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紺碧の採掘師2

第19章 01

2023.05.06 12:00

午後1時。

強風の吹く狭い渓谷を飛んでいるカルセドニー。ブリッジでは駿河が真剣な顔で操船に集中している。

操縦席の左側に立つカルロスはホワイトボードに描いた図を示しつつ「今ここ。」

駿河、それをチラリと見るとすぐに計器に目を戻し「風が更に強くなった。」

カルロス「行けそうか?」と言った途端、船がグラッと揺れてカルロスが若干よろめく。

駿河「行けるけど、揺れるからどっか掴まっといて。」

カルロス「とはいえナビをしないとな」と言ってホワイトボードを左手に持ち、右手で操縦席の椅子のヘッドレスト部分を掴む。

護はブリッジの後ろの壁際に備え付けられた椅子を引き倒して座ると、シートベルトを締めて「俺は座っとく。」

駿河「しかも雲海が濃くなって来た。」

カルセドニーは時々風に煽られて左右に振れつつ視界の悪い峡谷を進む。

カルロス「小型船にはキツい所だな。」と言いホワイトボードを見せつつ「この6の柱のある所の、更に先には等級8があるから、もしかしたら後ろから大型船が来るかも。」

駿河「…ここ、大型船なら楽勝だな…。」

カルロス「でも8に行くには」と言った途端、船が大きく揺れて慌てて操縦席の椅子に掴まりつつ「…道中、狭いとこあるから大型でも難儀だぞ。」

護「8かぁ…。いつか採ってみたいな…。」

カルロス「それでだな。」と言うとホワイトボードに図を描こうとして船が揺れて慌てて椅子に掴まると「描くと危ないから口で説明するんで言う通りに飛べ!」

駿河「了解!」



その頃、黒船は広い洞窟の中の光る源泉石の壁と格闘していた。

昴とオリオンが協力して、何度も壁に発破を掛けようとするが、どれも不発に終わる。

昴「だーめーだー!」と地面に座り込む。

オリオンも「力が通らないなんて、こんなの、初めてだ…。」

穣「もう壁が崩壊してもいい、最悪、天井まで崩れても俺が死ぬ気でバリアして皆を護ってやらぁ!」

ジェッソ「だから死ぬ気でドカンと!」

昴「って言われても、そもそも発破しようにも…」

オリオン「力が全く通らない、…無理なんです。」

昴「お願い、怪力の人、頼むー!」

ジェッソ「…そうか。分かった!」と言うと「こうなったら仕方がない…。」

悠斗「等級無視で筋肉勝負?」

ジェッソ、苦い顔で「…まぁ…。」と言葉を濁して「さっき失敗したから出来るだけやりたくないが…。」

レンブラント「でも、とにかく採れれば…。」

悠斗「じゃあ、それで行くか…。」とツルハシを構える。

ジェッソ、レンブラント、オーカー、悠斗、健の5人の怪力は、少し間隔を空けて並んでツルハシを構えると、石壁のそれぞれの場所を叩く。するとレンブラントとオーカーの叩いた石壁がガラガラと崩れ始める。

ジェッソ、ちと驚いて「よく崩したな。」

オーカー「すげぇ力を込めたら崩れた。」

レンブラント「これ、力を加減したらダメですよ、筋肉勝負するならガッツリ行かないと。」

ジェッソ「…さっきの柱の失敗が尾を引いてて。…もう等級なんか忘れないとダメだな…。」

レンブラント「採る事だけ考える!」

ジェッソはツルハシを振り被ってガツンと石壁を叩く。すると石壁がガラガラと崩れる。

悠斗と健も同じく全力でツルハシを振るい、石壁を崩す。

5人の怪力が崩した源泉石を、他のメンバーがコンテナに入れる。


一方、カルセドニーは強風が吹き荒ぶ中、殆ど何も見えない谷底に向かって降下する。

揺れるブリッジでカルロスは駿河の座る操縦席の椅子に掴まりながら「着陸地点が難しい!現場から若干離れるが…減速、やや11時…ここで雲海切りは」

駿河、必死に操船しつつ「ドア開けたら船が制御不能になる!」

カルロス「だな!視界ゼロだが頑張れ!…やや3時、11時、12時、更に減速、降下…。」と指示をしつつ「…停止、そのまま風に流されつつ着陸!」

駿河「…なにぃ…? この暴風で滑空着陸だと…しかも視界ゼロで!」

ブリッジが左右に揺れる。

駿河、操船しながら「大型なら揺れないが、小型は揺れる!」

カルロス必死に椅子に掴まりつつ「…確かに凄い揺れるな…。」

駿河「だって黒船の両翼に付いてる浮き石、凄いんで!…ウチの船の浮き石では…。…接地で跳ねる!」

その時、若干ポンッと船が微妙に上下に跳ねる。

駿河は、ふー…と溜息をつくと「着陸完了。」

護はシートベルトを外して立ち上がると「よし!行って来る!」とブリッジを出る。

カルロスも護に続いてブリッジから出て行く。


貨物室の扉を開けてタラップを降ろし、外に出たカルロスはすぐに黒石剣で雲海を切る。両側に切り立った岩山、木々が疎らに生える荒れ地の真ん中には水量の少ない川が流れている。

護も斧と畳んだコンテナを持って貨物室から出て来る。

カルロス「行くぞ護!少し距離があるから走る!」

護「ほい!」と言ってカルロスについて強風の中を必死に走りつつ「よくこんなとこに木を避けて船を着陸させるね…。雲海で見えないのに。」

カルロス「探知し甲斐があるし、操縦が駿河だからこそ出来る技だ!」と言い、そこで再び前方に雲海切りをして視界をハッキリさせる。暫く走ると前方に源泉石のクラスターが見えて来る。

護「あれかー!形がいいな、等級6でも上物の6だ!」

2人は源泉石柱のクラスターの所に到着する。護の背丈ほどの細めの柱が中央に2本、周囲にその半分の長さの柱が4本。

カルロスがカメラで写真を撮っている間に護はコンテナを置いて組み立てると、すぐさま腰のポーチからイェソド鉱石を取り出して、中央の柱をコンッと叩く。

カルロス「写真OK!」

護「切るよ!」斧を構えてガキンと1本、中央の柱を切り倒す。それを除けると続けて2本目もガンと切り倒す。

カルロス「随分と手慣れたな。」

護「もう6は鉱石で何度も叩かなくても分かるようになった。」

更に護は周囲の4本の柱も一撃でどんどん切り倒していく。カルロスは4本の柱をコンテナに入れる。

護、ちょっと溜息ついて「全部一度に持っていけない…。往復しなければならんかー…。」と言いつつ4本の柱が入ったコンテナを持ち上げる。

カルロス、地面に置かれた長い柱を持ち上げて「…1本だけなら担げるが…。」

護「頑張って2本目。」

カルロス「お前そのコンテナに長い柱1本、乗っけられない?」

護「じゃあ2本ともコンテナに入れて。バランス悪いからカルさんが飛び出た柱を抑えれば、持っていける。」と言い一旦コンテナを降ろす。

カルロス「…何がどうでも護が全部運べるようにしよう。船と往復はメンドイ!」と言い柱をコンテナの中に入れる。続いて2本目の柱も何とかコンテナに入れようとして「ってか長い柱を先に入れて、上から短いので抑えればいいんでは。」

護「んじゃ一旦全部出す。…なんかパズルみたいになっとる。」と言いつつ柱を出し始める。

カルロス「最初に短いのを全部コンテナに入れた人が悪い。」

護「それはアナタ」

カルロス「くっ…。」

護は柱をコンテナのバランスが取れるように入れると、それを持ち上げて船に向かって歩き出す。強風の中、テクテクと歩く二人。暫く歩いてやっとカルセドニーに戻って来ると、貨物室の中に入り、コンテナを置く。カルロスが貨物室のドアを閉めてロックしている間に護は長い柱をコンテナから出して、貨物室の中央の源泉石柱をまとめてある所に置き、バンドで固定する。更に短い柱を入れたコンテナも他のコンテナの上に積み、固定する。

作業を終えた二人がブリッジに戻ると、駿河が操縦席から「おかえり」と2人の方を見て「いいの採れた?」

護「採れた採れた。」と言いつつ椅子に座ってシートベルトを締める。

カルロス「ではUターンして、再び暴風との戦いに行くか。」

駿河「方向転換が難しいんだな…。ここでホバリングで方向転換は出来ないから、飛びながら回るしかない。」と言い「…大型船だったら楽なんだけども。」

カルロス「そういや大型船来ないな。さっき探知してた時は、なんかこっちに来そうな有翼種の大型が居たんだが。この先に8があるのに、諦めたのかな。」

駿河「もしかして有翼種ってカルセドニーがどんな船か知らないからかなぁ。つまり有翼種の船ならどんなスペックか分かるけど、カルセドニーの船体スペックは分からないから」

護「あぁ、船体のスペックって事ね!」

駿河「そう。『あの船、小型だけど強風でも8まで行けそうだ、追い抜くのは難しい』と判断してたら、来ないよね。」

カルロス「しかも護は7を採ってるから、8を狙ってると見られてもおかしくないし。」

護「実際、もしも行けるなら8行きたいです。」

駿河「残念ながら、この船は行けないんでUターンなんだな。…カルさんどっかに掴まって!発進時が一番揺れる!」



洞窟内の源泉石と格闘していたジェッソ達は、崩した源泉石を詰めたコンテナを洞窟の外に運び出し、深い森の上空で待機している黒船に、ワイヤーでコンテナを上げる作業をしていた。

悠斗と健がワイヤーの吊上げフックをコンテナの穴に引っ掛けて留めていると、洞窟から採掘道具を入れた箱を持った昴と、小さなコンテナを持ったオーカーが出て来る。

オーカー「片付け、終わった。これ最後のコンテナ。」

悠斗「じゃあ次は空のコンテナを降ろしてもらって、人運びだ。」と言うと耳に着けたインカムに「上げていいよー!」

するとワイヤーがピンと張ってコンテナが黒船の採掘口に向かって上昇していく。

悠斗は再びインカムに「次は人を運ぶから空のコンテナ下さい。」

皆で黒船の採掘口に吸い込まれるコンテナを見ていると、ふとオーカーが「…カルセドニーってこういう時どうやってんだろう?」

悠斗「船が着陸出来ない場合?…あの船、元が単なる貨物船だから、吊上げは出来ないよ。」

オーカー「ですよね。」

悠斗「だからこういう、船が上空待機しないとダメな場所は採らないはず。」

オーカー「それでも合格圏内入ってんのかー…。」

悠斗「凄いねぇ。」

そこへ昴が「…なんかもっと、ちゃんと8採りたい。」

オーカー「わかる。なんかスッキリしない。」

悠斗「もう少しキレイに採りたいよな。…なかなか難しいけど。」



黒船のブリッジでは上総とマリアが唸りながら真剣探知をしている。

上総「うーん、難しいご注文だ。採りやすい8とは…、うーん…。」

マリア「…どういうのが採りやすいのかな…。」

上総「最初に行ったとこの柱、あれ採りやすかったと思うんだけど…。」

マリア「横に生えてて船の上だったしね。」

上総「あれより採りやすい8とはどういう…。んー…」悩む

マリア「んー!」悩む。

見かねた総司が「…難しいなら、採りやすいかどうかは別として8の探知だけでいいよ。時間も時間だし。」

上総「んー…でも、採掘監督が、出来るだけちゃんと採りたいと。」

総司「次が最後の場所になると思うから、きちんと採りたいのは分かるけど、探知に時間が掛かって日が暮れたら視界も悪くなるし、焦って採るしかなくなる。」

マリア「確かに…。」

上総「じゃあ、ここから一番近い8にしようか。」

マリア「そうね。…少し前にざっと見た時、ちょっと8を感じたんだけど、なんか有翼種の大型船がその方向に行きそうで…。」

上総「もしかしてそれ、6の向こうに8があるとこ?」

マリア「それそれ!」

上総「有翼種の船なんて、居たんだ?」

マリア「私が探知した時には、居たよ。あの8、採られちゃったかなー。…あっ、まだある!詳細探知しよう!」と言いタブレットにペンで何かメモを始める。

上総もタブレットにメモをしようとして、ふと「あれ?」と言って怪訝な顔をすると「なんか6のエネルギーが、凄い微妙になってる。」

マリア「えっ。」と言って「ほんとだー!」

上総「誰か採ったのかな。その有翼種の船とか…」と言って驚いた顔になると「あっ!6が沢山ある!」

マリア「どこに?」

上総「船の中、カルセドニーの! あの船が採ったんだ!」

総司「!」

マリア「え…。カルセドニー?」

上総「マリアさん、8の側じゃなくて、6から黒船側に探知するとカルセドニーいる!」

マリア「いた!」

上総「すっごい珍しい!俺がこんなに意識向けてんのにカルロスさんが気づかないとは!…何か物凄い真剣に探知してるっぽい。何を探知してるんだろう?」

そこへブリッジにジェッソと穣が入って来る。

ジェッソ「船長、作業終了しました。タラップ上げて下を閉じたので、いつでも出発出来ます。…次の採掘場所は?」

総司、マリアと上総を見て「とにかくその8の場所に行こうと思うんだけど。ナビ出来る?」

マリア「あっ、はい!…1時の方向へ!」

上総「カルロスさんが俺の探知に全然気づかなーい!」

穣「カルロス?」

総司、操縦席の静流に「…静流さん、発進して。」

静流「では1時へ、出発します。」