「宇田川源流」【GW特集 日本語論文のススメ】(7) プロットからの文章の膨らませ方
「宇田川源流」【GW特集 日本語論文のススメ】(7) プロットからの文章の膨らませ方
今回のゴールデンウィークは「日本語論文のススメ」として、日本語の文章を書くということを中心に物事を書いている。基本的にはまずは「日本語の特性」を確認し、その後、その日本語の特性を持った日本人の思考の特徴を確認した。日本人は、当然いその言語で物事を考え、そしてその言語に有った内容で反省をするのであるから、その言語の特徴を理解することは、日本人の国民性を理解する一つになることは間違いがないのである。
そのうえで、今回はまずは小説などのようにプロットの書き方を書いた。論文などの長文になれば、当然に「設計図」が必要であるので、その「設計図」の書き方を、私なりに伝授した。この内容は「二回にわけて」書いたつもりだが、なかなか難しかったのかもしれない。そのうえで前回は、「文章が苦手な人の為の文章の書き方」として、話し言葉でまずは文字を起こし、そのうえで、文字を文章らしく変えるという方法を紹介した。
しかし、そこまでやっても、「あらすじと同じように、全く面白くないような内容になってしまう」とか「プロットと、全く変わらないミク漬けのない文章になってしまう」というような事がある。そこで今回は、文章をどのように膨らませて、「おもしろい文章」を書くのかということをご紹介しよう。
★ 文章の膨らませ方(修飾語)
文章を書くということは、何度も今回の連載で出ているように、「何かを伝える」ということが目的である。自分の気持ちを伝えるというときには、いくつかの方法論があることはすでにご存じの通りだ。まずは直接会うというもの、また、電話など「相手がすぐにリアクションを取れる」方法ということがある。これは、会った場合は、表情やしぐさなど様々な情報が付加されるし、また、電話でも口調や声のトーン、またはその話の言い回しなどがあるので、文字情報だけで意思を伝えるというのとは異なることになる。一方、「文章」「メール」「SNS」などは、本人がそこにいない状態で物事を伝えるということになるのであるから、その内容ということに関しては、文字情報だけがすべてということになるのである。つまり、会って話すときと異なり、表情やしぐさ、口調、語調、トーン等様々な内容は全くなく、文字だけで物事を伝えなければならないということになるのである。
その為に、「文字」をそのまま羅列しても意味はないし、また、文字そのものの語感などもあるので、使う単語を注意しなければならない。しかし、そのようなことを注意していては、文章などは書けるものではなくなってしまい、なかなか文章が書けなくなってしまうということになる。つまり「短い単語で文章を書く」ということは表情や語調、しぐさなどに代わる情報がないので、当然に、その内容がうまく伝わるかどうかはわからないし、読み手側の解釈で変わってきてしまうということになる。
先にプロットの所で書いたと思うが「一次元」というのはまさにその部分が唯一の欠点であるといってよい。つまり、書き手側と読み手側の、意思の疎通がなければ、そのニュアンスも単語一つの解釈も全て変わってしまうということになる。「黒い髪の美女」と書いた場合、その美女のイメージというか、その女性の容姿やスタイル、髪型や顔などは全て書き手側と読み手側が同じ女性を想定するとは限らない。それどころかこの美女の年齢もわからないということになるのである。それほど文章として不安定になるということが挙げられるのである。
そこで、そのような不具合を直すように、「文字としてなるべく情報を増やす」ということが必要になる。そのような内容を」「解説」とか「比喩表現」「修飾語」というような言い方をする。つまり、一つの文章の中になるべく具体性を挙げるということになれば、当然にそれは修飾語を入れることになり、他の文章として解説を入れるようにする場合は、「解説文」というようなことになる。そしてその解説文にも修飾語や比喩表現を付けるような形になるということになる。
例えば、先に挙げた「黒い髪の美女」を例にとって挙げれば「○○のような」というように具体的な名前を挙げて令を出すということが上げられる。しかし、その場合、その「○○」という人のイメージもまた多くの人で異なるということになろう。そこで例えば「和服似合う美女」とか「ハリウッド女優のような美女」というような書き方をすれば、解説や比喩表現ということになるし、また「バラの花を思わせるような」など他の「一般的にきれいだ」というようなにんしきを持っている者に例えるということもできる。「色白で長い黒髪の」というようにすれば、容姿もある程度特定できるし、「ファッションモデルのような」と書けば、スタイルもよくわかる。このように文章には、様々な修飾語や解説を付け、そのうえで、比喩をうまく利用することによって、わかりやすく変わってゆくことになる。そして、その内容は「程度や数値を表すことはなく、印象として綺麗なものを並べることによって、その綺麗さが伝わる」というような手法を取っているので、具体的な特定まではせず、ある程度読み手側の思考の範囲を残しているということになろう。
そのうえで「解説文」をつければ、「町で会えば、多くの人が振り返るほどの」というようにすればよほどの美人ということになるだろうし、「コンテストに出れば優勝する」などと書けば、多くの人に認められた美人ということになる。一方、そんなに多くの人に見られないのであレば「個性的な美人」とか「少し時代が変われば」などと書けば、これはこれで独特の美人像が出てくることになるのではないか。このほかにも「春風を思わせるさわやかさ」等、様々な書き方ができるのである。
★ エピソードやいきさつを書く
上記は修飾語の話をした。しかし、それだけでは「論文」はうまく書けない。そこで論文の場合は、どのようにして話を膨らませるのであろうか。
論文の場合の文章の膨らませ方で最も簡単なものは「歴史」そして、うまく書けば、非常に面白いのは「エピソード」である。
「歴史」というとかなり難しいが、何か論文を書いたり、その内容を書く場合、「なぜそのようになったのか」そして「なぜ自分がこの論文課題に興味を持ち、そしてその内容を研究したのか」そして「自分より以前の人はどのような研究をしていたのか」というような、簡単ないきさつや、今までの歩み、そして論文を書くまでの「内容」をしっかりと書くだけで、なかなか面白いものが書ける。もちろん、そのようないきさつを書く時にも、上記に書いた修飾語は忘れずに、なるべくわかりやすく書く。特に、自分の心や自分の周辺の事は、より深くわかってもらう為に、例示などをもすべて書くことが最も良いのではないか。簡単に言えば「歴史」はどんなことにもある。きっかけというものがあり、そしてその継続性の中に様々な内容が書かれているということになるのである。また特に理数系の場合、研究というのは前の研究の理論の上に、新たな理論が積み重な科ってゆくということになる野であるから、歴史というかいきさつを書くことが、そのまま現在までの研究成果をしっかりとすることになるのである。
もう一つは「エピソード」である。研究成果のエピソードというのは、印象的なものが少なくなく、また、本人が覚えているということはそのことが、本人の成長や研究の節目になっていることが少なくない。そのように考えると、エピソード一つ一つに、論文を書く意味が込められているのであり、その内容をしっかりと見ることによって、次の内容につながるものになる。ある意味で、実験などもそうであるし、また政治などもそうであるが「エピソードの積み重ね」が「歴史」になりそしてその歴史の到達点が現在になっているのである。
後はその歴史やエピソードをどれくらいおもしろく書くことができるか、いや、「おもしろく」ではなく「読み手側にわかりやすく伝えることができるのか」ということになる。それは上記にも書いたが「具体性」「解説」「修飾語」ということで歴史やエピソードを書くことになるのではないか。そのことによって文章は「深み」を増すことになってくるのである。