草臥れて宿借るころや藤の花 芭蕉
先日、所用で江東区森下駅近辺を歩きました。
私にとって地元のような土地です。
スタジオ@coffrethome(コフレホーム)から眺める小名木川の水門。
夕暮れ時です。
小名木川と隅田川が交わる場所。
水上交通の要衝。古くはここに船番所がありました。
芭蕉もこのあたりに住んでいました。
当時の水上交通については「古志」4月号「一茶と双樹〜「利根川は」の巻を読む」で少しふれていますので、ご参照ください。
この時間帯は頻繁に屋形船が通っていきます。
隅田川の夕景です。
芭蕉さん。
すでに閉ざされていました。
いわゆる下町ですが、おしゃれなカフェが増え、
週末は若者で賑わうようになりました。
うつろいゆく町ですが、
俳句の町であることは変わらないでほしいものです。
萬年橋。
広重の江戸百景に描かれたことで有名です。
当時は「亀は万年」にちなんで亀を売っていたそう。
いまではレトロモダンな橋になっています。
橋のたもとの藤棚。
花盛りでした。
写真では伝わりにくいですが、風に揺れていました。
夕暮れ時の藤といえば、
草臥(くたび)れて宿借るころや藤の花 芭蕉
「笈の小文」のほか「猿蓑」にも収録されている句。
旅先でいよいよ歩きくたびれて宿を借りようとしているところを詠んだものです。
夕藤にはどこか気だるい雰囲気があります。
芭蕉のエピソードでは次の話が好きです。
ある夏の日の夕べ、芭蕉邸に宗次という人物がやってきます。
じぶんの俳句も「猿蓑」に入れてほしいというのです。
しかし、なかなかいい俳句が出来ません。
良い句を捻ろうとすればするほど上手くいかず、煮詰まってしまいます。
芭蕉はそんな宗次を見かねて、
「ちょっと横になって寛いでみては」とすすめます。
じっさいに宗次は横になり、その心地よさに思わず、
「じだらくに寝転んでいると涼しいものですなぁ」と洩らします。
それを聞いた芭蕉は「その言葉こそがあなたの俳句です」と喜びます。
すぐさま、
じだらくに寝れば涼しき夕べかな 宗次
という形にして「猿蓑」に入集することになりました。
このエピソードは、飾らない、作為のない、あるがままのことば(心)こそが俳句になるということを教えてくれます。
さきほどの、
草臥れて宿借るころや藤の花 芭蕉
もまた、あるがままのことば(心)で詠まれた句ではないでしょうか。
くたびれて〜から始まる俳句なんて、そうそうありません。
じだらくついでに。
九吾郎ワインテーブル(@清澄白河)
うつろいゆく深川の町に心と身体を委ねながらも、
大事なことは変わらずにいたいです。