小説《花々の散乱》①…きみの、想い出。
実は、この他にも書いた小説はあるのですが、もう一つの小説は、ちょっとやばすぎるというのか、
さすがにこれはどうなんだろう?公表するのはいかがなものか、と、書いた本人が想っちゃった、ので、未公表。
しかも未完成。
個人的には未完成作品と言うのが大好きなので、別に完成なんかさせなくていいや、と、想ってしまう。
実際、例えばベートーヴェンの交響曲第9番、第四楽章が未完成で演奏不能とかだったら、どんなに言いい曲だったろう、と、想ってしまう。
今回のアップする小説も、単純に、こういうものを、いま、ネットで、
ブログ小説みたいなかたちで読んで、おもしろがる人がいるのかな?という疑問を感じずにはいられないのですが。
要するに、書き方がちょっと難解すぎるというか。
とはいえ、実際にはそんなに難しいことをやっているわけではない。
4つくらいの声部にわけて、それらが近い距離にある別の声を作ることによって、言葉の空間をひろげようとしている。
でも、これは、音楽に例えると、当たり前ですよね。
例えば、ヴォーカル・ギター・ベース・ドラム。4つの声部が、
基本、ユニゾンになることなく、コードが同じ別の音を刻んでる。
難しく考えたわけではなくて、
難しい意匠を凝らしたわけではなくて、
ましてや《前衛小説》・《実験小説》の類を試したかったのでもなくて、
例えば弦楽四重奏曲のような言葉の群れを書いてみよう、と想ったのです。
もっとも、最初からもともとこういう文体だったという気もしないではありません。
あらすじは、
ベトナム在住・ホスト上がりの《わたし》が、ホスト時代の知り合いだった《理沙》のことを想いだす。
現在、…やくざ者になっている現在、《チャン》という現地の女性と話をしている。
そして、《花々が散乱する》。
ほんの短い記憶の断片を重ねた、ほとんど明確な筋のない《私小説》的な短編です。
詩を読むようにして、むしろ、意味など気にせずに、好きなように読んでもらえたら嬉しいです。
2018.06.02 Seno-Le Ma
花々の散乱
Quartet
花々が散乱していた。…どうして? 僕は、失った。こんなにも…、と、思わず、息を 言葉を 飲んで、失った。見る。
風景
花々を。
心の中の?
その散乱。
なに?
目の前の風景
見たこともない
その
風景を
見ようよ
いつか
二人で
誰も、まだ
見たことのない
理沙が僕の肩に後から寄りかかって、「堕ろしちゃった。」なに?
風景を
振り向くのも待たずに、何を、言った、「…子ども。」…言ってるの?その いま、言葉を、君は。(俺たちの?)
見ようよ
聞いた瞬間に(俺、たちの?)僕は想い出した。夢。明け方に見た、その。意識の(お前、)遠い…夢。向こうで(それって、)俺の、かすかに、俺たちの? 夢。(なに?)俺の?見渡す限りの 俺、たちの? 海が(誰の?)俺、向うにまで お前、遠く(俺、たちの?)そして、それって、その海に なに? 果てさえないことは、誰の? 知っていた。…、たち、の? 海が、俺?桜の花々に、…ねぇ、その表面だけ、…なの? 埋め尽くされていた。たった一本の桜の樹木のてっぺんに、器用に立った僕は、足元から舞い散り続ける際限もない花々のこまやかな乱舞を見る。きまぐれで、自由で、好き勝手な、その。「…ねぇ」言葉を失ったままの、僕を、なぐさめようとしたのに違いなかった。「まだ、誰も見たこともない風景を、見ようよ。」理沙が言った。耳元に、ささやいて。
19歳の理沙が伸ばした手を見た。空間に泳ぐように、一瞬停滞し、光。腕を差す、斜めの。
風景
寝返りを打つ、見る。その、僕は、細い、見た。褐色の。指先にピンクのネイル。
心の中の?
一瞬だけ言葉を(意識さえも、)失った気が(たぶん。)した。(むしろ、)
なに?
なにも、言いたいことなどなかったのに。なんで?
目の前の風景
感じられた理沙の体温が、なぜ、そして、無意味に 僕は 問う。ふれ続けていた。だれに? 彼女の肌に。
目の前に
見たこともない
雨の音がして、知っていた。それは 恥ずべき人間であること。目を閉じていたときからも、自分自身が。その(土砂降りの)音を。
やがて
その
(雨の)誰かも(その音を)聞いているのは(僕は)知っていた。(一人で)どこかで。(聞いていた。)ここではないどこか。理沙の傍らに横たわって。
拡がった
風景を
理沙は?寝息を立て続けて。女たち。聞いただろうか?眠りの向うで。僕は、嘘だらけの、彼女たちを 虚言にまみれたキャバクラの女王。傷つけることによって、
その
見ようよ
僕は(理沙の)聞く。(虚言、)生きた。その音を。ホスト。雨の、(自分の出身さえどうせ、偽って)音。嘘しか言わないのなら、意識の向う、いっそ、(すべてを)
風景を
いつか
むしろ、息遣う。何も言わなければいいのに。理沙、(偽装する。)褐色の肌に光が、(やわらかい)雨の日のそれ。(光)耳を澄まして。(…その。)…もっと。
いま
二人で
お互いの心臓の音が、(父親は死んだ。)聞こえるくらいに、(母親は精神病院にいる。)その、
もはや
彼女、(兄弟はいない。)美しい発熱体の。(初体験は12歳。)体温。(わたし、未来が見えるの。)行為の後で、(…知ってた?)その日、朝の。
僕たちは
いつか
光。(無意味な嘘)
記憶しようとさえせずに
見ようよ
愛すること。(意味さえない)愛。し、合う。愛。
…し、合うこと。
むしろ
まだ、誰も
その日、お互いに、(嘘。)僕は、わたしは、(無意味な、)悲しかった。(それらの)理沙を、なぜ? その、決まってる。お互いが、君を……し、合うこと。
誰も、まだ
愛、し、理沙が、わたしは、…し、合うこと。愛。彼女は、理沙を、合う。わたしを。愛。…し、君を
…し、君と合うこと。
愛し合うこと
見たことのない
ふれる。
君と。
あまりにも高飛車な理沙は、客にさえ、憎しまれるようにして愛された。もしろ、彼女を壊したいがために、彼らは、彼女を求めている気さえした。
ふれる。
君と。
理沙が死んだとき、会った理沙の母親を見て、わたしは自分を恥じたものだった。葬式のときに。純白の花々の立てた匂いの向う、気品のある悲しみというたたずまい自体が高貴さを持って表現されたような、その、美しさに。わたしは自分の脱色された髪の毛をさえ恥じなければならなかった。あるいは、理沙はその存在そのものを。理沙は父親似だった。
ふれる。
君と。
風景の中で
初めて理沙を抱いたとき、妙にパーツがあわない違和感を拭えない僕を、理沙はごまかす気さえなくて、
いくつかの眼差しが見いだした
上から覆いかぶさったままに僕の頭を撫で続けるのだが、知ってる。…ねぇ、たぶん。不意に、
その
そう言った僕に、君の痛みは。「なに?」と、もはや、問い返すのでさえなくて、ただ、不安そうな眼差しをくれた。その瞬間に、
風景
彼女が初めてだったに違いないことに気付いた。何度目かの家出の後で、
心の中の?
16歳から風俗店で働いて、それをなかったことにして、いま(そのとき)、歌舞伎町のキャバクラで働いている(…た)理沙、この19歳の、
目の前の風景
…なぜ?と、僕はつぶやく代わりに、「幸せ?」言った。
ばか。ばかじゃね?
見たこともない
そう言って、声を立てて笑い、理沙は、そして、体で客を呼んでいると、陰口をされながら、自分でも、
その
店の女たちにそれを公言してみせながら。
「なんか、変なもん、食べちゃった?」
風景を
昨日は久美子さんを抱いた。40過ぎの。
「お前以外、なにも食ってない。まだ。」
見ようよ
明日は、誰?また、理沙なの?理沙だけを愛していた。
「ばか。」
いつか
いつでも、男言葉でしか話さない、理沙。
「おまえ、俺以外食ったら、殺されるからね。」
二人で
なぜ?そんなこと、聞きもなかった。
「俺に。」
いつか
一度だって。
理沙の髪をかき上げて、その瞬間に、理沙は親指の先をかるく咬んで見せたが、
見ようよ
僕は笑う。声を立てないままに。
「安心しろよ。お前以外、…は、さ。
まだ、誰も
もはや、女じゃないからね。」
守られることなどない約束。お互いに、どこかですでに気付いている。
誰も、まだ
「…知ってた。」理沙が言った。表情もないままに、眼差しにだけ何かを訴えて。
見たことのない
何を訴えたいのか、たぶん、何を、自分さえ 見てるの? 知らない。
君は、間違いなく、いま。きっと。
風景を
髪の毛が胸にかかり、悲しかった。乱れ、僕は、音。心、息遣われた、乱れて、音を。悲しかった。眼差しが だって、捉えた(わたしの、その)壁の 失って仕舞ったから。白いクロスの、
見ようよ
君を。(眼差しが)その、やがては(見向きもしないままに)聞き取られる 僕は、すべての(捉えたのは、)君の 音、すべてを 静かな、(…存在。)失って、静寂を拒否した、(理沙の、)…喪失して、ピアニッシモですらない、(存在、)
まだ、誰も…
君は、しずかな、(いま、…そのとき、いつも、そのあとで、)もはや、音の氾濫。もう、(胸に頭をあずけた理沙は)聞いた。二度と、(うたたね、)音。(その、)
いつか
なぜ、壊れたの?
命の?(浅い眠り。)心臓の。血が流れる、その。…吐息を、(聞いて。)吐く、(心臓の、その)ような、(聞こえる?)その、音を。(眠りの中でさえ。)
僕たちは、