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臍帯とカフェイン

モンストロ(0:0:5)

2023.05.05 17:57

益子:ますこ 人間 いじめを苦に自殺した結果、この『モンストロの街』で目を覚ます。

ストルツキン:モンストロ。ニンゲンは食べ物じゃない。他と違う事に悩み、その中で仕方なくモンストロとして生きていた。

ポムズ:モンストロ。ニンゲン食べたい。兄貴分。身体が小さく、偉そう。

ギムズ:モンストロ。ニンゲン食べたい。弟分。身体が大きく、少し気弱。

『慈しみ』:いつくしみ。元モンストロ。『ニンゲン』に憧れて、ニンゲンになりたくて、ニンゲンが欲しくて、だから。

 : 

 : 

益子:(モノローグ)

益子:マッチ缶をこじ開けたその街に、

益子:調律師(ちょうりつし)は既に居なかった。

益子:音の外れたメッセージボトルで、

益子:明日(あす)の夜明けを恨みながらモンストロは

益子:口々に捨て台詞を吐いていく。

益子:「この街の夜は、愛情を吸っていくんだ。」って。

 : 

0:間

 : 

ギムズ:いち、に、さん、し、ご、ろく。

ポムズ:どうだ?

ギムズ:やっぱり何回数えても6枚しかない。

ポムズ:もう一回数えてみろ。

ギムズ:いち、に、さん、し、ご、ろく。

ポムズ:やっぱり一枚足りない。

ギムズ:うん。

ポムズ:どうしたものか。

ギムズ:7枚ないと、『ニンゲン』は捕まえられないんでしょ?

ポムズ:そうだけど、足りないもんは足りないんだからしょうがない。

ギムズ:お腹すいたよ、ポムズ。

ポムズ:そんなの俺もだよ、ギムズ。

ギムズ:本当に『ニンゲン』を食べたら、

ギムズ:永遠にお腹が減らなくて済むのかな。

ポムズ:それだけじゃないさ、ずーっとクチの中に

ポムズ:甘いのと、辛いのと、酸っぱいのと

ポムズ:それから……

ギムズ:しょっぱい?

ポムズ:そう、色んないっぱいの味がずっと続くんだ。

ギムズ:はあ、いいなあ、早く食べたいなあ。

ギムズ:『ニンゲン』

 : 

0:間 

 : 

益子:もしそこに、本当に『愛』があったなら、

0:タイトルコール

益子:「モンストロ。」

 : 

0:間 (SE:カランコロン)

 : 

『慈しみ』:そう、昔の話よ。

『慈しみ』:この『慈しみ』が、モンストロであった頃。

『慈しみ』:世界にはまだ『ニンゲン』がうようよと居て

『慈しみ』:私たちはみな等しく、『ニンゲン』と共存していたというわけ。

ストルツキン:なるほど。

『慈しみ』:その頃のモンストロは、今みたいに全員毛むくじゃらなんかじゃなかったし

『慈しみ』:こんなに錆(さ)びれた廃鉱(はいこう)を切り崩して作った『ダウナーホール』で

『慈しみ』:煤だらけ(すすだらけ)になる人生を送っていなかった。

ストルツキン:興味深いな。

『慈しみ』:ええ、そうでしょう?

ストルツキン:その頃のモンストロは、俺らみたいに

ストルツキン:虫食いの馬鈴薯(ばれいしょ)をすり潰して食べたり

ストルツキン:コムタン虫(ちゅう)や下敷き鼠(したじきねずみ)の素焼きで腹を満たしたりしてたわけじゃないんだろ

『慈しみ』:そうよ、食事は当然食器を使ったし

『慈しみ』:クチ回りがよだれの「におい」でくさくなったりしないの。

ストルツキン:信じられない。よだれが無かったのか?昔のモンストロは。

『慈しみ』:違うわ、ちゃんと拭ったのよ。ハンカチーフで。

ストルツキン:ハンクアチイフ?

『慈しみ』:「ハンカチーフ」。

ストルツキン:なんだ?それは。

『慈しみ』:よだれはきちんと「ぬぐう」ものなのよ。

ストルツキン:へえ、昔のモンストロは「生きるのに丁寧」だったんだな。

『慈しみ』:ええ。ところで貴方、その服は何?

ストルツキン:ああ、これかい?『麻袋(あさぶくろ)』さ。

『慈しみ』:『麻袋』。

ストルツキン:そう、いい物だよ麻袋は。

ストルツキン:誰かを入れる事もできるし、何かを運ぶこともできる。

ストルツキン:いつかの記憶に蓋(ふた)をして、縛り上げておくこともできるし

ストルツキン:何より着てみても、悪くない。

『慈しみ』:……そう。まあ、人それぞれよね。

ストルツキン:なにが?

『慈しみ』:美的センスよ。

ストルツキン:お前さんは、モンストロじゃないのかい、『慈しみ(いつくしみ)』

『慈しみ』:ええ、私は貴方たちみたいに毛が生えてないでしょう?

ストルツキン:そうだな。

『慈しみ』:だから私は『慈しみ』。もうモンストロではないの。

ストルツキン:ふうん。辞められるもんなんだな、モンストロって。

『慈しみ』:努力次第よ。こうして毛の無いつるつるのお肌も努力次第で手に入る。

ストルツキン:へえ。そのつるつるの肌ってのは、何を目指してそうなってるんだい。

『慈しみ』:そんなの決まってるじゃない。

『慈しみ』:『ニンゲン』よ。

 : 

0:間

 : 

益子:(モノローグ)

益子:『ニンゲン』などと言う生き物は、空想だと思われていた。

益子:大昔は、そのへんにうじゃうじゃ居たという『ニンゲン』に想いを馳(は)せて

益子:どんな、味がするんだろうって。

益子:どんな柔らかさで、どんな食感で、どんな瑞々しさ(みずみずしさ)で。

益子:モンストロ達の「脳みそ」はそんなことを浮かべては、沈めて

益子:空想の腕や足を食べてみるのだ。

益子:きっとどんな果物よりもジューシィで、どんな木の実より香ばしい。

 : 

0:間

 : 

ギムズ:なあ、もういいよ、麻袋はまたどこかで探そう、ポムズ

ポムズ:そうだな、こんなに探しても見つからないなら仕方ない

ポムズ:『慈しみ』の所のバーで、下敷き鼠でも食べに行こう。

ギムズ:いいね!俺あそこ好きだ。『慈しみ』は『ニンゲン』に似てるんだって

ギムズ:だから俺いつも、あそこでご飯食べる時は『慈しみ』を見つめながら食べるんだ。

ポムズ:お前、趣味悪いなあ

ギムズ:ええ、なんで?

ポムズ:あいつは似てるとは言え『モンストロ』だぞ、俺らと同じだぞ

ギムズ:ええ?でも『慈しみ』に毛は生えてないよ?つるつるだし

ギムズ:肌からは「甘い匂い」がする。

ポムズ:……まだまだだなぁお前も。

ギムズ:えー?わかんないなあ。いいから行こ?お腹すいたよ。

 : 

 : 

0:間

 : 

 : 

ストルツキン:そんなに『ニンゲン』が食べたいもんかね。

『慈しみ』:あら珍しい、あなたは興味がないの?

ストルツキン:……「生きて」るんだろう?『ニンゲン』も。

『慈しみ』:それはそうよ、もちろん。生きてるし、話す事もできる。

ストルツキン:俺ら『モンストロ』と『ニンゲン』になんの違いがあるっていうんだ?

『慈しみ』:違い。

ストルツキン:そうだ。同じ『生き物』で、同じように『考える』事ができるなら

ストルツキン:モンストロもニンゲンも同じなんじゃないのか。

『慈しみ』:あなた、そんな事言ってると消されるわよ。

ストルツキン:誰に。

『慈しみ』:さあ、そこまで教える義理はないけれど。

『慈しみ』:モンストロである以上、『ニンゲン』に憧れないだなんて、異端(いたん)よ。

ストルツキン:異端でもいいさ。そこに妄信するくらいなら。

『慈しみ』:でも『夜の求愛(よるのきゅうあい)』は?

ストルツキン:……。

『慈しみ』:あなた達モンストロは、夜、獣(けだもの)になるでしょう?

ストルツキン:そうだな。

『慈しみ』:なら、あなただってきっと、求めるでしょう?

『慈しみ』:想像してみて、ほら、今私は『ニンゲン』と同じ肌。

『慈しみ』:きっとこの甘い香りも、『ニンゲン』と同じ。

ストルツキン:やめろ。

『慈しみ』:ねえ、素直になりなさいよ、ほら、「よだれ」が出てきてる。

 : 

 : 

 : 

ストルツキン:(モノローグ)

ストルツキン:この街の夜は、愛情を吸うんだ。

ストルツキン:だから、夜な夜なみんな、モンストロは等しく『獣(けだもの)』になる。

ストルツキン:唸り声をあげながら、マボロシの裸体を欲して、いきり立つ。

ストルツキン:そんなことに、疲れてしまったから僕は

ストルツキン:多分、モンストロでいることを辞めてしまいたくなったのだ。

ストルツキン:この街には、モンストロと、モンストロを辞めたい僕が、ここに居る。

 : 

 : 

0:フードを深くかぶり、走る益子を

0:二匹のモンストロがしつこく追い回す。

益子:はぁ…はぁ…(息切れをしながら)

ギムズ:ねえ、見た!?

ポムズ:いいから追え!

ギムズ:ねえ!!見たぁ!?

ポムズ:うるさい!足を動かせ!はやく!

ギムズ:絶対今の、絶対そうだよね、絶対そうだよね!

益子:はぁ…はぁ…(息切れをしながら)

ギムズ:ねえ!ちょっと!そこの君!待ってよ!!

益子:しつ…こい……(息切れをしながら)

ポムズ:見失うぞ、もっと早く走れギムズ。

ギムズ:これでも精一杯走ってるよ!ポムズも走ってよ!

ポムズ:俺よりお前のほうが身体が大きい、お前に乗ったほうが速いだろう?

ギムズ:それは、そうかも、知れないけど!

益子:はぁ…はぁ…毛むくじゃらの、生き物ばかり……

益子:なんなの、ここは……

ギムズ:でも、本当にいたね!本当にいたね!

ポムズ:ああ、間違いなかったな!

ギムズ:2か月もエノコロバッタ買うの我慢して買った情報だったもんね!

ポムズ:ああ!逃がすなよ、アイツ、『絶対にニンゲンだぞ!』

 : 

 : 

0:間

 : 

 : 

『慈しみ』:なんだか外が騒がしいわね?

ストルツキン:大きな「下敷き鼠」でも出て、騒いでるんじゃないか?

0:益子、『慈しみ』のバーに飛び込んでくる

益子:わっ、わっ

ストルツキン:おっとっと、大丈夫か?慌ててどうした

益子:お、追われてるの!!助けて!!

ストルツキン:追われてる…?誰に

『慈しみ』:ちょっと、面倒ごとは持ち込まないで欲しいんだけど

益子:ご、ごめんなさい

0:ポムズ、ギムズ、飛び込んでくる

ギムズ:いたぞ!

ポムズ:いたぞ!

益子:もう、しつこい……!

ストルツキン:こいつらに追われてるのか?

益子:そう!

ギムズ:どけ!でかぶつ!

ポムズ:すまねえな、『慈しみ』。少し失礼するぞ。

ギムズ:あ、まってポムズ!どうしよう!麻袋が6枚しかないよ!

ポムズ:ああ!そうだった!『慈しみ』!麻袋1枚ないか!

『慈しみ』:そんなもの無いわよ、なんなの?

ポムズ:7枚の袋で、小分けにして捕まえないといけないんだよ!

『慈しみ』:え?それって……

ギムズ:「そいつ」、『ニンゲン』なんだよ!!

『慈しみ』:え!?『ニンゲン』!?

0:ストルツキン、益子の手を取る。

ストルツキン:逃げるぞ

益子:えっ!

ストルツキン:ほら、はやく

ポムズ:まて!!こら!!俺の『ニンゲン』だぞ!

ギムズ:ああ!『ニンゲン』が行っちゃう!

ギムズ:『ニンゲン泥棒』だ!!

『慈しみ』:あ、あんた達!早く追いかけなさい!

『慈しみ』:絶対逃がしちゃだめ!!

ギムズ:わかってるよ!!エノコロバッタ分!損したくない!

ポムズ:くっそ、アイツ!あんな図体で足が速いな!

ギムズ:ああ!でもポムズ!麻袋がないんだよぉ!

ポムズ:ああ!くそ!そうだった!

ギムズ:もー!行っちゃうよー!

『慈しみ』:大丈夫よ!あのモンストロごと捕まえればいい!

ギムズ:えっ、どういうこと?

『慈しみ』:あのモンストロ!「麻袋」を着てるのよ!!

 : 

 :

0:間

 : 

 : 

ストルツキン:はあ、はあ(息切れ)

益子:はぁ……はぁ……(息切れ)

ストルツキン:なんとか、巻けたみたいだ。

益子:……ありがとう。

ストルツキン:なあに、こういうのなんていうんだっけか

ストルツキン:そう、『袖振り合うのも多生の縁』だったか

益子:でも、巻きこんじゃった

ストルツキン:いいんだよ、どっちにしろもう出る所だった

益子:……ここは、どこ、なの?

ストルツキン:ん?ここ?

益子:そう……私、気が付いたらここにいて。

ストルツキン:……ここは、『ダウナーホール』。

ストルツキン:いつ死んだのかもわからない、錆びれた廃鉱の

ストルツキン:横穴をぶち空けて街にした。そんな場所だ。

益子:廃鉱……

益子:毛むくじゃらの、貴方たちは何者なの?

ストルツキン:『モンストロ』

益子:『モンストロ』……?

ストルツキン:ああ、毛むくじゃらで、角が生えていて

ストルツキン:目玉の沢山ある、怪物じみた俺たちを『モンストロ』と呼ぶ。

益子:貴方も、『モンストロ』?

ストルツキン:そうだ。

益子:……なんで、さっきの二人組は私の事を追うの……?

ストルツキン:そりゃあ、あんたが『ニンゲン』だからだ。

益子:??

益子:どういうこと?

ストルツキン:『ニンゲン』は貴重だからな。

益子:貴重……?

ストルツキン:ああ、食べれば一生腹は膨れ

ストルツキン:永遠に『おいしい』がクチの中に広がる。

益子:た、食べるの…っ!?

ストルツキン:ああ、モンストロは全員そんなことばかり考えてる。

益子:……っ

0:後ずさりをする益子

ストルツキン:俺は、食べない。

益子:……信用できない。

ストルツキン:まあ、そうだろうが。

ストルツキン:食べるつもりなら、とっくに食べてるよ。

 : 

0:間

 : 

益子:(モノローグ)

益子:『彼』のクチは、私の身体なんかより幾分(いくぶん)大きく

益子:『彼』がその気になれば私なんて一飲みできてしまうことは

益子:容易に想像ができた。

益子:暗い横穴に潜みながら、私と『彼』は少しずつ

益子:互いの事を話した。

益子:この『街』では、みんながギラギラと

益子:『幸せ』になる事を望んでいて

益子:でも、『誰かを幸せにしてやろう』なんて考える人は

益子:ひとりも居なくて。だから『モンストロ』は。

益子:『獣(けだもの)』なんだ、って。

益子:そう話す『彼』の目は、私よりも数が多く、

益子:ぎょろりと動きながら、哀しくそこに在った。

 : 

 : 

0:間

 : 

 : 

『慈しみ』:……戻ってきたのね。

ギムズ:うん、見失っちゃった。

ポムズ:「あまいにおい」を辿ればなんとかなると思ったんだが……。

『慈しみ』:……どんな、においだった?(食い気味に)

ギムズ:すンごいよ!

ギムズ:もう、鼻がその事しか考えられなくなるくらい。

ポムズ:今も鼻の中に、『ニンゲン』が居るみたいだ。

ポムズ:ずっとこびりついて、離れない。

『慈しみ』:私とは?私のにおいとは?似てる?どうなの?

ギムズ:(『慈しみ』のにおいをかぎながら)

ギムズ:うーん、確かに、いいにおいだけど、ちょっと違うなあ。

『慈しみ』:……そう。(落ち込んだように)

ポムズ:しっかし、なんで麻袋7つに分けないといけないかねえ。

ギムズ:ね、本当だよ、それがなければすぐ捕まえて

ギムズ:今頃はたらふく食べれたのに。

『慈しみ』:……「業(ごう)」の数だけ、必要なのよ。

ギムズ:「業」?

『慈しみ』:そう、『ニンゲン』は「7つの業」を

『慈しみ』:身体の中に住まわせてるの。

ポムズ:それは、すべて切り分けないと食べられないのか?

『慈しみ』:ええ、そのまま丸ごと食べたりなんかしたら

『慈しみ』:きっと耐えられない。

ギムズ:耐えられない?

『慈しみ』:そう、「あなた達」モンストロは、耐えられない。

ポムズ:おいおい、まるで「自分はモンストロじゃない」みたいな

ポムズ:言い方じゃないか。

『慈しみ』:そうよ、私はモンストロじゃない。

ギムズ:そうだよ、ポムズ。『慈しみ』には毛がないし

ギムズ:何より全然「よだれ」臭くも無い。

ポムズ:でも、『慈しみ』。

ポムズ:お前も『夜の求愛』が必要だろう?

『慈しみ』:……。

ポムズ:お前も、『獣(けだもの)』になる。

ポムズ:お前がいくら、身体から毛をそぎ落としても

ポムズ:お前がいくら、クチの中のよだれを全部捨てても

ポムズ:お前は『ニンゲン』じゃないだろう?

『慈しみ』:やめて。

ギムズ:え?そぎ落とすって?どういうこと?

ポムズ:こいつは、『ニンゲン狂い』なんだよ、この街一番のな。

『慈しみ』:やめなさい。

ギムズ:ええ、どういうこと?

ポムズ:『ニンゲン』に憧れすぎて、肌を剥いたんだよ、こいつは。

ギムズ:は、肌を剥いた!?

『慈しみ』:やめなさいって言ってるのが、聞こえないの。

ポムズ:毛むくじゃらの肌を、言葉通り「剥いた」んだ。

ポムズ:『化けの皮をはがす』とでも言えばいいのかねえ。

ギムズ:やだ、やだやだ、そんなの絶対痛いよ。

ポムズ:ああ、激痛だろうな。

『慈しみ』:……。

ポムズ:身体すべての、皮という皮、肌という肌を

ポムズ:一度すべてひん剥いた。指の先からつまの先、

ポムズ:それからその、小奇麗にしてる顔と頭も。

『慈しみ』:……美的センスよ。

ポムズ:はっ、馬鹿言うなよ。

ポムズ:俺らモンストロにそんなもんあるかよ。

ポムズ:お高く止まりやがって。

ギムズ:……あーえっと、ポムズ?

ポムズ:ん?

ギムズ:そろそろ、やめておいたほうがいいかも。

ポムズ:なんで?

ギムズ:いや、その

ポムズ:ん?

ギムズ:『慈しみ』が……

ポムズ:え?

0:『慈しみ』の手がポムズのクチをふさぎながら

0:そのままポムズの身体を持ち上げる。

ポムズ:(クチをふさがれながら)

ポムズ:むぐ……!!んんー!!

『慈しみ』:そうよ、全部貴方の言う通り。

『慈しみ』:私は、『ニンゲン』になりたい、『ニンゲン』が欲しい。

『慈しみ』:あの、絵本の中の世界みたいに煌(きら)びやかで

『慈しみ』:すべてが『素敵』で溢れていて

ポムズ:むぐ……!

ギムズ:ポムズ!ポムズ!やめて!ポムズが死んじゃうよ!

『慈しみ』:『美』しか感じられない、『愛』しか見当たらない

『慈しみ』:そんな『ニンゲン』すべてになりたいのよ。

『慈しみ』:こんな、ごわごわで、汚らしくて

『慈しみ』:文字通り『獣』のモンストロの皮になんて

『慈しみ』:なんの意味があるのよ。ねえ。

ポムズ:はな……せ……むぐ……

『慈しみ』:連れてきなさい。

ギムズ:え……?

『慈しみ』:さっきの、『ニンゲン』を。

ギムズ:だ、だって、でも、あの『ニンゲン』は俺たちが見つけたんだ。

ギムズ:じょ、情報屋にわざわざ高い金払って!

『慈しみ』:連れてきなさい。

ポムズ:ギム……ズ……

ギムズ:ああ……ポムズ……

ギムズ:わかった、わかったよ、連れてくればいいんだろ!

0:解放されるポムズ、どさりと地面に落とされる。

ポムズ:いでっ!!げほ……げほ……

ギムズ:だ、大丈夫!?ポムズ!

ポムズ:あ、ああ……げほ

ポムズ:……どこが『ニンゲン』だよ、まごう事なき『モンストロ』じゃねえか。

『慈しみ』:はやく行きなさい。

『慈しみ』:連れてこれなかった時は、あなた達の『肌』も剥くわ。

ギムズ:ひ、ひい!!

ポムズ:……とんだ化け物に絡まれちまったな。

『慈しみ』:「化け物」って言わないで。

ギムズ:い、いこ、ポムズ。

ポムズ:……覚えてろよ、『慈しみ』。

0:ポムズ、ギムズ、バーを出ていく。

『慈しみ』:……欲しいのよ、全部、全部全部。

 : 

 :

0:間 

 : 

 : 

益子:それじゃあ、その麻袋に切り分けられて

益子:それで、食べられちゃう、ってこと?

ストルツキン:ああ、そのつもりだったんだろうな。

ストルツキン:『ニンゲン』には「7つの業」ってやつがあるんだろ。

益子:……「7つの大罪」のこと?

ストルツキン:ふうん、『ニンゲン』はそう言うんだな。

益子:うん。

ストルツキン:それぞれ切り分けて、それを分けて食べるんだとさ。

益子:……こわい。

ストルツキン:こわいよな、それに、何のためにって思ってる。

益子:ストルツキンは、食べたいって思わないの?

ストルツキン:思わないなあ。

益子:どうして?

ストルツキン:だって、やっぱりこうして、話す事もできて

ストルツキン:なにより、美味しそうにも思えない。

益子:……。

ストルツキン:益子からは確かに甘くて美味しそうなにおいがするよ。

ストルツキン:なんというかこう、空腹を逆なでするような、

ストルツキン:そんな甘いにおい。

益子:う、うん。

ストルツキン:でも、それなら俺は「下敷き鼠」のぷっくりとした腹に

ストルツキン:かぶりつくほうが好きだ。

益子:……なにそれ

ストルツキン:うまいんだよ。

益子:……変わってるんだね、ストルツキンは。

ストルツキン:よく言われる。

益子:……私も、よく『変わってる』って言われてた。

ストルツキン:変わってるって?

益子:うん。ここじゃないどこか。『モンストロ』なんていない、

益子:『ニンゲン』しか居ない街から来たの、私は、多分。

ストルツキン:多分?

益子:うん。気が付いたら、ここにいたから。

ストルツキン:そうか。

益子:なんかね、みんなが好きなもの、私にはいいと思えなくて

益子:私がいいと思うものは、みんなが好きなものではなくて

ストルツキン:ふむ。

益子:『ニンゲン』ってさ、自分と違うものとか

益子:周りと違うものがいたり、あるとさ

益子:それをこう、追いやってしまうみたいな所があって

ストルツキン:『モンストロ』だって一緒さ

益子:そっか、じゃあ、おんなじなのかな

ストルツキン:そう思う。毛が生えてるか、生えてないか、それだけだよ、きっと。

益子:はは、そっか、じゃあ、なんだかあれだね

益子:私たち、おんなじなのだとしたら

益子:『ニンゲン』でもないし『モンストロ』でもないし

益子:……何になるんだろ?

ストルツキン:んー、なんだろ

益子:『益子』と……『ストルツキン』?

ストルツキン:そうだな、それ以上でも以下でもないんだきっと。

益子:ふふ、変なの。さっきまで食べられちゃうかもって

益子:思ってたのに、こんなに穏やかに話してる。

ストルツキン:ああ。でも、そろそろ夜になる。

益子:夜?そうだね、少し暗くなってきた。

ストルツキン:一旦、離れないと。

益子:え、どうして?

ストルツキン:『夜の求愛』が始まってしまう。

益子:……『夜の求愛』?

ストルツキン:そう。俺たち『モンストロ』は夜になると『獣(けだもの)』に

ストルツキン:なってしまう。

益子:けだ……もの……?

ストルツキン:そう。見境なく、欲望に従って欲しいものを貪ってしまう。

ストルツキン:『愛』に飢えてるんだ、モンストロも、この街も。

益子:『愛』に……

ストルツキン:そうだ。だから、益子。

ストルツキン:見つからない場所に隠れるんだ。

ストルツキン:誰にも見つからないように、俺にも見つからないように。

益子:隠れる……

ストルツキン:そう、朝が来るまで、そのフードを深く被って。

ストルツキン:「毛むくじゃら」の化け物が全員、大人しくなるまで。

益子:……わかった。

ストルツキン:いいこだ。また、話したい、益子と。

益子:うん、私も、話したい。ストルツキン。あなたと。

ストルツキン:おいしい「下敷き鼠」の選び方を教えてやる。

益子:はは、じゃあ私は『ニンゲン』が何を食べるか教えてあげる。

ストルツキン:ああ、楽しみだ。

益子:うん。

ストルツキン:さあ、俺はここで目を瞑って(つむって)100の時を数える。

ストルツキン:それまでに、遠くへ、誰にも見つからないところへ

ストルツキン:隠れるんだ。

益子:うん、わかった。朝になったらどうしたらいいの?

ストルツキン:ここ。この横穴に戻ってきてくれ。

益子:わかった。また、後でね、ストルツキン。

ストルツキン:ああ。

益子:あっ。

ストルツキン:ん……?

益子:ねえ、『獣になる』って、姿かたちも変わってしまうの?

ストルツキン:そうだな。みんな同じような『獣』の姿になる。

ストルツキン:毛は逆立ち、4つ足で駆け回り、顔じゅうをよだれまみれにする。

益子:そっか。じゃあ、えっと

ストルツキン:ん?

益子:ちょっと待ってね。そのまま動かないで。

0:益子、ポケットに入っていたリボンを

0:ストルツキンの毛にくくりつけていく。

益子:よし、いいね、可愛い。

ストルツキン:なんだ?これは。

益子:「リボン」。

益子:もし『獣』のストルツキンに出会ってしまっても

益子:ストルツキンだ、ってわかるように。

ストルツキン:わかってどうする。

益子:うん、もし『いよいよダメ』ってなったら

益子:どうせなら貴方に食べられたいから。

ストルツキン:……食べないよ。

益子:うん。

ストルツキン:食べない。

益子:ふふ、わかった。いくね。

ストルツキン:ああ。それじゃあ、またあとで。

ストルツキン:いーち、にーい、さーん、しーい…………

 : 

 : 

0:間

 : 

 : 

ギムズ:どうしよう、ポムズ。

ギムズ:もうすぐ『夜の求愛』がはじまっちゃう。

ポムズ:……。

ギムズ:ねえ、ポムズったら。

ポムズ:わかってる。

ギムズ:ねえ、どうしよう、俺たち、剥がされちゃうのかな。

ポムズ:馬鹿いうな、そんな事ごめんだね。

ギムズ:でも、このままじゃ

ポムズ:大丈夫、この鼻には強く強く残ってるんだ。

ポムズ:『ニンゲン』のにおいが。

ギムズ:でも

ポムズ:辿れる、絶対。ほら、どんどんにおいも近くなってきてる。

ポムズ:『夜の求愛』が近づけば近づくほど、

ポムズ:俺たちは『獣』になっていく。そうしたら、

ギムズ:そっか、鼻の効きも強くなってく!

ポムズ:そうだ、ほら、近い、近いぞ。甘いにおいがする。

ギムズ:本当だ、なんて甘くて、素敵なにおいなんだろう。

ポムズ:最悪、食べちまえばいい。

ギムズ:ええ!?怒られるよ、『慈しみ』に。

ポムズ:知ったことか!腹に入れちまえばこっちのもんだ。

ポムズ:『ニンゲン』を差し出して、悔しい思いをするのと

ポムズ:痛い思いをしてでも、『ニンゲン』が食えるのだったら

ポムズ:どっちがいいよ、ギムズ。

ギムズ:そ、それなら食べたいなぁ……へへへ

ポムズ:そうだろ?ほら、なんにも問題ない。

ギムズ:そっかぁ!ポムズは頭いいなあ!

ポムズ:そうだろそうだろ……ん?おい、あれ

0:フードを深くかぶり、こそこそと歩く益子を見つける。

ギムズ:いた……!いたよ!!!ポムズ!すごいや!

ポムズ:しっ……声がでかい。

ギムズ:ご、ごめん

ポムズ:いくぞ、おいしく頂いてやろう

ギムズ:うん!

 : 

 : 

0:間

 : 

 : 

益子:(モノローグ)

益子:マッチ缶をこじ開けたその街に、

益子:調律師(ちょうりつし)は既に居なかった。

益子:音の外れたメッセージボトルで、

益子:明日(あす)の夜明けを恨みながらモンストロは

益子:口々に捨て台詞を吐いていく。

益子:「この街の夜は、愛情を吸っていくんだ。」って。

 : 

益子:とぼとぼと、周りを警戒しながら

益子:フードの内側からこの街を見回す。

益子:少しずつ、すれ違うモンストロ達が「ぐるる」と

益子:唸り声(うなりごえ)をあげて、毛を逆立てていくのがわかる。

益子:隠れると言っても、どこに隠れたらいいのか。

益子:そういえば、最初に逃げ込んだあのバーの

益子:カウンターにいた女性は、毛むくじゃらではなかった。

益子:そんな事を考えながら、この街を徘徊する。

益子:すると、私はいつの間にかそのバーに戻ってきてしまっていた。

 : 

 : 

0:間

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 : 

ストルツキン:……きゅうじゅうはち、きゅうじゅうきゅう、ひゃく。

ストルツキン:益子は、ちゃんと隠れられただろうか。

 : 

ストルツキン:(モノローグ)

ストルツキン:この街の夜は、愛情を吸うんだ。

ストルツキン:だから、夜な夜なみんな、モンストロは等しく『獣(けだもの)』になる。

ストルツキン:唸り声をあげながら、マボロシの裸体を欲して、いきり立つ。

ストルツキン:そんなことに、疲れてしまったから僕は

ストルツキン:多分、モンストロでいることを辞めてしまいたくなったのだ。

ストルツキン:この街には、モンストロと、モンストロを辞めたい僕が、ここに居る。

 : 

ストルツキン:そうして、出会った益子は、『ニンゲン』は。

ストルツキン:なんてことはない、同じ『生き物』で。

ストルツキン:その笑う姿は、変わらず「いのち」で。

ストルツキン:そのおびえる姿も、変わらず「いのち」で。

ストルツキン:きっとそれは、『モンストロ』も

ストルツキン:『ニンゲン』も、変わらずにただ「世界」にある

ストルツキン:生き物であることに違いはなくて。

ストルツキン:『モンストロ』を辞めたい僕も、

ストルツキン:『ニンゲン』を求め、獣になってしまう僕も

ストルツキン:同じく、等しく、変わらず「いのち」であることを

ストルツキン:裏付けていく。

 : 

 : 

益子:あの、すいません。

『慈しみ』:……!

益子:さっきは、ごめんなさい。ご迷惑、おかけしちゃって。

『慈しみ』:いいの、いいのよ、ど、どうしたのかしら。

益子:その、毛むくじゃらの人たち……モンストロは、夜に

益子:獣になってしまうから、誰にもわからない場所に

益子:隠れるように、って。

『慈しみ』:そ、そう。言われたのね、さっきのモンストロに。

益子:はい、それで、貴女の事を一番に思い出して……

『慈しみ』:そう、そうなのね、ええ、いいわ、匿って(かくまって)あげる。

『慈しみ』:こちらにいらっしゃい。

益子:あ、ありがとうございます。

『慈しみ』:ああ……なんていい匂い。

益子:え?

『慈しみ』:素敵なにおいね。肌も、すっごくつるつる。

『慈しみ』:さ、触ってみてもいいかしら。

益子:え、ええ……

『慈しみ』:ああ……すごい、突っ張ってない。

『慈しみ』:やわらかくて、でも張りが無いわけじゃない

『慈しみ』:まろやかで、細胞ひとつひとつが細かくて

益子:……え、えっと

『慈しみ』:大丈夫、何も怖くなんてないわ、私は『慈しみ』

『慈しみ』:「私ね、『ニンゲン』が大好きなの。」

 : 

 : 

ストルツキン:『ニンゲン』には、7つの業があると言う。

ストルツキン:それを、『ニンゲン』は「7つの大罪」というらしい。

 : 

益子:嫉妬、怠惰、色欲、暴食、強欲、傲慢、憤怒。

益子:その7つが『ニンゲン』にはあるのだという。

 : 

ストルツキン:それを7つに切り分けてからじゃないと、

ストルツキン:『モンストロ』は『ニンゲン』を食べる事なんて

ストルツキン:できやしない。

 : 

益子:きっとそれは、

 : 

ストルツキン:『モンストロ』を、

ストルツキン:守るための決まりだったんじゃないかって

ストルツキン:そう思う。

 : 

益子:きっとそれは、

益子:きっと「罪」は、

益子:7つなんかじゃ収まらなくて。

 : 

ストルツキン:きっと、それは

 : 

益子:深い愛情も、広い愛情も

益子:愛が、あっても、なくても、ありすぎても

益子:なさすぎても。

 : 

ストルツキン:『愛』というのは罪深くて。

 : 

益子:きっと『愛』だって、変わらず『罪』には違いないのだ。

 : 

ストルツキン:この街の夜は、愛情を吸うんだ。

ストルツキン:だから、夜な夜なみんな、モンストロは等しく『獣(けだもの)』になる。

ストルツキン:唸り声をあげながら、マボロシの裸体を欲して、いきり立つ。

 : 

 : 

 : 

0:間

 : 

 : 

 : 

0:『慈しみ』のバーにて。

ギムズ:ああああああああ!!

ポムズ:なんてこった

ギムズ:ずるい!!ずるいよ!!

ポムズ:くそ、あの場ですぐ食らってやるべきだった

ギムズ:ずるい!!ずるいずるいずるい!!

『慈しみ』:……。

ポムズ:骨の一つも、毛の一つも残ってやしない。

ポムズ:『慈しみ』、お前、「全部丸のみにしたな?」

『慈しみ』:……ふふ…………ふふふふふふ。

ギムズ:なに……?なんで笑ってるの……?

『慈しみ』:ふふふふふふふふふ……!あはははは!!!

ギムズ:こわい、怖いよポムズ…!

ポムズ:……『慈しみ』、『ニンゲン』の味はどうだったんだよ。

『慈しみ』:……何も!!!!!!!

『慈しみ』:何も味がしない!!!!

『慈しみ』:どうしてよ!!!!

『慈しみ』:あんなに甘いにおい!!!

『慈しみ』:あんなに魅力的で!!!

『慈しみ』:美しくて!!!!

『慈しみ』:追い求めていたのに!!!

『慈しみ』:私はあの、あの美しさだけを

『慈しみ』:それだけを、愛して、欲しくて、なりたくて

『慈しみ』:そうして、どんなことにも耐えてきたのに

『慈しみ』:なんで!なんでなんの味もしないの!

『慈しみ』:『甘い』は!?

『慈しみ』:『すっぱい』は!?

『慈しみ』:色々の、いっぱいの、味という味は、どこなのよ!

 : 

 : 

益子:マッチ缶をこじ開けたその街に、

益子:調律師(ちょうりつし)は既に居なかった。

益子:音の外れたメッセージボトルで、

益子:明日(あす)の夜明けを恨みながらモンストロは

益子:口々に捨て台詞を吐いていく。

益子:「この街の夜は、愛情を吸っていくんだ。」って。

 : 

 : 

ストルツキン:そうして、愛情を吸ったこの街は

ストルツキン:きっとどの世界の、どの街の、どの瞬間よりも

ストルツキン:罪深くて、揺蕩(たゆた)んでいる。

ストルツキン:夜明けと共に、撥ねる(はねる)、リボンで結ばれた毛は、

ストルツキン:まばゆい太陽の光と、

ストルツキン:朝を迎えてしまった「獣(けだもの)」の咆哮で、少しだけ揺れていた。

 : 

 : 

0:完

 

 

 

 

 

以下、エピローグである。

小さなモンストロ:なあ、知ってるか。

大きなモンストロ:なにがぁ?

小さなモンストロ:あの、例のモンストロの話だよ。

大きなモンストロ:『慈しみ』のこと?

小さなモンストロ:ちげーよ!誰があんないかれ野郎の話を蒸し返すんだよ。

大きなモンストロ:えー、ちがうのー?

小さなモンストロ:違う違うまったく違う。お前はほんっと鈍いなあ。

大きなモンストロ:余計なお世話だよ、もう。

小さなモンストロ:麻袋を着た、例のやつだよ。

大きなモンストロ:ああー、あのモンストロね。

小さなモンストロ:なんでも奴は、毛皮を剥いだりせずにな……

大きなモンストロ:うんうん。

小さなモンストロ:『ニンゲン』になったらしい。

大きなモンストロ:え?どういうこと?

小さなモンストロ:しらねぇよ、わかってたら今頃みぃーんな『ニンゲン』になってるだろ。

大きなモンストロ:えー、そうかなあ。

小さなモンストロ:そうだろ。

大きなモンストロ:それは違うと思うけどなあ。

小さなモンストロ:なんだよ?

大きなモンストロ:誰しもが『ニンゲン』になりたいだなんて、烏滸がましいと思うんだ。

小さなモンストロ:烏滸がましい、だなんて言葉よくつかえたな。

大きなモンストロ:もう!馬鹿にして!

大きなモンストロ:……僕なら、そんなに多くの罪を抱えたまま生きなきゃいけないなんて

大きなモンストロ:まっぴらごめんだよ。

小さなモンストロ:でも、『ニンゲン』になれば、こんな臭い穴の中ともおさらばできるんじゃないのか?

大きなモンストロ:ここ、結構好きだよ。

小さなモンストロ:おまえ。

大きなモンストロ:ここには、僕とポムズの場所がある。

大きなモンストロ:いくら汚らしくても、いつも腹ペコでも。

大きなモンストロ:ここが、いいなあ。

小さなモンストロ:……気色わりぃ事言ってないで、次の獲物を探しにいくぞ、ギムズ。

大きなモンストロ:わ、ちょ、ちょっと待ってよ!ポムズ!

大きなモンストロ:次の獲物ってなに!?

小さなモンストロ:ダウナーホール建国の歴史!

大きなモンストロ:れ、歴史?

小さなモンストロ:そう。ここは昔「ツミキの国」って呼ばれてたらしい。

大きなモンストロ:ツミキ。

小さなモンストロ:そう、今度は過去の遺物を見つけて一儲けするぞ。

大きなモンストロ:ひ、一儲け!したい!したいよポムズ!

小さなモンストロ:まあまあ、そう焦るな、ギムズ。

小さなモンストロ:いざと言うときの為に、ほら、あれ用意しとけあれ。

大きなモンストロ:あ、それはわかるよ!!!

小さなモンストロ:少しは成長したなぁ

大きなモンストロ:ふふ、麻袋!ほぉら!

小さなモンストロ:よし、ちゃんと枚数を数えておけよ。

大きなモンストロ:まかせてよ!えーっと、いーち、にーい、さーん……。

0:二匹の獣は、大昔の絵本を抱えて歩き出した。