サマルカンドでの2泊目の宿は、レギスタン広場からほど近い安宿通りにある1軒だった。
「地球の歩き方」にも掲載されているゲストハウス「フルカット」。
サマルカンドは新市街と旧市街とに分かれている。
ここ旧市街はどうやらシルクロード交易時代の名残を残していて、家々はまるで侵入者を防ぐようにすべて壁で囲まれている。そしてその一部に鉄製の扉があり、それを押して開き、くぐるようにして入ると中庭が広がっているのだ。
「フルカット」の扉を開けるとすぐに受付、と思われる古びた木製の台がある。
しかし誰もいない。
奥に広い庭が広がっていた。そこで何やら忙しそうに物を運んでいる白髪混じりの初老の男性が見えた。
「すみません」
私が呼ぶように声をかけるとその男性は私に気付いてさらに慌てた。
「お客さんだね。すまない、これを置いてくるから少し待っていてくれ。」
ウズベキスタン人はほとんどが英語の単語さえ話せないと聞いていたが、宿の主人だとは思うがこの初老の男性が英語を話したことに私は驚いた。
男性がすぐに受付へやってきた。
PC画面を見ながら私の名前を呼んだ。どうやらちゃんと予約できていたようだ。
「OK. 部屋はこっちだ、ついてきてくれ」
名前だけ確認すると男性は私のパスポートも要求せずに部屋に案内した。どうやら何か急いでいるようだ。
「部屋はこの二階だ。今夜、1階でダンスパーティがあるんだ。その準備をしていてね。騒がしくなるが、8時には終わるから。」
宿の建物はロの字状になっていて、中庭がある。その一部がホールのように広い部屋のようでそこでパーティがあるようだ。
そうだ、今日は大晦日なのだ。私も7時頃に、さきほど会った日本人の方と食事をし、レギスタン広場でカウントダウンをすることになっている。8時頃は宿にはいないから大丈夫だ。
部屋は安宿、ゲストハウスとは思えないほど豪華だった。ウズベキスタンの民族衣装風の飾りやインテリアで、ちょっとしたホテルのようだった。
屋上からはレギスタン広場のメドレセが見える。
見るもの全てが刺激的でエキサイティングであるが、さすがに一日じゅう歩き回って疲れていた。
荷物の整理を済ませ、しばらく体を休めることにした。
唯一開いているというレストランで夕ご飯を日本人の方々と共にするために1時間ほど休んだところで出発することにした。
体は疲労でかなり重い。
宿を出ると、通りに全く人がいない。大晦日を家庭で過ごすのは世界共通らしい。
待ち合わせのレギスタン広場へ向かう。
到着して、私はその美しさに思わず息を飲んだ。
漆黒の闇の中に浮かび上がるように、あるいは闇の中から現れ出てきたかのように、旧神学校であるメドレセがそこにあった。
昼間の印象とは全く異なる、まさに異世界だった。
ライトアップという技術が世界の様々な物を美しくさせることは分かるが、これほどまでに美しく変化する物を見たことがなかった。
アジアの遺跡や寺院などを今まで見て回ってきたが、その全てを抜き去るほどの圧倒的な荘厳さ。
ここには観光客が多く訪れていて、大晦日ということもありさすがに騒がしかったが、音や時間を忘れて、私はそこにしばし立ち尽くした。
そうだ、これを観るためにウズベキスタンへ来たんだ・・・。
私は、待ち合わせの遠藤さんに声をかけられるまで、確かに別の世界へ誘われていた。