リードタイム短縮
機械化による改善は要注意
生産現場の改善というと、設備を導入し手作業→自動化する事で、作業時間を短縮する事をイメージする経営者も多いです。これは決して間違いではなく、生産能力(CT=サイクルタイム)を上げる方法として有効です。これは同一品種を連続的に生産する場合は効果的ですが、小ロット多品種生産のように段取り替えが頻発する場合には、段取回数・時間が増え、想定よりも効果が無い場合も多いです。
また、機械化による瞬間的なスピードアップに対応すべく、あらかじめ仕掛在庫を積んでおく必要があったり、川下工程に一時的に仕掛在庫の山ができるデメリットもあります。
まずは現有機による効率化・省力化・省人化
負債を増やすような機械化を進める前に、まずは現状の中で何がボトルネックになっているのかを見極める必要があります。それも分からず設備を導入すると、本来のボトルネックが見えなくなってしまい、機械化により改善したのかどうか分からなくなります。
真のボトルネックがサイクルタイムであれば機械化を検討するのも良いでしょう。材料・仕掛不足かもしれません、人手不足かもしれません、品質不良かもしれません、作業者のモチベーションかもしれません。ボトルネック工程やボトルネックになっている原因は様々です。
「モノと情報の流れ図」で現状把握
トヨタのカイゼンツールの中に「モノと情報の流れ図(バリューストリームマップ)」というツールがあります。古い、と言う人もいますが、中小製造業においては十分使えるツールです。
自社の内外における情報のやり取りと、モノの流れを図式化した図です。いろいろ決め事があるのですが、下記が一例です。
この図を作るだけでも改善のヒントが生まれてきます。例えば「材料メーカー(Z金属)からの納入が毎週だったら材料在庫が減らせるな」「プレスは、サイクルタイムは早いけど、1日の段取時間が長いな」「受注生産なのに完成品在庫が20日分もある」
そして注目して欲しいのは、LT(Lead Time=リードタイム)とVA(Value Added=付加価値タイム)の関係です。LTは、材料が入荷してお客様に納入されるまでの時間です。VAは、材料に付加価値を与えている(加工している)時間です。この時間しか材料が変化していない、つまり加工されていないという時間です。
VA:60秒 ÷ LT:39日(=3,369,600秒) × 100=0.0017%
材料が入荷してから製品納入されるまでの0.0017%の時間しか加工されていないのです。もちろん、稼働時間外も含んでいますが、24時間稼働というのは、この数値を高める工夫です。一流の生産ラインでも0.01~0.05%と言われています。残りの時間は、付加価値を生まない“ムダな時間”と言えます。
改善はリードタイムの短縮
機械化により、VAの60秒を少しでも短くしようと頑張る経営者も多いのが事実です。60秒が仮に30秒になり、その余剰分だけ受注が増えるのであればよいですが、そうでは無いはずです。仮に増えたとしても、受発注業務や在庫管理、工程管理が煩雑になり、人を新たに雇い、粗利は増えたが営業利益は変わらない、という結論になりかねません。つまり、生産能力を上げる事より、生産性を上げる=「VA/LTを高める事」が必要なのです。同じ売上であっても営業利益を高める事の方が、これからのモノづくりで生き残る唯一の方法だと考えます。
極論を言えば、下記図のように、工程間に仕掛停滞が全くなく、入荷した材料が当日の内に加工し終わり、当日出荷出来たらどうでしょうか?
在庫・仕掛在庫の管理が要らないですよね? 工場の中がスッキリしますよね? 短納期対応できますよね? 資金繰りが楽ですよね?
この極論を邪魔する何かが御社の中にあるはずです。材料切れリスク、不良リスク、設備リスク、人的リスクなどなど。しかし、これらのリスクを潰していくことこそ現場改善です。その上で、時間単位の生産指示を各工程に与える事で、極論の実現に繋がります。まずは、極論を邪魔するリスクを発見する第一歩として「モノと情報の流れ図」を作成することから始めてはいかがでしょうか。