雨通り1
2023.04.18 06:31
・朗読用
・約3〜5分
本文
雨が降り続く通りがあった。
今日はその中の、ある花屋のお話。
ドアベルの音をたてて、一人の青年が、花屋を訪れた。
薄明かりの店内から、店主が言う。
「いらっしゃいませ」
店主は、花切ばさみで、青い花束を作り上げているところだった。
青年は、狭い店内の花を見て回る。
しばらくして、
「何をお探しですか?」
店主が青年に声を掛けた。
青年は応える。
「大切な人に贈る花を」
「でしたら、これはどうです?」
店主が青年に勧めたのは、レンゲソウだった。
しかし青年は、首を横に振る。
「もっと、はっきりと感じられる花がいいんです」
「でしたら、これは」
次に店主が勧めたのは、ペチュニア。
しかし、青年の表情は冴えないままだ。
「雨を邪魔しない香りの花が欲しくて」
「では…」
店主は、店の外に出て、プランターから一輪、ネリネを摘んできた。
「こちらはどうです?」
青年は口を開いた。
「それを下さい」
そうして、一輪のネリネがラッピングで飾られる。
青年が店から出ると、雨は上がっていたのだった。