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紺碧の採掘師2

第21章 01

2023.05.20 12:00

朝7時。

ケセドの駐機場に停まっているレッドコーラルの食堂に、メンバー達がゾロゾロと入って来る。配膳カウンターから朝食のハムエッグ定食を受け取ると、テーブル席に着いたり、または朝食を持って自分の船室へと去って行く。

ウィンザーは朝食を持ってサイタンの隣の席に座りつつ「今日は一体どういう予定になるのかなぁ。」

サイタン「黒船の出迎えしたい奴は、するんじゃねーの。」と言ってソーセージを口に運ぶ。

ウィンザー「それがさぁ、さっき外に出たら石置き場の方が凄い混んでて駐機場にも続々と船が入って来るし。邪魔になるから出迎えはやめようって事に。」と言いつつ目玉焼きをご飯に乗せて食べる。

サイタン「最終日だしな。」と言うと「しかし、つまんねーなぁ。」

ウィンザー「何が?」

サイタン「俺らも一緒にスタートしてたらガチ勝負出来たのによ!」

ウィンザー「あー…。」と言って味噌汁を飲むと「…黒船、受かるのかなぁ。」

サイタン「知らね。」

ウィンザー「今日はどうするのかなぁ。」

サイタン「まぁ黒と茶色が戻ってから相談だろ、多分。…しかし、つっまんねーな!」

ウィンザー「スタートが遅れた事が?」

サイタン「それは仕方ねぇが、なんかつまんねぇ。」

ウィンザー「…はぁ。」



7時30分。

カルセドニーと黒船とアンバーが石置き場に近づく。係の有翼種の誘導で、カルセドニーは小型船エリアの方へ移動し、黒船とアンバーはそのまま他の有翼種の船と共に上空待機する。暫くすると順番が来て、アンバーと黒船は石置き場に着陸する。

アンバーのタラップが降りると、待機していた担当のアンさんや係の有翼種達が大型台車をタラップ付近に着ける。

そこへ穣たちアンバーズがタラップを駆け降りて来る。

穣「今日のアンバーの積み荷はありません!」

アンさん、思わず「…えっ?」

アンバーズは有翼種達の前に整列すると、穣が「俺達どうしても黒船に大死然に行って欲しくて、最後だけ二隻一緒に採掘しました。だからウチの船には積み荷が無いんです、全て黒船にあげたので!」

有翼種達はちょっと唖然とした表情でアンバーズを見る。

悠斗「最後にどうしても等級8が採りたくて!でも一隻だけでは難しかったから、二隻で採りましたー!」

マゼンタ「反則技だったらごめんなさい!」

アンさん「…いや反則って事は無いけど、…各船がそれでいいのなら…。」と言って「ずっと前に小型船でそういう事例はあったけど、大型船では初だよ…。」

穣「黒船の成果は二隻の成果、それがこの二隻の実力です!」

アンさん「…まぁこの選考は成果だけ見てる訳じゃないから。熱意とか将来性とか色々見てるんだ。だから君達は…。」と言って暫し黙ると、溜息ついて「かなり頑張っていたし伸びて来てたから、仮に合格は難しいとしても最終的にどこまで伸びるか見たかった。同じ名前だし…。」と言って「とりあえず、君達が採った石を見たい。黒船にあるのか。」

穣「はい!」

アンさんは穣に「一緒に来てくれ。」と言うと待機している積み下ろし作業のスタッフ達に「ちょっと見に行こう、黒船に。」と言いつつ黒船の方へ歩き出す。

他の有翼種も「うん。」


穣たちが黒船に行くと、丁度等級8の源泉石柱を搬出している所だった。ジェッソ達が担ぎ出して、タラップ下の大型台車に載せる。

黒船のタラップ下に居た有翼種のスタッフが、アンバーの方から来た空の大型台車を見て「あっ、その台車、空ですか?」

アンさん「アンバーが積み荷ゼロなので、これ空いてます。」

黒船担当のロイが「丁度良かった、その台車…って積み荷ゼロ?」

アンさん「なんかアンバーの分を全て黒船にあげたというので、どんなもんを採ったのか見に来ましたが…。」

ジェッソ「殆どアンバーと一緒に採ったものです!」

有翼種スタッフの一人が、既に大型台車に載せた源泉石柱を見て「初参加なのに上物の8を採ったのか…。」

ジェッソ達「!」

穣「これ8なんですか!」

有翼種スタッフ「うん。切り口が綺麗だし、9に近い8だ。上手に採ってるよ。」

途端にアンバーズと黒船メンバーの顔がパッと明るくなる。

悠斗「やったー!」とガッツポーズをする

レンブラントもガッツポーズして「やったな!」

マゼンタは万歳して「やーったー!」と穣と両手でハイタッチする。

ジェッソは興奮気味に「これはカルセドニーの護にちょっとアドバイス貰って、皆で採ったんです!」

アンさん「ちょっとアドバイスされただけで採れるのか…。」と若干驚く。

ロイ「8の柱はこれだけ?」

ジェッソ「いや、実は下が砕けた奴が1本…。今から降ろします!」

レンブラント「8の壁を採った塊もあります!コンテナ降ろしまーす!」

穣「こうなったらアンバーズも搬出作業手伝うぜー!」

一同は黒船のタラップを駆け上がる。



一方、カルセドニーでは。

全ての積み荷を大型台車に降ろし終わり、運搬担当の有翼種達がそれを集積所へと運んでいく。

護は担当の有翼種と話をしている。

有翼種はタブレット端末にチェックを入れつつ「じゃあこれで、チェック終わり。」と言うと護を見て「一週間お疲れ様!11時の最終結果発表まで、ゆっくり休んでね。」

護「ドキドキして休めないかも。」

有翼種ちょっと笑って「頑張ったんだから自信持って。7を採れる小型船は少ないし。…では!」と言って右手で護にバイバイをすると、隣の有翼種の小型船の方へ飛んで行く。

護は、はぁー…っと長く深い溜息をつくと不安げな顔で「どうなるんだろう…。」と呟きつつ貨物室の中に入ってタラップを上げ、扉を閉めてロックを掛けると通路を歩いてキッチンフロアへ。ふとロフト部分を見ると、カルロスが横になってスヤスヤと寝ている。護はそこを通り過ぎて、ブリッジに入る。

護「船長、駐機場へ移動です。」

駿河「では発進しますね。」と言ってエンジンを掛ける。

護「11時にネットで結果発表だけど…ウチの船は見れないから本部に行くしかない。でも11時に行くと多分絶対、アンバーとか黒船の皆がいると思うんだ。」

駿河、操船しつつ「いるだろうね。」

護「だから11時半頃に行こう…。皆が居なくなった頃に。…なんかもう気になるから俺も寝るー!おやすみだー!」


カルセドニーは駐機場の端の空いている場所に着陸する。少しすると搭乗口のドアが開いて駿河が現れ、ドアの外側に何かが書かれたA4サイズの紙をセロテープで貼り付けると、中に入って搭乗口を閉める。


『11時まで寝てます。』



10時半。

広い駐機場の中の小型船が集まっているエリアを、黒船とアンバーの数人のメンバー達が雑談しながら歩いている。

上総「中に居るから絶対寝てる!」

剣菱「しかしあんだけしつこくコール鳴らしたら、起きてもいいような。」

穣「耳栓でもしてんじゃ?」

剣菱「緊急電話のコール音って相当うるさいぞ、ウチの船の場合はな。」

一同はカルセドニーの船体に近づく。

総司「あれ。」と何かに気づいてカルセドニーの搭乗口のドアを指差すと「何か書いてありますよ。」

剣菱「ほんとだ。どれどれ。」と言ってドアに走って近づくと「やっぱ寝てんのか。」

ジェッソ「キチンと張り紙して寝るとは…駿河船長らしい。」

悠斗「11時に起きるのか。」

穣「仕方ない、先に本部に行こう。」



10時50分。

誰かが護の身体を揺らしている。

声「…る、まもーる!」

護「んー…。」と唸って目を覚ますと、貨物室の天井が見える。ちょっと横を向くと、カルロスが自分の傍に屈んでいる。

カルロス「そろそろ起きろ。」

護は上体を起こして貨物室の床に敷いたシートの上に座り込むと「何時?」

カルロス「11時前。」と言いつつ貨物室から出て行く。

護「はぁ…。」と溜息をついて、貨物室の端にある小さな物置に向かうと、手洗い場で顔を洗い、物干しロープに干してあるタオルを取って顔を拭く。

物置を出て貨物室を経由しキッチンフロアに行くと、駿河とカルロスが椅子に腰掛けてコーヒーを飲んでいた。

駿河は立ち上がって護にもコーヒーを淹れたマグカップを差し出す。護はそれを受け取って、立ったまま一口飲む。

護は駿河を見つつ「やっと白船船長に戻ったんだ。」

駿河「うん。さっき黒船の制服のままカルセドニー操船してたら違和感凄かった。」

護「あれはあれで、…面白かった。」

カルロス、コーヒーを一口飲んで「…さっき、何か来たな。」

駿河「張り紙しといたから問題ないけど、緊急電話のコール音で、俺は目が覚めた。」

カルロス「張り紙?」

駿河「11時まで寝てますっていう。」

カルロス「なるほど。」と言い時計を見て「もう11時過ぎか。結果出たな。」

護「今行くと、本部混んでそう。」

カルロス「現金払いの連中が報酬貰いに行くからな。」

護「あと10分位したら行くか…。」


暫し後。

カルセドニーの搭乗口から護達3人が出て来ると、ドアを閉じて鍵をかけ、テクテクと歩き出す。

無言のまま3人で駐機場の出入り口へ向かい、建物の間の通路を歩くと本部の前に、ちょっとした人だかりが出来ているのが見える。

護「うわ…ブルーとかシトリンまで居る…。」

カルロス「仕方がない。」

駿河「しかし服の色でどこの船が居るか分かるって便利だなと実感する。」

護「なんか皆こっち見てるし!」

人が集っている本部前に3人が近づくと、満が一同の方に進み出て来て「護、今来たのか。」

護「うん。ブルーは報酬貰いに来たの?」

満「いや、報酬は昨日既に頂いたが、結果が気になって見に来た。」

満の背後にいる武藤も「まぁ野次馬だー。」

護「なるほ…。」と言って本部の入り口を見ると、南部に春日にサイタンまで居る。微妙な会釈をしながら彼らの脇を通って本部内に入ると剣菱や総司達が居て、護は思わず(…なんつー大所帯…。)と辟易する。

そこへ穣が「やぁ。さっきカル船に行ったら寝てるって張り紙してあって。」

駿河「寝てましたけど電話のコールで起こされました。」

剣菱「やっぱ起きたんか。」

護「とりあえず結果を見に来た。」と言って最終結果が出ているモニターの所へ行く。そして不安な面持ちで結果一覧を見ると…護の顔に驚きが浮かぶ。その左隣にカルロスが来る。

護の背後で駿河が剣菱に「だってなかなか鳴り止まないので」と言った途端。

護が「船長、カルさん!受かったー!」と叫ぶと隣のカルロスに抱き付く。

いきなり抱き付かれたカルロス、ビックリして面食らって「お。…おめっと…。」

続いて護は駿河に抱き付くと「ありがとう駿河船長!」

駿河、戸惑い顔で「う、うん。…ホントに受かったの?」

護は駿河から離れると「ホントだよ、ほら!」とモニターを指し示す。

駿河とカルロスはモニターを見る。

カルロス、やや唖然として「…マジで受かるとは…。」

駿河も信じられないといった体で「しかもギリギリ合格じゃなくて下から二番目で受かっとる…。」

剣菱、駿河の背中をバンと叩いて「おめでとう!」

総司も「おめでとうございます!」

南部も「おめでとうカルセドニー。」

穣やジェッソや春日も、拍手しつつ「おめでとう!」

その場の一同が「おめでとう!」と騒ぎだす。

護「み、皆さん、ありがとうー!」

駿河は「…頑張った甲斐があったなー…。」と呟いて、ふと総司の方を見ると「…黒船は?」

総司「…残念ながら。」

ジェッソ「二隻で力を合わせても、合格圏に届きませんでした。」

穣、笑って「でも全部黒船に積んで良かったぜ!全く悔いがねぇ!」

ジェッソ「まぁ8の柱を2本も採れたしな。」

穣「ちなみに護、あの下が砕けた8は、辛うじて等級落ちせず8のままだったぜ」

ジェッソ「筋肉勝負で採った奴はやっぱり6だったよ。何にせよ、悔いは無い!」

護「そうかー…。」

駿河、溜息ついて「俺はもう、なんか…。」と言うと、護の肩に手を置いて「護さんが物凄い頑張るんで、最初は見てて辛くて、何とか合格して欲しいとずっと願ってた…。」

カルロスも頷き「最初な…。護が自分で源泉石を採るコツを編み出すまでは、ほんと辛かったな…」と溜息をつく。

すると剣菱が苦笑して「なんとなく想像がつく…。」

穣も苦笑いで「わかるぞ…。」と深く頷く。

カルロス「実はさっきまで、もし落選したら護をどうやって慰めるか考えていた。」

護「そうだったの?」と驚く

カルロス「だってお前…。ウチの船、お前が一人で頑張ってるようなもんで」

護「カルさんの探知が凄いから!」

カルロス「…探知しても採るのはお前。お前ホントにマジで採掘師なんだなって思う。お前は凄い!」と拍手する。

駿河も「本当に凄いと思う!」と拍手する

剣菱も「護は凄い!」

穣も「凄い!流石にドンブラコしただけある!」と拍手する。

その場の一同から拍手が起こる。

護、照れて焦って「…カルさんと船長も凄いんじゃああ!」と叫ぶと「…で、これからどーすりゃいいのか…。」

すると受付の有翼種が「あ、カルセドニーの皆さん、ちょっと待ってて下さい。報酬は明日、船長の口座に振り込みですけど、明細は今、渡せるので…。」と言いつつ机の下の引き出しを開けて何かを探す。

駿河「ちなみにカメラは」

有翼種は引き出しを閉めると「大死然採掘が終わるまで持っていて下さい。今、せっかく皆さんが来たので大死然採掘の要綱を渡そうと思ったんですが大きな封筒が無くなってた、ちょっとお待ちを」と言い事務所の奥へ入って行く。

そこへ剣菱が駿河に「ちなみに人工種の5隻の採掘船の船長は、午後2時にまたここに来ないといけない。」

駿河「え。なぜ?」

剣菱「なんか有翼種から話があるらしい。来いと言われた。」

駿河「カルセドニーは関係無いのかな…。」

剣菱「5隻指定されたから関係無いかも?…まぁ後で何を言われたか教えてやる。」

そこへ受付の有翼種が、中に何かが入ったA4大の封筒を持って戻って来ると「後でターメリックさんに頼んで渡してもらう予定でしたが、今、居るので渡しますね。今回の明細と、大死然採掘の要綱です。」と言いつつ冊子の入った封筒を駿河の前に出して「合格おめでとうございます!」

駿河「ありがとうございます。」と言いつつ封筒を受け取る。

護「ホントに行けるんだ…。」

有翼種「4日後に説明会、参加者全員の顔合わせで、大死然に出発するのは一週間後です。」

駿河「おぉ…。」

剣菱、護に「楽しみだな。頑張れよ!」

護「はい!」

総司、剣菱に「さて、じゃあ我々は一旦船に戻りますか。昼を食べてまた2時にここに来ないと。」

剣菱「うん。」

一同はゾロゾロと本部から出る。

総司、駿河に「カルセドニーの、今日これからの予定は?」

駿河「昼を作って食べて…いや、もうターさんの家に戻って昼飯にする方がいいか」

するとカルロスが「待ってくれ。このまま街に行って昼飯にしないか…?」

駿河「あ、それでもいいな。」

護「待たれい。俺、サイフ持って来てない…。」

カルロス「私が持ってる、お前に奢ってやる!好きなモン食え!」

護「おお!」

駿河「という事で、ウチの船は街で昼飯を食べたら船に戻って…あとは未定です。」

総司「こっちも2時以後どうなるかワカランからまた後で連絡します。」

駿河「うん。」

カルロス、街の方を指差しつつ「では街はこっちなので、我々はここで。」

そこへ護が「あっ、穣さん!…ネクタイありがとう、お返しします。」とネクタイを差し出す。

穣、それを受け取って「お前、いい監督だったぜ!」

護「ドンブラコのお蔭だ!」

穣、笑って「じゃあまた後でな!」

総司「ではまた」

5隻のメンバー達は駐機場の方へ、カルセドニーの3人は街の方へ、それぞれ歩いて行く。