恋は戦争なんです
【詳細】
比率:男2:女3
現代・学園もの・青春・ラブストーリー
時間:約20分
【あらすじ】
放課後。
教室にはいつも通りの穏やかな時間が流れる、はずだった……
*『知らないのは……』シリーズのお話です。
一話完結しておりますのでこちらだけでもお使いいただけます。
【登場人物】
英二:吉岡 英二(よしおか えいじ)
高校生。
大人しい人でよく席で本を読んでいる。
立花さんのことが好きで彼女と付き合いたいと思っている。
カレン:立花 カレン(たちばな かれん)
高校生。
おっとりしていて優しい女の子だが……
吉岡君に恋をしていて、彼に告白してほしいと思っている。
圭人:和田 圭人(わだ けいと)
高校生。瞳たちの先輩。
演劇部の部長をしている。
優しい笑顔で紳士的だが、実は意地悪が大好き。
瞳:佐竹 瞳(さたけ ひとみ)
高校生。
ちょっとおバカな元気っこ。
吉岡君とカレンちゃんをくっつけようと必死。
木田君の彼女になりました!
せつな:松嶋 せつな(まつしま せつな)
高校生。
瞳のクラスメイト。
大人な雰囲気のお姉さん。年上の彼氏さんがいるらしい。
●放課後・教室
何人か疎らに人が残っている教室内。
カレン:英二君、今日もありがとうございました。
英二:いや、俺は大したことしてないから
カレン:そんなことないです。凄くわかりやすかったです
英二:それならよかった
圭人:(廊下から)あ、いたいた!
三年の和田圭人が教室に入って来て、立花カレンの前で立ち止まる。
英二:え?
カレン:え?
圭人:お話中にごめんね。(カレンに向かて)こんにちは
カレン:は、はい、こんにちは……
圭人:君が立花カレンさんだよね?
カレン:はい、そうですけれども……
圭人:(優しく微笑んで)うん、やっぱり聞いた話通りだ
カレン:はい?
圭人:あぁ、ごめんね。俺は三年の和田圭人
カレン:あぁ! 和田先輩! お話は伺っています。それで……
圭人:うん。単刀直入に言う。俺と付き合ってほしいんだ
英二:(突然のことに驚き)はぁ?
圭人:ん?
英二:(気まずそうに)……あ……
圭人:(微笑んで)何かな?
英二:……いえ……
圭人:そう? (カレンに向き直り)それで、どうかな? 立花さん?
カレン:えっと……私でいいんですか?
英二:え?
圭人:うん。俺は、立花さんしかいないと思ってる
カレン:わかりました。そう言っていただけるなら
英二:……
圭人:ありがとう。じゃあ、詳しい話は部室でしようか
カレン:はい。あ、じゃ、英二君、また明日
英二:え? あ、はい。また明日……
カレンと圭人、教室を出ていく。
それを力なく見送り、机に突っ伏す英二。
瞳:(せつなに)それでさ~。って、あれ? 吉岡君、どうしたの?
英二:……
せつな:吉岡君?
英二:……
瞳:お~い
英二:……もう、ダメだ……
瞳:ダメって?
英二:(カバっと起き上がって)佐竹!
瞳:は、はい!
英二:俺はどうしたらいいんだ!
瞳:え?
せつな:ちょっと、吉岡君、落ち着いて
英二:あ、あぁ……
せつな:一体何があったの?
英二:……立花さんが……
瞳:カレンちゃんが?
英二:……三年の和田って先輩に告白された……
瞳:え……えぇ!
せつな:……吉岡君、それって本当なの?
英二:あぁ、間違いない。今さっきここに和田先輩って人が来て、立花さんに告白して……
瞳:それで! カレンちゃんは?
英二:……私でいいんですかって……
瞳:えぇ!
英二:……それで、二人で教室を出て行って……
せつな:……
英二:……俺、どうしたら……
瞳:せ、せつな~! どうしよう!
せつな:うん、ちょっと、落ち着こうか二人とも
英二:……
瞳:でも、でも!
せつな:(瞳に)大丈夫だから、ね? それで、和田先輩とカレンちゃんはどこに行ったか分かる?
英二:……わからない……部室がどうとかは言ってた気がするけど……
せつな:そうか
瞳:どうしよう! ねぇ、せつな! 早くしないとカレンちゃんが!
せつな:……ねぇ、吉岡君
英二:……はい……
せつな:吉岡君は今、なんでそんなに落ち込んでるの?
英二:っ!
瞳:せつなちゃん、それは……
せつな:(遮って)和田先輩にカレンちゃんを取られちゃったことが悔しいの? それとも、自分が行動に移せなかったことが悔しいの?
英二:……
瞳:せ、せつなちゃん?
せつな:カレンちゃんを捜してここに連れてくることは簡単よ。でも、それで、貴方はどうしたいの?
英二:……
せつな:何もせずにいるのなら、このままカレンちゃんの幸せを見守るのが当然じゃないかしら?
英二:……俺は……
せつな:だって、今まで行動に移さなかったのは、吉岡君、貴方でしょ?
英二:っ!
瞳:せつなちゃん! 言いすぎだよ!
せつな:瞳
瞳:え? な、何?
せつな:恋って戦争なんでしょ?
瞳:あ……
せつな:うかうかしてたら取られちゃうんでしょ?
瞳:……
英二:……俺はっ
せつな:(ため息)瞳、ちょっと私行くところがあるから行ってくるわ
瞳:え?
せつな:吉岡君のこと、任せたわね
瞳:え? え?
せつな:吉岡君、自分が本当はどうしたいのか、ちゃんと考えて。友だちとして、後悔はしてほしくないから
英二:……
せつな:じゃあ、瞳、またあとでね!
瞳:う、うん! わかった!
せつな、教室を出ていく。
瞳:……えっと、吉岡君?
英二:……
瞳:あの、隣、座ってもいい?
英二:……あぁ……
瞳:ごめん、こんな時だから、担当直入に言うね。吉岡君ってカレンちゃんのこと好きなんだよね?
英二:……あぁ
瞳:じゃあ、どうして告白しなかったの?
英二:……
瞳:あぁ、責めてるわけじゃないよ! ただ、どうしてだろうって。単純に疑問で
英二:どうして?
瞳:そう。好きなのにどうしてだろうって
英二:……どうして……
少しの間。
瞳:……私ね、実はこの間まで自分が信彦のこと好きだって気が付かなかったの
英二:え?
瞳:バカだよね。自分自身のことなのに
英二:そんなこと
瞳:へへへ、ありがとう。でも、せつなちゃんがヒントをくれたおかげで自分の気持ちに気が付くことが出来た
英二:そうか
瞳:うん。それで自分の気持ちに気が付いた瞬間に心が焦っちゃって、信彦が他の誰かを好きになっちゃったらどうしようって思って
英二:うん
瞳:それで、その日のうちに告白しちゃった
英二:え!
瞳:あれ? そんなに驚くこと?
英二:あぁ。……佐竹は凄いな
瞳:全然凄くないよ。だって、それまで全く気が付かなかったんだから。ちゃんと自分の気持ちに気が付いてる吉岡君の方が凄いよ
英二:……そんなことない……
瞳:ううん。でも、だから、不思議に思っちゃって
英二:不思議?
瞳:そう。好きって気が付いてたのになんで吉岡君はカレンちゃんに告白しないんだろうって
英二:……それは……
瞳:吉岡君は焦ったり、怖くなったりしなかったの?
英二:……
●演劇部・部室
椅子と長テーブルがある。椅子に座って話す、圭人とカレン。
圭人:立花さん、本当に急でごめんね
カレン:いえ、大丈夫です。でも、本当に私でいいんですか?
圭人:あぁ、もちろん。俺は立花さんしかいないと思ってる
カレン:でも、他にも素敵な方はいっぱいいらっしゃいますし……
圭人:(微笑んで)本当に謙虚で素敵だな。でも、俺が選んだんだから。安心してよ
カレン:……はい
圭人:おや? 俺からの推薦ではご不満かな?
カレン:そんな!
圭人:ごめんごめん、冗談だよ。でも、何か気がかりなことがあるのかな?
カレン:え?
圭人:例えば……教室に残してきた彼とか?
カレン:っ!
圭人:(微笑んで)当たりかな?
カレン:……
圭人:さっきの彼は彼氏君?
カレン:……いえ
圭人:そっか
カレン:……
圭人:(微笑む)
カレン:先輩?
圭人:彼のこと、本当に好きなんだね?
カレン:……
圭人:よかったの?
カレン:え?
圭人:そんな人の前で、俺は立花さんを攫ってきたっていうことになっちゃうけど
カレン:……大丈夫です
圭人:本当に?
カレン:はい……私には、資格がないので……
圭人:資格かぁ……
カレン:……
圭人:立花さん
カレン:あ、はい
圭人:本当に俺の彼女になる?
カレン:え?
圭人:俺の彼女になったら、君にそんな顔させないよ
カレン:それは……
圭人:俺だったら、君にそんな顔させない
カレン:……
圭人:ほら、自分の気持ちに素直になってごらん
カレン:……私は……
ドアをノックする音。
部室のドアが開く。
せつな:失礼します、和田先輩
圭人:おや、松嶋さん。こんにちは
せつな:こんにちは。お久しぶりです
圭人:どうしたの? 何かあった? 君がここに来るなんて珍しいね
せつな:何かあったわけではないのですが……彼女を迎えにきました
圭人:あぁ、なるほど
カレン:せつなちゃん……
せつな:立花さんをいただいていってもいいですか?
圭人:どうしようかな~?
カレン:え?
圭人:だって、迎えに来てくれたのが松嶋さんじゃねぇ。立花さんも納得できないよね?
カレン:そ、そんなことは……
せつな:(小さくため息をついて)私では彼女を迎えに来る役として相応しくないというのは重々承知です。でも、それについては教室で一人で唸ってる彼に言ってあげてください
カレン:え?
圭人:へぇ……唸ってたのに迎えに来ないんだ……
せつな:(ため息)先輩、意地悪がすぎますよ?
圭人:(楽しそうに笑いながら)おや、これは失敬
せつな:みんながみんな和田先輩のようにストレートに物事を伝えられるわけではありませんから
圭人:おや? その言葉にはどことなくトゲを感じるが……
せつな:そんなことありませんよ。でも、これ以上意地悪するようなら……
圭人:なら?
せつな:(にっこり微笑んで)花岡先輩に事の次第を伝えます
圭人:(苦笑しながら)おっと、それは困るな
せつな:じゃあ、彼女を連れて行ってもいいですよね
圭人:うん、どうぞ
せつな:ありがとうございます。カレンちゃん
カレン:あ、はい!
せつな:先に教室に戻っててくれる?
カレン:え?
せつな:たぶん、そろそろ彼が答えだしてるだろうから
カレン:え?
圭人:じゃあ、立花さん、今日はありがとうね
カレン:え? あ? はい
圭人:これからよろしく
カレン:はい。では、お先に失礼いたします
圭人:は~い
カレン、部室を去る。
せつな:(大きなため息)
圭人:ん? どうしたの、松嶋さん
せつな:先輩、絶対わざとですよね?
圭人:ん? 何が?
せつな:吉岡君がわざと誤解するような言い方で立花さんをここに連れてきましたよね?
圭人:さぁ? なんのことかな?
せつな:……先輩、ご自身が演劇部の部長であること、忘れないでくださいね?
圭人:ん?
せつな:先輩ならいろいろ簡単に出来ちゃいますよね?
圭人:……バレちゃったか~
せつな:花岡先輩に怒られますよ?
圭人:いや、彼女たちのことはひなたから聞いてて、ついもどかしくなっちゃってね
せつな:……先輩……
圭人:あぁ、でも、演劇部の単独公演で彼女に俺の相手役をやってもらいたいっていうのは本当だよ。もともとそれについてはひなたや他の部員からの推薦だし
せつな:それで、そのついでにこんなことを?
圭人:(微笑んで)ちょっとは役に立ったかな?
せつな:大いに。ただ、一部の人には心臓に悪かったみたいですよ
圭人:(笑って)ごめんごめん
せつな:でも、ありがとうございます。彼らにとってはいいきっかけだったんじゃないですかね
圭人:そうであったくれたらいいな
●放課後・教室
英二の話を聞いている瞳。
瞳:……自信がない?
英二:……あぁ
瞳:だから、告白できなかったんだ?
英二:……俺、今まで誰かを好きになっても告白とかしたことなくて……
瞳:うん
英二:俺、こんなだし、立花さんには不釣り合いだし、告白していいんだろうかって……
瞳:なるほどね
英二:……
瞳:それで、今は?
英二:え?
瞳:今はどうしたいの?
英二:……ちゃんと想いを伝えたい……
瞳:うん
英二:でも、迷惑かもしれない……
瞳:う~ん
英二:……
瞳:って、あれ? カレンちゃんを連れて行ったのって和田先輩なんだよね?
英二:あぁ
瞳:なんだ! じゃあ、大丈夫だ!
英二:え? どういうことだ?
瞳:(微笑んで)そっか、よくよく考えたら、連れて行ったのは和田先輩なんだもんね。うん、大丈夫!
英二:佐竹?
瞳:吉岡君!
英二:は、はい
瞳:ちゃんと自分の気持ち、カレンちゃんに伝えてね。絶対に大丈夫だから!
英二:……佐竹
カレンが教室に来る。
カレン:あ、瞳ちゃん、英二君
瞳:あ、カレンちゃん! おかえり~、もう用事は済んだの?
カレン:うん。ちゃんと必要なものは受け取って来たから
瞳:そっか! 頑張ってね!
カレン:うん
英二:……立花さん
カレン:英二君、どうしたの?
英二:……
瞳:(わざとらしく)あ、そうだ、私、せつなの所に行かなくちゃ! じゃあね!
カレン:え? あ、うん、ばいばい
瞳:ばいばい! あ、吉岡君!
英二:え?
瞳:ファイト!
英二:あぁ
瞳、教室を出ていく。
英二:……
カレン:……
英二:(二人同時に)あ、あの!
カレン:(二人同時に)あ、あの!
英二:あ、ごめん、どうしたの?
カレン:英二君こそ、どうしたんですか?
英二:いや、その……和田先輩との話、終わったの?
カレン:はい。今日は必要なものをもらいに行くだけだったので
英二:……そっか
カレン:はい
英二:……
カレン:……
英二:……
カレン:えっと……
英二:立花さん!
カレン:は、はい!
英二:これから俺の言うことで立花さんを困らせてしまうかもしれない。その時は、俺のこと避けてくれてもかまわない。だから、聞いてほしいことがある
カレン:はい……・
英二:……
カレン:英二君?
英二:立花さん!
カレン:は、はい
英二:好きです
カレン:……え……
英二:立花さんが和田先輩とお付き合いすることになったのは知ってる。でも、それでも……
カレン:ちょ、ちょっと待ってください!
英二:……やっぱり……
カレン:そ、そうじゃなくて!
英二:気を遣ってくれなくても大丈夫です
カレン:英二君は勘違いしてます!
英二:え?
カレン:私、和田先輩とはお付き合いしませんよ?
英二:え?
カレン:だって、和田先輩には花岡先輩っていう素敵な彼女さんがいらっしゃいますし
英二:え? あれ? だって、さっき……
カレン:さっき?
英二:付き合うって……
カレン:(少し考えて)あぁ! 付き合うって言うのはそういうことじゃなくて! さっき和田先輩が迎えに来てくださったのは、今度の演劇部の単独公演で先輩のお相手役をやらせていただくことになって、それで台本と資料をいただきに行ったんです
英二:……あぁ……(気が抜けて床にへたり込む)
カレン:あ、え、英二君!
英二:……本当に、俺の勘違い、だったんだ……
カレン:はい……
英二:(顔を覆い)あぁ……かっこわるい……
カレン:そんなことないです!
英二:え?
カレン:私、凄く嬉しかったです。私も英二君のこと好きだったから……
英二:……立花さん
カレン:あの、英二君
英二:はい
カレン:私からもちゃんと言わせてください
英二:はい
カレン:私も、英二君のことがずっと好きでした。私とお付き合いしてくださいませんか?
英二:っ! もちろんです!
カレン:(微笑んで)ありがとうございます
英二:あ、あの、立花さん!
カレン:はい
英二:えっと、今度から、カレンさんって呼んでもいいですか?
カレン:っ! もちろんです!
二人、見つめ合い、笑い合う。
英二:カレンさん
カレン:はい
英二:一緒に帰りましょうか
カレン:はい
―幕―
2021.05.12 ボイコネにて投稿
2023.04.20 加筆修正・HP投稿