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直方谷尾美術館 第32回室内楽定期演奏会「クァルテット・エクセルシオ」シリーズ12

2018.06.05 14:55


福岡・直方(ノオガタ)の直方谷尾美術館で行われた第32回室内楽定期演奏会「クァルテット・エクセルシオ(注1)シリーズ12」に行ってきました。



展示室に作られた簡単な舞台、周りにずらっと集まったお客さん100人強。

その温かい拍手で登場、クァルテット・エクセルシオ西野ゆかさん(1st Vn.)、山田百子さん(2nd Vn.)、 吉田有紀子さん(Vla.)、大友肇さん(Vc.)。



最初の曲はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第6番。

軽やかな第1楽章が始まった瞬間から圧倒的な彼らの世界。その表情豊かな個々の音と確かなアンサンブル、そしてコンサート・ホールとはまた違った直接音主体の力強くも温かい響きにすっかり魅了。

緩やかな第2楽章では堂々と揺るぎないチェロ、細やかな表情をつける2ndヴァイオリンとヴィオラ、その上で美しく歌う1stヴァイオリン、更には主役が目まぐるしく変わっても優しい美音を奏で続ける彼らの演奏に思わず立つ鳥肌。



一転して躍動感の楽しい第3楽章ではアンサンブルの妙技に息を飲み、重々しい出だしから始まる最終第4楽章ではその明暗・緩急の表情転換の見事さに魅せられ続け、一気呵成の鮮やかなフィナーレを迎えても、感動ですぐには反応出来ず。。。一息置いてからの拍手、思わず、ブラヴォー!

生々しく実感出来た4人の息遣い、アイ・コンタクト、そして、弦楽四重奏団が一体となった時のスゴい音圧。

これらは、サロン・コンサートならではの感動(注2)だとも思いましたが、実に素晴しい演奏で、この時点でもう大満足。



続くヤナーチェクの「クロイツェル・ソナタ」とスメタナの「わが生涯より」では演奏の前にヴィオラの吉田さんのサロン・コンサートならでは、実演付き、かつご本人のお人柄が反映された温かくもユーモラスな解説が入り、これもとても素敵でした。

「クロイツェル・ソナタ」ではベートーベンとは違い、まるで音劇でも見ているかのような演奏で、4人それぞれが弓を大きく使った強い表現力が圧巻。



また、最後の「わが生涯より」も情感豊かな演奏でしたが、白眉は何と言っても、亡くなった奥さんと出会った頃の喜びと哀悼を表現した第3楽章。心を込めてその気持ちを歌い上げる優れたプレイヤー達、思わず涙がこみ上げ、ただただ深く感動。

悲劇的な終曲まで聴き終え拍手をしながらも、そんなことを思い返していたら、何とアンコール。

「打ち上げでこれまでよくお世話になった小料理屋『花のれん』のお女将さんがご逝去されました。この演奏会の主催団体『かんまーむじーく のおがた』の賛助会員でもあり、実行委員長の渡辺さんが幼少の頃からお世話になっていたこのご婦人への追悼」という趣旨の前置きに続き、再度奏でられたこの第3楽章。

演奏者が心の込め方を変えられたせいでしょうか?今度は本当に涙がこぼれてしまいました。

また、普段クラシックのコンサートに行く方ばかりではないと思われるお客さんにもかかわらず、演奏者が弓を降ろすまで、誰一人として拍手をされない。

これもなかなかないことで、感動的だっただけでなく、後味までいい演奏会でした。



かんまーむじーく のおがた(注3)の皆さん、どうもお疲れ様でした。また、素晴らしいコンサートをありがとうございました。更には、本文中の当日の演奏風景の写真をご提供いただき、併せて感謝申し上げます。

最後に、このコンサートを教えていただいた福岡・黒崎のJazz Spot 風土の常連のピアニストNさん、この御礼はまたどこかで!


(注1)クァルテット・エクセルシオ:この素晴しい弦楽四重奏団を表す言葉としてよく書かれているのが「日本を代表するクァルテット」。

今回初めて聴いて思ったことですが、完璧なテクニックに加え、秘めたる強い情念、繊細で温かく思いやりに満ちた節度ある表現・解釈等は世界的に見ても、それ自体が飛び抜けたオリジナリティなのかもしれません。



感動醒めやらぬ中、この日演奏された曲を含んだCDを2種類共購入。サインまでしていただきましたが、他の曲の演奏もまた聴き所満載で、弦楽四重奏曲の中で私が一番好きなベートーベンの第14番が聴きたくなりました。満を持しての録音、期待しております!



(注2)サロン・コンサートならでは:文中にも書いたとおりですが、ともかく演奏者が近いこと。「室内楽の醍醐味」とはまさにこのことで、ホールでは絶対に味わえない幸せです。また、コンサート・ホールで味わえる静寂や緊迫感、立ち上る音の余韻はない代わりに、咳や飴等のセロファンの音がほとんど気にならないのもかなりの驚きでした。


(注3)かんまーむじーく のおがた:直方谷尾美術館でボランティアが主体となって室内演奏会を行われておられますが、世の中にはこうした試みを地道に継続している方々がいらっしゃるのだと改めて感心させられました。



下記はその実行委員長 渡辺さんがFBでお書きになられた今回の音源付き曲解説です。併せてご覧くださいませ!

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第6番 作品18-6

ヤナーチェク 弦楽四重奏曲 第1番 「クロイツェル・ソナタ」

スメタナ 弦楽四重奏曲 第1番 ホ短調「わが生涯より」



【後日追記】この次に行った第33回定期演奏会で、この会の素晴らしさにノックアウト(注4)。何か支援出来ることはないか?と考えた結果、下記HPを立ち上げてしまいました。もしよろしければ、こちらもご覧くださいませ。

(注4)この演奏会の素晴らしさ(第33回定期演奏会の記事から転用・一部改訂)

①プログラムがスゴい!:こんな意欲的なプログラムの演奏会が昔、炭鉱で栄えたこの福岡の山間の町 北九州・直方で行われていること自体、驚き以外の何物でもありません。

②その結果、知らなかった名曲に出会える!:不勉強を恥じるだけですが、私はこれまで室内楽をちゃんと聴いてこなかったので、ようやく室内楽が名曲の宝庫であると気がつきました。新しい発見=この演奏会に来ることで、これからまた名曲に巡り会えるととてもありがたく思っています。

③予習しても馴染めない曲が理解出来る!:知らない曲は予習するに越したことはありませんが、予習しても理解出来ない時は諦めて、演奏会に身を委ねた方がいいみたいです。現代曲になればなる程、この傾向が強いように思いますが、やはり100回CDやYoutubeを聴くより、一度、生のいい演奏を聴く方が勝ります。

余談、かつ、またお恥ずかしい話で恐縮ですが、そんな時は演奏会後の復習がとても大切なようで、今回いくら予習しても耳に残らなかったドビュッシーとシュニトケ。これがその空気感・緊張感・雰囲気等を一度体験しただけで、再度聴き直したらちゃんと定着しました。

④会場がいい!:会場で使用しているのは、直方谷尾美術館の高い天井の大展示室ですが、残響も適度で、演奏者の近さも申し分なし。しかも、休憩時間中には展示中の美術品も見学出来、一石二鳥。

唯一の難点はトイレが少ないことですが、元々民家を改造した美術館なので仕方ありません。諦めて並びましょう。

⑤演奏者のプログラムに取り組む姿勢が違う!:「演奏者のやりたい曲をやってください」が、演奏者に依頼し、プログラムを決める際の渡辺さんの基本的な方針だとか。演奏者側もそんな依頼を受ける機会は通常ないので、最初の頃は「直方?どこ、それ?騙されているんじゃない?気をつけた方がいいよ?」と用心されていたとか。

最終的には、そこに渡辺さんのアイデア等も加わり、対話の中で決定されるそうですが、通常演奏する機会を得ないマイナーな曲やチャレンジしたかった曲を演奏会で取り上げられるこんなありがたい機会は滅多にない訳で、演奏者側の気合いも違ってくるというもの。

ちなみに、この定期演奏会の常設シリーズを持っているクァルテット・エクセルシオに対して一番最初にした依頼は「ベートーヴェンの後期四重奏曲をお願い出来ませんか?」だったそうですが、こんな依頼は集客が見込めないため、そうそうあり得ないそうです。

⑥曲目解説への注力ぶり!:これが後述するお客さんのレベルの高さにつながっていることは間違いないと思います。

A. パンプレットの曲目解説への気合の入り方がハンパない!:日経新聞の「アプローチ九州」という九州音楽展望の執筆者でもある渡辺さんが全身全霊の力を込めてご執筆されておられるこの解説。クラシックをほとんど聴かないお客さんに興味を持ってもらうために、日常の話も織り交ぜながら書かれた解説ですので、とてもわかりやすく面白い。

尚、その演奏曲目解説等は、上記で紹介した「かんまーむじーくのおがた応援サイト」にアップいたしましたので、併せてご紹介まで。

B.演奏者による演奏前の曲目解説が楽しい!:演奏家が演奏する直前にその曲の解説することは時にありますが、この定期演奏会はサロン的で気さくでわかりやすい。しかも、お客さんとしても演奏者の声を直接聞くことで演奏者に親近感が湧くというメリット付き。

演奏者と客席の距離が近く、アットホームな会場の雰囲気の効用の一つではないかと思います。

⑦お客さんのレベルがともかく高い!:先日行われた竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタルに来られていた別府しいきアルゲリッチハウスのお客さんのレベルの高さにも感心しましたが、あちらは恐らくほぼ全員がクラシック愛好家。

でも、この定期演奏会のお客さんに普段クラシックを聴かれる方がどれだけいらっしゃるのか?だからこそ、感動的な演奏会をちゃんと共有出来たことに前回は驚きましたが、今回は更に驚愕。

最後のシュニトケはチェロ・リサイタルではよく演奏される曲だそうですが、クラシック愛好家でも室内楽に興味がなければ知らない曲。そんなレアな現代曲を演奏者と共に緊張感を持って聴き切り、感動を共有された上、至福の余韻までちゃんと味わい尽くすお客さん。

このレベルの高さは、室内定期演奏会を33回積み上げてくる中で少しずつ培われてきたものだと思いますが、その空間を共有させていただき、更には後日、そのアンケートに書かれた感想を読ませていただき、心から感動させられました。

そして今回、最後の最後に想像もしていなかった感激が。。。それは、多くのお客さんが椅子等の片づけをされておられたこと!

この定期演奏会がボランティアで成り立っていることをご理解されてのこととは言え、何のお願いのアナウンスもないにも関わらず、こんなに多くの方々が自主的にお手伝いされるなんて、これはどうやっても通常見ることが出来ない光景。

今回も写真を撮ってアップしたかったのですが、身体は椅子のバケツ・リレーの一員として機能していましたので、残念ながら断念。次回は途中で写真を撮る機会を作りたいと思いますが、さて、うまくいきますかどうか。

いずれにしても、このお客さんこそがこの定期演奏会の真の宝物。

ということで今回、全てをひっくるめて、素晴らしい演奏会だと感じ入った次第です。


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