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晴耕雨読

この思い出に花束を

2023.05.01 09:12

△ 台本について 

 ・2人劇 (0:0:2) 

 ・所要時間 60分くらい。最悪越えます

 どんな話?

  →非人間の魔人ヨセフが子供を拾って育てた話。魔法が存在する現代っていう設定の話です。


△ 登場人物

ルカ:人間の子供。(幼少期)と(青少年期)に分けています。

バケモノ:魔人。


登場人物【バケモノ】の性別は不問とし、【ルカ】の性別は役者あるいは読み手の想像にお任せします。 女性の場合は[幼少期]と[青少年期]を最後まで一人で演じられてもかまわないし、男性の場合は[幼少期]を若い声が出せる方が演じ、[青少年期]をまた別の方が演じる、などのように使い分けることができるように執筆いたしました。



バケモノ:……おや。珍しい。私の祠に、人が大きいものを抱えてきた。 

バケモノ:あの人間、布の固まりを祠に置いて行った。忘れていった、……わけがないな。どれ、見にいってやろう 

バケモノ:これは、驚いた。こいつ、産まれたばかりの人間じゃないか

 0:すると、いままで寝ていた赤ん坊が、弾けるように泣き出した。 

バケモノ:おお、オオ。泣き出した。フン。ずいぶん元気な声だ 

バケモノ:この祠は町から随分とおいのに…… 

バケモノ:すてられたんだな、おまえは

 0:赤ん坊はより一層大きく泣いた。 

バケモノ:泣くな、泣くな 

バケモノ:この子をどうしようか……弱ったな…… 

バケモノ:おまえ、生きたいか? 私ならば楽にしてやれるぞ。なにせ私は魔人だからな 

バケモノ:私のすることは人間の法ではさばけない。それに、死体がなければあの捨て置いた人間も危険に及ばない

 0:バケモノは、自身の長細くくすんだ乳白色の指を赤ん坊にかざした。

 0:指先はやがて色を放ち、色を持った光が陽炎のように指先の空間を歪ませる 

0:赤ん坊は、差し出された指を戸惑いなく握った。

 バケモノ:……。そうか、 

バケモノ:…… ……。 

バケモノ:私も随分ながく生きているが、人は育てたことがないな。うまくいくかわからないが、一度ならやってみせようか 

バケモノ:うまくいかなかったら喰べたりしてしまえばいい。ヒトを喰うのは、気が乗らないが…… 0:  

 0: 

 0:  

バケモノ:飯はいいんだが、ううん、おむつはどうしようか…… 

バケモノ:育てかたも人に乗っとるべきだろうか…… 

バケモノ:そうだ、こいつの名前は? 人間は名前をつけて個を識別(しきべつ)する。自我に欠かせないものだ 

バケモノ:私は文字が読めるからな。おまえの持ち物のどこかに名前らしい文字があればいいんだが バケモノ:……なさそうだな 

バケモノ:母親はお前を生かすつもりがなかったんだろう。あの様子だ、しょうがない 

バケモノ:なんて名前にしようか。シャルル、レオン、カール、ルートヴィヒ…… 

バケモノ:昔の人間から名前を持ってくるのはどうだろう。マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、…… 

バケモノ:そうだ、ここら辺の地域は最近、こどもの性別で名前を変えるとも聞いたな、この子は……。ウン、性別がわからない。人間はどこでみればいいんだろう 

バケモノ:メスでもオスでも使われる名前があったな。それのほうが無難か 

バケモノ:……困った。私は、名付けにトンと向かない 

バケモノ:人間なんて、皆ほとんど同じ顔に見える。お前らしい名前を付けてやりたいが、私にはお前がどんな人間かわからないし、将来どう育つかも知らない 

バケモノ:…… …… 

バケモノ:そうだ、私のこの恰好。 

0:バケモノは自分の姿を見た。

 0:足、腰、腹、胸と見て、それを覆い隠す黒く古汚い毛皮、そこから出た頭は、刃はでかく、目はでかく、耳はない。

 0:バケモノは一体の動物の死体で出来ていた。全長2mを超えるその巨体は、動いているのが不思議なほどに、不格好だ。 

バケモノ:この姿、怖いのではないだろうか 

バケモノ:人間の幼体はぬくもりと愛情を求める。かたい母よりやわらかい母を好むものだ 

バケモノ:対して私の体は骨でできている。細くて、抱き心地は全くよくない、どうにかするべきだろう 

バケモノ:……子供が呼ぶための私の名前も決めなくてはならないのか。アア困った 

0: 

0: 

0: 

バケモノ:オオ、ルカ、産まれてそんなに経たないのに元気だなぁ。もうすこし寝ていればいいものを。眠るのが怖いのか。

バケモノ:……まだ物も考えられないのに、「こわい」なんて、それこそわかるわけがないか 

バケモノ:どうした。下(しも)がきもちわるいか、それともご飯か? 最後にやったのはいつだったかな 

バケモノ:……ルカ、手足をただバタバタしていないで、ヨセフにいってみなさい。ン? ただ遊びたいだけか? 

バケモノ:フフ、そう強く指を握るな。手に付けた土がはがれる 

バケモノ:……いま、もしや喋ったか? 「こまった」といったのか? 

バケモノ:聞かなかったことにしてやる。そんな言葉を一番最初に持ってくるな。いいな、ルカ 

バケモノ:すこし私と話をしよう。それから寝ようか

 0:  

バケモノ:ほらルカ、外を見てごらん。 

バケモノ:真っ暗だ。寝て起きたら太陽が昇る。昼になったら私と外へ遊びに行こう。楽しいことを一杯しよう 

バケモノ:夜が怖いかい。寝るのが嫌かい。大丈夫だ。寝たら、夢のなかでも遊ぼう。おもちゃをつくってやろう。 

バケモノ:これくらいの可愛い人形をつくって、鬼ごっこはどうだ。きっと楽しいぞ。

 バケモノ:眠れそうかい、ルカ

バケモノ:おやすみ。よい夢を 

0: 

0: 

0: 

バケモノ:いいかルカ。このお金をもって、町に下りるんだ。まっすぐ行くと高い建物ばかりのところに出る。そこで、これを買ってきなさい 

ルカ(幼少期):……小麦粉と、調味料、バターと? これ全部?

 バケモノ:そうだ。すこし歩くともっと大きい建物がでてくる。スーパーだ。そこで買い物をするんだ。道に迷ったら人に聞きなさい。 

バケモノ:お金は余分に持たせているから、お菓子も一つ買っていい 

ルカ(幼少期):でもこれ、沢山あるよ。持てるかな 

バケモノ:お店の人に「カートを借りてもいいですか」と聞くんだ。きっと、こころよく貸してくれる 

ルカ(幼少期):今日はいつもみたいに、遊びにいっちゃだめ? 

バケモノ:いいぞ。夜になる前に帰ってくればいい。ただ、荷物は多いから、盗まれないように気をつけなさい 

バケモノ:とくにこのお金は、うんと大事なものだ。盗まれると大変なことになる。肌身離さずもっているんだよ 

ルカ(幼少期):わかった。……ヨセフは?

バケモノ:私は行けないんだよ、ルカ。お守りを持たせるから安心なさい 

ルカ(幼少期):いってきます

バケモノ:いってらっしゃい

 0: 

 0: 

 0: 

 ルカ(幼少期):ただいま! ヨセフ 

バケモノ:おかえり。怪我はないね 

ルカ(幼少期):うん。元気だよ。ほらみて! ちゃんと買ってきたよ 

バケモノ:えらいね。どれ バケモノ:(買ってきたものを見ている) 

バケモノ:ハハ、すごい、こんなにパンを買ってきたのかい。そんなにお金が余ったかな

 ルカ(幼少期):ううん。大人の人がくれたの。「買い物えらいね」って。ヨセフ、一緒にたべよ? 

バケモノ:ああ、今夜はごちそうだ 

ルカ(幼少期):やったあ! 今日は何をたべるの? 

バケモノ:今日は鹿肉のシチューだ。手を洗ってきなさい 

ルカ(幼少期):もう洗った! ねえヨセフ、お腹すいた! 

バケモノ:早いなあ。そうだな、ちょっと手伝ってもらおうか。台所の番はできるね?

バケモノ:シチューはもう少し煮なくちゃいけないからこれを見ていてほしい。私は外に置いてる薪をもってこよう 

ルカ(幼少期):はーい!

 0:  

ルカ(幼少期):ヨセフって変だなぁ。こんなの、魔法でチョイッとやっちゃえばいいのに。物を運ぶのも、火を起こすのも、明かりをつけるのも、料理も全部。 

ルカ(幼少期):だって、ヨセフはなんでもできるよ。でもしないの。へんなの

 ルカ(幼少期):そういえば昔ヨセフが寝る前に話してくれたお話のなかに「火に寄り添う妖精のはなし」って言うのがあったな。 

ルカ(幼少期):人の家に住みついた妖精が、目にはみえないけれど、人に尽くしてくれた話。 

ルカ(幼少期):うちにもいるのかなぁ。ご飯が焦げないように火加減を調節して、家が寒くならないようにずっと暖かくしてくれる妖精。 

ルカ(幼少期):この家も、夏は涼しくて冬は暖かいもんね。本当にいるのかな。僕にはみえないけれど、ヨセフならみえるかな。だってヨセフは、人間じゃないから。

 ルカ(幼少期):ドアよりもおおきい体に、泥で作った大きい五本指、骨の背中、変な形の足…… 

ルカ(幼少期):ヨセフは、妖精なのかな。僕の前にしか現れない妖精。 

ルカ(幼少期):ヒヒ、それって、ちょっとかっこいい 

0:  

バケモノ:ただいまルカ。大丈夫だった? 

ルカ(幼少期):おかえり! 大丈夫だったよ。早く食べよう!

 バケモノ:そうだな。ルカ、買ってきたパンをプレートにならべてくれ。私はシチューをよそう

 ルカ(幼少期):沢山のせちゃおー! いっこ、にこ、さんこ、よんこ 

バケモノ:食べ過ぎて夜寝られなくなってもしらないぞ 

ルカ(幼少期):いいもん! 今日もヨセフとたくさんお話するから!  ね、今日も夜一緒に寝ようね

バケモノ:わかった、わかったから。ほらルカ、シチューだ 

ルカ(幼少期):わー!! いただきまーす!!!

バケモノ:ああ

 ルカ(幼少期):(食べる)

 ルカ(幼少期):おいしい! 

バケモノ:それはよかった 

ルカ(幼少期):あ、ヨセフ聞いてきいて、あのね、今日ね、公園にいったらテオドールがいたの 

バケモノ:ああ、同い年の

 ルカ(幼少期):今日は遊べる日だったんだって、それでね、テオだけじゃなくて他にも沢山友達がいて、一緒に遊んだんだ

 ルカ(幼少期):「このあと買い物いくんだー」っていったら、「すごーい!」って、みんないってくれたんだよ 

バケモノ:そうか、よかったなあ 

ルカ(幼少期):えへへ

 0:バケモノはルカの頭をなでている。 

ルカ(幼少期):……? ねえヨセフ、手から変な音がするよ? 

バケモノ:なんだって?

 ルカ(幼少期):みせて 

ルカ(幼少期):……ギャーー!!

 バケモノ:なんと、手に固めた土からミミズが…… 

ルカ(幼少期):もう二度とその手で触らないで!!!!!!

 バケモノ:すまないルカ、こうなると思わなかったんだ……。怖かったよなぁ。次からはちゃんと熱して殺菌した綺麗な土にするよ…… 

ルカ(幼少期):そうして!!!!!!

 0:月日は経つ。ルカは小学校に入学した。そこからまた数年経っている。 

ルカ(幼少期):ただいま。ヨセフ 

バケモノ:おかえり、ルカ。

バケモノ:どうしたその顔は、今日も学校は楽しくなかったか 

ルカ(幼少期):…… 

ルカ(幼少期):ねえヨセフ。マジシャンって、なに

ルカ(幼少期):昨日、転校してきた女の子に言われたんだ。「あの子、マジシャンじゃん」って。それで、みんな笑ってた 

バケモノ:……マジシャンとは、魔女や、魔法使いのように、毎日魔法をつかって生活をしている人のことをいうんだ。その、悪口として 

ルカ(幼少期):魔法って、つかっちゃいけないの? 

バケモノ:つかっていい。みんな使えるものだ。ただ、むずかしい事情があるんだよ ル

カ(幼少期):むずかしい事情? バ

ケモノ:人間界では、肌が白かったり、黒かったりするだけで差別をするだろう。信じている神や経典がちがうだけで差別をする。それと一緒なんだ。 

バケモノ:いまだ理屈は誰もしらない魔法をつかって生活をする人。日々進化しつづける人類の英知、科学をつかって生活をする人 

バケモノ:たったそれだけの違いでその人の性格を決めつけて嫌っている。でもそれは、お互いのことを良く知らないからだ

ルカ(幼少期):…… 

バケモノ:その子は、たまたま魔法派を差別する人だった。それだけだ。きっと、もっと知れば仲良くなれる。魔法を使う事は悪い事じゃないだろ 

ルカ(幼少期):……わるいことじゃないの? 

バケモノ:もちろん 

ルカ(幼少期):そっか。よかった 

バケモノ:でも外ではあんまり魔法は使わないように 

ルカ(幼少期):どうして? 悪い事じゃないのに 

バケモノ:人には持ってる魔力量が違うんだ。私とルカでは、魔法がつかえる時間とか、できることがちがうだろ? きっとその子もそうなんだよ 

バケモノ:友達が、いや、……例えば私が、魔法でこの家に雪を降らせてしまったりしたら困ってしまうだろう。ルカの魔法じゃ雪を止めることはできない

ルカ(幼少期):でも楽しそう

バケモノ:アー……。ではこれはどうだ、私が魔法でぬいぐるみのテディを町のどこかに隠すんだ。そして、探すのを手伝わない。ルカは魔法での探し方がわからないだろう

バケモノ:ずっと探して、夜になってもテディが見つからなかったら嫌だね

ルカ(幼少期):……

バケモノ:その子も、また別の友達だってそうだ。魔法で嫌なことが出来るとわかったら、ルカのことを嫌な目で見るようになるんだよ。

バケモノ:できないことを笑う人にならないように。魔法は人を救うために使いなさい

ルカ(幼少期):……わかった 

バケモノ:そうだ。明日は学校を休もう。明日は教科書を一緒に読んで、ふたりで勉強をする日にするんだ 

ルカ(幼少期):……いいの?

 バケモノ:もちろん。嫌なことがあったら逃げてもいいんだ 

バケモノ:でも約束。明後日は学校へいくこと。いいかい?

 ルカ(幼少期):……うん 

バケモノ:いい子だ 

0:  

0: 

 0:  

バケモノ:おかえり。小学校卒業おめでとう、ルカ 

ルカ(幼少期):ありがとうヨセフ。

 バケモノ:まだ日が出ているうちに帰ってきてよかったのかい。友人と最後につもる話でもあったでしょう 

ルカ(幼少期):ううん、よかったの。最後じゃないから。またあえるもん 

バケモノ:そうか

 ルカ(幼少期):……

 ルカ(幼少期):ヨセフ、学校たのしかったよ

 バケモノ:それならよかった。 

ルカ(幼少期):うん。またどこかでみんなと会いたい

バケモノ:会えるとも 

ルカ(幼少期):そうかな 

バケモノ:ほら、いつまでそこにいるんだ。荷物はもう降ろして、家でゆっくりしよう。晩ご飯までまだ時間がある。私と学校の思い出話でもしようじゃないか 

ルカ(幼少期):うん。いいよ。友人の面白い話してあげる

0: 

0: 

0: 

0:ルカは成長した。小学校を卒業し、中学一年生も終盤に差し掛かっている。 

バケモノ:……ルカ? なぜここにいる。中学校はどうした。この時間は学校にいるはずだろう 

ルカ(幼少期):……僕いかない 

バケモノ:じゃあ明日は? 明日はいってくれるだろうな?

 ルカ(幼少期):しらない、行かない

バケモノ:おい、おいルカ! 

ルカ(幼少期):いやだ! いきたくないからいきたくないの!! 

バケモノ:いきなさい! 学校のなにが気にくわなかったんだ? ただ行ってきて、勉強して、帰ってくるだけじゃないか 

バケモノ:道のりがながいか? 歩くのがめんどくさいか。それとも授業に追いつけないのか? 

 バケモノ:私ならなんとかしてやれるだろう。ほら、いってみなさい。いつもみたいに

 ルカ(幼少期):ちがう、ちがうよヨセフ、そんなんじゃないんだ 

バケモノ:じゃあどうして 

ルカ(幼少期):……

 ルカ(幼少期):ねえ、勉強ってそんなに大事なの? 学校って、辛い思いしてまで行かなきゃいけないの? 

バケモノ:つらい? 

ルカ(幼少期):ねえ、僕ってどうしてここで生活してるの? 

ルカ(幼少期):僕は、どうしてここで一人で暮らしてるの? 僕のおかあさんとおとうさんって、どこにいっちゃったの? どうして僕は人間なの?

ルカ(幼少期):そもそも僕ってほんとうに人間なの? 僕って、何者なの 

ルカ(幼少期):ヨセフならなんでも知ってるだろ! なあ! なんで黙るの! 

バケモノ:それは…… 

ルカ(幼少期):ヨセフは魔人なんでしょ、人間じゃない。ほら、なんでも喋ってよ。ずっと生きてるんでしょ。いつもみたいにお話してよ、ねえ、ぼく 

ルカ(幼少期):……もうわかんない 

バケモノ:…… 

ルカ(幼少期):……放っておいてよ、バケモノ 

バケモノ:どこへいくんだ、

ルカ(幼少期):ついてこないで

0:そうしてルカはどこかへいってしまった。 

0:バケモノは追わなかった。頭を垂れて、しばらくそこにいて、日が落ちたころに二人の家に帰った。もちろんそこにルカはいなかった。

 0:  

バケモノ:学校でなにかあったんだろう。

バケモノ:嫌なのに私がそれを押し付けようとしてしまったから癇癪(かんしゃく)を起こして、溜まったものが全部、爆発した。 

バケモノ:悩みの内訳を察するに、人間関係がうまくいってないのかもしれない。 

バケモノ:小学校もそうだった。そうだ、集団生活をする動物はそこに馴染めない動物を排除する傾向にある 

バケモノ:それも子供はとくに残酷だ 

バケモノ:なぜなら本人たちは、なぜそれが悪いことなのかわからないことが多いからだ。周りの人が悪いというから一緒に悪いと言う子がおおい 

バケモノ:そして生物が集団で暮らすにおいて、悪を用意するというのはとても都合がいい。統率が取りやすくなるから 

バケモノ:きっとルカはちょうどよかった

バケモノ:癒してやりたいが、人間ではない私が癒したところで、人間に対する嫌悪感をどうにかできると思えない 

バケモノ:私はルカに人として生きてほしいんだ 

バケモノ:ああ、どうしよう……困ったな……

0: 

0:夜も遅くなり月や星が完全に出てくる時間にルカは帰ってきた。 

バケモノ:ルカ? ルカ! おかえり、外は寒かっただろう。暖炉をつけている。こちらへ 

ルカ(幼少期):……

 バケモノ:ルカ?

 ルカ(幼少期):……なんでもない 

0:ルカは言われた通り暖炉に寄った。ヨセフが椅子を指さすので、そこに座った。 

バケモノ:学校で、なにかあったか 

ルカ(幼少期):…… 

バケモノ:どうか私に、学校でなにが起きてるか教えてくれないか。話せば楽になるだろう

ルカ(幼少期):…… 

バケモノ:どうだ 

ルカ(幼少期):…… 

ルカ(幼少期):「親なし、家無し、お金なし」だって、言われた。それで、マジシャンだってみんな虐めるんだ 

ルカ(幼少期):「おまえ国民の人間じゃないんだろ」、「ホームレスなんだろ」って、…… 

ルカ(幼少期):それでみんな言うんだ。「お前は変だ」……どうしてヘンって言われなくちゃいけないの。僕、ふつうに生活してるだけなのに 

 ルカ(幼少期):ぼく、いままでヨセフのこと、親だと思ってた。でも町にいる人はみんな「お父さん」と「お母さん」がいる 

ルカ(幼少期):僕は、ずっとこの家にいて、ヨセフと一緒に暮らして、ヨセフはやさしくて、ここで暮らすのはすごく楽しい 

ルカ(幼少期):だけど、町に下りてみんなと一緒にいると、なんか、変だって思うんだ。だって、変だ。いろんなところがみんなと違う…… 

ルカ(幼少期):ねえヨセフ、ぼくって本当に人間なの? ウソついてない? 

バケモノ:嘘はついていない。ルカは立派な人間だ 

ルカ(幼少期):ヨセフが作ったツチ人形とかじゃないの? 

バケモノ:ちがう 

ルカ(幼少期):じゃあどうして僕には親がいないの? 

バケモノ:…… 

0:ルカはじっとバケモノを見た。バケモノは言い淀んでいるようだった。 

バケモノ:……いまから、話をしよう 

バケモノ:私は魔人だ。魔人にはたいてい、その住みついた土地に祠を作ってもらう話はしたな?

 ルカ(幼少期):うん。祠を作ることでその対象になる魔人をあがめる文化でしょ 

バケモノ:そうだ。私の祠は森の出口にある。いつも見ているな 

ルカ(幼少期):うん 

バケモノ:むかし、人間が一人その祠にやってきた。大きいものを抱えていた。……祠につくと、それを置いて立ち去って行ったんだ。 

バケモノ:おいていかれたのは生まれたばかりの人間だった。 

バケモノ:それが、お前だよ。ルカ 

ルカ(幼少期):…… 

バケモノ:人間は夜にやってきた。年若い人間のようだった。今ならわかる、あれは、大人じゃなかった。 

バケモノ:事情があっておまえを産み、そして事情があって育てられなかったんだろう。だから人里離れた私の祠に人間を捨てたんだ。 

バケモノ:私はその日、この生まれたばかりの人間を育てようと思った 

ルカ(幼少期):どうして?  

バケモノ:…… 

バケモノ:ほんの、好奇心だ。 

バケモノ:私は人間が大好きだった。いまでもよく覚えている。大昔、全身に毛を生やした動物が、興味津々に私をみつめ、たより、ともに集落を築いたあの日々を 

ルカ(幼少期):え? 

バケモノ:あの種族には文字がなかった。理性もあまりなく、それは死ねばそのままだ。まさに動物と変わらない暮らしをしていた。 

バケモノ:しかし頭がよかったんだろう。あったものを組み合わせて道具を作り、上手に生きていた。私は不思議な動物がいると思って、ずっと観察していたんだ。 

バケモノ:ずっとその種族を観察していると、あっという間に月日がたち時代が変わった。 

バケモノ:その種族は進化を繰り返し、やがて文字を覚え考えを持ち、規律や思想を重んじ始めた。後になってそれに人間という名前がついた。 

バケモノ:私は、素晴らしいと思った。この種族の繁栄を見届けたいと思ったんだ。 

ルカ(幼少期):…… 

バケモノ:そこから私は生きてきた。人の世では戦争は何度も起こったし、そのたびに平和が訪れた。私はまた人の世を観察している、今が平和の時だ。そしてルカを拾った。 

バケモノ:私は、人間は好きでも、生まれてきた人間すべてを救おうとは思わない。それはあまりにも愚かな行為だ。私たちは神様ではない。

バケモノ:でも、せっかく生まれたのに祠に捨てられて、抗う事なく、何も知らずただ消えるしかない人間に、なにもしないほど卑怯には、私はなれなかった。 

バケモノ:おまえを抱いたとき、どうにかしてやりたいと思った 

 バケモノ:私が拾って、祠を管理する人間に渡してしまえばいいとも思った。でも、捨てられた人間をすぐに人の世に降ろしていいのかわからなかった。 

バケモノ:捨ててきた人間が罪に問われるんじゃないかとおもったんだ。それか、私が人を攫ったとして攻撃されるとも思った。 

バケモノ:でもそれ以上に、人間を育ててみたいとも思った。だから祠の管理者には報告と、戸籍だけ用意した。私がわがままをいってお前をここに置いてるんだ 

ルカ(幼少期):…… 

バケモノ:……やはり、人間と暮らしたいか 

ルカ(幼少期):…… 

バケモノ:私から管理者に掛け合おう。あの家はさいわい、私にかなり友好的だ。おまえのことも知っている。訳を話せば、うまくやってくれるだろう 

ルカ(幼少期):……ぼく、ここにいる 

バケモノ:……そうか 

ルカ(幼少期):さっきはごめんなさい。バケモノなんて言って 

バケモノ:事実だ、おまえと私とじゃなにもかも違う。でも、一緒にいきていける。そして、おまえはここまで頑張って育ってきた。私はそれがうれしいよ 

バケモノ:悩み事は解決しそうか 

ルカ(幼少期):……。なんか、どうでもよくなっちゃった

 バケモノ:そうか

ルカ(幼少期):それより、もっとお話してよ。 

ルカ(幼少期):ヨセフがそんなに長生きしてるなんて知らなかったから、もっと沢山話をききたい。なにがあったとか、いままでどんなことがおきたとか。 

ルカ(幼少期):そうだ、仲間の魔人とかいないの? 

バケモノ:いいだろう。仲間の魔人の話だな

バケモノ:それよりお腹が空いているんじゃないか、夜遅いが、今からポタージュを入れてきてやろう 

ルカ(幼少期):うん 

バケモノ:パンはいるか? 前に一緒に焼いたものがまだある 

ルカ(幼少期):うん。食べる 

バケモノ:そうか。座って、まってていなさい 

ルカ(幼少期):……ありがとう。

0: 

0: 

0: 

0:月日が経過した。ルカは高校生になった。 

ルカ(青少年期):ヨセフ。ただいま。……また寝てるの? おーい。帰ったよ 

バケモノ:……ああ、おかえり、ルカ 

ルカ(青少年期):最近ずっと寝てるね。生き続けて疲れちゃった? でもそういうの魔人にあるのかな。 

ルカ(青少年期):ねえヨセフ、今日なにからやればいい? ご飯? まき割り? 掃除? 

バケモノ:アア……、まき割りをお願いしよう。それと、家のなかにある薪ももうないから、外からすこしもってきてほしい。家事は私がやろう 

ルカ(青少年期):大丈夫? できる?

 バケモノ:まかせなさい。今晩は何が食べたい 

ルカ(青少年期):シチュー! 

バケモノ:お前は毎日それだな 

ルカ(青少年期):大好きなんだ。ヨセフのシチュー 

バケモノ:それは、よかった

 0: 

 0:食事中である。ルカはいつもどおり食べているが、バケモノは以前に比べ動きが鈍い。 

ルカ(青少年期):……ねえヨセフ。僕になんか隠し事してない? 

バケモノ:隠し事? 

ルカ(青少年期):そう 

バケモノ:隠し事は……ないな 

ルカ(青少年期):本当? 

ルカ(青少年期):ならいいんだけど 

0: 

0:  

0:  

ルカ(青少年期):ただいま、ヨセフ。……ヨセフ、また寝てるの?

0:  

ルカ(青少年期):ただいま! ヨセフ、遅くなっちゃって、……寝てるの? もう夜中だよ。あ、夜中だからか 

ルカ(青少年期):え、ご飯の準備、してない。ていうか皿とか暖炉とか朝からなにも変わってない。 

ルカ(青少年期):……ずっと寝てたの?

 0:  

ルカ(青少年期):……。(そっと家に帰ってくる) 

ルカ(青少年期):ただいまー。(小声) 

ルカ(青少年期):やっぱり寝てる。

0:  

ルカ(青少年期):ただいまー。 

0:  

ルカ(青少年期):たーっだいまー。……、まだ寝てる。 

0:  

0:  

0:  

バケモノ:……? 

ルカ(青少年期):あ、 

バケモノ:……ルカ? 

ルカ(青少年期):お、おはよう、ヨセフ 

バケモノ:おは、よう? 

ルカ(青少年期):ヨセフ、今回丸3日寝てたんだよ 

バケモノ:…… 

ルカ(青少年期):なぁに、最近ほんとに眠そうだね。魔人だから、魔力不足? 僕がわけてあげようか。でも分け方しらね。ヘヘ 

バケモノ:…… 

ルカ(青少年期):ねえ、やっぱり、なんかあるんでしょ。話してよ 

バケモノ:……ただ、眠いだけだ 

ルカ(青少年期):そう? そうだ、久々に起きたんだから僕の話聞いてよ。あのね、最近始業式があって、2年生になったんだ。 

ルカ(青少年期):友達とクラスは離れちゃったんだけど。昨日さ、移動教室で隣の席の子と仲良くなってね__

0:

0:

0:

0:ある日、ヨセフは起きた。窓から夕日が差しており、ちょうどよくルカはドアを開け帰宅していた。 

ルカ(青年期):ただいまー

バケモノ:…… 

ルカ(青少年期):ヨセフ?

バケモノ:……ルカ 

ルカ(青少年期):あ、おは、よ、ちょっとまってて 

バケモノ:…… 

ルカ(青少年期):はい、これ 

バケモノ:花? なにか、めでたいことでもあったか 

ルカ(青少年期):過ぎたけど、バレンタインのプレゼント 

ルカ(青少年期):知ってる? 人間には一年のうちに誕生日とクリスマス以外のめでたい日をつくって祝うんだ 

ルカ(青少年期):バレンタインっていうのもその一つで、簡単にいうと好きな人に贈り物をする日なんだけど 

バケモノ:……そんな日があったのか 

ルカ(青少年期):うん。だから花、あげる。あとこれも 

バケモノ:本か? 

ルカ(青少年期):そう、僕のいままでの思い出を、思いつく限り書いたんだ。これもあげる 

バケモノ:どうした? なにかあったか 

ルカ(青少年期):なにかあるのはヨセフだよ。もう長くないでしょ 

バケモノ:??? 

ルカ(青少年期):だって! 今回3か月も寝てたんだよ? ずっとひとりで過ごした僕の気持ちわかる!? 

ルカ(青少年期):心配した。ほんとに、二度と目を覚まさないんじゃないかって 

バケモノ:…… 

ルカ(青少年期):もう長くないんでしょ。だから、プレゼント、これ、もらって。 

ルカ(青少年期):ヨセフの欲しいものがわからなかったから、いままでの僕の思い出を書いたんだ。あとで一緒に読もう 

バケモノ:……魔人は、死なない 

ルカ(青少年期):嘘ばっかり。寿命でしょ。生命エネルギーがなくなってきてるって前いってたじゃんか 

バケモノ:私たち魔人が存在し続けるのにつかっているのは生命エネルギーじゃない。どの動物にもない、コアと呼ばれるものだ。これが破壊されない限り死なない 

ルカ(青少年期):ハァ? 

バケモノ:生命エネルギーが枯渇すると、動物で言う冬眠のような期間に入る。生命活動をやめてエネルギーがある程度、補填(ほてん)されるまで眠るんだ 

ルカ(青少年期):…… 

ルカ(青少年期):バカ!!!!! ヨセフのバカ!!!!! もうしらない!!!!! 僕がこの数年間どんな思いで暮らしてたかも知らないくせに!!!!!! 

バケモノ:ルカ!? どこいくんだ!!!! 

ルカ(青少年期):家出!!!!!!!!!! 

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バケモノ:あ、お、おかえりルカ。どうした忘れ物か 

ルカ(青少年期):せっかくヨセフが起きたのにまた喧嘩するの嫌だとおもって帰ってきた。

 ルカ(青少年期):お腹すいてない? ずっっっと寝てるから僕はいっっっつも一人分のごはんしか用意してないけど、僕ってやさしいから、いまから作ってあげるよ 

バケモノ:ありがとう。……ルカ、学校は?? 

ルカ(青少年期):卒業したからもうないの!!!!! 

バケモノ:進学は? 

ルカ(青少年期):就職するからしないの!!!!! 

バケモノ:そうか…… 

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0:月日は経った。ルカは大人になった。 

バケモノ:……ルカ、おかえり 

ルカ(青少年期):ただいま。よかった、起きてた 

バケモノ:今日発つんだろう 

ルカ(青少年期):そんでヨセフは今日なんでしょ 

バケモノ:ああ、もう思い切ってやったほうがいいとおもってな 

ルカ(青少年期):…… バケモノ:おまえが大きくなるまで待てるとおもってたんだ。親が大人になるまでにいなくなるのは、つらいとおもって。 

バケモノ:高校のときは毎日たのしそうだったから、黙ったほうがいいとおもってたが……、重荷になったようだな。いままで迷惑かけた 

ルカ(青少年期):ハハ、やっとかよ。待ちくたびれた 

バケモノ:待たせたな

ルカ(青少年期):嘘だよ。今日なんて来なきゃいいって思ってた 

ルカ(青少年期):ヨセフ、僕が前にあげたのは持った? 日記と、造花と、あとであげた写真 

バケモノ:ああ、もっているよ 

ルカ(青少年期):写真がダメにならないようにしたんだからちゃんともっててよね 

ルカ(青少年期):それで、僕のこと、ずっと忘れないでね 

ルカ(青少年期):今回はヨセフが先に寝ちゃうけどさ! ……次に起きるころには僕はいないんだよ。 

ルカ(青少年期):ヨセフが死ぬまで続く人生のちょっとしたときに、バケモノに拾われて救われた子供がいたってこと、覚えていてほしいんだ 

バケモノ:…… 

ルカ(青少年期):それで、どこで寝るの? 祠のなか? 森の奥? 

バケモノ:この家だ。この家のなかで眠りたい 

ルカ(青少年期):……うん。わかった

バケモノ:……この20年あまり、あっというまだった 

ルカ(青少年期):ヨセフ、ずっとそればっか 

バケモノ:思い出を噛みしめているんだ 

ルカ(青少年期):うー、も、もうつらいだろ。さっさと寝ちゃいなよ 

バケモノ:こころ残りはおまえの今後だ 

ルカ(青少年期):…… 

バケモノ:辛くなったら帰ってきていい。私は起きてないが、この家で暮らしたっていいんだ。どうやらお前は、人間にいじめられやすいみたいだから 

ルカ(青少年期):そんなことないよ。僕のこころが弱かっただけだ。ヨセフのおかげでこれからも人間として生きていける。 

ルカ(青少年期):僕って人気者なんだよ。友達沢山いるし、勉強頑張ったから頭もいいんだ。 

ルカ(青少年期):てか、ほんと僕のこと好きだよねぇ。僕もう就職してるんだよ? 働いて何年だとおもってるの。 

ルカ(青少年期):しかも去年、職場にちかいところに住むっていって引っ越したじゃないか。忘れちゃった? 

バケモノ:……

ルカ(青少年期):もう、ねむい? 

バケモノ:ああ 

ルカ(青少年期):おやすみ、ヨセフ。いままで育ててくれてありがとう。ヨセフのもとに生まれてこれてよかった。 

ルカ(青少年期):愛してるよ。 

バケモノ:……フ 

0:さいごにバケモノはわらった。 

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ルカ(青少年期):ヨセフの体じゅうにつけた土くれは重力にしたがって落ちた。魔力で支えていたから、その力もなくなってしまったんだろう。 

ルカ(青少年期):まるで、教科書で見た動物の化石のような姿だった。 

ルカ(青少年期):昔、魔人は二種類いると聞いた。動物の死骸でできるものと、自然の姿を模したもの。

ルカ(青少年期):ヨセフの正体は、この化石だったんだろう。まるで死んでしまったみたいだった。

ルカ(青少年期):僕はしばらくヨセフを見つめていた。見つめて、涙がこぼれた。 

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ルカ(青少年期):泣き終わるころに家を出た。走るように町に向かった。 

ルカ(青少年期):足をうごかさないと。でないと、また足が止まって、今度は倒れると思ったから。 

ルカ(青少年期):これが僕の人生だ。これでよかった。これがよかった。ヨセフからいろんなものをもらった。溢れるほどもらったんだ 

ルカ(青少年期):僕は幸せものだ。 

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