メンドーサ州 マルベック主要産地の個性は科学的に見出せるか?
2018年メンドーサ農業生物研究所とクージョ国立大学、ボデガ・カテナ・サパータのマルベックに関する共同研究の報告。
マルベックは、アルゼンチンのワイン産業の象徴であり、同国で最も多く栽培されているブドウ品種である。その生産量の86%はメンドーサ州に集中しているが、メンドーサ州の気候と土壌は、アンデス山脈に近い寒い西部から東部の暖かい地域まで変化が大きい。
ブドウが栽培される環境・人的要因(テロワール)は、ワインの化学的構成や感覚的特性に影響を与える。その中でも赤ワイン製造に大きく関連するのはブドウ果皮液胞に存在するフェノール化合物である。フェノール化合物はフラボノイド、非フラボノイドに分類されるが、フラボノイドは、アントシアニン、フラバノールなどがあり、アントシアニン(赤色色素)は、ブドウやワインの色を担う主な化合物であり、フラバノール(黄色色素)は、ブドウの葉および茎、および果実の果皮および種子など最も固い部分に、プロアントシアニジンまたは縮合型タンニンとして存在している。これらの化合物は、色、渋み、苦味、熟成能力を判断する要素として非常に重要であり、ワインの品質に強く関連している。また、フェノール化合物は抗酸化作用が強いため、長期熟成との関連についても報告されている。
本研究は、ワインのフェノール量と官能評価を同時に行うアプローチで、異なる地域からマルベックを分類することを目的とした最初の研究である。
本研究では、メンドーサ(First zone、East zone、Uco Valley)の3つの最も重要な地域の6つの県(Lujánde Cuyo、Maipú、Rivadavia、San Carlos、Tunuyán、Tupungato)の産地を対象として実施された。
“Uco Valley”は、標高900m~1500mの高高度の涼しい産地が特徴。San Carlos、Tunuyán、Tupungatoが属している。Lujánde CuyoとMaipúは、Uco Valleyから約80kmのメンドーサ川の近くに位置する "First Zone"という地域を形成している。Rivadaviaは“East zone”に属しており、メンドーサの東部に位置し、高度は650 m程度である。ブドウの成長に適した温度帯が6地域の中で最も長い日数もたらされており、温暖地帯に分類されている。
ブドウの収穫タイミングや醸造の条件は均一化され評価された。フェノール化合物はHPLC-DAD分析を行い、官能評価分析はトレーニングされた被験者によって、香り(プラム、チョコレート、土、赤果実、バラ、レーズン、ブルーベリー、イチジク、黒胡椒、ハーブ、煙草)、味わい(熱感、収斂、苦味、甘さ、酸)の項目について評価された。
分析の結果、Lujánde Cuyoは、San Carlos と似た傾向を示し、バラやブルーベリーの香り高い値となった。Lujánde CuyoとSan Carlosはメンドーサ州で北と南に大きく離れているため、同様のプロファイルが示されたことは興味深い。 Maipúは、赤い果実、レーズンの香りが高い値を示し、味わいでは熱感の値が高かった。Lujánde Cuyoと同じFirst zoneに位置付けられているが、アントシアニン量は同地域より高かった。Rivadaviaはこの6県の中でフェノール化合物の量が最も低かった。低高度であり、高い温度はアントシアニン量を低下させることが報告されているので、Rivadaviaの気候による影響が考察されている。香りでは、ハーブ、タバコ、黒コショウ、味わいでは甘味の値が高かった。Uco Valleyに属するTunuyán、Tupungatoはほぼ同じ特性であり、低い温度帯であるが高高度であることから紫外線量が多く、アントシアニン量が最も高かった。
メンドーサ州でマルベック栽培地のテロワールがワインの品質に個性を与えていることが明らかになった。これらの結果が、今後のマルベックの栽培適地を見出していく手がかりになることが期待される。
Phenolic and sensory profiles discriminate geographical indications for Malbec wines from different regions of Mendoza, Argentina
Urvieta R., Buscema F., Bottini R., Coste B., Fontana A.
Food Chemistry 2018 265 (120-127)
Uco Valley。「30年前のナパ・ヴァレーのようだ」アメリカ人だけでなく、フランス人やドイツ人からも注目されている産地。
今回の研究発表された産地の地図。
北からLujánde Cuyo(ルハン・デ・クージョ)、Maipú(マイプ)、Rivadavia(リバダビア)、San Carlos(サン・カルロス)、Tunuyán(トゥヌジャン)、Tupungato(トゥプンガト)