある階段の踊り場のチラシやポスターも文字が日本語じゃない。見たこともない文字だ。

うわー降りちゃまずい、踊り場の先はヤバイ、と頭ではわかっていても「何があるんだ?」の好奇心に支配され一段一段階段を降りてしまう俺。

ぬかるみのような階段を降りていくと踊り場に。その先がどうしても見たい、行ってみたいと強く感じたのだが、はて、この欲求はおかしい、不自然だと直感もあった。

懐中電灯でシャッターを照らすと、微妙に波打っていた。子供はいない。

シャッターの前まで一段一段降りていく俺。

ついにシャッターの前まで降りて来た俺。

子供を探すが姿はない。

と、足首にひんやりした何かに掴まれた感覚が!


その瞬間、俺は本能的におばちゃまの映像を脳内で高速再生させた。


通常、俺は興奮状態をおばちゃまを連想することにより3秒以内に収束させられるレベルに達していた。

しらずしらずのうちに、己の欲望と戦う修験者のような修業をしてきたんだと思う。 


このまま足首を掴まれ地面に引きずりこまれたらどうなるんだろうという好奇心。

逃げたいという恐怖心。

悪霊というのは負の感情というよりも、感情や欲求自体を利用するんだと思う。

この時は俺の好奇心を利用してきたんじゃなかろか。

だがすべてを呑み込むのは、呪怨の子供みたいな悪霊ではない。

すべてを呑み込んだのは小森のおばちゃまだった。

脳内のおはまちゃまが欲求や感情を打ち消し、俺は無の境地に。

足首をつかんでいたなにかは力を失いやがて離れていった。

今なら無想転生も会得できるんじゃないかという境地まで達した俺は

完全に呪怨もどきを退散させた。いやもしくは消滅させたかもしれない。


シャッターと階段はいつもの状態にもどり、俺は仕事に戻った。



これが俺の人生で唯一の霊体験。 

ちなみにそのスーパーは都内の有名な山のふもとにあり、その山を越えた先にはダム湖がある。ダム湖で亡くなった子供は多く、マンションの住人の中にダム湖で亡くなった子供でもいたんじゃないかと思う。