鉄コン筋クリート
鉄コン筋クリート
2006年12月30日 丸の内TOEI①にて
(2006年:日本:111分:監督 マイケル・アリアス)
黒と白を混ぜると灰色になる。
灰色になるためには、黒と白が必要。
このアニメショーン映画は、原作漫画(松本大洋)を知らないし、予告編も観ていない、2006年の東京国際映画祭で上映されていた・・・くらいしか予備知識はありませんでした。
相変らず、映画の原作漫画を読まない私ですが、松本大洋の漫画は『ピンポン』など映画の後になって読みましたから、この漫画もいつか読むかもしれません。
そしてこの映画は、監督がアメリカと日本でアニメの仕事をしているマイケル・アリアスで、アニメーション制作が『マインド・ゲーム』を作ったSTUDIO4℃という日本とアメリカ合作映画のようでもあります。脚本が『カポーティ』のAnthony Weintraubがアメリカ版の漫画を元に脚本を書いたものを翻訳し直すという手の込んだ事をしています。
そして声優をアニメの声優ではなく、役者を使ったというのも特徴です。あの独特なジャパニーズ・アニメ声ではないのです。
クロという少年を二宮和也、シロという少年を蒼井優、その他、本木雅弘、田中泯(って所が凄いですね)、伊勢谷友介、(映画『ピンポン』の脚本を書いた)宮藤宮九郎、大森南朋、岡田義徳・・・そして声優として納屋六郎さんをさらり、と使ってみたり。
クロとシロは、混然とした街、宝町に住む2人の少年。
2人は兄弟ではなく、お互い孤児で、「ネコ」と呼ばれる悪ガキを通り越した、自称街を支配している者。
特にクロは凶暴性が高く、逆にシロは、少し知能が低いような無垢な存在。クロは、シロを守る、宝町を守る・・・・という意識を普段から口にしています。
2人はいつも高いところから街を見ています。煙突、鉄塔の上、ビルの屋上・・・そこから見える宝町は、古く汚い混然とした街。
そして2人は軽々と高い所から飛び降り、走り回り、まるで空を飛ぶ子供のようです。
この物語に出てくる人々は大体動物の名称がついています。ネコ、ネズミ、イタチ、蛇、殺し屋たちも蝶と虎。
この宝町に、開発の話が持ち上がり、地上げのヤクザがやってきます。
警察とヤクザ・・・・両方から一番、厄介なのは実はネコ・・・特にクロなので、当然、クロとシロが狙われます。
クロは凶暴というわかりやすい武器でもって、暴れますが、実は、何も持っていない、知らない、考えていないような無垢の存在のシロ・・・・がキーパーソンなのです。
クロだけでは宝町は、黒くなってしまう、それを灰色にしているのが実は、おとなしい、無邪気なシロ。
シロは、鼻水をたらし、腰にトイレットペーパーを常備、頭にはうさぎや、カエルのかぶり物をしているのですが、すぐに暴走しそうになるクロを上手く抑制しているのが実は、シロなのです。
だからクロとシロが警察によって引き離されてしまうと、クロは、とたんに暴走をはじめ、イタチの誘惑が襲いかかる。
「俺の町だ!」と口にするクロですが、ホームレスの爺は、「そんなこと、言うもんじゃない」
また、侵攻してきたヤクザの蛇も同様の考えを持っています。この物語は「俺の物!」という独占の考えをやんわり否定する、いさめるような所があります。
シロを失ったクロを見て、刑事は「クロがシロを支えているんじゃない。シロがクロを支えているんだ」と言います。
シロは、「~なのね」というちょっと稚拙な子供言葉を使いますが、クロが行き詰まると逆に「安心、安心」とのんびり言う。
このシロの声を蒼井優が、とてもイノセントにかわいいだけでなく、独特の説得力のあるしゃべり方を見事に演じていました。
シロ曰く「コンクリートにも匂いがあるんだよ。知ってた?クロ。夏と冬と朝と夜とじゃ、全然違うのね。でもシロ、雨降った時のが一番好きだな。マーガリンみたいな匂いなの」
監督は日本に来て初めて、松本大洋の漫画を知ったといいます。
そして10年かけて、やっと自分が監督出来たという・・・アニメが大好きだけでは出来ない技術を持ってる人で、この映画に一番参考になった映画は『シティ・オブ・ゴッド』だ、というのは納得です。
絵は、デフォルメされた、肩がなで肩で足の先がマッチ棒みたいな人物、アジアの混沌のような、汚らしいながらも美学と立体感にあふれた街の風景・・・・それは、やはり上手くデフォルメされていて、ありそうで、ない街。空を飛ぶ鳥の鳥瞰の飛躍感。子供に媚びないアニメーションです。子供として甘やかそうとしても嫌がる子供・・・クロとシロ。
クロとシロが行く公園の乗り物もちょっとへんてこです。「ラクガキスルナ←オマエモナ」という落書き。
大人からしたら可愛くない子供でありながら、その存在感は大きいです。そこら辺も『シティ・オブ・ゴッド』と共通しているものがあるような気がします。
クロとシロといった比較的シンプルな設定ながら、実は奥深いものを、落ち着いた美しい絵と色で作り上げた映画。
『マインド・ゲーム』は、目がちかちかするような映像の氾濫といってもいいくらいのアニメでしたが、この映画の落ち着きぶり、というのは実に大人なのでした。
台詞を始め、物語としてはファミリー向けでないので、一体、どんな観客を想定しているのか、と普通のアニメをみている人は思うかもしれませんが、これは完全に大人のアニメーションです。
アニメといえば、ディズニー、ピクサー、そしてジブリ。そう決めている人からしたら、困惑以外何物でもない、という独特の個性が溢れている世界です。