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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

小説《花々の散乱》②…きみの、想い出。

2018.06.02 23:20

この小説、字面を見たその瞬間に、お前はマラルメかむかしのデリダかっていう、失笑をかうほうが多いがしますが、でも、看板に偽りなし、ということの証明でもあります(笑)。

ボログの紹介欄に、ゴダールが好きだって書いてありますからね(笑)。

ゴダール好きが小説書いたらこうなるんじゃないか、と。

もっとも、こういうのをスタイルとして継続させようと言うわけでもないのですが、個人的には、結構好きです。

何も細かいことは気にしないで、詩か何か読み飛ばすように、自由に言葉を絡ませながら読んでいただければありがたいです。

文字面はちょっと、いかにも頭が言い人向け風なのですが、内容は、いわゆる社会の底辺でしか生きられなかった人間の(…それはかつての僕のことでもありますが)見た風景を、描いています。

2018.06.03 Seno-Le Ma









Quartet

花々の散乱










君は、しずかな、(いま、…そのとき、いつも、そのあとで、)もはや、音の氾濫。もう、(胸に頭をあずけた理沙は)聞いた。二度と、(うたたね、)音。(その、)

いつか

なぜ、壊れたの?

命の?(浅い眠り。)心臓の。血が流れる、その。…吐息を、(聞いて。)吐く、(心臓の、その)ような、(聞こえる?)その、音を。(眠りの中でさえ。)

僕たちは、

滅びるまでの

まだ世界は滅びない。いつ滅びるのかは知らない。それはいまではない。あるいは。(理沙が、振り向いて、わたしの耳たぶを指先にはじき)

君は

あいだに

まだ僕は死なない。いまではない。いつか、そして、まだ僕は生き続けて、

滅びるまでのあいだに

抱いた。(声を立てて笑った4月に、雪の日の夢を見た。)

なぜ?

僕たちが

腕に。(記憶が、)理沙を。

滅びるまでの

その寝息を(わたしには、記憶が)聞き、(あって、)滅びたこととすでに等価な、(…記憶の存在。)世界の存在。

滅びるまでのあいだの








(そして自分勝手に、)わたしそのもの。(書き換えてしまうのだった。)

あいだの、いつか

僕たちは存在した。(…僕たちは。いつでも)生きとし生けるもの。…する。

やがて壊滅する

存在。命さえないもの。…する。存在。し、存在。

前に

…する。雨が降った。

存在する

………………………、その

もうすぐやむに違いなかった。…記憶。

もの

想いだす。理沙。もう二十年近く前の。

すべて

その間の時間はどこに?わたしだけが、老いさらばえていき、もはや世界から(を、)失われた(ってしまった)理沙は老いさらばえはしない。

壊れる寸前の

タンソニャット空港でタンと言う男に三人の少女を渡す。あとはタンが中国まで輸送するはずだった。斜めに照った熱帯の夕暮れの光が、タンを瞬かせ、一瞬声を立てて笑ってしまったわたしに、責めるような眼差しをくれた。人身売買。中国人たちに、ベトナムの少女を売りさばく。タンはベトナム人だった。プライドも何もありはしない。中国人の金に魂を売った売国奴ども。わたしは?

売国奴ども

一番色の白い少女がくしゃみをし、一瞬、うかがうような目線をわたしにくれた後、

人間のくず

はにかんで見せた。必死に媚態を示して。垢抜けない顔で。買受先の中国人の趣味を疑った。

生きる資格もない

なぜ?僕を残して?

君は、

空が

無意味に引き裂かれた、雲から切れ目さえ差し、想いだす、もうすぐ雨がやむ。そのことを、僕は予感し、雨。










色彩の記憶だけ残して

雨がやんだら、ご飯を食べに行く。理沙が言った。その時に、十分前、僕は瞬き、眠りに着く前に、どこ、行く? ささやくように、何、食べる? 耳元に、出来損ないのホスト。半ば、町に 眠りに落ちながら。のさばるしか 喪失。できない わたしは 存在。老いさらばえて行く。光。

砕け散る前に

崩壊した肌を撫ぜた。老いさらばえたわたしはサイゴンにいた。40歳を越えて。ベトナム。老いさらばえて。熱帯の町。その温度。熱気。太陽への距離。

いつか

24歳のとき、緋村と言う偽名を名乗っていたやくざを殺して仕舞ったあとで、結局は、わたしを引き取ったのは緋村が所属していた組だった。犯罪行為すらなかったことにして。

滅びるまでの

さんざん私に制裁を加えたあとで、「命だけはくれてやる」と加藤裕樹が耳元に言った眼差しに、わたしを最初から仲間に引き込むつもりだったことに気付いた。

あいだに

十年以上前の、旧防衛庁跡地の近くで、東京タワーでも見えればいいのに、と想った。加藤の《店》の中で。彼らに前歯と鼻の軟骨を折られながら。

僕たちが

…そうでなければ、こんなところに連れ込むはずもなかった。覚醒剤の一時保管場所。

僕たちが滅びる

わたしに密告されればそれで終わりだった。かといって、わたしを殺すためには明らかに不向きだった。

滅びるまでの

加藤の水商売の女名義で借りている《店》ワンルームの。古い。壁は白い。ざらついたクロス。空きだらけの、古びた、

僕たちが滅びるまでのあいだの

元分譲型マンション。タイル張りの外壁をさえクラックが這った。

あいだの、いつか

小指の骨が、取り囲んだ男たちの誰かのかかとにへし折られたとき、わたしは死んで行く緋村を懐かしく想った。想い出しさえしなかったのに。びっくりした顔のまま表情を痙攣させ、

やがて壊滅する

この顔のまま死んで行くに違い、存在自体が無意味だったに違い男の末路に、むしろその母親を

その、

哀れんだ。

いつか、と想った。

前に

わたしは加藤たちを皆殺しにするだろう。

誓いを立てるまでもない。彼らに吸われるべき空気などなく、重力にへばりついている資格さえない。

………………………、その

なに笑ってん?ヒグマのような、沖縄生まれの北橋真治が言った。わたしは、自分が笑っていたのに気付いた。

「こいつ、壊れてもたんかな?」ヒグマ。

………………………、その

ヒグマの声を、視線の端の向うで聞いた。自分の、立てられ続けた、いじけたような笑い声を、…気狂いになった。自分で、とうとう、聞いていた。人間のくずの、俺は。と、

壊れる寸前の

想った瞬間に、匂いを想い出した。緋村から奪った改造拳銃を緋村の唇に押し当てて、(開けるかな、と想ったのだった。わたしは、そのとき、彼が)引き金を(口を。)引いたときの(あるいは、)

空が

、匂った。(誰でも)煙が立って、(口をあけて、咥えるのではないか、と。)匂う。右腕に(むしろ、自分から。)銃の反動があって(目の前のその、何かを)、

色彩の記憶だけ残して

気付いた。(食べさせてもらうときのように)自分がそのとき、逆腕で発砲していたことに。血が向こう側に吹き飛んだ。そして、いわゆる脳漿と呼ばれるもの、そして

砕け散る前に

あるいは、骨と筋肉と贅肉等の残骸。

声を聞く。ヒグマの声。そして、体中に走る痛み。彼らの、殴打の。