何度目か、てんかん発作
今までにも何度か話題に出しているてんかん発作。
大抵の人はてんかん発作と言うと、手足を伸ばして、全身の筋肉を全力で震わせる。
そういうのを思い浮かべるかと思います。
これを強直性てんかん発作と言います。
確かに、本人にとってはこれが一番危険な発作でしょう。死亡することもあり得ます。
脳も普段は小さな電流で動いて、体に命令を出しているのですが、強直性てんかん発作の場合、脳内の電流が連鎖的かつ過剰に流れることから、体の制御ができなくなって、痙攣を起こすことになります。
この、脳内に流れる電流が、強くは無く、かつ一部の意図しない場所で流れるのもてんかん発作に分類されます。
この場合、突然目が見えなくなったり、勝手に手が動いたり、中には感情の制御ができなくなる、激怒発作(本人の意志と関係なく、飼い主に襲いかかったり)もこれに当たります。
てんかん発作の治療を始める基準としては、1ヶ月半以内に2回以上の発作、その日のうちに2回以上の発作、5分を超える発作などの時や、深刻な症状(先ほどの激怒発作など)の場合、内服投与を始めます。
ただし、てんかん発作は起こせば起こすほど、症状が重くなる傾向があるため、飼い主さんの希望で治療を始めることもあります。
大抵のてんかん発作は、上記のように、脳内の電流の異常により起こりますが、体の臓器の異変や脳内の腫瘍、怪我、血栓などでも起こりうるため、本当に深刻なてんかん発作は普通の病院では原因がわからない、ということも起こりえます。
一番最近、当院で起こったてんかん発作は、全くの元気なワンちゃんでした。
かなり太っており、単純な手術によるを行い、元気に目を覚ましたのに、二時間後くらいに、強直性のてんかん発作を起こしてしまいました。
ちなみにそれまで発作を起こしたことはありません。
通常てんかんを止めるために使用する、ジアゼパムでは発作を抑えることができず、通常鎮静や鎮痛に使用し、かつ副作用が少ない、マルチモーダルという、複数の鎮静剤を少量ずつ使用する方法で何とか発作を抑えられたのですが、くすりが切れる二時間後くらいには再び発作を繰り返す、という状況になっていました。
発作を起こした状況から、おそらくエコノミークラス症候群による、脳血栓症が原因と予測されるてんかん発作ではないか、と思われたため、血栓症の治療を並行して行い、10日ほどかかって、ほぼ元の状態と同じ程度に回復してくれました。
その間は発作を起こすたびに鎮静剤を使用して、夜は二時間毎に仮眠を取りながら発作を起こしたら治療をする、というかなり大掛かりな治療になってしまいましたが、無事に元気になってくれて、心底安心しました。
以前、他の病院で働いていた頃に、やはり発作が全く止まらないコーギーがいたのですが、その子は最終的に、発作は治ったものの、記憶喪失(完全に飼い主さんのことをわからなくなっていました)と、半側方向無視症候群という、ものの半分が全くわからない状態になってしまいました。
半側方向無視に関してはネットで調べてみると、ただの目が見えない状態ではないこともわかり、興味を誘う内容かと思いますので、面白そうと思う方は調べてみると良いかと思います。
現在、日本では治療薬として、ゾニサミドという薬が最もよく使われます。
副作用が殆ど無く、増量してもかなり安全に使用できるためですね。
他にはフェノバルビタールという薬が昔から使われてきました。
副作用が出ない子もいるのですが、最初のうちはフラつきが出たりすることもあります。
ただ、副作用はその内落ち着くことが殆どです。
問題は、ちゃんと伝えていたのに、投薬を途中で止めてしまう飼い主さんがいることです。
てんかん発作は治療薬の投与を止めると、振り子が戻るように、より発作を起こしやすくなる傾向があります。
人間でも、てんかん発作の人が職を失わないために、発作持ちであることを隠して、(医者に車に乗ることをやめるよう言われるからでしょう)投薬も止めてしまうことがあります。
昔、てんかん発作を起こしたトラック運転手が暴走して事故を起こした、というニュースを見たことがある人もいるかと思います。
投薬で完全に抑えられるてんかん発作はかなり幸運です。
投薬してても、弱い発作は起こり続ける子もいます。
ゾニサミドとフェノバルビタールを同時投薬出来れば一番なのですが、何とこの二つ、拮抗してしまいます。
他にも発作を抑える薬はいくつかあるのですが、費用、効果、副作用から考えると、この二つが最も良く使用できる薬ではないでしょうか。
てんかん発作は誰でも(人間でも)凸ぜ起こし得る病気です。
かなり根気が必要な病気と言えるでしょう。
もしワンちゃんや猫ちゃんが起こしたら、と思うかもしれませんが、その後の状況は飼い主さんにかかっています。
諦めずに頑張ることが重要です。(本当にひどい発作や激怒発作の場合、諦めざるを得ないこともあるんです。見ていられない、大型犬で、飼い主が死ぬかもしれないなどがあります)
追記
以前、あまりにも強い発作で、先ほどのようにジアゼパムが効かなかったワンちゃんがいたため、睡眠させる、という意味で眠らせましょう、と言ったことがあるのですが、飼い主さんがとんでも無い!という反応をして、治療をすることをやめてしまい、訳がわからなかったことがあります。
あとで、安楽死させるのと勘違いしたのでは?と気づいたのですが、言葉の表現って重要ですね😅