「エミリーさんとまぼろしの鳥」チャールズ・キーピング
チャールズ・キーピングの本をご紹介するのは意外にも初めてでしょうか。
1924年ロンドン生まれのキーピングは、14歳で印刷業の見習いになって、その後英国海軍、デザインの勉強をし、講師として働くなどしました。
沢山の本の挿絵を手がけており、日本では岩波少年文庫のローズマリ・サトクリフの作品の挿絵などで知られているでしょうか。自身がお話を手がける絵本も多数出版されており、本日はサイトに「めすのこやぎとおそろしいいぬ」をアップしたのですが、こちらはすでにご注文いただきましたので(ありがとうございます)、もう一冊在庫がございます「エミリーさんとまぼろしの鳥」をご紹介いたします。
はずかしがりやで近所の人たちとなかなか友達になれないエミリーさんは、ある日マーケットへ買い物に行くと、たくさんの子供たちに囲まれた行商人ジャック・ラティに出会います。沢山のおもちゃや植木鉢などを積んだ手押し車の前で踊って歌って子供たちを笑わせているラティ。エミリーさんも思わず足を止めます。そして手押し車の上に、金の鳥かごにはいった美しい色の小鳥を見つけるのです。見とれるエミリーさんにラティはささやきます。「じつに珍しい鳥ですぜ。遠い東の国からきた“まぼろしの鳥”。こいつが歌うと森中の小鳥たちが聴き惚れるんです」
エミリーさんは朝起きたら小鳥におはようを言い、外から帰ってきたときには小鳥の歌声で迎えられる部屋を想像し、幸せな気持ちで小鳥を買って帰ります。
その日からエミリーさんは、毎日鳥かごのそばに座って小鳥に話しかけました。しかし、小鳥はたったの一声も鳴きません。そして、ある日ぐったりとうずくまる小鳥の姿に気づいたエミリーさんは、やさしく小鳥を抱き上げそっと撫でてやりました。するとその手に鳥の羽根の色の絵の具がくっついています。それを見て怒ったエミリーさんは、子供たちと一緒にラティのいるマーケットへと出かけていきます…
エミリーさんが偽りの夢を与えたラティに怒りを覚え子供たちと立ち上がる姿や、絵の具を落としたら普通のまちスズメだった小鳥の姿を見て、初めてその美しさに気づくことができたという描写など、キーピングの書く物語には人間の細やかな心の機微が光り、読む者の心を震わせます。
キーピングの描く絵は、その癖の強さに人によって好き嫌いがはっきり分かれるかもしれません。また、子供には少し怖い印象を与えることもあるでしょうか。個人的には、何重にもレイヤーが重ねられているような立体感に、奥行きというよりも、個と世界との境界とつながりを同時に感じられるような不思議な感覚を覚え、そこにキーピングの無二の魅力を感じます。また作品ごとに色ののせ方も工夫されています。エミリーさんの方はどこまでも柔らかく、エミリーさんの人柄を表すような色彩を、めすのこやぎの方はこやぎの緊張感やたくましく成長していく姿がその色からも伝わってくるようです。
昨年は長らく絶版になっていた「しあわせどおりのカナリヤ」と「たそがれえきのひとびと」も新訳で復刊されるなど、再び注目されているようです。
是非、この機会にキーピングの絵本の魅力に触れていただけたら嬉しいです。
当店のキーピングの絵本はこちらです。