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おとなの胸にも響く絵本特集

2023.05.04 09:44

 こんにちは。

 ゴールデンウィーク最終日ですね。

 きっとゴールデンウィークを満喫した方ほどそのことをかみしめているでしょうから、言われなくてもわかる、わざわざ言ってくれるな、でしょうし、ゴールデンウィークなど関係なく通常営業だった方は尚更、わざわざ言ってくれるな、とお思いでしょう。いつも以上に意味のない時候の挨拶です。

 さて今回ですが、いろんなゴールデンウィーク企画を頭からひねり出してみた結果、おとなも子どもも楽しめる、というキーワードに行き当たり、このブログにて初めて「絵本」を特集してみようと思い立ちました。

 ポラン堂古書店の、最も、と言っても過言ではないくらい人気のあるコーナーが絵本コーナーです。お子さまからの人気は言わずもがなですが、おとなの方もまた、立ち止まり手に取った絵本を広げておられます。

 その中には昔を懐かしんで、という思いもあれば、純粋に絵柄やタイトルに惹かれて、という方もいらっしゃるでしょう。今やもう、使い古されている定説といってもいいくらいですが、「絵本」の読者はお子さまだけとは限らないのです。

 ポラン堂古書店や先生(ポラン堂店主)と関わる中で、私もまた多くの絵本を知りました。本屋さんでも絵本のコーナーをチェックしたり、いまこれが面白い、というような評判に対して敏感になったり、情報収集すらしているくらいです。おそらく、幼少期の頃よりも絵本について知っている気がします。

 ということで私の好みでおすすめしたいと選んだ、ポラン堂古書店にございます絵本3作品をはりきってご紹介致します。




『くまとやまねこ』文・湯本香樹実、画・酒井駒子

 作家さんの名前に、あっと思われた方もいらっしゃると思います。

 湯本香樹実さん、このブログでもあの名作『夏の庭』を取り上げましたが、とても有名な小説家さんです。酒井駒子さんも名作の多い兵庫県出身の作家さんで、作者名だけで間違いない傑作とわかるタッグとなっております。

 しかし作家さんの知識などさておいても、このピンクのテープの古いノートのようなデザイン、素朴なタイトル、「くまとやまねこ」ではない「くまとことり」の絵、一目見て気に入る方はたくさんいらっしゃると思います。

 描かれているのは、喪失の物語です。


ある朝、くまは泣いていました。なかよしのことりが、しんでしまったのです。


 この一文から、この一文のみの頁から始まります。

 この一行だけで悲しみを存分に受け取ってしまうなら、ちょっと読むのは待ったほうがいいかもしれない、と個人的に思います。特定の何かや、誰かを思い浮かべてしまえば、おとなだって先を読み進められなくなる。ただ、いつかその日が訪れたとき、この絵本のことが思い出されたら、きっと力になる、そんな絵本だと思います。

 くまの中にはやがてことりとの思い出が満ちていきます。

 やさしい記憶に浸る中で、光は差し込んでくるのです。

 2008年の作品ではありますが、最近まで三宮のジュンク堂にコーナーがあったくらい、まだまだファンの多い作品なのです。




『街どろぼう』文/画:junaida

 まずjunaida(ジュナイダ)さんのことを、ご存知でしょうか。出版する絵本一つ一つが話題となり、大型書店などでは個別にコーナーなども設けられ、昨年から大規模個展も開催されていたほど現在大注目の画家さんです。

 海外の作品のような画風もあって、ご存知の方でも意外に思われるかもしれませんが、以前は京都精華大学の客員教授さんでいらっしゃった、現在も京都在住の日本人作家さんなのです。

 小説読みの方でも、あれ、と思われたかもしれませんが、2020年刊行の伊坂幸太郎さん『逆ソクラテス』のイラストも担当されています。

 ……来月20日に文庫化の発売を控えていますが、どうなるんでしょうjunaidaさん。というどきどきした気持ちです。

 という話はさておき。

 『街どろぼう』は幸運なことに小さな書店で目が合って、手に取ったのが出会いでした。

 サイズが四六判ほどで、小さく可愛らしく、しかしどこか仄暗さがあるような紺と怪物の表紙。ぱっと惹かれ手に取ると、画もストーリーもものすごく好みでぐっときまして、絶対に忘れない一冊になりました。

 表紙の町はぜんぶ担いでいる巨人が主人公で、彼は町が見渡せる山のてっぺんに一人暮らしています。家族もなく、友達もなく、「もし いっしょにごはんを食べるひとや はなしあいてがいてくれたら どんなにいいだろう」と毎日空想しているのです。

 ある夜のこと
 ついに巨人は さみしくてさみしくて しょうがなくなり
 山のふもとの街までおりていき
 いっけんの家を こっそり
 山のてっぺんに もちかえってきました

 果たして巨人は寂しくなくなるのでしょうか……なんていうと白々しいですけれど、とっても素敵なラストが待っています。

 ぜひ読んでみてほしいです。

 



『かわいい闇』
 作・マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン、

 画・ケラスコエット、訳・原正人

 先日、ポラン堂古書店一周年記念の対談企画をしました。記事には省略いたしましたが、先生とオープンまでを振り返る中で盛り上がったのがこの作品の話題です。

 古本屋を開店すると決まり、その準備や打ち合わせや夢を膨らませるため、先生と現ポラン堂サポーターズでラインのグループができました。そのグループができた最初、先生が皆に募集したのがジャンルを問わず面白い本、自分のコーナーがあれば置きたい本でした。

 そして、このブログにおいても何度となく協力してくれている、我らが読書超人、梅子さんが紹介した作品がこちらのフランスの絵本、『かわいい闇』だったのです。

 タイトルの何かある感じ、画の美しさ、何より梅子さんへの信頼の厚さもあって、先生はすぐにこの本を手に入れ、内容に惚れ込みました。今やオープン当初からあるポラン堂古書店看板本の一つで、絵本コーナーとは少し異なりますが、ひときわ高い飾り棚に置いてあります。

 内容について話すのは野暮だと思いますので、詳しくはお伝えしません。

 ただ、表紙の美しい画ですけれど、よく見るとこの青と黒を背景にするように一人のコミックナイズされた小さな少女がいることをお気づきでしょうか。彼女が主役です。

 絵本ではありますが、中身のコマ割りや、少女の描写からして漫画のような作品でもあります。彼女の日常から始まるアバンがあり、このタイトルから作品も幕が開くのです。 


「イノセントと闇、ファンタジーと悪意がミクロの森の底で朽ちていく。
 コミック、漫画、BDの枠を越えて傑作です。」


 と、実は『AKIRA』などでお馴染み、大友克洋氏が帯に推薦文を寄せています。

 可愛らしいキャラクターたちが騒がしく、笑い合ったり、助け合ったり、憎み合ったり。 

 節々にある残酷さにやがて鼓動は早くなりつつも、先が気になるストーリーが展開されて途切れなく面白い。これは衝撃的な本だなと頷いてしまう、すごい作品です。




 以上です。

 ほんの少しでもゴールデンウィーク最終日を愉快にできましたでしょうか。

 気になる、読んでみたい、と思っていただきたく記事を作りましたので、明日の仕事帰りにちょっくら本屋にでも寄ってみようかしらと思っていただけるのが一番ありがたいことでございます。

 この3冊以外にもポラン堂古書店にはたくさんの絵本があります。

 またテーマを別に設けて、特集してみたいと思いますのでそのときはまた、お付き合いくださいませ。それではまた。